おまけ 農場王日記【1】
長らくお待たせ致しました。更新再開です。
文字数削ろうとすると筆が遅れるのでこれからは気にしないことにしました。
速度重視で書くので悪い所や気になる所があったりしたら感想欄にどんどんお願いします。ただの文句でもOK。
定期考査明けのとある日、『僕』は自室の床に立っていた。
足元には放り出された説明書。
手には輪っかのようなヘッドギア。
それは低次世界体験型ゲーム【ザ・ワールド】を、ついに手に入れた日だった。
――次元操作技術。
人類が手にした神の力。
発表されたのはちょうど僕らの世代が生まれた頃らしい。
言われてみれば保育園ぐらいの時までは、ニュースか何かで連日騒いでいたような気もする。
朧げなのは子供だったからと言うより、ここが田舎だったからだろう。
地方民からすればその熱狂も、画面1枚隔てた遠い世界の話だったのだ。
人は目の前に無いものに現実感を持てない。
動物にとって『世界』とは、あくまで自分が感じ取れる範囲のことでしかないからだ。
両手で持ったヘッドギア型の本体。
とうとうその現実までやって来たそれに目を落とす。
内側に向かってイバラのように電極が突き出ており、見た目だけだと拷問器具のようである。
(10年もしたらゲームになったか)
技術が確立し、これから色々な分野に応用されていく時期なのだろう。
適性を見る時期……言うなれば、挑戦の時期だ。
中学3年、今年で義務教育を終える僕たちも似たようなものかもしれない。
……ならば、僕たちとお前は一緒に育ってきたようなものか。
そう考えると、少し感慨深い。
――なーんて思うのは、現金だろうな。
実際には、「ゲーム史上最高売上げ更新」なんて宣伝見るまで、1年間ガン無視してたんだから。
だって今時本体だけで4万超えとかありえないし。
最新技術を使うほど価格が時代遅れになるのだから、商売というのは皮肉な世界なんだな。
いや、実績立てた瞬間に手の平返す僕ら民衆が一番皮肉か。
僕はあらかじめ全ページ読んでおいた説明書通り、立った状態でヘッドギアを装着する。
今までのダイブ型ゲームだと、普通にベッドに寝転がってやるのだが……この辺の違いはなんでだろう。
僕は頭の中で少しだけ不思議に思いながら、起動スイッチに指を添えた。
(今度はどれぐらい『もつ』かな――)
何かを新しく始める時、僕はいつも不思議な気分になる。
湧き上がるのは、未知に対する大きな期待。
ワクワクとした胸の高鳴り。
でも、その中に―――
―――ほんの少しの、諦念がある。
(……お前は長く楽しませてくれよ)
その出会いが人生すら変えるとも知らず、僕はスイッチを入れた。
◆
(――――へっ?)
気付けば、僕は『そこ』にいた。
――見渡す限り何も存在しない、黒い空間。
いや、気付けば、というのは語弊があるだろう。
スイッチを押し、後頭部に何かチクリとした痛みを感じるのと同時――もうこの場所に来ていたのだから。
いつ現実とゲームが切り替わったのか、その境い目が分からないのだ。
(起動画面とかスタート画面とか、そういうのが無かったのか)
その事実に気付き、若干肩を落とした。
ゲーマーにとって、起動画面というのはそのハードの顔みたいなものだ。
何か想像も出来ないような……低次世界体験型ゲーム特有の演出がくるんじゃないかと、期待していたのだが。
(……いや。もしかして、それこそが演出なのか?)
――境界の消失。
それはまさに、『現実の延長』を表現しているとも言える。
(だとしたら、立っておく必要性はそこに――?)
大抵のゲームはキャラクターが立った状態で始まる。
現実でも立っておかなければ、視点のリンクに影響が出るのではないか。
瞬きの間に自分の格好が変わっていたら、脳もまず驚くだろう。
……まあ確認のしようがないので、全部憶測にすぎないのだが。
(というより、これはもうアバターの体なのか?)
手や体を見ようとして下を向く。
暗過ぎて何も見えない。
……おい、ちょっと怖いぞ。
田舎育ちの僕でも、ここまで完全な暗闇は味わったことが無いかもしれない。
深海ってこんな感じなんだろうか。
これは人によってはパニックものだろう。
制作はその程度の配慮も出来なかったのだろうか。
テストプレイをすれば誰でも問題に思いそうだが……。
(うおっ)
目の前に突然ウィンドウが出現した。
「ザ・ワールドにようこそ」とか、「ゲームをプレイする際の注意点」とかの文章が音声付きで流れ始める。
(……ああ、なるほど。これを強制的に読ませたかった訳だ)
目を閉じてもウィンドウは消えず、耳を塞いでも音は聞こえてくるようだった。
恐らくダイブ型ゲームと同じで、脳に直接情報を送っているのだろう。
この警告文は全プレイヤーが確実に読んでいる筈、という訳だ。
運営は何かあった時に、説明責任は果たしたとか、そういう言い訳がしたいのかもしれない。
もちろんこれも憶測なので、もっとやむを得ない理由の可能性もあるだろう。
それにしても……長い。
いや、なんだこれ。
本当に異様に長いぞ。
「予期しない方法でのプレイはやめてね」とか、「責任は取らない」とか……よくあるような、ないような説明がクドクドと垂れ流される。
途中にあった「ゲーム内で睡眠しないように」みたいな注意については独特だろう。
逆に言えばやろうと思えば出来る訳だ。ゲーム内で睡眠。
結局それだけで4~5分かかっただろうか。
やはり警告というより利用規約に近い気がする。
今は初見なので慎重派の自分はちゃんと読むが……流石に次からは何らかの操作でスキップ出来ると助かる。
長い説明が終わり、続いて始まったのはキャラメイクらしかった。
人によってはゲームの醍醐味と言える部分だろう。
まず最初に来たのは、キャラクターネームの設定だ。
(名前――名前か)
――ハネット。
迷うことなく、僕はそう入力しようと決める。
というより大抵の場合、僕はゲームでこの名前しか使わない。
――白と黒の可愛らしい思い出。
――『僕らしさ』の裏に隠した墓標。
今の僕を形作った過去を表す、何の捻りもない――しかし、特別な名前だ。
さて、入力はどうやるのだろうと思っていると、ウィンドウに勝手に「ハネット」と入力された。
どうやらダイブ型ゲームの主流と同じく、メニューは思考だけで操作できるようだ。
次に男か女かで性別を尋ねられたので、現実と同じく男を選ぶ事にする。
女の子のアバターを選ぶ趣味は僕に無かった。
……そういえば、『中間』の人はどっちを選ぶんだろう。
これはなかなか興味深いことに気付いた。
きっとその結果には、そういった人々のコンプレックスが……ひいては人間の傾向というものが浮き彫りになっているだろう。
性別が来たのだ、そろそろ本格的なアバター作成が始まるだろうと思っていると――ここで、見慣れない選択肢が出てきた。
“現実の自分をモデルにしますか?”
アバターの見た目を、現実の自分に似せて作る……という事だろうか。
言っている意味は分かるが、その方法が分からない。
どうやって現実の姿を再現するのだろう。
写真でも撮って読み込むのだろうか?
ウィンドウの端に「1つ前に戻る」という項目があるのを見つけ、せっかくなので「はい」を選んでみる。
もしこれが致命的な選択ミスでも、恐らくやり直し出来るのだろう。
(おっ)
漆黒の空間に光が差した。
気付かなかったが、目の前には巨大な鏡が置いてあったらしい。
そして――そこには既に、現実でよく見知った僕の顔と体が映っていた。
「―――は?」
驚いて下を見ると、鏡に映った姿通り、肌に張り付くような薄手のインナーを着た僕の体があった。
ゲームに切り替わった際に違和感がなかった筈だ。
そのまま自分の体だったのだから。
(なにこれ、どういう技術!?)
――おい、なんで僕のリアルでの外見を知っている。
少し薄ら寒いものを覚える。
結果があるということは、元になった『情報』があるということだ。
見た目って個人情報に入るのだろうか。
これは個人情報保護法とかの違反じゃないのか。
さっきの選択肢を使用の同意とみなすとか、そんな感じのふざけた展開なのか。
「むっ」
鏡の横――先ほどまで使っていたウィンドウが、数十個の項目をゲージ化したものに変わっていた。
身長とか体重とか書いてあるので、このゲージを弄ってアバターの見た目を変えるのだろう。
(これは――痩せられるッ!?)
まあ発売から1年という月日が経っており、その上途轍もない数の人間がプレイしているのだ。
何かあったらとっくに問題になっているだろう。
現金な民衆代表の僕はすぐに切り替え、コンプレックスである肥満体型をなんとかした。
それこそ性別の話のように、ほとんどの人間が自分のどこかに劣等感を抱いている。
ならばそれは人というものを構成する上で、それほどに重要な要素なのだろう。
目を逸らすのも自由だが……僕としては、それを知らずにいるのは少々『もったいなく』感じた。
僕は二次性徴が早くに来て、身長については既に170cm台と不満は無いのでそのままにする。
顔だって親から貰った大事な要素だ。
顔と身長はどうにもならないが、体型は努力でなんとでも出来る。
つまり、僕の肥満は僕の中では怠惰の象徴なのだ。
僕にとっては、それがまさに『劣等感』というやつだった。
(リーダーだったら身長高くしそうだな)
でも体の大きさが現実と違うと、違和感とか凄いんじゃないだろうか。
戦闘はもちろん、歩くだけで支障を来しそうな気がする。
そう考えるとアバターは極力いじらない方が正解なのかもしれない。
(そういえば――)
パンツをめくる。
(――『ある』、だと!?)
感触的にそんな気はしていたが、まさか本当に『ある』とは。
(やべえ、女の子にしとけばよかったかも)
まあ僕も中学男子なので、そういったことには十二分に興味がある。
割と本気で考えてみる。
……いや、客観的に見て引くな。
よくある「思いついても実際やるかは別の問題」というやつだ。
僕は馬鹿な考えをすぐに捨て、きっぱりと次に進むことにした。
……ただまあ、女性アバターを見る目は若干変わってしまいそうだ。
それにしても、これで15歳以上対象なのはおかしくないか。
性器がある時点で強制的に18禁だと思うんだが……。
流石にゲーム内で行為に及んだりは出来ないだろうが……出来ないよな?
この辺りの問題はほとほと謎であった。
攻略Wikiは上から下まで全ページ読み込んできたのだが、多分どこにも言及されていない。
後でスレかまとめサイトでも検索してみるか。
(あ、それと髪の色ぐらい変えとくか)
せっかくゲームなのだから、現実とは違う『ゲームらしい』部分を1個ぐらい作っておいてもいいだろう。
遊び心というやつだ。
あんまりガチだと思われるのも恥ずかしいし。
僕は少し考え、髪の毛のRGBの値を全部MAXにした。
白髪だ。
というのも最近気付いたのだが、僕はどうやら白髪・銀髪フェチというやつらしい。
ゲームや漫画の好きなキャラが、片っ端から白髪か銀髪だったのだ。
ちなみに男女問わずである。
ミステリアスな感じが好きなのかもしれない。
おかげさまで、自分の趣味趣向というものは案外気付いていないものだと学んだ。
つまりそれは、他の人たちもそういうものだということだ。
自分を知れば他人を知る。他人を知れば自分を知る。
どうも世界とは、そういう風に出来ているらしい。
「…………」
完成したアバターを鏡で一通り見てみる。
はて、痩せたのは子供の時以来だが、昔の自分はこんな顔だったか。
髪の色が目立つから印象が引っ張られている可能性もあるが。
膨張色だしな。
これでアバター作成は終わりということになるのだろうか。
キャラ作成関連の情報って、画面に従っていればいいから基本的にWikiでも触れないからな。
とりあえず先に進んでみることにする。
(お、とうとう職種か)
ズラリと並んだのはジョブ――いわゆるキャラクターの戦闘タイプだった。
(ふむ……)
一通り眺めてみたが、Wikiで初期ジョブとして紹介されていた通りのラインナップだ。
僕は一応それだけ確認すると、その中から迷わず1つのジョブを選択した。
●魔法使い
9属性の全魔法を操る魔法のスペシャリスト。
行動の選択肢が非常に多く自由度が高いが、その分魔法とスキルの選択は良く考える必要がある。
事前の情報収集段階からこのジョブ、【魔法使い】を選ぶと決めていたのだ。
選択の理由は『対応能力の高さ』である。
例えば同じ後衛職でもモンスターを使役して戦う【テイマー】などには、モンスターの種類やら数やらにより出来ることに制限があるが……魔法使いには、それがない。
どんな攻撃だってできるし、どんな防御だってできるし、どんなサポートだってできる。
説明文の通り、それは長所でも短所でもあるようだが。
どうやら魔法やスキルの習得がポイント消費制なので、調子に乗ってあちこち手を出すと一瞬でポイントが枯渇してしまうらしい。
自由だからこそ、自分で方針を決めて伸ばす能力を取捨選択しなければ、レールの上を走るだけでいい他のジョブに劣りかねないという訳だ。
これは大体のゲームに共通した、万能キャラの宿命でもある。
しかしまあ――逆に言えば、賢く育てればいいだけの話である。
とにかく、魔法使いには『システム上避けられない』という絶対的な弱点が少ない。
『出来ない』より、『出来るけど難しい』の方がマシ。
シンプルだが、本質的な話だ。
「おわっ!」
体の上に急に服が出現したのでびっくりする。
灰色の……ローブ、というのだろうか。
前の開いていないコートのような上着と、同じ色のズボン、そして背中には長い杖を背負っていた。
どうやら魔法使いの初期装備であるらしい。
コスプレ、というより映画の衣装のような凝ったリアルさがあって格好良い。
(で、最後はスキルか)
初期スキルの選択。
それが最後に出てきた項目だった。
(問題はこれなんだよなぁ……)
僕は並んだスキルたちを前に眉をしかめた。
というのも、Wikiにはスキルに関する情報だけが不自然なほど載っていなかったのだ。
PKプレイヤーの名指し対策ページとかはあるのに。
それがなぜかはまだ知らない。
だがアレは編集した者たちの明らかな意図を感じた。
何か、プレイヤーたちが情報を出し渋るような理由がそこにあるのだろう。
かろうじて書いてあったのは、習得がポイント消費制であることと、習得したスキルに関連したものだけが開放されていくツリー制であること。
ついでに『初心者向け』ページから、ジョブで初期スキルが変わることは無いというのが1つ。
(ほんとに変わんないのか?)
僕は並んでいるスキルを暗記してからジョブ選択まで戻り、適当な戦士職を選んで同じ画面に戻ってきた。
……たしかに、変わってないな。
いや、情報の授業の先生がネットの知識は鵜呑みにするなって言ってたから。
僕はジョブを魔法使いに選択し直し、スキルの説明文を読んでいった。
(うーん)
どうやら最初に持っているスキルポイントは2ポイントであるらしい。
今ウィンドウに並んでいるスキルも消費は基本が1ポイント、最大でも2ポイントだ。
消費ポイントが多いスキルほど強力とか、そういう感じだろうか。
(【アイテム作成】に【料理】?)
ジョブに生産系が無いと思っていたが、スキルさえ習得すれば誰でも出来るのか。
どちらも消費が1ポイントなので、両方習得して生活特化ビルドだー、なんてこともできるが……攻撃力低すぎてレベル上げで詰みそうなので無しだな。
(というかポイントの取得がレベルアップ毎なんだから、攻撃力に全振りしてさっさとレベル上げするのが最適なのか?)
まあRPGで火力が最優先なのはどのゲームでも同じということか。
敵を一撃で倒せるかどうかでマラソン作業の効率も変わるしな。
普通そういうのってWikiで優しく教えてくれるものなのになぁ……。
(ま、無難にしばらくは様子見するか)
スキルの習得はポイントさえあれば任意のタイミングで行えるらしい。
画面下にも「スキップ」の選択肢が出ているし、僕は初期スキルの習得をパスしてポイントを温存することにした。
ツリー制のゲームでは初期スキルの選択によって今後のビルドが大きく左右されてしまう。
必要になった時に必要になったものだけ習得した方がリスクは少ないだろう。
キャラメイクが終わると、「冒険が始まります」という文章と共に最後の選択肢が出てきた。
最後の選択肢は出発地点を――スポーン地点というやつだろうか。
それを決めるものらしい。
「惑星ユグドラシル【最初の宿屋】」と「ランダム地点から冒険に出る」の2つがある。
Wiki情報によれば最初の宿屋とやらを選ぶのが正規ルートで、飛んだ先でチュートリアルが始まるという話だった。
だが、僕はランダム地点の方を選んだ。
育成要素のあるRPGにおいて、最初に作ったキャラというのはほぼ間違いなくビルドに妥協が出る。
僕はそれが許せないので、基本的に初プレイ時のキャラはリセット前提、検証用の『捨てキャラ』にすると決めているのだ。
そうなると先に外れパターンを見ておいた方が都合がいい。
ある程度進めてどこかで詰んだら、正規ルートでそのままやり直せばいいからだ。
失うものを気にせず、思う存分攻略できるのも利点である。
やはり『やり直し』が出来るというのは甘美だ。
一発勝負は現実で好きなだけできる。
それこそ嫌になるぐらい。
視界が眩い光に包まれる。
この黒い世界ともお別れのようだ。
受験勉強に苦しむみんなには悪いが、一足先に楽しませて貰おう。
僕は意気揚々と冒険に繰り出した。
そして落下する。
「がぼぉ――!?」
更に着水。
訳も分からぬまま、気付けば大量の水の中に沈んでいた。
思わず飲み込んだ水が塩辛い。
海水か。
(ランダム地点って――まさか、海に放り出されたのか!?)
おかしい、何故だ。
少なくともWikiには街や村などの拠点エリアに出ると書いてあった筈だ。
やっぱり信用できないじゃないか。
なんにせよ、やめときゃよかった。
自分の選択を1秒で後悔しながら、とにかく必死で水面を目指す。
がむしゃらに水を掻いた。
(ちょ、装備がッ! 装備が重てええええ――ッ!)
保健体育で服を着たまま溺れた際の危険を習ったが、まさにその状況である。
体を一瞬水面まで浮かばせただけでヘトヘトになってしまう。
「ぶはぁっ!」
時間が無い。
体力の限界を悟った僕は、とにかく息継ぎのその一瞬に全力を振り絞り、周囲に存在する陸地を探した。
(――無いよね、やっぱり!)
だと思った。
なんとなくそんな気がしていた。
無意識下で生存を諦めたせいか、体が一気に沈み始める。
(――――ッ!)
太陽光にフィルターがかかり、音が遠ざかる。
まるで黒い腕たちに底へと引きずり込まれるようだ。
――死ぬ。
脳髄をピリピリと走るこれは、本能的な恐怖か。
実際の深海に比べれば、さっきの黒い部屋の方が遥かにマシだ。
まったく、『現実の延長』とはよく言ったものである。
このゲームの本当に凄いところは、違和感の無さでも、水のリアルな冷たさでもない。
――リンクするのは、『心』だ。
人がその瞳で『世界』を見た時、真に訴えかけてくるのは外界ではなく、自分なのだ。
(ここで死ぬー―?)
僕は――
僕は――
――いいや駄目だ。
ゲームで死んでも、役に立てない。
「――――ッ!!」
渇望。
最後の瞬間、人はその『本性』が出る。
そしてそれに応える僕の余力は、存外優秀だったようだ。
(そうだ、アレを――!)
肉体はもう動かない。
――なら、世界の方を動かせばいい。
メニューからスキル欄を開く。
温存しておいたスキルポイントを消費し、先ほど暗記したスキルの中から急いでそれを選ぶ。
●【地形操作Ⅰ】……2ポイント
周辺の地形を作り変える。効果範囲はスキルレベルに依存する。
僕は問答無用でそのスキルを習得する。
温存しておいたスキルポイントが開始10秒で消え去った。
なんか【フルスイング】とかいう知らないスキルが最初から習得済みになっていたが、それどころではないので無視する。
(地形! 海も地形に入るのか!? 作り変えるって、何がどれだけ出来るんだ――!?)
とにかく試してみるしかない。
開きっぱなしのスキルウィンドウから、習得した【地形操作】スキルを選ぶ。
だが、何も起きない。
イメージとしてはスキル選択後に、どう地形を作り変えるかの選択肢が出ると思っていたのだが。
「がぼぼぼ! ごぼぼぼ!(地形操作! 地形操作!)」
音声認識の可能性を考慮し、スキル名を叫んでみるが変化は無い。
(くそっ、やっぱり駄目なのか――?)
無駄な足掻き。
所詮追い詰められた状態で思いつく程度の案か。
現実的に考えて、周囲に陸も無いような場所に放り出されたらどう足掻こうが助かる訳がない。
――せめて、近くに島でもあれば。
「!?」
その瞬間、水底から何かが伸びてきた。
サメなどの海洋生物かと思い、一瞬肝を冷やしたが――動物ではない。
何か……塊のようなものが、ニョキニョキと水面へ向かい伸びていくところだった。
僕は少しの間だけ呆気に取られてそれを眺め――直後、死にもの狂いでそれに掴まる。
「ごぼぼぼぼ……」
塊は僕のせいで増えた水の抵抗など意にも介さず、力強く水面を目指す。
そして水面に達すると同時、キノコの傘のようにその先端を広げていった。
「―――ッ!」
でかした!
広がった傘には人が乗り上げるには十分な面積がある。
僕は最後の力を振り絞り、無理やり傘の上へと這い上がった。
「ぶはっ! ハァッ、ハァッ、ハァァァ――」
しばらくの間、呼吸を整える。
そして誰にともなく叫んだ。
「死ぬわァっ!」
腕に力が入らず、ゴロンと転がりながらも叫ぶ。
「開発者出てこいやァ糞がァァ!!」
なぜか涙が大量に出る。
いや、不運を呪ってとかいう訳ではなく。
恐らく海水に晒されたせいだろう。
(……あれ。そういえば痛くはないな)
というか水の中でも息苦しくはなかったかもしれない。
――もしかして、苦痛の類いを感じないようになっているのだろうか。
(そういえばこれゲームだったな……)
なんつーリアリティだ。
ほとんど本気だったぞ。
デスの度にこれほど精神的負担がかかるとは。
これは低次世界体験型ゲームの課題かもしれない。
(案外、すぐに慣れるのかもしれないが……)
最初は残酷だと思っていた動物のキルが、その日の内に気にならなくなったりするのがゲームだし。
(にしても、痛みは無くても疲労はあるのか)
苦しくはないが、事実肉体のパフォーマンスは落ちている。
試しに呼吸を止めてみた。
……やはり苦しみを感じない。
これなら無限に息を止めていられるだろう。
と思ったが、しばらくしたらHPが減り始めたので慌てて息をする。
(『発生』はしてるけど感覚が無いだけか)
多分肉体にはちゃんとダメージがあるのだろう。
そこから苦痛という情報が脳に送られてこないだけで。
麻酔で痛覚が麻痺してるようなものか。
そういえばゲームだというのに、身体能力が現実の方と大差ない気がする。
メニューから【ステータス】を開く。
当たり前だが、レベルは1と書いてあった。
(レベル1だと現実の一般人程度の身体能力しかない訳か――)
動画サイトに上げられていたプレイ動画をいくつか見てきたが、動画の中のプレイヤーたちはもっと人外じみた動きをしていた。
今後レベルを上げていけば、ステータスと共に身体能力も上がるのだろう。
やはりレベル上げが最優先か。
一々こんな風になっていたら、冒険なんてやっていられない。
(はぁ、動くようになってきた。……それで、この地面はなんだ?)
僕はヨロヨロと上体を起こし、自分が寝転がっていた謎の足場を見た。
(うわっ、これマジで『地面』じゃないか)
その塊はよく見たら土で出来ていた。
さっきのは海に陸地が誕生した瞬間だったのだ。
(もしかして、これが【地形操作】……あ、そうか! 『思考制御』――)
スキルの発動も思考制御だったのだろう。
島が欲しいと考えたから島が出来たということだ。
(島……。まあ、島……ねえ)
……5メートル四方ぐらいしかないけど。
これって領海権主張できますか?
(めちゃくちゃ綺麗に正方形だな)
なんとなく機械的というか、システム的なものを感じる。
多分これが【地形操作Ⅰ】というスキルで操作できる、限界の範囲なのだろう。
「そうだ……」
僕はフラフラと移動し、首から上をもう1度海に突っ込んだ。
海水の中、そのまま大地の下を覗く。
どうせ痛みが無いしアバターの体なのだから、目玉なんてどうなろうが構わないだろう。
この陸地だが、別に海に浮いている訳ではない。
先ほど見た通り、海底から伸びてきたのだ。
棒のような支柱は暗黒の水底へと真っ直ぐに伸びている。
恐らくその先で海底と繋がっているのだろう。
それを再確認し、頭を海から引き上げた。
再び涙が溢れてくるが、言ってしまえばそれだけなので無視する。
「ふむ――」
水面上の効果範囲は確かに5×5mだが、海底から伸びている事を考えると、全体の体積はその何十倍分もある事になる。
限界範囲は狭いが――逆に言えば、その範囲に影響を及ぼす為なら、システムはどんな不都合でもなんとかする必要があるという事だ。
今回は海に5m四方の陸地を作るため、数十m――いや、もしかしたら数百mとか、数千mもの支柱を伸ばして誤魔化した。
(結果を先に決定して、後から方法を考える、みたいなシステムで動いてるのか――)
いきなり制作の杜撰さを垣間見た気がするが、この仕様は何かに利用できそうなので黙っておこう。
手を突くとビチャリと音が鳴った。
……とりあえず、この濡れた装備品をどうにかしなければ。
杖にカビとか生えないだろうな。
(装備し直したら乾いて出てきたりしないかな)
大体のゲームはそれで初期化できる。
ゲーマー特有の慣れた動作で、メニューの【装備】から全てのアイテムを一旦外す。
ちなみに装備を全て外しても、素っ裸になることはなかった。
あのキャラメイクの時に着ていたインナーの状態になるのだ。
僕は外した装備をアイテム欄から再度選択し、装備欄にセットし直した。
「――乾いた」
ちゃんと乾いた状態で出現してくれた。
前世代の良いところをちゃんと受け継いでくれているのはプラスポイントだな。
今マイナス5万点ぐらいだけど。
にしても肌と髪の毛、そしてインナーは濡れたままなので気持ち悪い。
ここまでリアルだとタオルみたいな日用品まで必要かもしれない。
(アイテムと同じで、ログインし直したらアバターも初期化される可能性が高いが……)
まあそれを試すのは、それこそログアウトする時でいいだろう。
不快ではあるが、再ログインの手間を考えると面倒くさい。
言ってしまえば濡れてるだけだし。
現実の体じゃなくてアバターだし。
さっきまで流れていた涙と同じだ。
『ゲームだから』と思えば許せる。
僕はローブで体を拭いて、再装備でそれも乾かすという荒業で状態をマシにし、今一番気になっていることに取り掛かった。
(さっきの【フルスイング】ってなんだ)
スキル欄に最初から突っ込まれていた謎のスキルである。
僕はもう一度スキル欄を開いて詳細を確認した。
●【フルスイング】
魔法使いの初期スキル。杖で敵を殴り飛ばし、距離を確保する。
(ジョブで初期スキルちげーじゃねえか!!)
なんなんだよ殺すぞ!
あのWikiめちゃくちゃじゃねーか!
「クソゲー! マジクソゲー!」
いや、確かにあの時画面に並んでいたスキルたちはジョブを変えても変わらなかった。
『ジョブ』の初期スキルと『キャラクター』の初期スキルは違う扱いということか。
僕はがっくりと座り込んだ。
……いや、逆に考えるんだ。
こりゃ捨てキャラ作っといて良かったと。
次回が用意されているなら、今の失敗は全てカンニングみたいなものだ。
とりあえず【フルスイング】とやらを使ってみる。
思考制御でいけるかと思い発動を念じてみるが、何も起きない。
試しにスキル名を口に出したら、体が勝手に、しかしごく自然な感覚で動き出した。
ゴルフクラブのように杖を長く持ち、遠心力を込めて下から斜め上へと跳ね上げる。
一応誰が使っても同じモーションになる訳だ。
クールタイムを表しているのか、スキル欄の【フルスイング】のアイコン上に「残り3秒」と表示された。
(スキルの発動条件は思考制御と音声認識の両方か?)
今度は頭の中で発動を否定しながらスキル名を唱えてみる。
やはり両方揃って初めて条件を満たすのか、スキルは発動しなかった。
この仕様もブラフか何かに使えそうだな。
別の技名を言いながら全然違う技を使う、というのは古来よりある戦術の1つだ。
(いや、でも口に出すスキル名と考えてるスキルが一致しないと、そもそも発動しないのか)
まあ発想ぐらい頭の片隅に留めておいてもいいだろう。
全然関係ない方向で活きたりするのが発想というものだ。
それと、使用してもMPは消費しないらしい。
スキルはどれだけ使っても失うものが無いということだ。
(技の方は典型的なノックバック技だな)
遠距離職にありがちな仕切り直し用の近接攻撃だ。
説明文でも距離を確保するための技だと念押ししているし、ダメージは無いか、あっても極小といったところだろう。
(というか魔法使いは通常攻撃は出来るのか?)
後衛職なので近接戦闘関連はシステム的に制限されていたりするのではないか。
敵をぶん殴るところをイメージして杖を振り回してみる。
とりあえず振るだけなら出来るな。
パンチやキックの肉弾戦も可能かどうか、戦闘があったら調べてみよう。
そしてもう片方のスキル、【地形操作】だ。
レベルが上がると影響範囲が広がるという話だったが、じゃあ隣接した範囲への連続使用は出来るのだろうか。
地面のフチに手を伸ばし、【地形操作】の発動を念じる。
すると全く同じ広さで大地が延長された。
1回5メートル四方ずつなら無制限に効果範囲に設定できるのだ。
(なんだ、出来るのか)
ならこれ以上レベルを上げなくてもなんとかなるな。
このスキルのレベルを上げる利点は手間が減ることだけだろうか。
そうだとしたらとんだ糞スキルを掴まされたものだ。
スキル欄には他にも例の初期スキルたちや、【地形操作Ⅱ】などが選択不能状態で表示されている。
このゲームのスキルシステムはツリー制だ。
【地形操作Ⅱ】は【地形操作Ⅰ】を習得したことで出現したのだろう。
となると初期スキルたちは無条件でいつでも習得可能なのか。
ポイントさえあればすぐにキャラクターの強化が行えるという訳だ。
【地形操作】のせいでスッカラカンだが。
(とりあえず、地面を広げるか)
死亡したら僕はここに復活する。
誠に遺憾ながら、ここは僕の拠点となるのだ。
海じゃ生活できないので、まずは陸地を広げていくとしよう。
……5メートルずつな。
僕は最終的に正方形になるように大地を追加していくことにした。
【地形操作】を発動して数秒待つと、海底から新しい地面が湧き上がってくる。
そのままどんどん広げていこうとして、そこで気付いた。
(げぇ! そうか、クールタイム!)
【地形操作】にもクールタイムは存在した。
しかも30秒らしい。
(30秒って結構長いぞ……)
急激に面倒臭くなってきた。
一応30秒待ってから4回目の発動。
これで10×10メートルか……。
(うん。やーめた)
再び計測開始される30秒を見て心が折れた。
ポイントを注いでやればこの手間が減ると思うと案外上手いことできてるな。
僕はしばらくその場で考え……膝をついた。
(もう出来ることないじゃん……)
そうなのだ。
イベントも無ければモンスターもおらず、アイテムも手に入らない。
海の上に放り出された時点で詰んでいる。
(結局宿屋からやり直すのは確定なのねー!)
出来ることが――向き合うものが、無くなった。
僕はそこで、初めて『世界』の方に注意を向ける。
360度、どちらを向いても水平線。
僕はどこまでも続く広大な空間の中、洋上にポツンと取り残されている。
「―――……」
壮観だった。
どこまでも青一色の世界。
あの暗い部屋とは違い、どこかで誰かと繋がっているであろう、そんな無限。
……まあ、せっかく海に出たのだ。
漂流状態の景色など、現実でそう味わえるものではない。
僕はポジティブにこの大自然の光景を楽しんだ。
さざめく波は太陽の光をキラキラと反射している。
まるで宝石の中に迷い込んでしまったようだ。
この海と青空の中、自分というのは何とちっぽけなものか。
大きな開放感と、存在を否定されるような若干の恐怖。
漁師なんかも船上からこの景色を見て、こんな気持ちになるのだろうか。
……思い付くのは疑問ばかりだ。
僕の頭には、いつだって疑問がある。
何を見たって、何を知ったって疑問がある。
僕は、『世界』というものに興味があるのだ。
その世界を構成する、全てのものに興味がある。
――だって。
この世界は、こんなにも美しいのだから。
(ああ、そうさ)
この世界にどうでもいいことなんて、1つも無いんだ。
「―――……」
僕は吸い込まれるような水面に手をやり、その水をすくった。
全ての命は、この海から生まれたという。
――生物が、まだ1つだった頃だ。
ならばこの潮の香りさえ、数多の生き物の生と死、その繰り返しを表す命の証明であるだろう。
「……ん?」
青い水底に突然目が生まれ、こちらをギョロリと見返してきた。
●大海魔クラーケン【Lv.120】
「うわー」
あれやこれやという間に白い触手が伸びてきて、僕の体を巻き上げた。
そのまま海中に引きずり込まれる。
――さっそく食物連鎖に組み込まれてる!
それが僕の初死亡。
かくして、プレイ初日に不幸フルコンボを食らった僕であった。
うん。
とりあえずチュートリアルはちゃんと受けよう。
◆
――漂流生活2日目。
僕はチュートリアルをクリアしてから、再びこの島に帰ってきていた。
なんで帰ってきちゃったんだろうと思わなくもない。
ちなみに現実の方では日付がいくらか変わっている。
どうやらこの低次世界体験型ゲームは現実世界では時間が経たない上に無限にプレイし続けられるらしく、一気にやってしまっても良かったのだが――
――この世界があまりにもリアルなので、なんだか『分からなく』なりそうな恐怖があったのだ。
それで自主的に何度かログアウトした。
これってゲームなんだっけ、と思うことがふとあるのだ。
ちなみに海に放り出された件だが、あの日の前日にあったアップデートで出たバグらしい。
どんな確率だふざけんな。
まあチュートリアルを受けてきたのでやりたいことはたくさんあるのだが――
――最優先は、陸地の拡張。
あのタコのお化けでトラウマ……いや学んだ、海洋型モンスター対策である。
あのクラーケンとかいうのは海マップを回遊している中ボス扱いのモンスターで、自分から探さないとまず出会えないレアモンスターでもあるらしい。
そうですか。
先日とは打って変わって文句一つ言わず、ひたすら【地形操作】を発動させまくる。
暇になるクールタイムの30秒間は、拠点の構想をして過ごした。
とりあえず屋根がある環境ぐらい作らねば。
お金さえ払えばシステムメニューから家屋を購入できるらしいが、流石にチュートリアルを終えたばかりの身で払えるような金額ではなかった。
だから最初のスポーンポイントが宿屋なのだろう。
ひとまず縦横50メートルほどまで陸を拡張しておいた。
あの巨大タコでも流石に登ってはこれまい。
続いてそのまま【地形操作】で土の壁を作っていく。
しばらくは土の家でいいだろう。
というか、他にやりようもないし。
ほんの1部屋の簡素な小屋が完成する。
もちろん扉なんて高尚なものはない。
僕は入り口から一番遠い場所に、メニューの【拠点作成】欄から【アイテムボックス】を設置した。
アイテムボックスの設置してある世界では、アイテムの所持枠が大幅に増えるらしい。
文字通り置くだけでいいのにやらない手はない。
ちなみにシステム関連はスキルとは違い、思考制御だけで操作が可能だ。
僕は土を盛り上げソファーを作り、座り心地を確かめるように腰掛けた。
なんとなく部屋の中を見回す。
窓と入り口から青空が見えた。
これが僕の最初の家か。
しばらく【最初の宿屋】の方に泊まっていたのはノーカウントで。
あれに比べれば現代人と原始人ぐらいの差があるが……宿屋と違って維持にお金がかからないのは、数少ない利点かもしれない。
(――さて、やるか)
僕は膝を叩いて立ち上がった。
お待ちかねの検証タイムだ。
チュートリアルで学んだことはいくつかあるが、やはりゲームである以上、重要なのは戦闘だ。
(――【魔法】)
魔法使いは伸ばす能力をよく考えなければならない。
僕の場合、仲間たちが脳筋しかいないおかげでサポート系ビルドになるのが確定しているので、その点に関しては楽ではある。
――光魔法。
それが僕が必ず伸ばすことになる魔法の属性だ。
迷った時にはとりあえずそれを選んでおけば無駄にはならない。
「――【フォトン】」
魔法もスキルと同じく、『思考制御』と『魔法名の詠唱』によって発動する。
詠唱しても思考で否定すれば発動をキャンセルできたりする訳だ。
頭の中で指定した場所に、光を伴う小爆発が起こる。
これが光の初期魔法、【フォトン】だ。
回復魔法や強化魔法が目当てで選んだ光属性だが、攻撃魔法については命中率が売りであるらしい。
この【フォトン】という魔法単体で見ても、指定した座標に突然ダメージ判定が現れるというものだ。
まあ読んで回避、というのは出来ないだろう。
代わりに動き回っているだけで当たらないのだが。
その辺は初期魔法なので仕方ないだろう。
「【フォトン】、【フォトン】」
僕は【フォトン】を数発続けて発動させた。
(魔法にはクールタイムが無い――)
魔法は発動にMPを消耗するが、代わりにクールタイムが存在しないらしい。
スキルと違って連射することが可能なのだ。
スキルはMP消費が無い代わりにクールタイムが存在する。
魔法はクールタイムが無い代わりにMPを消費する。
しかしそれは逆に言えば、MPさえ払えば――。
「…………」
そして魔法には、スキルには無い利点がもう1つある。
(――【フォトン】)
口に出していないのに、魔法がたしかに発動する。
――無詠唱化。
これだ。
5倍ものMPを消費するが、思考制御のみで即座の発動が可能になる。
これは戦士職にとっての魔法である【戦技】には無いシステムらしい。
魔法使いは制限が緩い――。
ただし、やはり消費量5倍というのは尋常ではない。
【フォトン】ですら、無詠唱化すると今のMPでも3回しか撃てない。
やはりメインの戦法にするには辛く、Wiki情報によれば覚えておくとたまに役に立つ、という程度のシステムであるらしい。
「今のMPでも」と言ったのは、僕がチュートリアルによって現在レベル5になっているからだ。
魔法の習得はレベルアップにつき1つずつ。
僕は現在5つの魔法を習得しているが、その内攻撃魔法はこの【フォトン】だけだ。
他は全て回復魔法や強化魔法、そして防御魔法になっている。
ちなみにレベルアップによるステータスの成長ボーナスは、Wikiのテンプレ通り魔法攻撃力に全振りしている。
スキルポイントの方は今度こそ温存だ。
ジョブが魔法使いの上に物理系ステータスを伸ばしていないので、肉体能力は貧弱なままかと思ったが――これがそうでもなかった。
レベル5でも相当な上昇具合で、片手で腕立て伏せが軽々とできるわ、ジャンプの距離がメートル単位になるわ……。
今の僕が現実に行けば、格闘家を身体能力だけで殴り殺すことも可能だろう。
既に人間というより猛獣みたいな状態だ。
物理系がこれなら、ボーナスを受ける魔法系はこの先どうなってしまうやら。
このゲームの主人公たちは、思ったより化け物になっていくのかもしれない。
(レベル1の時に比べると、【フォトン】の爆発も少し大きくなってきたな)
魔法や戦技の効果範囲は攻撃力の上昇と共に微増していくらしい。
攻撃力全振りが推奨されているのも納得のシステムだ。利点しかない。
「【フォト――】」
そうこう試している内にMPが切れた。
ポーションを使わない場合は自然回復を待つことになる。
この間は暇だ。
(でもやっぱり、MPは要るよなぁ……)
魔法使いにとって、MPとは寿命に等しい。
だが現行のテンプレビルドは攻撃力に特化しすぎて、継戦能力――つまり、持久力の面が頼りない。
まあほとんどのプレイヤーがスピード感のある爽快な戦闘を望んでいるのだから、仕方がない。
だが僕みたいな少数派、特にサポート役は存在する限り味方が強化される。
いかに長時間生き残るかも重要なのだ。
(――MPを使わない攻撃手段が欲しいよな)
例えば、物を投げつける投擲攻撃などだ。
MPを消費しないことだけ考えれば通常攻撃でもいいのだが、投擲攻撃ならば魔法使いの得意距離である遠距離を維持したまま攻撃できるという利点がある。
(筋力も上がってるんだ。試しに何か投げてみるか)
さて、投げる物は……と思ったが、ここには土しかない。
仕方ないので少量の海水と混ぜて硬めの泥団子を作る。
あのタコのせいで波打ち際に近寄るのがちょっと怖い。
(さて、しかし恐らくは――)
僕は海に向け――ると音でモンスターが寄って来そうで怖いので、島の中央に向かって泥団子を投げた。
「――ッ! やっぱ無理か!」
泥団子は明後日の方向に飛んでいってしまった。
――そう。僕はノーコンなのだ。
典型的なオタクでスポーツなんてまともにしたことないから仕方ない。
ここで普通なら諦めるところだが、僕には1つ、気になっていることがあった。
それはとある初期スキルについてである。
●【投擲Ⅰ】……1ポイント
遠距離から投擲で攻撃する。攻撃力はスキルレベル、物理攻撃力、使用アイテムに依存する。
これだ。
まさに【投擲】という名の攻撃スキル。
先程も言った通り、スキルはMPを消費しないので条件には依然として入ってくる。
それに『スキル枠』で攻撃できるというのも良い。
魔法の無詠唱化と組み合わせれば、同時に2つの攻撃を繰り出すことが可能になるからだ。
スキルを発動させながら無詠唱で魔法を放てばいい。
――ただし、今回僕が目をつけたのは、そこではない。
「うーん……」
現在温存しているスキルポイントは、4ポイント。
どうせ捨てキャラだし、1ポイントぐらい払ってもいいか。
僕は思い切って、その【投擲】スキルを習得してみた。
(さて、僕の考えが正しければ――)
僕はスキルを発動させながら、先ほどと同じようにして泥団子を投げた。
――しかし、今度の泥団子はイメージした放物線を寸分違わずなぞり、完璧に狙った場所へと飛んでいった。
(やっぱりか!)
システムによって、投擲物が軌道修正されている。
これ自体はここまでの『システムの傾向』を考えれば簡単に分かることだ。
【地形操作】は齟齬を誤魔化し、【フルスイング】は体を勝手に動かした。
スキルを発動させると、それが額面通りの効果を生むよう、システムから補助が入るのだ。
【投擲】の場合は『誰が投げても最低限攻撃手段の体を成す』といったところだろう。
だが、今回の検証で一番大切なのは、そこではない――。
(――レベル1しか習得してなくても、副次効果は手に入る!)
【投擲】の説明文から考えるに、スキルレベルの上昇により変化するのは攻撃力――つまりは効果の大きさだけである。
要するに、『物を真っ直ぐ投げられる』という副次効果だけ欲しいなら、レベル1だけ習得しておけば事足りるのだ。
これは他のスキルでも共通の仕様だろう。
覚えておけば、大幅なポイントの節約になる。
(攻撃力の高いものを投げれば、威力は上がるみたいだしな……。ドロップで剣士用の武器が出たら売らずに取っておくか)
何はともあれ、これでまともにダメージを与えられる攻撃スキルが手に入った。
僕は残ったスキルポイントに目をやる。
スキルは優先度の高いものから習得するべきだと思った。
では今の僕に必要なスキルとは、なんだ?
僕は周囲をゆっくりと見回した。
(生活をなんとかしたい……)
切実だった。
とにかく人間の住む環境じゃねえんだ。
僕は夢遊病患者のように定まらない視線で生活スキルを探した。
なんでもいい、なんでもいいから、この土と海しかない世界に変化をくれ!
●【アイテム作成Ⅰ】……2ポイント
素材アイテムを消費して各種アイテムを作成する。作成可能なアイテムの種類はスキルレベルに依存する。
●【料理Ⅰ】……ポイント1
素材アイテムを消費して料理アイテムを作成する。作成可能な料理の種類はスキルレベルに依存する。
「ん――」
生産系……生産系か。
最初は非効率だと思っていたが、攻撃スキル自体が思ったより出てこないんだよな。
それにこうなってしまった以上、近くにショップが無いので自分でアイテムを作れるのは利点になるかもしれない。
まあ自分への言い訳の可能性もあるが、生産系スキルの中では王道な2つなので、完全に無駄になる可能性も少ない。
僕はこの2つのスキルを生産系スキルの検証という名目で習得し、それぞれ何が出来るのかを確かめてみることにした。
スキルポイントをちょうど使い切る。
【アイテム作成】が2ポイントで【料理】が1ポイントなのは、【料理】が【アイテム作成】の派生スキルだからかもしれない。
両者を発動させ、出現した2つのウィンドウを見比べる。
どちらもレベル1でありながら相当な数のアイテム名が載っており、全て確認しようとしたらスクロールが数回必要なぐらいだった。
おや、思ったよりお得だぞ、生産系。
(あ、ポーションが作れる)
【アイテム作成】の方はリストの一番上がポーション類になっていた。
調合のようなシステムも担っているということだろう。
【料理】の方は水だ。
こちらは水系アイテムをろ過して飲料水に変えるらしい。
「ふむ――」
なるほど、そりゃMP回復ポーションを大量にストックしておくのは解決法の1つではあるな。原始的だが。
まあせっかくみんなより先に始めたのだし、余分に作ってあいつらに配ってやるのもいいかもしれない。
ああ、そうだ。そうしよう。
――僕は人よりも優れていなければならない。
だからそれぐらいのことはしておかなくては。
それに、あいつらは僕に頼めばタダで物が手に入ると知ることになる。
そうなれば――。
「――うん」
そうと決まれば、まずは買い物だ。
生産素材の量産体勢を整える――つまり、畑作りを始める必要がある。
やはり目的が出来るというのはいいことだ。
僕は【最初の宿屋】周辺のショップへ向かうため、一旦スタート画面へと戻った。
---
ショップを巡ってポーション素材である薬草の種と、【料理】用に野菜の種もいくつか見繕ってきた。
それとポーション用の小瓶などの安い素材もいくらか。
小瓶のような容器系アイテムは何度でも使い回せると聞いてちょっと安心した僕がいる。
(畑ってとりあえず畝作るイメージ)
適当に区画を決め、【地形操作】で一気に耕し畝を作る。
案外便利だね、君は。
(そういえば【地形操作】って他に何が出来るんだ?)
出会い方が特殊すぎたせいか、その時の印象で土ばかり弄ってしまった。
よくよく考えてみれば、海が大地になるぐらいなのだから、もうちょっと凄いスキルなのではないか?
(そういえば小瓶の素材の1つは【砂】だったか……)
試しに土の一部を砂浜に変更するよう念じてみる。
「……なるじゃん」
黒褐色の土の塊だったというのに、そこから湧き出るようにして白い砂が広がっていった。
(え……じゃあ、泥沼は? これは? これは?――)
岩石地帯。
池。
煮えたぎる溶岩。
そして、崩壊。
全てイメージ通りの地形に……いや、『マップ』に変化してくれる。
――あれ? これめちゃくちゃ便利じゃね?
もしかして、【地形操作】って『何でも』できるのか?
(やべえ、神スキルだこれ)
僕は【砂】をアイテムボックスに回収しながら、思わぬ幸運に逆に戸惑っていた。
ガラス系アイテムを作るにはあと2つ、【石灰石】と【灰】が必要なのだが、どちらも岩石地帯や畑から手に入る。
(あれ、海の上でも案外生活できるぞ)
これが生活系スキルの力か。
このゲームがリアルだからこそ輝くスキル系統なのではないだろうか。
(こりゃ楽しみになってきたぞ)
僕はアイテムボックスから、買ってきた薬草の種を2つ取り出す。
1つはHPを回復させる【薬草】の種、もう1つはMPを回復させる【マナ草】の種だ。
素材アイテムではあるが、そのまま使用しても最低位の回復アイテムとして効果を発揮するらしい。
さて、どれぐらい植えるかだが……。
(とりあえず全部蒔くか)
何しろ土地は無限に増やせる。
僕はそれぞれの種を1袋全て使い切るまで蒔いて回った。
野菜の種まで、とにかく全部だ。
土地が足りなくなったら【地形操作】で更に陸地を拡張していく。
これをせっせと繰り返す。
気がついたら島の大きさが結構なものになっている。
ちなみに種蒔きについては手作業だ。
指で穴を開け、適当に種を植えていく。それを延々と繰り返し続ける。
(想像以上に手間だな)
スキルか何かで短縮できるものがあったら習得してもいいかもしれない。
人類が作物を土ではなく、成分調整が容易なゲルマットで育てるようになってから久しい。
土で植物を育てるなど、小学生の時に授業でミニトマトを育てた時以来だ。
【料理】スキルで海水を水に変換し、食事用に買ったコップで撒いていく。
なんだかんだ言って生活スキルを使いこなしているような……。
水をやったら再びスタート画面へ。
そしてゲーム内時間を数日後に指定して再接続すれば、成長過程の待機時間をスキップできる。
このゲーム内時間の指定は低次世界体験型ゲームの特徴だ。
もちろん悪用しようとしたが、過去には戻れないようになっていた。チッ。
「おお~!」
畑からたくさんの芽が出ていた。
緑色の若々しい芽が暗い色の土から伸びる様は、ある種の美しさを宿して見えた。
――凄いなぁ。生きているんだなぁ。
僕は近くの芽に指で触れた。
これはトウモロコシの芽の筈だ。
命は大切なのだという。
大人たちは命の尊さを語る。
それは要するに、『愛』だ。
生きるものは友達だから、愛を持って接するべきだと。あれはそういう話なのだ。
だが実際には大人たちもこう思っている。
植物よりも動物が大切。
動物よりも人間が大切。
そして今日も命を食べて生き永らえる。
――それは、『差別』だ。
大人たちが悪だと教えている、愛とは正反対のものだ。
人は物事を深く考えないで生きている。
この畑だってそう。
あの授業で畑には畝を作るものだと教わったが、ではなぜ畝が必要なのかについては教わった記憶がない。
それは教えた方も、理解していないからだ。
愛と差別の違いなんて、本当は誰も分かっていないままで、なんとなく生きているのではないか。
ならば、本当の『正しさ』とはなんだろう。
大人が間違っているのなら、真実はどこにあるのだろう。
「――命って、なんだ?」
僕たちは命の価値も知らぬままに、命の必要性を説いている。
この指先一つで摘める命に……僕との違いが、どこにある。
---
それから3週間ほどスキップと水やりを繰り返したところで、薬草が採取可能になった。
(凄い量になってしまった)
ハーブ系植物の増殖速度を舐めていた。
畑が全て緑と青の葉で覆われてしまっているが、この洋上の大地に雑草が生えるとは思えないので、全てが薬草なのだろう。
僕は一面に広がる薬草畑を前に、とりあえず1枚千切ってみる。
そして食べる。
「案外不味くない」
というか美味い。草のくせに。
どういう訳かえぐみに類するものが全く感じられない。
僕はムシャムシャ食べつつもう1つの方、マナ草とやらにも手を伸ばす。
こちらはファンタジーらしい青色の植物だった。
それも着色料のような派手な青色である。
アメリカのお菓子にはMP回復効果があったのか。
「シソと同じ味がする」
よし、これはWikiに書いといてやろう。感謝しろ。
(今ので回復してるのかな?)
僕は地面に片手を突くと【地形操作】で石を作り出し、それを躊躇なく振り下ろした。
(あれ)
ダメージが入らない。
自分の攻撃でダメージを受けないよう、セーフティがかけられているのか。
仕方ない、と僕は海に飛び込んだ。
プレイ初日にあった、窒息によるスリップダメージを利用する。
秒数を数えながら待っていると、30秒ぐらいからダメージが入り始めた。
どうやら割合ではなく10ずつの固定ダメージが入るらしい。
残りHPが10になったところで水から上がった。
そして薬草を1枚食べてみる。
(少なっ!)
薬草の回復量はたったの20。スリップダメージ2秒分だ。
ちゃんとポーションに加工した方が効率が良い。
薬草を引っこ抜いてはアイテムボックスに放り込む。
1回の収穫で凄い成果だ。
量産作戦は正解だったんじゃないだろうか。
正直クエストをこなすより、これで作ったポーションを全部売る方が遥かに金策になる。
野菜の方は気候が合うのか、例のトウモロコシが良く伸びている。
(早く実の成るところが見てみたいな)
僕は定期的に水やりだけしながら、何度も何度も時間のスキップを繰り返す。
そして、その光景に辿りついた。
風に揺れる、背丈ほどあるトウモロコシ畑。
太く成長した緑の幹は折れることなく、葉の擦れ合う音がさわさわと静かに流れている。
――生きてる。
生きている。
なぜか、不思議と涙が出た。
自然豊かな観光地で、景色を眺めたような気分――いや。これはきっと、それとは根本が違う。
たしかに植物といえば自然ではあるが、これはあくまで人が作った畑なのだ。
ただ雑然とした訳でもなく、ほどよく効率化が施されている。
言ってしまえば人工物だ。
だが、あるべき姿からほど遠いとまでは言えない。
それは――それは、ある種の「共生」だった。
人類がまだ、自然の一部であった時代。
失われた何かが、そこにあった気がした。
だからだろう。
本能が訴える気がした。
美しい、と。
葉に包まれたその実を手に取る。
重なった緑の隙間から、黄色い果実が覗いていた。
未来に繋ぐための、種子を。
今手の内にあるこの一粒は、どれほど太古から続いた種のものなのか。
今ここにいる僕は、どれだけの人々の繋がりから続く子なのか。
彼らは生きる。
僕たちも生きる。
――僕たちは、同じ土の上に生きていたのだ。
ずっと、前から。
◆
惑星ユグドラシル、首都【ユグドニア】。
雑多に賑わうとあるNPC経営の酒場にて、若い2人の男が酒を酌み交わし、料理に舌鼓を打っていた。
実際のところ現実と同じように食事が可能なこのゲームでは、食堂や酒場をステータス上昇効果ではなく純粋な食事目的で利用するプレイヤーは少なくない。
10人ほどのNPCが管理しているこの酒場も、取り揃えている料理アイテムのラインナップが良いとされ、プレイヤーたちの間で人気な店舗の1つだ。
「そういや、知ってるか?」
「んー?」
スキンヘッドに入れ墨を入れた厳ついアバターの男が、向かいに座っている眼鏡をかけた男に言う。
入れ墨の男は自然な動作で机に身を乗り出すと、若干声をひそめた。
「最近な、北の海に、突然島が現れたらしいぞ」
「…………島?」
眼鏡の男は最近お気に入りの分厚いステーキを切り分けながら、その細い目を怪訝そうに開いた。
海に島が現れるとはなんのことだ。
新しいイベントか何かの情報だろうか。
「なんでも、プレイヤーが【地形操作】で海に拠点作ってんだとさ」
「へえ――」
その瞬間、眼鏡の男は微かに笑い、入れ墨の男と同じく声のボリュームを一段落とした。
男がこの話を始めた意味が理解できたからだ。
導入が少々突飛だったものの、彼らにとってはいつものやり取りの1つでしかない。
肉を飲み込み、眼鏡の男は一口だけワインを楽しむ。
「どれぐらい噂になってる?」
「まだ全然、だな。クラーケンでも探してなきゃあんなとこまで行かねーからな。実際最初に見つけた奴も空飛んでて偶然見つけたらしい」
「そうか。なら早い方がいいな――」
新しくナイフを入れた眼鏡の男は、小刻みに皿を揺らしながら言う。
「とりあえず偵察に行こう。勝てそうなら、もちろん――」
「――狩るか」
細いナイフが、ギコギコと肉を切り裂いた。
4章おまけ編に続く。
次はニーナ視点でちょっと重要な話です。
今回は伏線たくさんあるけどストーリー的にはそんなに重要ではない。畑耕しただけだし。