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チキンの戦い方


 一瞬意識が飛んでいたらしいサイラスが意識を取り戻すと、下敷きになっていたアレックスも脂汗を浮かべながら、体を起こしていたところだった。

 刺される危険を考えて慌ててデュランダルを探すが見当たらない。どうやらアレックスに体当たりした時に、デュランダルもあさっての方向に飛ばされたようだ。

 その事に安心して、携帯電話をそっと取り出し、アレックスに視線を戻す。アレックスは体を起こして、じっとサイラスを見ていた。


「サイラス、これは運命なんだ。邪魔しないで」

「お前は俺の人生の邪魔をしただろ」

「俺はサイラスを殺したくない。だから邪魔しないで」

「俺はお前を殺してやりたい」


 二人の意見は拮抗したまま、平行線をたどるだけだ。このままでは埒が明かないと、アレックスは服についた泥を叩き落としながら立ち上がった。


「殺してやりたいって、サイラスには無理でしょ。そんな度胸ないくせに」

「社会的には抹殺してやったぞ?」

「どういう事……?」


 アレックスが尋ね返した時、遠くの方からサイレンが鳴って、それが徐々に孤児院に近づいていた。アレックスがそれに気付いたと同時に、サイラスが何をしたのかにも気がついた。

 信じられないという表情を浮かべるアレックスに、サイラスは携帯電話を目の前にぶら下げた。


「インドで連続殺人を犯した広域指名手配犯が、孤児院の子どもたちを人質に取っているって連絡しといた。逮捕されたら、お前は死刑確定だな」 


 レヴィの死は当然警察に届け出て、殺人として警察にも捜査してもらっていた。サイラスはその警察のデータベースに侵入し、未解決だったいくつかの事件もアレックスの仕業であるかのようにでっち上げ、彼を重罪人に仕立て上げた。

 その為、アレックスは未成年でありながら連続殺人を繰り返す危険人物とみなされ、指名手配が広域指名手配に変更され、アメリカへと海外逃亡したことから、インターポールまで動く事態になっている。


 目的が達成されても、アレックスに帰る場所などない。彼は一生犯罪者として息を潜めて暮らしていくか、捕まって終身刑となり一生を塀の中で過ごすか、死刑に処せられるか、そのいずれかしか道はない。

 サイラスの言う通り、アレックスは社会的に死んだも同然だった。


 どんどんパトカーのサイレンの音が近づいてくる。追う側から追われる側になったと知ったアレックスは、悔しそうにしてサイラスを睨んだ。


「……友達だと、思ってた」

「先に裏切ったのは、アレックスだろ。ほら、どーする? チンタラやってたら逮捕されるよ。俺にはその方が有難いけどね」


 サイラスが挑発するように言うと、アレックスはサイラスを人睨みした後、ボニーを見下ろした。


「次は必ず殺すから」


 そう言うと、アレックスはすぐにその場から逃げ出した。アレックスが消えたのを見送って、サイラスはガクリとその場に膝をついて四つん這いになり、冷や汗と共に一気に疲労感に襲われた。


(うおぉぉ、ハッタリ通じてよかったぁぁ!)


 実は通報したなんて真っ赤なウソである。警察の緊急情報に、近所で出動要請が出ていたので、それを利用させてもらっただけだ。


 だけどアレックスが広域指名手配なのは嘘ではないし、アレックスは今後警察の目をかいくぐりながら動く必要が出て来るし、アメリカから出国するのも困難だろう。ボニーを逃がすなら今が好機だろう。そして、アレックスを仕留める好機でもあるはずだ。


 未だに座り込んでいたボニーが、ぽつりと自嘲する様に言った。


「アレックスも指名手配なんて、血を感じるよ」


 ボニーとクライドも広域指名手配犯だった。そして二人は死刑で死んだ。同じ道を、その息子も辿ろうとしている。やけくそになって、笑いたくもなる。


「アレックスも逃亡者かぁ」

「ボニー様も、今でも逃亡者だよ」


 サイラスの言葉に、ボニーは縋る様な目をして言った。


「でもあたし、アレックスから逃げたくないよ」

「ダメだよ。逃げなきゃアイツの死期を早めるだけだよ。アレックスは、ボニー様を殺せたら、後はヴィンセント様に殺されるのを受け入れるんじゃないかな。そういう掟みたいだし」


 掟や禁忌についてはボニーも聞いた。アレックスが執着しているのは、両親の殺害だけだ。それが達成された後の事など、恐らく何も考えていない。恐らく、どうなってもいいと思っている。それほどの強烈な執着とも言えるし、それだけの為に生きる人生ともいえる。

 ボニーもその事に考えが至って、諦めたのか項垂れながら呟いた。


「あたしが逃げ続けたら、アレックスは死なずに済むって事だよね」

「ボニー様が逃げ続けて、こっちが時々追い払って、尚且つ警察に捕まらなければ、アレックスは死なない上に時々会えるね」

「……わかった。じゃぁ、あたし、逃げる」

「うん、それがいいよ」


 少し気落ちした様子のボニーを、サイラスが肩を抱いて慰める。その様子をヴィンセントは孤児院の中から見つめていた。

 サイラスは本当にどうしようもない、ヘタレチキンビビりMAXだと思っていたが、アレックスを上手い事追い払い、しかもボニーの説得にも成功した。天才なのは聞いていたが、思った以上に出来る子である。


「ふむ……悪くない」


 やっぱりヴィンセントは満足そうに一人で頷いていた。


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