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ゴッズテイル ~サイコ男の異世界神話~  作者: 柴崎
第???章 ~倉田樹の証言~
98/103

64 PSYCHO LOVE〈4〉

ゲーム内編

   ◆



 ――『   』という人間は、変な奴だった。


 何しろ今現在、俺の目の前で生きたまま大地との一体化を図っているのだから。


「……一応聞くが、お前それ何やってんだ?」


 認めたくはないが、残念なことに俺の友人である男――それが操るキャラクター『ハネット』は、自身が作った農場惑星(造語)の農道で大の字うつぶせに寝転んでいた。


 特徴的な純白のローブとマントが惜しげもなく土の上に投げ出されているが、【汚染無効】というスキルを習得しているので汚れる心配は無いのだろう。

 スキルポイントは1ポイントも無駄にしない、なんて言っていた筈なのに、ある日突然習得してきたスキルだった。


「――殺されたいのか? 邪魔をするな。今、大地と一体化する事で真の豊穣伸として覚醒できないかどうかを試しているんだ。俺がどれほどの苦悩と試行錯誤の末にこの結論に至ったのか……お前は知ってて、邪魔しているのか?」


「そうか。じゃあ忙しそうだからまた後で来るな」


 俺は星をハグする特殊性癖(へんたい)を置いて世界との接続を切った。


 恐らく今のについては普通にギャグだったんだろうが……あいつぐらいになると、『まあ実際そういう次元の話になっちゃうのかな』とも思ってしまう。

 なにしろあいつは、『アイテム収穫数』のランキングで700位台にいるようなバカだ。

 上に700人も居ると聞くと大したことないように聞こえるかもしれないが……このゲームの総売り上げは、()()()本を超えている。


 ――15億人中の700位。


 売り上げ500万本とかのゲームで言えば、2位とか3位とか、そういう比率な訳である。

 こいつはいわゆるエンジョイ勢だが、同時にランキング上げ廃人でもある。

 正確に分類するなら『エンジョイガチ勢』と呼ばれる人種に入るだろう。


 よくもまあ変わり映えのない単純作業を10年近くも延々と続けられるなと思いつつ、俺は俺で今日も対戦世界へと潜る。

 手軽にリアルな対人経験を積めるのが、この低次世界体験型ゲームの良いところだ。

 ……今は少しでも、強くなっておきたい。


 ――たっぷり3時間後。

 そう時間を指定してハネットの拠点惑星に再接続する。


 同じ道を辿ると――放置されていたハネットは、全く同じ格好で待っていた。


「ぐー」


「あっ、いや寝てるッ!! ちょ、寝るな! 起きろ! 起きろハネットぉぉお――ッ!!」


 慌てて駆け寄り、体を揺さぶる。

 この『ザ・ワールド』のような低次世界体験型ゲームでは、ゲーム内での睡眠を非推奨としている。

 ゲーム内で『目覚め』を経験すると、『戻ってこられなくなる』可能性が格段に上がるからだとか。


 ――『戻ってこられない』、という現象。


 低次世界体験型ゲームが発売されたばかりの頃、世にはまだ『連続プレイ制限』という概念が存在していなかった。

 プレイヤーたちは1回の接続で無限に異世界での出会いや別れ、そして生活を楽しめた。

 その結果、現実とゲームの区別がつかなくなり、ついには向こう側に心の在り処を決めてしまった者までいた。


 ――こうなると問題になるのは、異世界側でどれだけ長期に渡って生活しても『現実では時間が経過していない』という低次世界体験型ゲームの仕様である。


 異世界側で数十年という月日を過ごし、ついには大切な者たちに看取られ最後の眠りを迎えた者が()()()()()と――そこは遥か昔に捨て去った筈の、『現実』なのである。


 ……絶望的に社会復帰が難しい者や、自殺者が出たことは言うまでもない。

 一時は社会問題にまでなった、本気で危険な現象なのだ。


「うるせえな。起きてるよ」


 起きてんのかよ。

 ハネットは鬱陶しそうに俺を払い除けて起き上がった。


「お茶目な冗談だろうが」


 本当だった場合洒落にならない冗談はお茶目ではないと言いたい。


「テメー本気で心配するだろが!!」


「ごめんてッ! ごめんてッ!」


 逃げられないようマントを掴んでバシバシ叩く。

 ちなみに同クランに所属しているので同士討ち(フレンドリーファイア)無効が発動しダメージは無い。

 というか多分、入ったら一撃で死ぬ。


「……ったく、お前って1人の時いつもそんな馬鹿みたいな事やってんの?」


 玄関開けたらシャンデリアでターザンごっこしていた時もあったな。


「んな訳ねーだろ。レーダーでお前が寄ってくるのが見えたら急いで準備してんだよ。誰が馬鹿だ」


「え? なら毎回変わってるアイデアは即興だったのか?」


「いや、常日頃から考えてる」


 馬鹿じゃねーか。


「あいててて。……さて、それじゃあ話の前に、今日は『あっちの世界』で用事あるから先に移動だ」


「さっき会った時に言えや、それ!」


 『あっちの世界』とはハネットが最近始めたソロプレイ用の世界のことだろう。

 意味不明なギャグのために二度手間を強いられた……。

 いや、俺も乗ったとは言え1回追い返されてるから三度手間か。

 きっちり3時間放置の反撃をしてきやがった。


 ……とは言え、このマイペースに振り回されること、はや15年。

 俺はすっかり慣れたように、ハネットから指定するゲーム内時間だけ聞き出しそちらに移った。




   ---




 登録してあった世界座標から接続すると、問答無用で空中に投げ出された。

 このクソみたいな初期位置は早くなんとかしてくれ。


 あいつが拠点を作ると畑がどうのこうのと言って全部平野になるから困る。

 俺は断崖絶壁の中にひっそり建てられた拠点とかの方がカッコいいと思う。

 ……自分の世界でやったら、利便性クソ過ぎて誰も来てくれなかったが。


 飛行系のスキルを発動させ、ゆっくりと着地する。

 ハネットがこの世界で作った拠点、その中央に存在している大広場だ。

 降りた足元、俺が最初に落ちた場所だけ記念にタイルの色が変えてあるのが地味にムカつく。


 どうせ畑だろ、と検討をつけてそちらに向かう。

 大抵の場合は拠点主――ワールドホストの方が、世界への接続が早い。

 これは別にシステム的な話ではなく、ホスト側が合流側に、余裕を持って少し遅れた時間を伝えることが多いからだ。


 ――『オートセーブ』と揶揄される仕様がある。

 これのせいで、ホスト側はどう頑張っても自分が接続済みのゲーム内時間――つまりは『過去』に接続することが出来ない。

 要は家に人を呼ぶのと同じことで、『自分がいない時間』を指定することはまず無いのだ。

 不在の間に何をされるか分からんからな。


 畑がある東側を目指して歩く道中、様々な人々とすれ違う。


 教科書や映像作品でしか見ないような、粗末な服を着た農民たち。

 横に伸びた長い耳を持つ、美形揃いの白人たち。


 彼らはハネットがこの世界で囲ったN()P()C()たちだ。


 後者は種族的にファンタジーだが、前者も『非現実的』という意味では同じくファンタジーだ。

 ハネットから聞いた、『旧時代の中世』並みだとかいうこの世界の状態を思い出す。


 ――人々は娯楽のごの字も知らないどころか、食うにも困るような有様。

 この時代の人々は、まさしく『食べるためだけ』に働くという。


 生きることと働くこと――つまりは、『私生活』と『仕事』が概念からして同一なのだ。

 ブラック企業だなんだと言っている現代からすれば、考えられない世界だった。


 まだ未発達な社会。

 “大洪水”が起きる前のヒトの在り方。


 『リアル』な『ファンタジー』。

 『ファンタジー』だが、『リアル』。


 非現実を()()できる革命的ゲーム。

 それがこの『ザ・ワールド』というゲームなのだ。

 ……まあ、最近はそれに更にプラスアルファしたゲームも溢れているが。


 すれ違う人々は逃げるとまでは行かなくとも、俺から距離を置いて歩く。

 どうやら俺たち最上位プレイヤーの装備は見た目が厳つく見えるらしい。

 黒塗りの高級車とかから距離を置きたい心理と同じだろうか。

 これはプレイヤーで溢れた『最初の世界』にいるNPCたちには見られない反応だった。


「――ああ、これはクラツキ様。ようこそお越し下さいました」


 そんな中、いつも全く物怖じせずに話しかけてくる少女がいる。

 魔法使いらしいトンガリ帽子に、青い三つ編みが特徴的な背の低い女の子。

 たしかニーナとかいう名前で、ハネットの弟子だとかなんとか――とにかく、近い位置に置かれたNPCだ。


 ちなみに『クラツキ』というのは俺のキャラクターネームだ。

 ――『暗い月』と書いて、『クラツキ』。

 ……という設定は後付けで、実際には本名の『クラタ=イツキ』から適当に考えたものだ。

 最初に使い始めた時はまだ小学生だったので仕方ないのだ。


「ああ、うん。どうも」


 様とか付けられるとニホン人の俺は困ってしまう。

 俺も対人戦ばかりでソロプレイはほとんどしたことが無い。

 NPCってどういうスタンスで関わるのが正解なんだろう。


「師匠なら、先ほど畑の方に向かわれましたよ」


「ああ、そう」


 知ってた。


「――――……」


 普通に会話しているようだが……その間、少女は俺をじっと見つめている。

 吸い込まれるような青い瞳。

 ハネットのそれにも近い、不思議な魔力を秘めた視線。


 ――探られている。


 正直に言って、俺はこの少女のことが苦手だった。

 この透かし見るような視線に晒されると、自然と後ろめたい気持ちにさせられるのだ。

 ハネットから現実側の情報を口止めされている身なので、尚更だった。


 彼女が現代人と比べても非常に優秀なことは、少し話しただけで分かる。

 NPCだからと言って侮ることは出来ない。

 日常会話の中からサラリと『こちら』の情報を聞き出そうとしてくることもある、気が抜けない相手なのだ。


「……それでは」


「ああ、うん……」


 緊張感とは裏腹に何事も無く、彼女の方から目礼して去ってくれた。

 出会った当初は根掘り葉掘り聞かれたものだが、これまでのやり取りで彼女の方も『触れない方がいいライン』を見極めたのだろう。

 彼女は俺というより、ハネットに煙たがられるのを恐れているようだった。



(結局――あれは、『何のため』に居るんだろう――)



 ……内面についてはともかく、あの小さく可愛らしい見た目だ。

 低身長好きを公言してはばからない奴からすれば、まさに好みの女であろう。

 普通に考えれば、ハーレム要員なのだが――。


(……いや。まさか、な……)


 思わぬ接触に、少しだけ疲れて目的地に向かう。

 同じ青色でもコウぐらいアホな方がいい。


分割したのを更に分割。1シーンが長くなってきました。




◆設定補足◆ ※尺の関係でカットした優先度低い詳細


・戻ってこられなくなる

『ゲームと現実の区別がつかなくなる』の重症版。物凄い社会問題になったにも関わらず、リアルでネット関連の各問題への対応や法整備が後手後手になっているのと同じで新技術故に政府の対応が非常に遅かった。10年経った現在は『連続プレイ制限』などが設けられ発生しにくくはなっているが、どちらかと言えば企業側の努力。


・連続プレイ制限

ゲーム内時間(プレイヤーの体感時間)で72時間以上連続でプレイできないよう1日のログインを制限する仕様。現実側の24時間以内にゲーム内でこの制限に到達すると強制的にログアウトになり、更にそれから1週間ログインできなくなる重いペナルティがある。実装当初はもっと長かったが苦情が出る度に短くなり続け、現在はこの長さに。たぶんこの先も短くなり続ける。


・ワールドホスト

その世界の所有プレイヤー。別にシステム的に決まっている訳ではなく、単にプレイヤーたちが「今日からこの世界俺のもん」と言っているだけ。だから他のプレイヤーもバンバン勝手に入ってくるのでホスト側は拠点を作り防備を固めることが多い。


・オートセーブ

『対人戦』におけるゲームバランス維持のために設けられた『やり直し』防止用の仕様。各世界へ接続する際、自分が一度接続したことのあるゲーム内時間には接続できなくなる。たとえば『世界Aの5時』に接続した場合、『世界Aの同日4時59分』以前には二度と接続できなくなる。この仕様のせいで拠点がプレイヤーに攻撃されたり悪戯されたりしてもリセット出来ないのでよく文句を言われている。

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