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58 ユン

2017.11.1



 ――夜のテラスは、会場と打って変わって静寂に包まれていた。


 ユンは数秒ほどなんとなくその場に立ち尽くしていたが、やがて深く息を吸うと、ゆっくりと歩みを進め始める。

 広いテラスを真っ直ぐに横切りたどり着くのは、腰より少し高いぐらいの手すりの前。

 ユンはそこで足を止めると、その向こうに広がる「闇」をぼうっと見つめた。

 この世界では現代ニホンのような輝く夜景には期待できない。ユンの目の前には美しい王都の街並みが広がっている筈なのだが、今はただただ純粋な黒一色で塗り潰されてしまっている。


「…………」


 昼間より幾分涼しくなった風が、優しく頬を撫でていく。

 いつの間にか随分と長くなってしまった髪が、サラサラという音を奏でた。


「――終わったんだね」


 寝静まった街並み。

 ユンにはそれが、人々がやっと取り戻した安息の時間であるように思えてならなかった。

 腰に下げた聖剣は、その呟きに対して特に反応を返さない。……しかし、それが相棒に向けた物だったのか、それとも独り言だったのかはユン自身にも定かではない。

 ユンの言葉は誰の耳に入る事もなく、静かに闇へと溶けていった。


(……いつかの夜と同じだな)


 ユンは月の下ポツリと佇み、平穏の世界をただ見つめる。

 ユンの研ぎ澄まされた聴覚をもってしても、聞こえてくるのは自分の髪が奏でる音色と、背後からの喧騒のみ。


 ――それはまるで、自分の立つこのテラスを境目に、世界が隔てられているかのようにも感じられた。




---




“――――”


 ユンがその静けさをしばらくの間味わっていると、不意に聖剣が震え始めた。

 どうやら、このテラスにゆっくりと近付いてくる存在、「それ」に怯えているらしい。

 ――聖剣がこの反応を示したのは、この2年間で1度のみ。

 それでユンは、数秒後にここに誰がやって来るのかを察する。


 聖剣からの感覚に従い、ホールとテラスを繋ぐガラス扉に目を向ける。それからすぐ、曇ったガラス越しに影が迫った。


「――む」

「あ……」


 そうして、ユンの予想通りの人物が姿を見せた。

 それはこの夜空とは対象的に、全身を白一色で統一した純白の男。


 ――ハネット。


 王国に突如現れたという、噂の大魔法使いであり――数刻前には、不幸な遭遇から刃を交えた青年でもある。

 昼間は目を見張るような天上の武具にて身を固めていた彼だが、この祝宴が始まった時には既にその下のローブ1枚姿となっていた。

 会場のどこかで「目立つから」と誰かに説明しているのを耳が捉えたが、そのローブだけでも十分に目立つことを彼は理解しているのだろうか。


 ハネットはこのテラスに初めて来たのか、一度ぐるりと周囲を見渡す。

 そしてその片隅で1人黄昏ているユンに気付いた。

 普通なら先客に遠慮して室内に戻るか、同席していいかと一声かける場面だろう。


 ――だが、ハネットはそういったリアクションの一切を無視し、ズカズカとテラスに出てきた。


 要するに、ユンのいる場所へと真っ直ぐに向かってくるのだ。しかも無言で。

 ユンは人知れず身を固くする。

 あのような出会い方をしたのだ。当然だが、このハネットという青年に苦手意識を持つのは聖剣だけではない。というより闇の中無言で迫られれば誰だって怖い。

 思わず1歩後ずさり、縋るように聖剣に手をやった。

 ――自分が1人になる瞬間を、狙っていたのか。

 聖剣を抜くべきか、逃げるべきか、それとも一般的なか弱い女のように、大声でも上げてみるべきか。

 しかしどの選択肢を取っても、次の瞬間には容易く捻り殺されているイメージが浮かぶ。

 彼我の実力差はそれほどまでに離れているのだ。それは対峙したユンでなくとも、あの魔王城の最後を見せられた者ならば全員が理解しているだろう。


(え? うそ。これ、まずい。僕、ここで――?)


 まるで蛇に睨まれた蛙のように、何も出来なくなってしまったユンだが――


(……あ、あれ?)




 ――ハネットは予想に反し、ユンの事など眼中に無い様子でその横を通り過ぎていった。




 そのまま先程のユンと同じように手すりの前まで歩くと、王都の夜景を楽しみ始める。

 ……自意識過剰。

 緊張から開放された脳裏に真っ先にその言葉が浮かび、ユンは静かに顔を赤くさせる。


(う、うわーっ! 恥ずかしいっ! そうだよね! こんな凄い人が、僕なんかに用がある筈ないよね……!)


 実際には周囲の人間を石ころ程度にしか思っていないハネットの方がおかしいのだが、基本的に自己評価が低いユンは自分が悪かったのだと納得する。


(そもそも聖剣が敵意を感じてないじゃん! いや、震えてはいるけど!)


 もしかしたら、聖剣がこの青年を恐れるのは敵意の有無とは関係なく、単純に自身を滅ぼせる存在だからなのかもしれない。

 たとえ飼い慣らされていたとしても、(ドラゴン)が街中を闊歩していたら人間だって怖いだろう。


 ユンが鼓動を落ち着けている間にも、ハネットの様子は変わらない。

 勇者であるユンを部屋の脇に控える侍女かなにかのように堂々と無視し、手すりの先に広がる闇を無言で眺め続けている。

 ……こうなってくると困るのが、先に来ていた筈のユンである。

 室内に戻るのも避けているようで失礼かもしれない。だがそうなると、ハネットと違って普通の感性を持っているユンには、この沈黙が気になり始める。


「――あ、あの。何を……?」


 この微妙な空気をなんとかするため、ユンは意を決してそれだけ尋ねる。

 それは寝ている猛獣が本当に起きないかどうか、つついて確かめる心境に近い。気分を害した様子を少しでも見せようものなら、一目散に退散する所存である。


 ハネットはおっかなびっくり返答を待つユンに、顔を向ける事すらなく適当に答えた。


「ん? いや、大都市の夜景ってやつを拝んでおこうと思ったんだが……何も見えねぇ」


 覚悟に比べて、随分あっさりと会話が成立する。

 ユンは一瞬だけ拍子抜けし、遅れて安堵した後――首を傾げた。

 ――夜に何も見えないのは当たり前だ。

 この世界で生きてきた者にとって、ハネットがこぼした感想には独特の違和感があった。

 それにユンには不思議な事がもう1つある。



(――なんで、この人は「感動」してるんだろう)



 それは恐らくこの世界で、聖剣を持つユンにだけ分かったであろう事。

 何も見えないと知ったのに視線を向け続けているのも、返事をしつつユンに顔すら向けないのも、全ては「熱心さ」の表れ。

 どうやら、その光景を脳裏に焼き付けておこうとしているらしい。まるで美しい絵画とでも出会ったかのように。

 ハネットのその様子に、ユンはこの王都に初めてやってきた時の自分を重ねる。人の多さや建築物に、いちいち驚いていた時のことを。


 ……まさか、珍しいのだろうか。

 純粋な闇に包まれた夜という物が。


 それではまるで、彼が過ごしてきた場所が夜でも明るいかのようだが……この大魔法使いの故郷ともなると、それもあり得るのかもしれない。

 ユンは大量の光の魔具に照らされる魔法都市をイメージする。だがそんな夢物語のような技術力を持つ都市が、この世界にあっただろうか。

 少なくとも大陸中を巡ったはずのユンの記憶の中には無い。それは世界一の超大国、帝国の帝都を含めてだ。

 では一体、彼はどこからやって来たのだろう。


(――そうか。僕ってまだ、この人の事を何も知らないんだな……)


 そうしてユンはそれに気付いた。

 出会ってからたったの数刻。

 その間に、敵として一方的に言葉をぶつけ合った回数が2~3度。セムヤザ討伐への協力依頼という至極事務的な物が1度。

 それ以外は他の仲間たちと同じく、ニーナや国王と話している姿を遠くから眺めていたのみである。


 ――意外と温和なハネットの反応に安心したからか、ユンの生来持つ好奇心が顔を出してきた。

 なにしろ相手は神話の中から飛び出してきたような存在であり、自分が最も尊敬する人物である土の賢者が師と認めた相手でもある。

 ――知りたい。そう思う方がむしろ自然だろう。

 それでも殺されかけた相手だ。ルーチェたち他の仲間ならこうはいかないだろうが、ユンは肩書き通り勇気の人でもある。

 話せば、分かり合えるのでは。

 どうしてもそう思えてしまうのだ。

 それに――


(この人は、見た目ほど冷たい人じゃない)


 この青年は、()()()()()。故に彼という人間を前にした時、まず最初に感じるであろう物は「冷たさ」だ。

 ――無関心。

 滲み出る異様なまでの静けさが、見る者にそんな印象を与えている。

 だが、聖剣を持つユンにだけは分かる。それは、()()()()()()()()()()()()なのだと。


 この青年の内側に潜むものは――むしろ、苛烈だ。


 ただの暗闇に価値を見出している現在ように、実際には非常に感受性の強い部類に入るだろう。

 冷たく見えるが、中身は違う。

 なんらかの理由があって、それを表に出さないようにしているらしかった。


 ――聖剣を取ったあの日から、ユンには「嘘」というものが効かなくなってしまった。


 人の内面を見抜く力。

 目の前の魔法使いを唯一上回るその能力で、ユンという「化け物」は、「それ」を見つめる。

 彼は「竜」だ。それは間違いない。


 ――だが、同時にユンにはその姿が、まるで鳥かごを巣と定めてしまったかのような、そんな「無理」のある物にも見えた。


 だから、賭けてみる事にしたのかもしれない。

 彼が「鳥を喰らう竜」ではなく――「鳥と寄り添える竜」である事に。


 まずは、信じる事から――

 ――歩み寄る事から、「理解」は始まる。



「あの――すいませんでした」



 ただ、ユンにはその前に、やっておかなければならない事があった。

 それはもちろん――自分の勘違いから、刃を向けてしまった事への謝罪だ。

 二度目の「対話」を求めるのであれば、まずは人としてこちらが先だろう。

 それに人の体に剣を突き立てたあの一件は、ユンの中でも半ばトラウマのようになっている。

 実際には、このプロセスを経なければユンの方が耐えられないのだ。


 ハネットはここで初めてその視線をユンに向けた。

 しかし、それも一瞬のこと。何に対する謝罪なのかを理解すると、興味を失ったようにまた暗闇の観察に戻ってしまう。そして手だけをヒラヒラと振り、言外に「気にするな」と示してみせた。

 それは一見すると無言の拒絶にも見える。だが聖剣から感じるその心の内には――若干の、「罪悪感」が。


 ――あ、これ誤魔化そうとしてるな。


 ユンもニーナとの会話から、あの一件がある程度向こうが仕組んだからこそ生まれた物である事は理解している。ハネットからすれば、今のは「被害者」から謝られたようなもので居心地が悪かったのだろう。

 きっと、ここが()()()

 頭を上げたユンは「勇気」をもって、一歩踏み出す。


「――ただ、聖剣を壊そうとしたのはやり過ぎだと思いますけど」


 普段仲間に向けるような、若干の悪戯っぽさを含ませ言った。

 その軽口に、ハネットは今度こそユンを振り返った。その顔には面白そうな色が生まれている。

 人間としても女としても勇者としてもどうかと思うが、初めて何も無い暗闇から自分に優先度を勝ち取った瞬間である。


「ふっふっふ。やはり知らないようだね、勇者くん。――その聖剣。実は壊しても、自己修復するのだよ」


「……え!?」


 責められたくせになぜかふんぞり返るハネットだったが、実際にその情報はユンですら初耳であった。聖剣を壊せるような存在と出会った事が無いので当然でもあるが。

 その驚いた様子に、ハネットは満足そうに唇の端を釣り上げる。

 故郷の村にいたイタズラ小僧のような笑顔だ。どうやら感情表現の素直なユンは、ハネットのおもちゃとして合格であるらしい。


「鑑定魔法で視た時に、な。まあ森人族(エルフ)の精霊魔法と同じなんだ、だったら【変形】が可能な筈。そして【変形】するなら【修復】もできる。多分そういう事なんだろう」


「な、なるほど……?」


 ユンたちからすれば、その【変形】の仕組み自体に知識が無い。しかしエルフを連れ歩くこの人物からすれば、それは当然の事のようだ。

 ユンは曖昧に頷いた後――自分が誤魔化される寸前である事に、ギリギリ気付いた。


「…………いや。直るからって、壊していいってのとは違うんじゃ……」


「…………まあ俺の魔法だと、壊れるどころか消滅してただろうしな……」


「えぇ…………」


 一瞬だけ静寂が流れ――


 ――しかし、両者堪え切れずに吹き出した。


「――ぷっ。あはは、なんですかそれ」

「うーん、誤魔化されなかったか」


 頭を掻くハネットに、ユンは顔を綻ばせる。普通に会話できる事が、嬉しい。


(それに、なんと言うか……本当は気さくな人なんだな。ちょっとグスタフさんみたい)


 「敵」として出会った時と打って変わり、今のハネットは異様に接し易かった。

 少なくとも初めて出会った時のジンに比べれば、遥かに「まとも」な相手に見える。

 あの邪悪な価値観を語った人間と同一人物だとはとても思えない。

 ニーナやエルフの少女たちとは穏やかな関係を築いているようだし、恐らく自分たちは単純に出会い方が悪かっただけなのだろう。

 しかし、そう安堵したのも束の間、ハネットが何かを思いついたように言った。


「――あ、そうだ。ちょっとその聖剣、貸してくれ」


「えっ……」


 ユンは咄嗟に聖剣を庇う。

 ――まさか、「大丈夫、今度は手加減するから」とか言って、自己修復能力とやらのデモンストレーションでもするつもりなのでは。

 この人物には「前科」があるし、素直に頷くにはその要求は前後との繋がりが不穏すぎた。


「ああいや、違う。悪かったって。そいつの鑑定をもう1度したいだけなんだ。あの時は急いでて、そういう能力とか効果とかの表面的な部分しか見てなかったんでな。せっかくだしもう少し詳しい部分まで調べようかと……。ほら、お前も興味あるだろ? ついでに聞かせてやるぞ」


 伝説の存在。そして2年間を共に戦い抜いた相棒の話だ。たしかに興味が無い訳ではない。……どちらかと言えば、ニーナやルーチェの方が喜びそうな話でもあるが。


「……は、はい。じゃあ」


 ハネットから悪意は感じない。少なくとも、()()()嘘ではない。

 それでも一応の警戒だけ胸に残しつつ、ユンは聖剣を差し出した。聖剣が裏切り者を責めるかのように暴れ出したので、心の中で謝っておく。

 ハネットはガタガタと動く聖剣を見て、途端に受け取りたくなさそうに顔を顰めた。


「相っ変わらずきもい剣だなぁ……。悪いが、ちょっと睡眠の魔法をかけるぞ」


「えっ」


 自分に対する言葉かと思い身構える。

 しかしながら、ハネットが手をかざしたのはユンではなく、聖剣だ。


 ――そして次の瞬間、聖剣から受けていた第六感のような物が消え去り、ユンは暗闇に放り出されたような感覚に陥った。


 それは夜のテラスという状況から見れば当然なのだが……聖剣の力により背後の地形すら把握できるユンには、それとは異なった世界が視えていたという事である。

 手の中の聖剣を見れば、今までの抵抗が嘘のようにその動きが止まっていた。


「安心しろ、眠らせただけだ」


 ハネットはそう説明してみせる。

 だがユンは聖剣に睡眠の魔法が効くという事実に驚いていた。こうなってくると、まるで本当に生き物かなにかのようだった。


「【鑑定の魔法(アプレイザル)】」


 聖剣を受け取ったハネットは早速鑑定を開始する。ユンに分かるようにか、今度は詠唱を行っていた。

 普段は気にならないが、暗闇の中だと鑑定者の手元が仄かに輝いているのが分かる。解析する為に光の波動を対象に送り込んでいるのだろう。

 ハネットは「ここから先は鑑定結果だ」と前置きをし、その「答え合わせ」を始めた。


「――さて、まずは正式名称から。お前たちは聖剣と呼んでいるようだが――この剣の本来の名は、契約剣【精霊王の棺】と言う」


「契約剣……」


 ユンはその説明に新たな驚きを得る。それは失われた聖剣の正式名称が判明したから――ではなく、正式名称が分かる、ということ自体に驚いたのだ。

 先程ハネットの言っていた、「能力や効果以外の詳しい部分」という言葉に感じていた疑問が解消される。

 ――ルーチェや他の魔法使い達が使う鑑定魔法は、まさにその「能力や効果」を調べる為のものだ。決してそのような「情報」まで分かる代物ではない。

 他の魔法使いには不可能だった聖剣の鑑定が可能である事といい、彼が扱う魔法は同じ物でもより上位の効果が得られるのかもしれない。理屈は全くわからないが。


「俗称だった『聖剣』の方が広く伝わってたから残ったとか、そういうよくある話かな。で、武器としてのレベルは150。これは惑星――あー、要するに、世界で最強クラスの武器だってことな。ちなみに近接武器としても魔法触媒としても使用可能で、戦士も魔法使いも関係なく装備できるらしい。主な能力は【変形】、【自己修復】、【装備者へ探知能力(レーダー)の付与】。それと、それに付随する――」


 ハネットは、そこで僅かに笑ったようだった。


「――敵意や悪意などの、【()()()()()()の付与】」


 何が面白いのかと少しだけ疑問に思うユンだったが、聖剣のバックアップを失っている今、そんな事は考えたって分からない。それに長い説明だったので、単に息継ぎをしただけの可能性が高い。

 その証拠という訳ではないが、ハネットは流れるように説明を再開した。


「――精霊魔法からは【強化】、【攻撃】、【無敵化】の3種が使用可能。そしてその魔法を使用する為の【独自のMPゲージ(まりょく)】を持ち、おまけに無敵化に対する【ダメージ(こうげき)貫通】付き。そして何より特異なのが――【意思ある道具インテリジェンスアイテム】であり、単独での思考と行動が可能という部分。動くのはこれだろうな」


 使い手である筈の自分ですら知らない能力が、いくつも出てくる。


「あの、【無敵化】っていうのは……?」


「ん? お前も使ってただろう。光の壁で体を覆ってたやつだ」


 【聖方陣(せいほうじん)】の事だろうか。

 確かに、あれには強化や回復まで無効化されるという、他の防御魔法には無い性質がある。……ユンは単純に「光の防御魔法の凄いやつ」という認識だったので気にしていなかったが。


「無敵化っつーのは究極の魔法の1つでな、文字通り無敵になっちまうんだ。使ってる間はどんな攻撃を受けても死ななくなる」


「し、死ななくなる?」


「そ。剣や魔法はもちろん、毒も呪いも、火に炙られても水に溺れても、何があっても何をされても死ななくなる」


 反則過ぎる効果内容にユンは思わず絶句する。しかも自分は今まで、そんなおとぎ話のような魔法に守られ続けていたのだ。

 だが言われてみれば、それと似たような魔法の存在をユンは既に知っていた。


(あれ……? もしかして、【身代わりの宝玉】も同じ魔法なのかな?)


 世界に十ほどしか残されていない――その内6つはこのハネットとの戦いで失われてしまったが――秘宝、【身代わりの宝玉】。

 致死の一撃を肩代わりするあの魔具の効果も、同じ理屈でもたらされているのだろうか。


「俺も光魔法版のを使ってたんだが、こいつには意味無かったんだよな。それが【ダメージ貫通】ってやつだ」


「えぇ……」


 説明の合間に平然と挟まれたが、今、個人で秘宝クラスの魔具と同じ効果の魔法を使っていたと言ったような。

 もしかしたら全く違う魔法なのかもしれないが、【身代わりの宝玉】の方は実際世界に十ほどしか現存していなかったのだ。

 何らかの大規模な儀式でも行って、それでやっと発動できるとか、そういう次元にある大魔法なのだと思っていたのだが……この青年は、それを個人で扱えるというのだろうか?


「まあ運が良かったよな。これが【ダメージ貫通】じゃなくてより上位の【無敵化無効】とかだったら、【閃光剣(せんこうけん)】でお前の仲間たちも死んでただろうし。あれ? でもそういえば即死対策――」


「あ! そ、それ――!」


 ハネットの言葉で、ユンは自分の必殺の剣技による衝撃波(にじひがい)が消えた、謎の現象を思い出した。

 おかげで仲間を死なせずに済んだのだ。あれは確かに幸運だった。幸運だったが――同時に、あの戦いの中で最も()()()()()現象でもある。


「ん?」


「あの、その無敵化? っていうのが発動してると、衝撃波が消えるんですか?」


「ああ。というか衝撃波に限らず、受けた攻撃で起こる筈の現象(エフェクト)だったら全部が消える」


「それはなんでなんですか?」


 尋ねられたハネットはなぜか首を傾げた。


「ん? ……さあ。まあ発動してる限り死なない、って謳い文句なんだし、衝撃波だったり飛んだ破片だったりの二次被害で死ぬのを防ぐ為なんじゃねーの」

 

 魔法の習得にはその魔法への深い理解が必要な筈なのだが、この青年はなぜ推測のように話すのだろう。

 それはそれで気になるのだが、ユンにもこの話を始めた目的があるので今は置いておく。


「あ、す、すいません。『なんで』ってのはそうじゃなくて……あの、それって、どういう理屈でそうなるんですか?」


 使っている限り死なない。二次被害も起こさせない。

 それは凄いのだが、魔力をどういう風に使えばそんな現象が起こせるのだろう。まるで()()()()だ。

 だがユンは――というより王国は、それを理解しなければならない立場にある。

 何しろ勘違いから始まったあの戦いで、【身代わりの宝玉】を6つ全て失ってしまったのだ。そしてその内王国の所持していた物は2つだけであり、それ以外の4つは対魔族連合の協力国から「借り受けていた」物なのである。

 持ち出しの合意があったとはいえ、何らかの形で賠償が必要なのは間違いない。それがどれだけ「まずい」ことかはユンでも分かる。実際に国王からも極力使うなと命令されていた。全部壊したが。

 ――だが、死を回避する魔法。その理屈をヒントに、【身代わりの宝玉】の量産が可能になれば。

 ユンのその質問に、しかしハネットは何故かはっとしたような顔で考え込んだ。



「――()()()()()()()()



「へ?」


 ハネットの呟きに、ユンは呆けた声を出してしまう。自分の使っている魔法の理屈が分からない訳でもあるまい。


()()()……()()()()()なのか? なら――」


 冗談かとも思ったユンだったが――考え込むハネットがとても真剣な表情をしていたので、それ以上踏み込む事ができなかった。

 ハネットはしばらく呟きすらせず1人思考の海に潜っていたが、自分の中で何らかの結論を出したのかユンに意識を戻した。


「……まあいい。とにかくそういう効果を持つ魔法だという事だけ覚えておけ」


「は、はい」


 ハネットが言外に滲ませた拒絶に、不興を買いたくないユンは大人しく引き下がった。

 まあよく考えると、理屈を説明されても自分では理解できなかった可能性が高いし、後でルーチェや国王辺りに話してそちらから詳しく聞いて貰った方がいいのかもしれない。


「……あ、あー、えーっと。そ、それじゃあその、意志ある道具? ってのは……」


「喋る武器」


 今度は単純明快な答えが返ってきた。


「しゃ、喋る武器ですか? でもこの聖剣は喋りませんけど――」


「ああ、そうか。そういえば、厳密には『思考能力を持つ武器』って事の方が重要なのかな。その結果喋るやつが多いもんで、俺の故郷ではそう言われていたんだよな」


 なるほど、確かにこの剣には独自の思考能力――意思のような物が宿っている。

 魔王城にて出会った将の魔族もその単語を言っていたので、気になったのだ。


(……ん?)


 今ハネットは、「彼の故郷でそう言われていた」と言った。

 ――それを、なぜあの魔族が知っていたのだろう。


「睡眠が効いたのも、それで動かなくなったのもそれのせいだ。思考能力を奪われて、今はただの剣になっている」


「え? あ、は、はい。剣でも眠るんだってびっくりしました」


「あー、いや。まあどっちかって言うと、この剣の場合は『剣が』じゃなくて『中の人が』寝てるんだけど」


 ハネットは聖剣をペチペチと叩きながら言う。


「……『中の人』?」


「名前にもある、【精霊王】ってやつだな。この剣に封印されてるらしい」


 ユンは予想だにしない事実に息を飲んだ。

 ――精霊王。そんな物が、この剣の内に眠っていたとは。

 だとすれば、ユンがこれまで聖剣自体だと思ってやり取りしていた相手は、その精霊王とかいう存在だったのだろうか。


「諸々の能力を持つ理由だな。『精霊魔法が使える剣』なんじゃなく、『精霊そのものを封じてる剣』だったという訳だ。……結局のところ、作ったやつは森人族(エルフ)のやってる事を再現したかったのかな。中の精霊王を使役して戦わせようって事だとか……。だから契約剣って言うのか? 主人と使い魔的な? でもティアを見てる限り、主従関係っていうより協力関係っぽい感じなんだよなぁ……」


 次々と考察を深めていく姿には研究者のような雰囲気もある。あのニーナが師と仰ぐぐらいだ。やはり知識面においても優れているのかもしれない。


「あの……お師匠様は、森人族(エルフ)とか精霊っていうのについて、詳しいんですか?」


「お師匠様って俺のことか?」


「あ、は、はい。ニーナさんのお師匠様なので……」


「あー。なるほど」


「……あの、他の呼び方の方がよかったですか?」


「いや、別に。俺は『そういうの』に興味ないから。好きに呼んでくれ」


 ハネットは本当にどうでもよさそうに言う。呼び名といった物に頓着しない性格なのだろうか。不快ではないようなので、ユンはとりあえずそのままの呼び方で行くことにした。


「それで、なんだったか。……ああ、森人族(エルフ)と精霊魔法だっけか。まあ森人族(エルフ)については一緒に暮らしてるから少しは詳しいのかもしれんが……精霊については微妙だな……。待て、調べたら出てくるかも……」


 いい加減ユンにも分かってきた。彼の魔法は、何でもありだ。

 ハネットは癖なのか虚空に向かって目を上から下へ何度か動かすと、該当した情報を得た様子で「ああ」と言った。


「精霊については書いてないが、精霊王についてだったら書いてあるな」


(書いてある……?)


 言い方に違和感を覚えるユンだったが、ハネットはそんな反応にはお構いなしで「えーっと、なになに」と話を進める。

 ハネットは本当に文献か何かでも読んでいるかのように、精霊王という存在について解説を始め――



「精霊王。制作当時の世界最大の森林から生まれた精霊であり――“かつての自然そのもの”。――ふっ」



 ――そして、その一文で()()した。


「お前が自然そのものだと? ――ならばなぜ、滅びを回避しようとする。滅びも自然の一部だろうに」


 ――ユンの中に、ひらめきが生まれる。

 直前に比べ数段温度を下げていたその呟きは、どこかあの魔王城でのやり取りを思い出させる物だった。

 その時にも、「自然」や「神」といった単語が出てきていたように思う。


「――まあ、生き延びようとするのも自然の摂理ってやつかもな。どちらにしろ、滑稽な剣だ」


 ハネットは途端に興味を失ったらしく、まるで不用品を捨てるようにユンに聖剣を返した。


「……精霊について俺から言えるのは、森から生まれるらしいっていう今の話と、空間を把握し、精霊魔法を扱い、植物を変形させられる事。金属である筈のその剣が変形するのについては、精霊王とか言うぐらいだから鉱物も変形させられるとか、そんなところだろう。あとはどいつもこいつも俺のことをクソ嫌ってるって事だけだな。それより詳しい話が知りたかったら、俺の側にいた金髪の方の森人族(エルフ)にでも聞け。あいつは精霊使いだ」


 話をさっさと終わらせたいのか、ハネットは一気にまくし立てた。そして一方的にその話題を打ち切ると、その体ごと、再び夜の闇へと向き直ってしまう。

 静けさが帰って来たテラスに、2人の息遣いだけが流れている。

 その間にも、ユンはハネットの背中を見つめて先程のことを考えていた。


 ――魔王城にて彼が語った、死と生を肯定する独自の価値観。


 あの時はただ邪悪に感じたが――もしかしたら彼は単に、「自然」を肯定しているだけなのではないだろうか。

 彼が語る言葉の節々に、猟師などの職業に就く者のような、より「命」に触れ合う機会が多い者たちと似た雰囲気を感じたのだ。


「――あの。魔王城で言っていた事ですけど……」


「うん?」


「その、生きる事と殺す事は同じだ、みたいな……」


 ――今度こそ。

 この「対話」でなら、それを、理解できるだろうか。

 自分は、1人の人間の言葉を――「分からない」と切り捨てずに、いられるだろうか。


 ――たとえそれが、肯定できないものであったとしても。


「ああ……」


 ユンの短い問いで、何を尋ねたいのか理解したのだろう。

 ハネットは数秒間を置くと、やがてぽつりとユンに問い返す。


「――魔族がなぜあんな事をしているのか、考えた事は?」


 ユンは少し考え、口を開く。


「……あります。でも――」


「でも、どんな理由であれ殺すのは良くない、か。――本当にそうか?」


 ハネットはユンの返答とその結論を予測する事で、言葉を遮った。


「もしかしたら、あいつらだって止むに止まれぬ事情があるのかもしれんぞ。なんらかの理由で、自分たちが生きる為にやっていたのかもしれない」


 手すりに両肘をつき、そこへ静かに体重を預ける。


「――命は、尊い。それには等しく価値がある。……しかしだからこそ」


 目を伏せたのだろうか。その背中が、小さく揺れた。


「それは種族に関わらず――全てが『等価値』だという事だ。草木も鳥も人間も、家族があり、種子を残し繋がって行く。……なあ、それのどこに違いがある。魔物だろうが亜人だろうが動物だろうが、皆に大切な物がある。何かを守る為に戦う事は、自然な事なんだ」


 意外な姿に、ユンは思わずその背中に視線を注いでしまう。

 そう語ったハネットの声音には、深い慈愛が溢れていたのだ。

 だが――


「――そう。だからこそ。だからこそなんだ」


 その背中が、再びユンを振り返る。



「――お前たちだって、戦えばいい。生きる為に」



 視線が、真っ直ぐにぶつかった。


「きっと、戦争というものは――そういうものなんじゃないか。やっていることは商売とそう変わらない。店主がふっかけ、客が値切る。どちらも生活がかかっていて、どちらも必死にやっている。規模が大きいか小さいかだけで、俺たちは皆、誰かの不利益を自分の利益にすることで生きているんだ」


 黒い視線がユンを射抜く。

 髪は雪のように白いのに、その瞳はこの闇を切り取ったかのような漆黒だった。

 それはまるで、相反する2つの物が、この男の中で奇妙に同居している事を表しているかのようだ。

 彼は命を尊いと語り、全ては等価値だと慈愛で語った。

 しかし、その思考の末に、好きに殺すべしというこの結論を出しているのだ。


「言っていたな、勇者。たしかに、死んでいった多くの者は、死ぬ為に生きていた訳ではないのかもしれない。――だが、事実として、死は必ず訪れる。生きているという事は、死に勝ち続けてきたという事だ。命あるものは、その生涯を戦い続けなければならない。それはきっと、魔族とか人間とか関係なく――命ある者全員に与えられている、ただ当たり前のことなんだ」


 ――戦う事が運命である。

 それが、ハネットの語った「自然」であり――「命の在り方」だった。

 そこにあるのは、歴とした人間の思想の1つ。

 彼が生き、そして学び、血肉としている確かな価値観。

 今ここにある、1人の人間の言葉を――ユンは、やっと理解する事が出来たのだ。


 ユンは故郷の村の帰り道、罠から外して持って帰った、名も知らぬ鳥を思い出す。


 ――命は軽い。

 そんなことは、本当はユンだって知っているのだ。

 ――殺さなければ生きていけない。

 そんなことは、本当はユンだって分かっていたのだ。




「――それでも。僕は命を奪うのが嫌いです」




 それでも、誰も傷つかない、誰も傷つけずに済む道を探したい。


“――どこかの誰かの、笑顔の為に”


 ユンは、自分のこの理想が間違っているとは、絶対に思わない。

 ユンは揺るがぬ覚悟と共に、ハネットを否定してみせる。


 ――ああ。もしかしたら、自分はここで死ぬかもしれない。


 勇者は心の奥にあるそんな恐怖をねじ伏せ、1匹の竜と対峙した。

 たとえ聖剣が眠っていても。

 真の白銀は、いつだってその心にある。



「――それでいいさ」


「…………え?」



 しかし。

 その拒絶に対し、ハネットという青年が返したのは――微笑みだった。


「別に怒ったりはしないさ。……見てみろ、勇者。この景色を。――まるでどこまでも続いていて、果てなんて無いみたいじゃないか」


 ハネットは大きく手を振り、これまで熱心に見ていた夜の世界をユンに示した。

 全てが黒に染まりきり、境界線が曖昧で――しかし、たしかに続いているであろう、その先の「世界」を。


「勇者――世界は、広い。そこにはきっと多くの人たちがいて、そしてその人たちの数だけ『心』もあるんだ。――なら、その心が『正しい』と思う事も、きっと人の数だけ存在している。それを否定するのは、人殺しと同じぐらい人の尊厳を踏みにじる行為なんじゃないかと俺は思う。――人は、その人のままであればいい。魔族が好きに行動するように。俺が好きに考えるように。――お前も好きに考え、好きに動くといい。さっきから言っているだろう? ――それが、俺の思う『正しさ』なんだ」


 まるで、小さな子供に言って聞かせるようだった。

 自分が考えに考え抜いた末に、出した結論。

 しかしそんな物も所詮は屁理屈に過ぎないのだと、その道の遥か先から、経験者のように語って聞かせる。

 ――そして、それでなお、いいのだと。

 失敗して、間違って……そんな歩みで、良いのだと。

 人の迷いや後悔すらも、まとめて肯定してしまうような。

 そんな、本物の大人の姿が、そこにはあった。


「――お師匠様は、本当にニーナさんのお師匠様なんですね」

 

「は?」


「似てます。お師匠様と、ニーナさんは。……とても」


「へえ、そうなのか……。ちなみにどんな所が?」


「ふふ、そういう所です」


 実際不思議だ。ニーナもそうだったが、なぜ自分とほとんど歳の変わらない人間が、これほど成熟した考えを持てるのだろう。

 村にいた頃のユンなら「やっぱり凄い人は違うんだなぁ」と漠然にただ納得しただろうが、社会の水準を知った今のユンには、2人のそれが年齢に対し飛び抜けたものである事が理解できる。

 その2人に共通しているのは――「強者」である事だ。

 どちらも世界の頂点に君臨するような、そんな並外れた力を持っているのだ。それが普通でないというのは、当たり前の事だとも言える。 


 ――でも。

 自分だって、力だけなら負けず劣らずの物を持っている筈なのだ。


 それなのに、自分はそれこそ、その辺の村人と人間的には変わらない位置にいる。

 普通ではない力を持ち、普通ではない事を成せる2人。

 普通ではない力を持つのに、普通の人間と変わらない自分。

 自分という人間とこの2人を、同じ時間で、これほどにまで分けたもの。

 それは、きっと――



 ――自分を、「肯定」してきたかどうか。



(僕はこの力から、逃げ続けていた)


 人より優れている事が。人と違う事が、嫌だった。

 嘘で塗り固め、姉の陰に隠れ――男になると、嫌な現実のその全てから逃げ続けていた。

 その分だけ、自分は人間として成長する機会を失い続けていたのだろう。

 歳も変わらず、力も変わらず、肩書だって負けていない。それなのに――


 ――なぜ、自分はこんなにも、弱いのだろうか。






「凄い力を持つことを――怖いと思ったことは、ありますか――?」






 ……気付けば。

 ユンの口は、勝手にそう動いていた。


 どんな環境に生まれたのか。

 どんな人たちに囲まれていたのか。

 どんな人生を歩んできたのか。


 自分との違いを知る。その為に必要などんな情報でもなく。

 ――気付けば、それがユンの中から、なぜか1番最初に出たものだった。


「――――」


 ハネットはユンの事を、なぜかしばらくの間見つめていた。

 そしてその言葉にすぐには返事をせず、再び街の方へと顔を向け――

 ――そして、言った。 





「――今日1日、ずっとお前の事を考えていた」





「……えっ?」


 ユンは一瞬、我が耳を疑った。

 ――口説き文句だ。

 それも、これまでに何度か異性に言われた事のある。

 どういう訳だか、勇者として旅をしていたこの2年間、貴族や大商人、または王族などから全く同じセリフで口説かれた事がユンには何度かあったのだ。

 ユンは急速に警戒心を募らせる。

 聖剣の力により、ユンはニーナやエルフの少女2人がこの青年に抱いている感情を知っていた。言い方は悪いが、もしかしたらハネットの愛人のような関係なのではとも思っている。

 権力者が女を囲うのはよくある話だ。自分もその1人として新たに口説かれているのだろうか。

 そして、これまでは何かと理由をつけて無難な断り方をしていればよかったが、この青年との力関係において、これは脅迫に近い。

 力で敵う者はなく、また恩のある身で国がユンを守ってくれるとも思えない。

 ユンは生まれて初めて感じる性的な恐怖に怯みながら、囚人のような心境で続く言葉を待っていた。

 この青年の次の発言で、自分の運命は決まってしまうのだ。


 ――しかし、ハネットは酷く落ち着いた声音で、静かに1つだけ呟いた。




「“世界は時折――怪物を産む”」




「……え?」


 突然の話題転換についていけず、ユンは聞き返すように声を漏らした。

 しかし、ハネットはそんなユンを無視し、淡々と言葉を紡いだ。


「――『異常者』というものには、2種類がいる。『()に振り切れた者』と、『()に振り切れた者』だ」


「は、はあ」


 一体何の話なのだろう。

 ユンは首を傾げつつも、一応相槌を打っておく。


()()()()()()()()()んだが……どうもお前には自覚がないようだから、教えてやろう――」


 戸惑うしかないユンに、ハネットはゆっくりと振り返った。


「――お前の精神力は、異様なまでに強靭だ。お前は()()()()()()。それはニーナよりも……もちろん、俺よりもだ」


 その大魔法使いは――ユンという人間を、そう評価した。

 ……自分が強い心を持つなど、本気でありえない。

 それこそ力を活かすのではなく、ひた隠しにして生きてきたような人間なのだ。


「そんな……普通だと思います」


 ユンは弱々しく視線を下げ、いつも通りに過大な賞賛に対する謙遜を口にした。

 ――だが、ハネットという人間に、そんな「逃げ」が通用する訳がない。


「――本当にそうか? お前みたいな奴が『普通』だとは、俺には思えないんだが?」


「……え?」


「仕方ない。じゃあ分かりやすく教えてやろう――」


 化け物が、鳥かごの竜を見ていたように――




「初めてあの仲間たちと出会った時――()()()()()()()()()()()()()()()?」




 ――「それ」も、化け物のことを()()()ずっと見ていたのだから。


 はっと見上げたユンの瞳を、暗黒の視線が串刺しにした。

 ――底がない。

 まるで吸い込まれるような、同時に頭の奥まで覗かれたような、そんな恐ろしさが背筋を走る。


「なあ、()()だったんだろう? 世界を救う旅になんて、常人はそもそも参加しようという気すら起こらないんだ。――さて。じゃあそんな中、()()()()()()()()()()()()()()お前は、なんだ? それのどこが『普通』なんだ? まるで――」


 人の過去を見てきたかのように言い当て、ハネットは薄く笑った。


「――まるで、()()()のようじゃないか」


 寒気がした。

 「それ」は、被っていた竜の皮を脱ぎ捨てるように、その鳥かごからズルリと抜け出していた。

 そこに、ちょうどいい()()()()を見つけたとでも言わんばかりに。


「分かるか? ――だからお前が選ばれたんだ。人間の中から10倍で成長する変異者(ばけもの)を見つけ出し、それに自分を担わせ最強にさせる? ――恐らくだが、聖剣の選定基準はそんなに()()ものじゃない。何しろ立ちはだかるのは常に世界すら滅ぼすような何かだ。それへの対策だと言うのならば、選択するのは徹底的なまでに『最良の個体』でなくてはならない。聖剣の選定基準には、その個体の体の強さ(ステータス)だけでなく――『心の強さ(ざんきすう)』も、含まれているんだ」


 まるでそれが確定事項であるかのように「それ」は話す。


「最低限の基準として、この世界に数人しかいない変異者(さいのうあるもの)を。そしてその中から更に厳選し、最も心が強い者(あきらめないもの)を。――それが、お前だったという事だ」


 伝説における長年の謎が、容易く解き明かされていく。

 しかし、そんな()()()で得るものでは、「それ」は満足できなかったらしい。

 

「だが――お前の言いたい事も、俺には分かるぞ」


「――ぁ」


 ()()()()()()

 息は浅くなり、手には冷や汗が滲む。

 自分という人間を理解されるという事は――他者に解き明かされるという事は、これほどにまで恐ろしい事だったのか。


「お前の精神力は、変異者の中では最強だったのかもしれない。――しかし、たしかにそれは、変異者という小さい枠の中だけでの話だ。十人、百人、千人、村、都市、国と、ひとたび枠を広げてやれば、お前より心の強い奴なんてのは実際いくらでもいるんだろう。だからお前がそこまで評価される事に違和感を感じるのも分かるんだ。――だがな、1つ言っておくぞ」


 逃げ出したい。逃げ出したいが、ユンを凍ったようにその場に縫い止めた瞳がそれを許さない。

 底なし沼が獲物をゆっくりと貪るように、1つずつ、1つずつ、丁寧に逃げ道が断たれていく。


 ――果たして、鳥かごに閉じ込められているのは、どちらなのか。


「そいつらとお前とでは、用意されたハードル(かべ)の高さが違う。力無き者には、その責任の重さが発生しない。お前以外の人間が強く在れるのは――()()()()()()()()()()()だ」


 ――その先だけは、聞いてはいけない。

 頭のどこかで、もう1人の自分が囁く。


 ――しかし、今更気付いても、もう遅い。


「――じゃれついただけで怪我をさせ、殺してしまう危険に怒る事さえできなかった筈。ありとあらゆる日常を制限され、そしてその先に辿り着くのがよりにもよって『勇者』だと? 死ぬかもしれない戦いを、いつか終わりが来るまでやり続け――しかし、負ける事は許されない。その全てに勝ち続けろと、そういう訳だ。……与えられた運命の難易度が違う。お前と同じ立場に立たされた時、その強さを発揮し続けられる人間が、一体どれだけいるんだろうな?」


「ぁ――、そん、な」


「この空の下に暮らす人々を守りたいのだと言っていたよな。要するに、“どこかの誰かの為に”……とでも思っているんだろうが。――分かっているのか? それは本来、『理想』と呼ばれているものだ。理想というのは、それを実現できる人間が極端に少ないからそう呼ばれている。そして、人は自身が満たされていない時、他者に施す確率が途端に下がる。気楽な一般人にすら難しい理想を、生きているだけで不満を抱えるであろうお前が形にしているのは――あまりにも『異常』な事だ」


 「優しさ」とはつまり、「分け与える」という事。

 ならば人の優しさとは、すなわち「余裕」の現れだ。

 貧困に苦しむ者は、なけなしの物資を奪い合い。目標に上手く届かぬ者は、その不満を八つ当たりという形で発散させる。

 ――その生活に余裕の無き者は、心が荒むように出来ている。

 少女のように常に我慢を強いられてきた存在が、更にそこからその身まで差し出しているというのは異常なのだ。

 十を持つ者が一を差し出すのと、一しか持たぬ者が一を差し出すのとでは、その「重さ」が違うのだから。


「だから言っている。お前の精神は強靭過ぎるのだと。お前は持たぬ事への耐性、奪われる事への耐性が高すぎるんだ。『正しさ』というちっぽけな理由さえあれば命すら差し出せてしまうお前は、心のどこかでその『比重』が狂っている。お前の正義は平均から大きく逸脱した、真の化け物(はくぎん)という訳だ」


 ――最後の逃げ道が、断たれる。

 両親のために男を目指し、どこかの誰かのために剣を取った。

 そんなユンが見ていたのは、いつだって「自分以外の誰か」で。

 「自分自身」のことは、何一つとして知らなかった。

 ――だから。

 ユンは勇者(じぶん)という存在を一撃で殺し得るその「弱点」に、今更になって気付いたのだ。 


「なあ、俺は分かっているんだよ。お前の()()()()()を。――自分の肉体が化け物のそれだという事を、お前は誰よりも理解していた筈だ。それなのに、そうやって何かと理由をつけて、それ以外の部分でなんとか自分を卑下するのは――」


 その言い訳(にげみち)の全てを断ち、「それ」は勇者(ユン)にとどめを刺した。




「――()()()()()()なのだと、そう思い込みたかったんだろう? それだけが、本当は化け物(じぶん)を直視できないでいるお前に残された、唯一の逃げ道(いいわけ)だったという訳だ」




 玉座の間で邂逅した際、こちらを舐めるように見ていた視線。

 その視線に漠然と抱いた、あの既視感の正体に思い至る。


 ――最初に出会った頃のジンの瞳と、ニーナ・クラリカが一瞬だけ見せたあの瞳だ。


 「それ」の眼窩にはどちらか片方だけではなく、その2つが同居している。

 その上で、「それ」の瞳はジンよりもなお濁り、ニーナ・クラリカよりもなお深い色を有していた。

 ならば。

 きっと「それ」は、鳥かごから()()()()()()()()()だけなのだ。

 「それ」はきっと、鳥かごの中にいながら――この世の全てが、見えてしまっているのだから。


 深淵の眼を持つもの。


 「化け物」の前に現れたそれは――そうして、その「少女」に言った。


「異常者には、2種類がいる。悪に振り切れた者と、正に振り切れた者だ。――お前は後者だ。お前の内に潜む、その正義(かいぶつ)は俺にも理解できないが――」


 夜の暗闇。

 見下ろす月。

 広々とした代わりに、どこか寂しいそのテラスに――




「その『恐怖』なら、理解できる。―――お前、本当は怖かったんだろう」




 ――優しい風が、吹き抜けた。


「――ぇ」


 ずっと緊張していたからだろうか。

 少女の声は、不思議と掠れていた。 


「最初に言ったよな。今日1日、ずっとお前の事を考えていたんだって。――でも、本当はもっと前から考えてた。『勇者』っていうその名前を聞いた日から。……勇者なんて呼ばれてるような奴は、さぞ変人なんだろうなって」


 「青年」は笑う。


「だってそうだろう? そいつには力があって、栄誉があって、人を救って、きっとそこには誇りもあって。そんな環境に置かれていれば、常識的に考えて性格変わるよ。とにかく、その他大勢と比べて普通じゃないのは間違いない」


 ――「化け物」はずっと、「竜」を見ていた。


「――でも。今日()がした、『なぜ戦うのか』っていうあの人間らしい質問を聞いて、その『間違い』だったんだって気付いたよ。実際、君は偉人だった。凄い奴だった。何かを成せる存在だった。――それなのに。戦う意味に、命との向き合い方に、そこに『自分の答え』という物を持っていない。ニーナのような、『思想』と呼べる物が無いんだ。だから、行動に躊躇(タイムラグ)がある。決断できない。切り捨てられない。せめて理由が無いと、動けない」


 ――「それ」もまた、中からずっと「化け物」を見ていた。


「……君という人間を当ててやろう、勇者。君は世間が想像するような、勇者然とした人間じゃない。君の正体は――」


 だが、「青年」は――「少女」を見ていた。




「――ごく普通の、一般人だ」




 ――ユン。

 姓も何も無い、ただのユン。

 「勇者」でもなく、「化け物」でもない、目の前にいるその「少女」を。


「……結局のところ、君はただ『耐えている』だけだったんだ。押し付けられて、背負わされて、必死に演じて。そして君は運の悪い事に、我慢強い性格だった。だからその全てを乗り越えてみせて、諦めない姿は人を惹き付けて、勇者なんて呼ばれるようになっていって。……でも、耐えられる事と、感じない事は同じじゃない。――だから、ずっと怖かった筈だ。それは戦う事だけじゃなく――」


 与えられた結果(へいおん)を甘受する世界の中で、ただ1人。

 その青年だけが、少女の過程(くるしみ)と向き合っていた。




「――力に気付いたその日からの、『全て』が」




 風が、頬を撫でた気がした。


「――ええっ!?」


 それまでの静かな雰囲気をひっくり返すような声を出し、青年が顔を青ざめさせる。


「あわわわ! いや、別にな!? 俺はそんなつもりじゃなくてだな!?」


 突然慌てだした青年は、ユンの側まで急いで詰め寄る。

 続いて魔法かなにかで空中から1枚の布を取り出すと、ユンの前に差し出した。


「……? あの、これは?」


「え? いや……」


 ポカンと尋ねたユンに、青年は困惑した様子で答えた。


「涙、拭かないの――?」


「―――へ?」





挿絵(By みてみん)





 目元にやった手の濡れた感触に、ユンは自分自身で驚く。

 ――泣いていた。


「あ、あの、大丈夫? これ、使った方がいいような……」


 声もなく驚いているユンに、青年が恐る恐る尋ねる。

 ユンは機械的にその手巾(ハンカチ)を受け取り、呆然としたまま涙を拭った。 

 ――涙を流したのは、いつ以来だろう。

 ユンは記憶を遡る。だがここ半年以内、いや1年以内で思い当たる節が無かった。

 では2年以内――そう考えた所で、思い出した。


 ――2年前。

 初めて王宮に迎えられたその日の夜、与えられた自室で。


 あの日は散々だった。

 自分とは不釣り合いな王宮の洗礼を受け、儀式により勇者である事から逃れられなくなり、仲間たちとの出会いは最悪、そして夕飯を残した。

 その最後にやってきた、人生で初めて体験する1人きりの夜。

 その孤独と不安から――自分は、朝まで泣いたのだった。


 そしてその日以来、ユンは一度も泣いていなかったのだ。


(そういえば――)


 あれはちょうど、こんな静かな夜だった。


 家は遠く。


 人は遠く。


 心は遠く。


 ――自分は、普通とはほど遠く。


 世界中で、1人きりなのだと思った。

 それは、あの夜だけでなく。

 小麦畑の中――自らの異常に気付いた、あの幼き日から、ずっと。


「――は、ぁ」


 異常者には、2種類がいる。

 正に振りきった者と、悪に振りきった者だ。

 人に与えるのは、希望か、憎悪か。

 どちらにせよ、「普通」でないのは間違いない。

 たとえそれが、正しい強さであったとしても。

 誰かに理解される事は――有り得ない。




 ――その筈、だったのに。




「ぁ……あぁ……っ」


 本当は――ずっと、怖かった。


 ――あの馬車が村に来た時も。

 ――故郷から離れていく時も。

 ――王宮の中を歩く時も。

 ――仲間と出会ったあの時も。

 ――初めて命を奪った時も。


 何よりも――自分のこの力こそが。


 ずっとずっと――怖かったのだ。


「――ひっ……ふぐ……うぅぅぅ……っ!」


「はわわわわわ……」


 ただ、我慢しなければならなかった。

 耐えなければならなかった。乗り越えなければならかった。


(だって、僕は勇者だから――)


 そう、ユンは勇者だった。

 負けることは許されなかった。

 泣くことなんて、許されなかった。

 そうして、どんな困難も乗り越えてきたのである。

 ……そう、「乗り越えて」きたのだ。


 ――決して、「切り捨てて」きた訳ではない。


 後ろを振り向けばいつだって、置いて行かれた「それ」が見ているのだ。

 恐怖に震える――「自分自身」が。


「ふえぇーん……っ」


 とうとう本気で泣き出したユンは、顔を覆って蹲る。

 その原因となった青年は、捕まった痴漢のごとく顔面を蒼白にさせていた。

 

「うわぁー! いや! 違う! ごめん! ごめんなさい!! 違うんです! 今までのは虐めたかった訳じゃなくてだな!? 世の中にはきっと分かってくれる人もいるんだよっていうのが言いたかったんであってな!? というか俺も実際よく頑張ってたと思うし! えっと……普通の女の子なのにな!? みんな酷いよな!?」


 青年は同じように目線を下げ、オロオロと言葉を探し続けている。

 そんな本気で心配している姿に。

 ああ――この人は、本当に「僕」の事を考えてくれていたのだなと。ユンはそう気付いた。


 歩み寄る事から、「理解」は始まる。

 ならば、きっとこの青年は――最初から、歩み寄ってくれていたのだ。

 1人ぼっちに生まれてきた、このか弱い怪物に。

 

 長い戦いのその果てに、少女は僅かな慰めを得る。


 1人の少女がいて。

 1人の青年と出会う。

 

 それがユーリでも、化け物でも、勇者でもない――


 人より少しだけ我慢強かった、普通の少女――「ユン」の物語だ。




---




「だ、大丈夫……?」


 ぐすぐすと鼻をすするユンに、ハネットが数度目の問いを投げかける。


「…………」


 ユンは組んだ腕に顔を埋めたまま、首だけを振って肯定の意を示す。

 ――恥ずかしい。

 顔から火が出そうなほどに。それでこんな籠城戦を展開する羽目になっている。

 だが、いつまでもこうしている訳にもいくまい。

 もう何度目になるか分からない決心をし、今度こそユンは顔を上げた。そして気合を入れるため、両手で思いっきり頬を叩く。乾いた音がテラスに響いた。


「おわっ」


「よ、よーし! 復活! 復活です!」


 やけくそ気味に立ち上げるユンに合わせ、ハネットもその腰を上げた。ずっと付き合ってくれていた事に気づき、ユンは叩いて赤くなった顔が更に赤くなった気がした。


「お、おう……それは良かったけど、その張り手(ビンタ)1発で確実に人1人死ぬよね」


「し、死にませんよ!」


 実際には死ぬと思うが、そこは女としてのプライドで否定しておく。


「あー、まあとにかく、なんかごめんな? さっきも言った通り、俺としては悪気があった訳じゃないというか……」


「いっ、いえ! これは逆というか……とっ、とにかく大丈夫ですから! 気にしないで下さい!」


「あ、ああ、そうなんだ……」


 少しだけ無言。落ち着かないユンはやたらと髪を掻き上げている。


「……それで、どうしよっか」


「あ」


 会場への扉を見ながらハネットは言う。どちらが先に帰るかという話だろう。


「あ……じゃ、じゃあ僕が先に……!」


「あー、いや。君はもう少し時間を置いた方がいいんじゃないかな。目とか赤いし」


「ハッ!」


 ユンは思わず目元を押さえる。たしかにこんな状態で帰ると色々と噂になってしまうかもしれない。

 そして男と女である以上、何かと不都合を受けるのは自分よりハネットの方だろう。


「まあ女の子置いて先に帰るってのもアレだけど、ここは俺が先に帰るよ。君は回復力高いだろうからすぐにその目も治ると思うし。しばらくゆっくりしてな」


「す、すいません! 今日は本当に何から何までご迷惑を……」


「いや、うーん……まあお互いに気にしない事にしようか。それじゃ」


 頭を下げるユンに一声かけ、ハネットは会場へと戻っていく。


「あ、そうだ」


 ガラス扉に手をかけながら、最後に1つだけ言い残した。



「世界は人の思い通りにはならない。だからきっと――君が勇者から、ただの女の子に戻るのが許される日だって来る。――それはもしかしたら、すぐ近くかもしれないよ」



「え――?」


 それ以上は何も言わず、ハネットは会場内へと戻る。

 ニーナたちのいる方へ歩く彼の視界内には、彼だけに見えるメッセージウィンドウが浮かんでいた――。




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  送信先:クラツキ



  明日王様脅すっていうイベントやるんだけど、一緒にくる?



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