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59 物語の終焉。そして、始まり

2017.11.11 遅れてすいません。






「よう。来たぞー」


 ベンチでくつろぐ俺の前に、黒い影が降り立った。

 かけられた声に視線を上げる。そこに立っているのは現実での幼馴染にしてこのゲームでのクラン仲間。一撃火力に優れる暗殺者をジョブに、アタッカーとして活躍する男――クラツキだ。

 ――祝宴の翌日。場所は集落、中央広場。

 俺はクラツキとの待ち合わせのため、一度転移でこの拠点に帰ってきていた。

 視界内の時計表示を見れば、俺が指定したゲーム内時間ぴったり。

 これはクラツキが時間に厳しいという訳ではなく、俺に指定されたゲーム内時間を入力してから世界に接続した結果だろう。現実世界でログインに数日の差があろうとも、指定した世界座標とそのゲーム内時間さえ同じならば同時に遊ぶ事が出来る。現実での時間差の影響を受けずに済む低次世界体験型(この)ゲームの仕様である。

 ちなみにやり直しができないよう、同一世界内で自分が一度体験、または観測してしまったゲーム内時間より過去へと接続する事はできない。プレイヤー間で皮肉を込めて【オートセーブ】と呼ばれているバランス調整的制限だ。


「やっぱ来たか」


「本物の城が見れるんだろ? そりゃ行くよ」


「だよなぁ」


 観光気分だが、それでいい。今回のクラツキはいるだけで「効果」がある。

 気の知れた友人特有の口数の少なさで、俺たち2人は転移によりさっさと王宮へ移動した。

 もちろん、クラツキを観光させてやるため、俺に用意されている部屋ではなく正門へと。


「おー。これが」


「一応この世界で2番目に大きい国の城らしい」


「へえ」


 感嘆の声を漏らしながら、クラツキは王宮の外観を眺める。

 9年間延々と畑を耕し続けていた俺ほどではないが、対人戦専門プレイヤーであるクラツキもこういった現地世界の文化に触れる機会は少ないのだろう。


「あーなんか若干劣化とかあるのが絶妙にリアルな感じするわ」


「【最初の世界】はもちろん、俺の宮殿もスキルで保護してあるからなー。クラン拠点に至ってはただの洞穴だし」


 このゲームのメイン世界である【最初の世界】では、存在する建築物が劣化もしなければ破壊も不可能に設定されていた。あの汚れ一つ無い街並みには、どこかゲームらしい作り物感があるのだ。

 その点この世界のこの王宮は、実際規模も大きく状態も完璧な水準で保たれているが、それはあくまでNPC(しょくにん)たちの物理的努力の結果であり、システムによるものではない。

 城壁を構成するレンガには僅かとはいえ歪みが存在し。

 塗装された場所には塗装された形跡が、作り直された場所には作り直された形跡が、微かに存在しているのだ。


「まあ俺が昨日【修繕】で直したから実は新品状態だけどね」


「うそーん」


 雑談しつつ正門へ歩き出すと、クラツキも追従した。

 クラツキに城の中を適当に見せてやりつつ、今日の戦いの場へと向かう予定であった。







 王宮では復興を進めるための手続きと、魔王討伐の戦勝イベントの準備により人々が忙しなく行き来していた。

 しかしそんな中、最高責任者である国王とその補佐たる宰相は、執務室ではなく応接間の1つへとやって来ていた。

 それは本来の予定から1日遅れでやって来た、一大イベントがそこで行われるからだった。


 ――そう。

 ついに今回の一件に関する、ハネット本人との報酬協議が開かれる日が来たのだ。


 中止された前日の会談と同じく、国王と宰相の側には騎士長と戦士長が――そして、更に追加としてこの国の最強戦力たるユンが、もしもの場合の護衛として控えている。

 この場に同席するに当たり、ユンには朝の内にこれまでの事情が説明されている。

 当然だが、王都が襲撃を受けていた事と、それをハネットが解決した事実には随分と驚いていた。ハネットはこの国において想像以上の立場にある人物であり、同時にユンたち討伐隊の面々からしても恩人中の恩人であったのだ。それに間違って刃を向けてしまった事の重大さに改めて顔を青ざめさせていたぐらいだ。

 完全武装した状態で国王の隣に立つユンは、ここぞとばかりに不安げな表情を見せ尋ねる。


「あの……これ、僕が呼ばれたのってやっぱり……」


「交渉が何らかの理由で決裂した時、向こうが強硬手段に出てきた際の保険だな」


「……決裂するんですか?」


 ユンは分かりやすく嫌そうな顔で国王を見る。その目には「本気で言っているのか」という責めるような色が滲んでいた。

 その視線に国王は深いため息をつくと、首を振ってみせる。


「あくまで保険だ。はっきり言うのも情けないが、可能性は低い。あの青年と事を構えればその時点で終わりだからな」


 国王は手を組み、静かに続ける。


「もちろん、一番『怖い』のはその力の大きさだ。あの青年がもしも力を持たぬただの若者であったのなら、そもそもこうして我々が頭を悩ます必要も無かったのだからな。――しかし現状、今一番『問題』となっているのはその逆。その力を持つ人物が、あの青年だったという所にこそあるのだ」


 首を傾げるユンに、国王は説明してやる。


「――あの青年はな、力を使う事への躊躇が無さ過ぎるのだ。例えば私は権力という力を持つが、戦争の決断に迫られた時にはきっと躊躇するだろう。お前たち3人もそうだろうが、普通大きな力を持つ者というのは、心のどこかで必ず自身に制限をかけているものなのだ」


 国王はユンたちに親近感のような色を込めて視線を送る。

 武力と権力という違いはあれど、どちらもそれぞれの頂点という立場にある。


「お前たちには武力という力があるが、邪魔な扉を壊して進むか? 普通は開けて通るだろう。それは日常を維持するためには当然の事だ。力を振るえば何かが壊れ、何かを壊せば不都合が生まれる。その結果を理解しているからだ。――しかし、恐らくあの青年は違う。きっと邪魔なものがあれば容赦なく破壊するだろう。他に穏便な手段があろうとも、そちらの方が早いからなどといった最低限の理由さえそこにあればな。そして、それだけならば力に溺れた愚者で済むのだが――あの青年の最も異質な部分は、結果が想像できないような馬鹿ではないという所だ」


「力を振りかざす事に躊躇が無く、それで起こる不利益まで無視出来るような人物が、国すら滅ぼすような強大な力を持っているという事ですな」


 宰相のまとめに国王は頷いた。

 

「はっきり言って、まあ、悪夢だ。生かすも殺すも向こうの自由。あの青年からすれば我々は家畜にも等しいだろう。とてもではないが対等な交渉などできない。我々に出来るのは、せいぜい殺すには惜しい家畜である事を示し続ける事のみなのだ。……だから、こちらから仕掛ける可能性については皆無だ。しかし向こうは違う。何らかの理由や気まぐれで攻撃を仕掛けてこないとも限らんだろう」 


「……そ、そうですか」


 なぜかどこか釈然としない様子でユンはそっぽを向く。そこには「理解できたし同意もするが、納得はしていない」という雰囲気が微かにあった。

 憧れの人物を悪く言われたかのような、そんな不機嫌さが垣間見えたのである。

 要するに、拗ねていた。


(なんだ? 勇者はあの青年に割と好印象を抱いていたのか? ――おい、まさかあの男。この国の最重要戦力たる勇者を、自分の物にしようなどと考えているのではあるまいな……)


 ニーナをはじめ、ハネットの側には強者が集まり過ぎている。それも、女性の。

 男としての欲望を満たしつつ、より盤石な地位も手に入れようとでもしているのでは。

 それにしても手を出すのが早すぎる。昨日の今日で、どこに良好な関係を築く時間があったのだろう。


(祝宴で口説かれでもしたか? それにしたって勇者の方がその気になるのは珍しいが……)


 そういえば、娘のエミリアもハネットとの婚姻なら嫌ではないと言っていた。あの男はそういった手練手管に長けているという事だろうか。

 「英雄だものな」と国王はハネットが好色家である可能性を高く見積もった。

 しかし、ハネットの方からそういった手は使うなと釘を刺されている事実もある。謎だ。

 

(まあ勇者も女という事なのかもしれないな。力と金のある者に惹かれるのは人の(さが)か)


「……あの。なんか変な事考えてません?」


 ユンが国王を疑わし気に見ながら言った。


「む? それは考えるだろう。今から始まるのはこの国の命運を賭けた協議なのだからな。考える事だらけだ」


 国王は涼しい顔ですっとぼける。聖剣の読心能力は恐ろしいが、漠然とどのジャンルの感情かを見分ける程度の物であるらしい。その詳しい内容まで読み取れる訳ではないのならば、誤魔化すこと事態はそれほど難しくはない。


「うーん。そ――」


 ユンが追求に口を開くのと同時、扉がノックされる。控えていた執事が来訪者を確認しに向かった。

 恐らくハネットが来たのだろう。全員おしゃべりの口を閉じ、居住まいを正した。


「ご用件は」


「ハネット様とそのお連れの方々をご案内致しました。しかし……」


 半開きの扉から、執事と案内した者の会話が漏れる。どういう訳かその声はこの王宮の警備責任者、衛兵長サンヌの物であるようだ。

 衛兵長の含みある言葉に執事が扉の先に視線を向け――そして、固まった。


「あ、あの、そちらの方は……」


 2秒ほど停止していた執事が、呻くように外の誰かに向かって尋ねる。


「ん? まあ……俺の護衛、かな」


「護衛……の方、ですか……」


 返したのはハネットの声だ。

 どうやら衛兵長と執事の2人は、ハネットが連れて来たであろう「もう1人」とやらを警戒している様子だ。

 2人のその反応に、ハネットは嫌味ったらしく声を上げる。


「――はて、おかしいな。国王には連れてくると言ってある筈なんだがな?」


 確かに聞いている。誰かを連れてくるという事実だけは。

 一体どんな者を連れてきたというのか。会話だけ聞こえて姿が見えないせいで余計に不安を煽られる。


「し、しかし……」


「――よい、通してくれ」


 国王が少し大きめに声を上げると、執事が半開きの扉からこちらに顔を向ける。


「陛下、()()()された方がいらっしゃいます。……本当に、よろしいのですか?」


「……ああ。こちらも護衛を同席させているのだ。条件は同じだろう」


 ――自分たち側はそう答えざるを得ない。

 ハネットに対抗するには武力が必要であり、そして武力を用意すればハネットにも口実を与える。

 つまるところ、問題は何も変わっていない。――詰んでいるのだ。最初から。


「……かしこまりました」


 主の決断に、執事は素早く切り替える。客人たちを招き入れるように恭しく扉を開いた。

 まず最初に入室したのはハネット――ではなく、その弟子。土の賢者こと、ニーナ・クラリカ。昨日と同じく、何かあった時の意見役として同席するつもりなのだろう。

 ならば次はエルフの少女たち――と思いきや、今度こそハネットが現れる。

 天上の美を思わせる純白の布地に、それを贅沢に金と宝石で飾った神話級の装備の数々。それは普段のローブ姿ではなく、完全武装状態であった。

 この数日でやや見慣れてきた姿でもあるが、この協議にその格好で来たのは何の意図あっての事か。

 公式の場に対する正装の意味からか、それとも――


「なっ――」


 続き室内に入ってきたその異様に、その場の誰もが息を飲む。

 それは、ハネットが連れてきたという「護衛」。

 つや消し加工を施された、光を吸収するような見事な漆黒を有する部分鎧。その所々からは紅の魔力が揺らめくように溢れ出しており、威圧感は途方もないのに幽鬼か何かのように気配というものが感じられない。こちらの特徴はハネットと同一である。


(――なぜこんな化け物がもう1人出てくるんだッ!?)


 明らかに超級の戦闘力を持つ人物である。まるで部屋に将の魔族でも入ってきたかのような圧迫感だ。下手をすればハネットと同クラスの実力者である可能性まであるだろう。

 この人物が相手では護衛の数が多いに越した事は無いと判断したのか、案内してきた衛兵長も許可を求めて入室する。

 ハネット側については今回はその3人だけであるらしく、執事が扉を閉めるのと同時に国王は労いの言葉も忘れて口を開く。


「は、ハネット殿。そちらの者、いや、方は……?」


「なに、俺の護衛として連れてきた……うん、ただの戦士だ。気にするな」


「いや俺は『戦士』じゃなく、『暗殺――」


「――クラツキ君。君は『ただの戦士』だ。いいね?」


「あ、ハイ」


(いや、今暗殺って……)


 この場で国王の殺害でもしようというのか。これは本当に護衛の出番が来るかもしれない。

 だが大人しく席に向かっている所を見るに、少なくとも今すぐに何かしてくる気は無さそうだ。そう判断した国王は急ぎ情報収集に走る。


「く、クラツキ殿というのか。私はこの国の現国王、キール・クロロ・ノア・ライオノスという」


「ああ、どうも。クラツキです」


 クラツキは組んでいた腕を下ろし、軽く頭を下げた。

 国王に対する礼儀としては大きく不足した物だが、一応の敬意のような物が伺える。

 ハネットとは違い、こちらは良識ある人物のようだ。……一国家の王という地位を全く恐れていない雰囲気は共通しているが。やはりそれぐらい自分の力に自信を持っているという事だろう。


「貴殿もハネット殿と並び立つような凄腕の()()とお見受けするが、貴殿とハネット殿はどのような関係なのかな?」


「あ、こいつへの質問は今回無しで。ここからの話にも関係無いだろ?」


「……あ、ああ。それもそうだな」


 ハネットに素早く釘を刺される。期待通りに厄介な男だ。

 正直言ってハネットが側にいる時の情報収集はお手上げだ。裏で接触を図るとか、そういった搦め手を使っていかなければ通用しないのかもしれない。

 宰相がもてなしの言葉で注意を惹き付けている間に、国王の耳元で戦士長が囁く。


「陛下。かなり、かなり危険な相手です。我々では絶対に勝てません」


「やはりそうか」


 国王は戦士長より更に上の使い手であるユンにも意見を求める。


「勇者、あの人物に勝てるか」


「い、いやぁ……多分、無理だと思います……」


「そうか……」


 国王はハネットたちの座る方へと目を向ける。

 ソファーにはハネットだけが座り、その横にはニーナが、そしてその後ろにクラツキと呼ばれた「護衛」が腕を組んで立つ。

 真ん中の2人から発せられている本能的圧力が半端ではない。その内の片方、ハネットが宰相の言葉が終わると同時に早速といった様子で口を開いた。


「じゃ、どうせ昨日の続きなんだしとっとと本題に入るか。――それでは最初の約束通り、今回の助力に吊り合うだけの『対価』を要求させて貰おうと思う。そちらの誠意と努力がこちらの意に沿う物である事を願う」


「……もしも意に沿わなかった場合は?」


「俺とクラツキ君がこの国で暴れます」


「ヤクザかよ」


 清々しいほどに脅しだった。

 「ここで」ではなく「この国で」と表現する辺り徹底している。


(武装状態なのも、1人増えているのも、その意思表示という訳か――)


 1人でも過剰戦力の癖に、それに上乗せまでしてくるとは。用心深いとか完璧主義と言うより、ただただ性格が悪い。

 一体、そこまでして払わせたい対価とはどれだけの物なのか。


「う、うむ。貴殿には多大な恩があるからな。最大限の努力をしてみせるとも。……ああ、そういえば、これは今回の報酬とは関係無いのだが――貴殿が滞在しているという集落一帯を、正式に貴殿の領地だと認めようと思うのだがどうだろう? 爵位を得て、集落とその周辺を正式に管理してみないか?」


 国王は話が始まる前に、せめてハネットを首輪付きにしておこうと手を打つ。骨までしゃぶられた挙句他国に逃げられるよりは、大飯食らいでも番犬としてずっと居てくれる方が良い。

 ハネットの集落が存在しているのは王国南部。奇しくも帝国領との境い目に近いのだ。ここに領主という名の責任を持たせ配置しておけば、あわよくば帝国の侵攻をその強大な武力で止めてくれるかもしれない。

 ついでに交易権なども無条件で獲得できるという寸法だ。この青年の治める土地だ。どれほど高度な技術に溢れているかは想像もつかない。

 この青年の場合「面倒くさい」などと言って拒否する可能性もあるが、その時は頷くまで条件を緩くしてやればいいだろう。

 最悪その集落だけでもハネットの領地だと定められれば、楔として最低限の効果を持つのだ。


「――あ、それはやだ。趣味ならいいけど仕事にはしたくない」


「……………そうか」


 用意していた様々な手を、一言で断ち切る言葉選びだった。ついでにこれを断るという事は、欲しい物は無理やり奪うと宣言しているようなものでもある。

 心を読める勇者よりよっぽど手強い。もしかしたらこの男もそういう魔法を使っているのではと思い至るが、魔法反応があればユンが何か言う筈である。やはりこちらの思惑を全て読んでいるか、生きているだけで人に迷惑をかけるように出来ている人間なのだろう。


「さーて、それじゃあ楽しい楽しい交渉の時間(タイム)と行こうじゃないか」


 絶対に楽しくない。絶対に碌でもない要求をしてくるぞと国王たちは覚悟を決めた。


「まずはお前たちが対価を払うべき、今回の俺の働きを整理しよう。――最初に行ったのは、魔族に襲撃された王都への救援出動。これは襲撃した魔族を全滅させる事で完遂した。そうだな?」


「あ、ああ」


「次に犠牲者の蘇生と破壊された街並みの修復だ。これにより、お前たちが受ける筈だった損害の多くが回避されたと見ている。敵の殲滅と被害への援助。これは一般的な友軍の行いとして見ても完璧な物だと自負している」


「う、うむ……」


「極めつけは対魔族連合軍への助勢だ。その場に集結していた魔族の全てを討ち果たし、魔王を討伐すると共に勇者たちを救った」


「そこなのだが、1つ確認しておきたいのだ。魔王が相応の強さを持っていたであろう事はこちらも理解している。だがそれは、本当に勝利が不可能なほどのものだったのか? 連合軍が総力をもってかかれば打倒し得た可能性は?」


「俺は無いと断言するけどね。でもまあ確かに、これについては証明のしようが無いのも事実だ。――そっちのお前たちはどう思う?」


 ハネットは意外にも強く主張すること無く、代わりに王宮側の護衛たち3人に話を振った。国王が発言を許可すると、最初に戦士長が口を開く。


「難しい話は分かりませんが、この魔法鉄(アダマンタイト)の剣や聖剣を皮膚で弾くような化け物相手に勝てたとは、個人的には思えませんな。あの『雷鳴』がいたとしても無理かもしれません」


「逆に勇者様にも破壊できなかった魔王城の壁を破壊した形跡があったと言います。その防御力にその膂力もあるとしたら、まず勝てる相手ではなかったかと」


 続けて騎士長もそう頷いた。部屋の視線は最後のユンへと集まる。


「え? う、うーん……。【閃光剣(せんこうけん)】を使えばもしかしたら……。でもみんなで戦うなら【閃光剣(せんこうけん)】は使えないし……。1人で戦ったら勝てなさそうだし……。うーん、やっぱり無理、だったかも? ……あ、あの、その。でも僕は、お師匠様が来てくれたのは何であれ良かった事だと思います……っ!」


 専門家たちは全員揃えて首を横に振っている。

 後半を早口でまくし立てるユンはともかくとして、戦士長と騎士長の2人はこの場では出来る限りこちらにとっての利になるよう発言する筈だ。それが向こうの意見を全面的に認めたという事は、恐らく反論の余地が無いほどに連合軍の勝率は低いのだろう。

 ――なるほど、上手い手だ。

 自分で主張するのではなく、こちらに結論を言わせる事で認めさせようとしている。

 

「魔王ってそんなに強かったのか?」


 そこでハネットの後ろに立つクラツキなる戦士が尋ねた。


「【レベル500の持久型レイドボス】だったぞ」


「はぁ!? マジで!? よく1人(ソロ)で勝ったな。どうやったんだよ」


魔法薬(ポーション)でゴリ押した」


「ああ……いつもの……」


「持久特化型だったからな。というかお前だったら5~6発だろ」


「まあそれもそうだな」


 どうやら魔王の強さはこの2人ですら油断は出来ないという次元だったようだ。流石にそれを聞いては国王も納得せざるを得ない。少なくともハネットが手を焼く存在というのは想像の外にある。


(魔法薬で……というのはどういう意味だ? この男は魔法薬をどうにかしてこの力を得ているのか?)


 それに話を聞いていた感じでは、どうにもハネットよりこのクラツキなる人物の方が実力が上であるような雰囲気があった。この2人の会話は注意深く聞く必要がありそうだ。

 ポーカーフェイスの裏で様々な可能性を考える国王だったが、そんな余裕を吹き飛ばすようにハネットが手をポンと打ってみせた。


「――ああ、なんなら蘇生させてやろうか。今ならクラツキいるし負ける可能性無いから()()構わんぞ」


「いやいやそれには及ばないとも。魔王の強さは十分に理解した」


 なんという事を、そしてなんという脅しを思い付くのだ。国王は即答しながら背中に冷や汗を吹き出させる。

 復活の魔法とやらに邪悪な使い方があると明確に理解した瞬間だった。


「そうか、ならいい。あとは……そうそう」


 ハネットは何かを思い出したように頷く。


「――それと、ここに勇者に攻撃された件への賠償も入れさせて貰う」


「……へっ!?」


 ハネットなら言わないでいてくれるとでも信じていたのか、ユンが驚いたように声を漏らす。

 だが当然ながら、それよりも驚いているのは国王たちだ。そんな一件があったとは寝耳に水である。


「昨日初めて会った時に戦闘になってな。俺のことを魔王と勘違いしたらしいぞ」


「ほう……」


「ひっ……!?」


 振り返った国王の眼光の鋭さと浮かんだ青筋にユンは青ざめる。こんなに怖い国王は初めてだった。「何してくれてんだ」とか「聞いてねーぞ」という心の声が聖剣を通じて聞こえてくるかのようだ。


「2回ぐらい聖剣で串刺しにされたな~」


「それは大変、大変すまない事をしてしまった。救国の英雄にその仕打ちなど、どう詫びればいいのか見当もつかない。()()()()()()ではあるが、上に立つ者として()()()失敗の責任は取らなくてはな」


 誠実な責任者らしい言葉とは裏腹に、しきりに自分の失敗ではない事を強調しながら国王は承諾した。

 協議が終わり次第、ユンが勇者になってから初めてのお叱りを受けるのは間違いない。 


「さて、それじゃあ納得も得られたようなので話をまとめよう」


 ハネットは指折り数えながら、今回王国が対価を支払うべき事柄を挙げていく。


 一、王都を襲撃した魔族部隊の完全討伐。

 二、数万人規模での蘇生。

 三、建築物などの被害の完全修復。

 四、連合軍への助勢と魔王の討伐。

 五、魔王討伐による勇者と討伐隊の救出。


「ついでに勇者との戦闘による賠償な」


 片手で数えていたために折り返しに入ったハネットは、計6本目の指である小指を立てながら言った。

 その1つ1つが前代未聞の偉業である。どう考えてもこれらの働きに対する報酬など一度に払える訳が無い。分割にして国家予算から少なくない額を削り続けても、到底自分の代では払い切れまい。

 国王は頭の中で、王国は孫の代までこの男の奴隷だろうなと考えた。


 ――それがもしも、金銭などという下らない物の要求なのであれば、だが。


 国王のその不穏な予想を肯定するように、ハネットがピンポイントでその点について言及する。


「以上の事から、金銭での支払いは不可能であると思われる。――なので、『それ以外の形』でこちらから譲歩の条件を出そう」


 ――来た。

 恐らく、それこそがハネットが求めている真の対価。

 これまでの協議は結局のところ、その滅茶苦茶な「何か」を確実に手に入れる為の口実にすぎないのだ。

 誰かの喉がごくりと鳴る。急速に緊張感に包まれる部屋の中、ハネットはゆっくりと続ける。

 

「――いくつか。今から俺が言ういくつかの要求を、直接叶える、または不可能ならば協力しろ。……それをもって、今回の一連の働きに対する対価としてやってもいい」


 不可能ならば協力という形でもいい。

 それは慈悲のようにも聞こえるが、逆に言えば国という規模で動いても叶えられないような願いをするという事だ。

 正直に言えば恐怖があるが、内容を聞かなくては始まらない。


「……ああ。――ではその要求、聞かせてみてくれ」


 神妙に頷く国王に、ハネットは邪悪な笑みを浮かべながら最初の1つを突きつけた。





「まず1つ。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それもこの先、ずっとだ」





 室内を、静寂が包む。

 ――自分の行動の全てを見逃せ。

 悪徳貴族辺りが不正を行う前の根回しにでも言いそうなセリフである。

 この要求を「国」として受け入れるという事。それはこの先ハネットが法に縛られず、ある意味国王すらをも超えた権限を持つという事である。


 法にすら縛られぬ自由。


 それはこの世界の人間からすれば、横暴な権力者の悪徳の代表であり。

 それは現代ニホン人からすれば、どんな大金を積んでも手に入れられない究極の権利である。

 その卑劣さと容赦の無さに、ユンとクラツキの2人は畏怖のような呻きを漏らす。

 国王と宰相は数秒だけ黙っていたが、やがてゆっくりと顔を見合わせると口を開いた。




「――え? あ、ああ。それでよいなら構わない。ギルスター」

「はい。関係各所へ早急に通達しましょう」




「…………あれ?」


 拍子抜けしたような国王たちの反応に、ハネットもまた拍子抜けした。

 そのあっさりとした反応は期待した物ではなかったらしい。

 こてんと首を傾げたハネットの後ろでクラツキと、そして対面のユンもその結果に同じように驚いている。どちらの事情も理解しているニーナだけが、変わらぬ様子で静かに佇んでいた。


 ……何をしても許される権利というのは、確かにとびきりの報酬ではあるだろう。

 だが国王たちからすれば、ハネットのそれは要求と言うより、もはや前提条件の類いなのだ。

 

 ――この男が法で縛れない事など、最初から分かりきっているのだから。


 力で勝てないというのは、そういう事だ。強者である事と自由である事は、すなわち同じ。ハネットがこの国で何をしようと、もとより自分たちにはそれを止める事は物理的に不可能なのだ。

 こんな回りくどい要求をせずとも、ハネットという人間は、元から何をしても許される立場にいるのである。

 むしろわざわざそれを明言し、報酬として正式に要求するという手続きを踏もうとしている辺り、もしかしたらこのハネットという青年は想像よりも根が善良なのかもしれない。


「お、おい。どんな無法を犯しても見逃せと言っているんだぞ?」


「それも仕方がないだろう。何しろ、貴殿の場合は『やった事がやった事』だからな」


 国王は若干の意趣返しを込めて頷く。どうやらこの要求にすらなっていないものが、ハネットが考えに考えて出した渾身の一撃であったらしい。

 ハネットが悪事を働いた場合、それを揉み消す事でたしかに王家への不信感は高まってしまうかもしれないが、その無法を実際に行うのはハネットであるのだから、「不満の持って行き方」という物も用意できる。


 ――腹芸には長けているが、根本的な部分が「甘い」。


 それはなんとなく、()()()()()()()()()()を感じさせる甘さだった。

 堂々と受け入れられる裏取引に驚くユンと同じく、今のハネットとクラツキの2人はただの平民にしか見えない。


「むぅ……いや、まあ要求が通るならいいのか。それじゃあ最初の対価は今後一切の行動の自由という事で」


「承諾しよう」


 王国側からしたら得る物ばかりで、実質的には失う物が何も無い結果となった。

 無論、その分ハネットが自由に動く事でこの先多くの苦労を被るのだろうが、それでも今回ハネットが生んだ利益をそれによる損害が上回る可能性は低い。

 ハネットは対価に比べて成果を積み上げ過ぎた。異邦人であるハネットは、「価値の重さ」を見誤ったのだ。


「あっそ。じゃあ2つ目」


 それこそが一番重要な要求だったのか、ハネットは軽い調子で話を進め始める。

 ――が、国王たちにとっては、その次の要求こそが鬼門であった。





「勇者を全ての責務から解放してやれ」





「―――え?」


 ――広い応接間に、ユンの漏らした声が異様に大きく響いた。

 先程とは違い、非常に難しい顔をした国王が最初に口を開く。


「……それは、どういう意味だろうか」


「倒すべき魔王は死んだ。だからその勇者に、元の生活と自由を戻してやれと言っている。そして二度と干渉するな」


 ハネットはこれ以上無いほどに分かりやすく要求を突きつける。

 しかし、それ故に国王は首を振る。


「――それは、難しい」


 ハネットが求めている「責務からの解放」とは、つまるところ王国にとっての「勇者という存在の完全放棄」である。

 だが、勇者という存在の価値は、この世界においては何よりも大きいのだ。

 最強の戦力であり、同時に正義の象徴でもある勇者は、そこに存在しているだけで様々な利益を生み出し続ける。

 行政と民衆との摩擦の低減。有利な立場で進められる外交。そして、抑止力による戦争の回避。

 伝説の勇者という「分かりやすい力」は、この世界では何よりも貴重で効果の大きい要素なのだ。それを手放すということは、攻撃と防御を両方捨てるという事。王国からすれば、それは半身を裂かれるにも等しい大損害である。 

 そしてなによりも――勇者にはこの先、その優秀な血を()()()()()()()()()貰わなくてはならない。

 その()()の為にも、干渉するなという要求を受け入れるのは難易度が高すぎた。


 国王はユンの様子をチラリと伺う。

 ユンはハネットの言った事が信じられないのか、呆然とした表情を浮かべている。口裏を合わせていた訳ではなさそうだった。


(――恩を売ろうとしているのか?)


 であれば本当に、ハネットという男はユンを――ユンの「心」を求めているのかもしれない。

 これはそのための手段であるのだろうか。


「この件については何らかの形で譲歩して貰えると助かる。先程協力という形でもいいと言っていただろう? 貴殿が何を求めて――どういった理由でその要求をしているのかを聞かせて貰えれば、なるべくそれに沿うような扱いをしよう」


 国王は利益と損失を計算し、ここまでの要求なら許せるというラインをすぐさま引く。

 ハネットが単純に恩を売ろうとしているのなら、この要求を本人の前で持ち出した時点である程度達成しているだろう。であれば内容についてはポーズ程度の物で良いはず。

 ユンが故郷に帰りたいと言うのならば、定期的な長期休暇を与えてやるのもいいだろう。

 ユンが新しい事を始めたいと言うのならば、それを支援してやるのもいいだろう。

 ユンが真に自由を欲すると言うのならば――これからは、用向きが出来た時だけ呼び寄せるという形になるのでも一向に構わない。

 国王はユンに勇者という肩書きと、あくまで王家の直属であるという立場(くさび)さえ残せれば十分に許せる取引であると考えた。


 ――だが、ハネットはそれを拒絶した。


「駄目だ。これについては妥協を許さない。問答無用で叶えて貰う」


 室内に再び緊張が満ちた。そして僅かな困惑も。

 ハネットが何を求めてこの要求を突きつけているのかが、把握できない。

 ユンが「勇者」ではなく「個人」となることで、何か利益があるのだろうか。


「……な、なぜだろう。なぜ貴殿は、そこまで勇者の処遇にこだわる」


「――あ?」


 国王が疑問を言い放った瞬間、空気が震え、窓ガラスにはピシリという音と共にヒビが入った。

 将の魔族に向けていた殺気すら生易しいような、圧倒的な迫力が国王の身を苛む。

 ――それは、ハネットが露わにした「怒気」だ。


「……その子はな、勇者になるために生まれて来た訳じゃない。あくまで()()()()()()に、勇者を()()()()()()()だけだ。それにいつまでも甘えてるんじゃねえ。――大人なら1人で立ちな」


「――――」


 ――まさか。


 国王は「その可能性」に初めて気付く。

 まさか――


(――まさか、『義憤』なのか?)


 自分の利益の為に口にした言葉ではなく、ユンという1人の少女を――「他人」を想い遣って口にしたものだとでも言うのだろうか?

 大きすぎる力を持ち、運命に囚われた少女を哀れに思う。

 そんな「当たり前」の一面が、この青年にも「当たり前」に存在しているというのだろうか。


「助けて貰っただけじゃ飽き足らず、その上利用までしたいのか。――ならばお前は『王』ではあっても『人でなし』だ。人でないものと交渉できる訳が無い」


 痛烈な批判。

 ハネットのその言葉に、後ろに立つクラツキからも不穏な雰囲気が漏れ出し始める。ユンという少女が立たされている状況をおおよそ理解したのだろう。

 不当な扱いに対する憤り。それを同じように純粋に燃え上がらせるのは、やはりその仲間だった。

 類は友を呼ぶと言う。

 ハネットという、何の情報も無い異郷の地からやってきたこの青年は。

 ――本当は、もっと「普通」の青年だったのだろうか。


 国王はその視線を、隣に立つニーナへと向ける。

 その青年を、どこか暖かく見つめる少女へと。


 ――あのニーナ・クラリカが、弟子入りを願い出た人物。


 実際に会った時、その肩書きから想像できる人物像とはあまりに乖離しているその人格に驚いた。

 想像していた人物像。

 ――それは、「善良」な人物。

 ただ力のみを求めて弟子入りしたのかと思ったが――本当は、そうではなかったのではないか。

 その可能性に、初めて気付いたのだった。


(……18か)


 国王は心の中でユンの年齢に改めて意識を向ける。

 そこに浮かんできたのは――自分の娘たちの姿だった。


「…………」


 分かっていたとも。当時16の少女に全てを背負わせた、自分たち「大人」のその罪は。

 全てはハネットの言う通りだ。


(――だが、仕方なかったのだ)



 自分もその少女と同じく――「王」という肩書きに、囚われてしまっているのだから。



 国のため、そして世界のためには、このユンという少女を見捨てるしかなかった。人の上に立つ者は、より多くの為に少数を切り捨てられる人間でなくてはならない。

 この少女が、どこかの誰かの為に、自分を切り捨てなければいけなかったように。


(ああ……ならばこれは、『口実』なのかもしれん)


 ハネットの目を見る。

 その視線はどこまでも真っ直ぐに。

 国王という1人の人間を――その選択を、見つめていた。 


 「――分かった。勇者をその任から解き、解放しよう」


 国王の出した結論に、ユンが驚いたように振り向く。国王はそれを目だけでチラリと見て言った。


「……何を驚く事がある。この青年に王国は絶対服従だと、たった今決めたばかりではないか」


「…………っ!」


 言葉を失いっぱなしのユンは、その視線を今度はハネットへと向けた。そして、呆けたように尋ねる。


「な、なんで……」


 今のやり取りの間、ずっとそれを考えていたのだろう。

 ユンの疑問に、ハネットは意外なほど優しげな微笑みを返した。


「言っただろう? 君が運悪く勇者になってしまったのなら――運良く戻れる日も、来るって」


「あ……」


 それは恐らく、昨日の内に交わされたのであろう、そしてこの2人にしか分からないやり取り。

 ユンは釘付けになったようにハネットを見つめている。そのハネットは、先に視線を外すと口を開いた。


「――だが、1つだけ懸念もある」


「懸念?」


 国王の呟きに、ハネットは静かに頷く。


「――君は、本当にそれでいいのか? 今はまだ、戦う理由が残っている筈だ。少なくとも、魔族をこの世界から1匹残らず排除する――その時までは」


「――――」


 ハネットの言葉に、ユンの表情が僅かに変化する。

 ――魔王が死んだと言っても、各地に出撃していた魔族の小部隊については未だ健在。

 ならば今この瞬間も、どこかの誰かが不運に選ばれているかもしれない。

 そう。今までのユンと、同じように。


「悪いが、俺は代わりの掃除なんてしない」


 その言葉を発した一瞬だけ、急速にハネットの中から温かみが消失する。

 ――弱者は淘汰されてしかるべきだ。

 彼の中に存在する何らかの信念を感じさせるその瞳が、言外にそう語っていた。


「――だから」


 一瞬だけ見せた異質さを仕舞い込み、ハネットは結論を出す。


「――だから、この対価についてはこうしよう。王国は勇者を全ての責務から解放し、二度と干渉しない。――ただし、それが対価として払われる時期は、勇者本人が決める」


 選択権はユンへと。そしてそこにある実質的選択肢は2つ。

 今この瞬間に解放されるか、魔族を滅ぼすまで戦ってから解放されるか。


「……それが妥当か」 


 国王も承諾の旨を表し、2人の視線がユンに向けられる。


「――勇者よ。お前はどうしたい」

「今だけは。――今だけは、君の我儘を言っていいんだ」


 皆の視線がユンへと集まる。


 目の前に転がった逃げ道。

 奪われ続けた中に、差し出された手の平。


 それを知ってしまった、「勇者」は――






「――僕は、戦います。どこかの誰かが泣かずに済むよう――最後の魔族を倒す、その時まで」






 微笑みを浮かべ、それを選んだ。

 それはどこまでも――どこまでも、「その少女らしい」道を。


「……君がそれでいいのなら、俺は構わないよ」


「――はい」


 青年と少女は微笑みを交わす。

 その温もりをもって、ここに2つの――2人の英雄に対する対価が、精算される。


「――では、少なくとも魔族の残党を始末するまで、勇者にはその役目を全うして貰う。そしてその時、勇者が解放を願うのであれば王国はそれを受け入れ、今後その生活に干渉しないと誓おう。それでいいな?」


「それでいい」


「はい」


 物語には、終わりが来る。

 しかし、その先には――


 ――続く人生が、待っている。



交渉の途中ですが、ドラマ的に切りがいいので3章はここで終わります。あと1話エピローグのような話を挟んで正式に3章完全終了です。

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