かたやチキン、かたや外道
別荘を飛び出して、噴水に腰かけていたボニーが、アレックスに気付いて立ち上がった。アレックスは布をほどいて、デュランダルの姿をさらす。
それを見てサイラスは焦った。
「おい、ボニー様大丈夫なの?」
「心配ない。アイツは元強盗だからな。昔から逃げ足だけは一流だ」
「ホントに? 死なれちゃ困るから助けてよ」
「何故お前が困る?」
「パパの死が無駄になる」
「そうか。ならばお前が助ければいい」
ヴィンセントが合図をすると、ジョヴァンニが結界の一部を開き、人一人通れるくらいの隙間を用意する。サイラスはそれを見て不安に駆られた。
「俺には無理だよ」
「出来る出来ないの問題ではない。レヴィの死を無駄にしたくないのも、アレックスに復讐をしたいのも、全てお前の意志だろう。これはお前の戦いだぞ」
「俺の戦い……でもでも、俺運動神経悪いし、剣とか向けられたら超怖い! 無理だって! マジで怖い!」
「……」
ヴィンセントからあからさまな軽蔑の眼差しが向けられるが、サイラスはここで折れるわけにはいかない。彼は本気で怖いのだ!
「せめてヴィンセント様ついてきてよ! 俺一人とか絶対無理だよ! 無理な自信がある!」
「なぜダメな方向に自信満々なのだお前は」
「だって無理なものは無理だよ! アレックスの動きは人間じゃないよ! 普通に考えて、運動神経凡人以下の俺が、アレに対処できると思う!?」
アレックスにサイラスが勝てるかと考えたら、当然ヴィンセントも無理だと思っている。加えてこの極度のビビリ。
これだけビビっているところを見ると、説得など無駄だし、時間をかけすぎるとボニーが殺害されるリスクもある。
そう考えて窓の外を見た時、アレックスの攻撃をかわそうとしたボニーが花壇に足を引っかけて転倒し、そこにアレックスがデュランダルを振りかぶった。
それを見たヴィンセントは慌ててサイラスの首根っこを掴み、結界の穴から思い切りブン投げた!
「ぎゃぁぁぁ!」
悲鳴を上げながら飛んでくるサイラスに、さすがにアレックスは驚いて動きを止めた。そのままサイラスがアレックスにゴチーンと衝突し、二人揃って少し吹き飛んで倒れこんだ。
呆然とするボニー、白目を剥いて失神したサイラス。その下敷きになって、肝臓にダメージを喰らったのか、腹を抱えて悶絶するアレックス。
「ふむ、小僧もなかなかやるではないか」
投擲の姿勢のまま、ヴィンセント一人が満足げに頷いて、再びジョヴァンニに指示をして、結界を閉じた。