43 殲滅
2017.3.4
挿絵を追加しました。
――ユン達が魔王城最上階へと足を踏み入れる、少し前。
それはまだ、攻略組がセムヤザとの戦闘を始めたばかりの頃。
王宮の応接間から転移して来たハネット達が、第1階層の防衛組の面々の前へと、その姿を現していた。
「おお、ここが最後の舞台か……思ったより広いな」
「!!?」
転移したハネット達を、数百の人間の視線が出迎える。
フロア中央に突然現れたハネット達に対し、兵士達が咄嗟に剣を向けようとしたが……。
「――賢者様!?」
現れた人影の中に、あの『土の賢者』ニーナ・クラリカの姿を発見してしまい、中途半端な姿勢でその動きが止まった。
ニーナがその兵士達に丁寧にも頭を下げると、トドメとばかりに兵士達に動揺が広がる。
(ふふふ、流石スーパー有名人。どこに行くにも役に立つわい)
「――何事だ!!」
ハネットが知名度という名の便利過ぎる弟子の力にほくそ笑んでいると、困惑しつつハネット達を囲んでいた兵士達を掻き分け、防衛組の最高責任者であるガイゼル将軍が現れた。
ハネットは生ける伝説であるガイゼル将軍を、第一印象から「ハゲのおっさん」と名付けた上、なんとなく偉い人だという事は分かる、というどこまでも失礼な感想を持つ。
「な!? く、クラリカ様……!?」
「よっしゃ。ニーナ任せた」
「はい」
流れるようにニーナに説明を丸投げするハネットである。
(この世界では、大抵の事はニーナに任せときゃ何とかなる)
ほぼ事実であるのがなんとも言えない。
ニーナも特に文句を言ったりしない辺り、すっかり慣れてしまっていた。
「ガイゼル将軍、ご無沙汰しております」
「あ、は、はあ……」
『リアルかくかくしかじか』とでも表現しようか。
ニーナが短く、かつ分かり易くガイゼル将軍に事情を説明してみせる。少しの会話だけでもその頭の良さがにじみ出る少女である。
ニーナが丸投げされた仕事を立派に果たしてみせる中、ハネット本人はフロアの隅にワイバーンを発見し、「あそこにいるの、ドラゴンじゃね?」などとどうでもいい事を考えて過ごした。
……そうして数十秒後、「自分達は増援である」というニーナの説明を聞いた連合軍は、大いに喜んだ。
何しろあの勇者と対を成す存在である、大陸最強の魔法使い『土の賢者』が助けに来てくれたと言うのだ。
周囲で聞いていた兵士達から、拍手喝采が巻き起こる。
そしてティアが幻にして最強の魔法生物たる『エルフ』、そしてルルが大陸最強クラスの存在『最上位傭兵』の1人であると聞いた時の盛り上がりも、また凄い。
そんな話の流れである。
そんなトンデモ支援勢力の中で、最もとんでもない存在である男へと話題が向けられるのは、必然である。
「大変素晴らしいお話です、クラリカ様。では、そちらの男性もまた……?」
「あ、はい。この方は私の『魔法の師』です」
「……………………は?」
ニーナの口からこれまでと打って変わって飛び出た理解に苦しむ発言により、フロアの空気が静まり返る。
今の今まで沸いていた兵士達も急速に静かになり、隣にいた者と顔を見合わせ首を傾げた。
「あの、えー…………く、クラリカ様の、魔法の師……?」
いち早く立ち直ったガイゼル将軍が、なんとかその言葉の意味をかみ砕こうと、オウム返しにニーナの発言をなぞる。
「はい。この方は私より更に上位の魔法使いで、この中でも飛び抜けて最強の存在です。あのユンさんより更に強いので、間違いなく世界最強のお方でしょう」
「……………………はあ?」
ニーナの詳しい説明を聞いて、もっと意味が分からなくなる一同。
兵士達は顔を更に突き合わせ、ニーナ達は周囲のその反応に、ハネットが機嫌を悪くしないかと隠れて冷や汗を流していた。
……そんな中。
ニーナの説明を正しく理解し、興味深そうに目を細めた者が、数人いた。
――ガイゼル将軍を含めた、各国の代表達だ。
自らが歴戦の猛者であり、国においても重要な地位と責任を持つ彼らは、舌なめずりをするかのように、その視線をハネットへと集中させる。
(――あのクラリカ様より、上位の魔法使いだと? しかも伝説の聖剣の勇者たる、ユン殿より強い? この少年が……?)
ガイゼル将軍が、チラリとハネットを観察する。
歳は20にも満たないだろう。まだ少年と言える年頃だ。
それに土の賢者や勇者より上位の存在だと言いながら、彼女らのような滲み出る迫力や威圧感という物を、微塵も感じる事が出来ない。
ただし、装備だけは事実異常なまでに素晴らしい物だ。
正直に言えば、先程からあまりの美しさと宿しているであろう力に、目を奪われてしまっている。
間違いなく、大陸最強クラスである勇者一行の物より上だろう。
本人の実力より、装備品によって力を得るタイプの人間だという事だろうか。
頭の先からつま先までハネットという男を観察したガイゼル将軍は、一番最後にハネットの『目』を見つめた。
その瞳の色は、黒。
それはこの世界では大陸北方……つまりはガイゼル将軍の所属国であるミキシニア連邦に住まう民に多い特徴であり、ガイゼル将軍自身もまた、同じ色の瞳を持つ。
(…………いや。確かに、只者ではなさそうだ。目が『やる奴』のそれだ)
歴戦の将として長年多くの兵士を見続けて来たガイゼル将軍には、その相手が『兵としてどうか』をある程度見抜く力がある。
そのガイゼル将軍の眼力が、ハネットという1人の男を、『出来る兵』だと評価する。
(――初陣でありながら、平気で人を殺せる奴の目だな)
兵として出来る者。
それはすなわち、まともではないという事だ。
ガイゼル将軍の部下にもまた、何人かはこの手の目をした兵がいる。
それらは皆、一様にして非常に優秀であり……つまりは多くの敵兵を殺して帰ってくるのだ。
その『まともではない』漆黒の瞳が――ガイゼル将軍の目を、見つめ返した。
「――っ」
闇色の視線に全身を舐め返され、ゾクリと背筋が震える。
ガイゼル将軍がハネットの瞳を見つめたのは、ほんの一瞬の事であった。
その一瞬のガイゼル将軍の行動を、ハネットは見逃さなかったのである。
(……『やばい奴』だ)
ガイゼル将軍は直感した。
この、先程から目の前にいるというのに、一切の気配を感じさせない不気味な少年は、相応の実力を持つ存在であると。
あの常勝無敗と謳われたガイゼル将軍が、生存本能から思わず目を逸らすと……その先には、今度はニーナの瞳が待ち受けていた。
「…………」
深い青を宿す、静かな視線。
それは、「下手な事は考えるな」という、ニーナからの警告だ。
――ハネットの力は、人類に御し切れる物ではない。
利用しようなどと考えれば、そこに待つのは滅びの道だという。
「…………」
ニーナからの視線に、目だけで頷くガイゼル将軍。
無論、世界最強などという旨味を持つ相手だ。放置するなどという手はありえないが……少なくとも、様子見するぐらいの慎重さを持って挑まなければならない相手だと判断した――。
「なあなあルル、あれってドラゴンだよな?」
「ん? ああ、あれはドラゴンの仲間のワイバーンだよ。馬とかと同じ、乗り物だね。ドラゴンより大人しいんだ」
「ふーん! ドラゴンの亜種を飼い慣らしてるのか……! そいつは実にファンタジーっぽくて良いな。乗った事ある?」
「あ、1回だけあるよ! 前に大貴族から緊急の依頼があってね――」
「あ、あの、2人共。真面目なお話中なら、一応聞いておいた方がいいんじゃ……」
……ちなみに2人がそんなシリアスなやり取りを交わしている真隣では、話に飽きたハネットとルルが世間話に花を咲かせ始めており、まともな神経の持ち主であるティアだけが場の雰囲気を察しオロオロとしていた。
軍事と魔法というそれぞれの分野で、互いに世界の頂点に立つ存在である、ガイゼル将軍とニーナの2人。
そしてそんな大人物2人が真剣に情報交換を行っている横では、どう見ても10代の子供2人が楽しげに雑談に勤しんでおり、そしてそれをよりにもよってその辺のまともな大人ではなく、エルフが窘めているという光景。
そこに展開されているあまりにもシュールな空間に、周囲の兵達は「……本当に凄い奴なのか?」と終始疑問に思っていたとか……。
---
「――あ、そうそう。おいハゲ、勇者とやらは今どこにいる?」
ニーナの説明がある程度終わった頃、ハネットが思い出したかのようにガイゼル将軍にそう尋ねた。
ちなみにこれがこの2人の初会話である。
「ハゲっ――は、はあ。勇者殿なら、先程、49階層に向かった所だが……」
「49ねぇ……?」
引き出した最重要情報を、マップウィンドウと照らし合わせる。
ハネットにしか視認できないホログラムで表示された魔王城の立体マップでは、自分達の遥か上空……大体500mぐらいの所で、1つの赤い点と、たくさんの緑の点が忙しげに蠢いていた。
赤い点から魔法反応があるので、どうやら敵の魔族は魔法系モンスターのようである。
ちなみにその戦いの地となっている49階層から上は、どうやらぽっかりと空いた巨大な空間になっているようで……『最上階』までのその50m強の高さを、1周するだけで250m前後という超巨大螺旋階段が繋いでいた。
………………。
「………ってオイ!! 49階層って、最上階の一個前じゃねえかッ!!」
「!? あ、ああ。お分かりになるのか……?」
ハネットはガイゼル将軍の質問を完全に無視し、ニーナ達に向き直る。
(ヤバイヤバイ。思ったよりも遥かにギリギリだ。のんびりしてる場合じゃなかった)
勇者より先に魔王を倒す為には、今すぐにでも最上階へと向かう必要があるようだ。
「お前達。俺は魔王をサクッとぶっ殺してくるから、その間に外の魔族共を皆殺しにしとけよ」
「は?」
ガイゼル将軍が更なる疑問符を浮かべているが、ハネットはこれもスルーした。
「畏まりました」
4人での作戦会議は王宮で既に済ませている。
予定通りの展開に、ニーナ達は静かに頷いた。戦いの覚悟は出来ているようだ。
「じゃあ俺は早速……ああ、いや、待てよ」
先程の立体マップにチラッと映っていた外の敵影は、そこそこの数であった。
恐らく1万はいるだろうと、ハネットは長年の経験から見当を付ける。
昨日のレベリング作業により、それぞれが10レベル前後成長しているとは言え……ニーナ達3人だけで全滅させるのは、不可能な数である。
ハネット製の装備やポーションで魔力量をドーピングさせてはいるが、流石にそれが1万体を相手にしても最後まで持つと考えるのは、希望的観測に過ぎるだろう。
「ちょっと数を減らしとくか……。おいお前ら! ちょっとそこ退け!」
「!?」
入口で籠城戦に勤しんでいる兵士達に、ハネットが「脇に退けろ」とジェスチャーしながら近付いていく。
が、その行動がどういう意図なのかが分からないのだろう。戦闘中の兵士達は持ち場を離れる訳にもいかず、仲間同士で顔を見合わせている。
ハネットがその戦場を少しだけ観察した所、扉は内側に開く造りになっているようだ。
それならばつっかえ棒をするとか、土魔法で埋める等の手段で完全封鎖できそうなものなのに、とハネットは考察する。
(いや、よく見ると扉の周りに、その努力の痕跡が見えるな……)
どうやらハネットに言われるまでもなく、既に試した後であるようだ。
それが現在では撤去されているという事は、なんらかの不都合があったのだろう。
(まあ考えてみればそりゃそうか。レベル30クラスのモンスターが1万も集まってるんだ。どんなに塞いでも腕力で無理やり抉じ開けられるか。溶かしたアダマンタイトで完全に塞ぐぐらいしなきゃな)
やはりここで倒しておくのが手っ取り早い。
そう判断したハネットは、未だ誰1人として持ち場を離れない兵士達に向け、これ見よがしに右手を掲げて見せた。
「ほらほら、巻き添えになるぞ? ――威力強化Ⅲ、範囲縮小化Ⅰ、【ライトランス】」
「ちょっ!?」
問答無用で光の投擲槍を作り出し、構えるハネット。
ハネットが何をするつもりなのかをよく理解したであろう兵士たちが、扉の隙間から入ってこようとしている魔族たちにも構わず、一斉に脇に飛び退いた。
「ヌッ! 今ダ、全軍――」
「はい残念」
高さ9m、厚さ1mはあろうかという扉を一気に抉じ開けようとした先頭の魔族目掛け、ハネットがライトランスを投擲する。
一条の光の矢となった槍は直線を描き、その超巨大な扉ごと、押し寄せていた魔族たちを木端微塵に粉砕し尽くした。
「うわああああ!? ――うわああああああああああっ!!!?」
あまりの衝撃的な光景に悲鳴を上げた兵士達から、更に立て続けに悲鳴が起こる。
ライトランスは貫通系の当たり判定は投擲直後だけで、その後は着弾した場所を中心にして、ドーム型に範囲爆発を起こす。
数トンはありそうな扉を文字通りに吹き飛ばして飛んでいった光の槍は、そのまま700mほど真っ直ぐ飛んで地面に突き刺さり、直径1kmほどを巻き込む、眩い大爆発を発生させた。
「ウワアアアアアアッ!!!?」
それを向けられた魔族たちの上げる悲鳴と、先程から味方が上げている悲鳴が完全に同じ物な気がするが……当然ハネットは気にも留めない。
1万の魔族を外側から飲み込むようにして起きた大爆発は、その内の8割を範囲に納め、この世界から完全消滅させた。
残った魔族は約2千。
偶然にも、昨日ニーナ達だけで倒した数と同程度だ。
少数ずつを各個撃破できた昨日と違い、その数が一気に押し寄せてくる点は厄介かもしれないが……3人が火力担当職の魔法使いである特性上、この一面の更地というマップは一番戦い易い場所である。
(まあ適当に魔法撃ちまくるだけでいいし、余裕だろ)
少なくともニーナだけで、半分の1千ぐらいは倒せるだろうとハネットは予想する。
(多分将の魔族とかいうのも、今のライトランスでほとんど殺せた。いざって時は後ろの連合軍も助太刀してくれるだろうし、具体的には3体ぐらいまでならなんとかなる筈だ)
ここまでやって勝てないような3人ではないだろう。
こちら側の手助けは十分だと判断し、ハネットは3人に振り返った。
「じゃ、俺は行って来るから。後よろしく」
「は、はい」
「ま、任せて」
「が、頑張ります?」
ライトランスの威力に顔を引き攣らせる弟子達を残し、ハネットは最上階へと転移する。
(さて勇者、その敵にせいぜい手こずっとけ。魔王は俺が、ちゃ~んと倒しておいてやるからよ――)
その先に待ち受けるのは、魔王か、それとも……。
世界の明暗を分ける、邂逅の時が来た。
---
「き、消えた……。い、一体、何者なのだ……」
ハネットが転移で姿を消した直後、ガイゼル将軍が茫然と呟いた。
周囲の兵士たちも全く同じ様子である。
「では、行きましょうか」
「うん」
「は、はい!」
そんな彼らを尻目に、ニーナ達3人は、扉が吹き飛び巨大な長方形の穴となったそこから表に出る。
「強化をかけるよ。……【光の全強化の魔法】――!」
「精霊たちよ、力を貸して――!」
ルルがハネットから習った強化の魔法を全員に掛け、ティアはそこから更に精霊の加護まで受ける。
警戒用の探知魔法として、ニーナとルルがそれぞれ【サーマルヴィジョン】と【ライトエコー】を発動し、戦闘準備が完了した。
「とりあえず、私とルルさんで最初に数を減らしましょう。空の敵はティアさんにお願いします。追いつかないようだったら、私とルルさんも補助をする形で」
「分かった」
「はい!」
2人と簡単な作戦のすり合わせをし、ニーナが狼狽する魔族達へと杖を向けた。
「では、行きます。
――【暴食の魔法】ッ!!」
その瞬間。
世界最強の土魔法が、哀れな2千の魔族へと向けて、炸裂した。
ハネットの腕輪によるドーピングを利用し、通常の3倍近い魔力を贅沢に注ぎ込まれたガイアグラトニーは、直径400m、深さ30mにも及ぶ超巨大底無し沼を出現させ、地面に敵を縫いつけた。
「ナンダッ!!?」
「沈ム……ッ!!!!」
「沈ムゾォ!! 抜ケ出セッ!!!」
「ウワアアアアアッ!!!!」
扉周辺に密集していたおかげで逆にハネットのライトランスに巻き込まれずに済んでいた魔族達が、今度はことごとくその泥沼に飲み込まれて行く。
「ソ、空ダ!! 飛ベ!! 飛ベェエエエ――ッ!!」
突如自分達を襲った、見た事も聞いた事も無い謎の土魔法。
その魔法の弱点に、いち早く気付く事の出来た飛行型魔族が、ほとんど絶叫のような指示を出しながら、自分の翼をはためかせる。
腰まで沈みかけていた体が、やっとのことで空へと抜け出た。
「させないよ!
――【聖雨の魔法】ッ!!」
……が、そこに降り注ぐ、光の雨。
「ガフッ!?」
ルルの『特性』により威力と範囲を2.5倍に強化された、光の中位魔法【ホーリーレイン】だ。
ニーナが出現させた超広大な泥沼を、更に上回るような馬鹿げた規模で、【ライトアロー】の光の矢と同じ物が降り注ぐ。
最強の土魔法に続いて発動した、最強の光魔法であるそれにより、駄目押しとばかりに生き残りたちも死滅した。
「サ、サッキカラ何ガ起コッテイルンダ……!? 糞! ゼ、全軍デカカレェエエエ――ッ!!」
一瞬で半数の千近くの仲間を削られた魔族が、対魔法使い戦時の常套手段、数による飽和攻撃を開始する。
その突撃を見ながら、ニーナは冷静にMPポーションを1本取り出し、自分の魔力を回復させた。
「……もう一撃行きます。
――【火神の魔法】」
「ッ――――」
敵が押し寄せる前にニーナが発動した、もう1つの中位魔法。
数で押し潰そうとした魔族達が、数百体まとめて青い炎に薙ぎ払われる。
「ナ、ナニィィィ――ッ!!!?」
10秒後。
後には灰すら残っておらず、まるで釜茹で地獄のように、表面を沸騰させた泥沼だけが残っていた。
――単独による、2種類以上の中位魔法の行使。
四天王最強の個体であるセムヤザが敵となってしまったかのようなその光景に、魔族達は眩暈を覚えた。
「――私も!!」
「!!!?」
飛行で一気に距離を詰めてきた魔族達を、ティアの【スノーファング】が正確に撃ち抜いていく。
森で暮らすエルフの優れた空間把握能力と魔弓の誘導性能が凶悪に合致し、1回の発射で3体ずつが確実に屠られていくその様は、飛行型魔族にとっては悪夢その物であった。
「【光矢の魔法】!! 【光輪の魔法】!!」
そこに更に追加される、同じく命中率100%を誇るルルの光魔法。
魔族達は早々に、空からの攻撃を諦めた。
「ジ、地面ダッ!! 地面カラ一気ニ畳ミ掛ケロ!!」
残った数百体は大地へと降り立ち、一斉突撃を敢行した。
しかも前列の仲間を足場と盾にする事で、泥沼の上でありながら距離を詰める事にも成功する。
魔族たちが『自分』だと定義しているのは、自分という『個』ではなく、『魔族軍』という『群れ』である。
故に、自分たち……すなわち、『個』が少しぐらい犠牲になることに恐怖は無い。
現地生物でも魔物でもなく、【モンスター】である魔族たちの行動理念は、『虫』や『ロボット』に近いのだ。
そんな、人間の目から見れば決死の覚悟を感じさせる方法で距離を詰めた魔族軍だったが……今回は相手が悪すぎた。
「ルルさん!」
「ルル!」
「任せて! ――【聖域の魔法】ッ!!」
「ガッ――!!」
「ウグッ!?」
ハネットの手によりルルに授けられた、光の中位魔法【ホーリーサークル】。
範囲防御の魔法であるそれが3人を中心に展開され、半径20m以内にまで迫っていた魔族達を、一斉に弾き返して見せた。
牽制として飛んで来ていた遠距離攻撃は、その全てが光の障壁に綺麗に打ち消され、強制的に押し返された魔族達は、ドミノ倒しのように後方に崩れ、泥沼に嵌る。
「――【火鞭の魔法】ッ」
そこにニーナの杖から伸びた、白い閃光が襲い掛かる。
炎の鞭で敵を切り裂く近接魔法【プラズマウィップ】。
天才であるニーナの手により、ほんの10日ほどというごく短い期間の練習で、発動時間が15秒から0.8秒にまで短縮されたそれが、数十の魔族を一振りで薙ぎ払う。
「糞ォッッッ!! ア、アッチダ!! アッチノ弓使イヲ狙エ!!」
どうもニーナとルルの2人には勝てないらしいと悟った魔族達が、標的を残ったティアへと変える。
弓による遠距離攻撃を主体としているティアなら、近接戦に持ち込めば勝てると踏んだのだ。
「精霊よ――ッ!!」
「ッ――」
――が、そんな淡い期待は、精霊魔法を扱うティアの前に、容易く消し飛ぶ。
ティアの手の平から発せられた光の濁流……精霊が発した攻撃の魔力に飲み込まれた魔族達は、あっさりとその存在をこの世界から抹消される。
精霊魔法はこと火力という一点において、ニーナの全力の攻撃魔法すら容易く凌駕するような代物なのである。
逆に唯一の弱点が、範囲と射程距離が短いという点だった訳だが……その辺りまで考えていたハネットの手により、今はスノーファングが与えられている。
レベルは昨日のレベリング作業によりルルに追いつこうかという勢いであり、ステータスは精霊の加護により更に伸びる。
故に、現在のティアは、下手をすればこの3人の中で最強の存在であるとも言っても過言ではない状態にあった。
精霊を操り近距離を支配し、弓によって遠距離を蹂躙する。
ヒト近親種最強の存在、エルフの完成形とも言える姿が、そこにはあった。
「バ、化ケ物共ダ……!! 撤退ッ!! 撤退ィ――ッッッ!!!!」
僅か2分という短時間で既にその数を10分の1まで減らしてしまった魔族達が、今更ながらに逃走を図る。
しかし本来ならば、魔王城こそが自分たちの帰るべき陣なのだ。
それを呆気なく占領された上に、こうして奪還する事も出来ずに尻尾を巻いて逃げ帰る。
それも、未だ占拠された魔王城最上階に、自らの王である魔王を残して。
魔族達にとって、そんな現状は、これ以上ない程に屈辱的な物であった。
「――【火球の魔法】!」
「【光輪の魔法】ッ!」
「【落雷の魔法】――!!」
そんな魔族達の背中に、容赦なく魔法の雨が撃ち込まれる。
魔族はその1体1体がドラゴンの戦闘力にも匹敵する。1体でも残れば、人間の村ぐらいは容易く滅ぼされてしまうのだ。
ハネットに命令された通り、敵を『全滅』させる為、3人は逃げ惑う魔族達の背中へと追い打ちをかけ続けた。
「【地角の――】 !?」
「!!」
「っ――!」
順調に見えた追撃戦だったが、突如3人が攻撃の手を止め、その場から無詠唱魔法……【フローティング】や光魔法を応用した方法で、飛び退いた。
1秒にも満たない刹那。
空から降って来た人影が、3人のいた場所に刃を走らせる。
用心深く発動しておいた探知魔法。
それのおかげで、3人はその奇襲を察知する事が出来たのだ。
「――チィッ! 躱したか!!」
「将の魔族……!!」
現れたのは、堅牢な鎧の隙間から紫色の肌を覗かせる、1体の魔族。
その手には、赤いオーラを刀身に纏う、不気味な両手剣が握られている。
ニーナはその装備と、魔族自身から感じる底知れぬ圧力に、敵が将の魔族である事を即座に理解した。
この総崩れの状況下でもたった1体しか現れぬ事から、ハネットのライトランスから生き残った、唯一の将の魔族なのだろうと推測する。
他の将の魔族たちは恐らく、将として後方に陣取っていたのが仇となったのであろう。
「【蒼火球の魔法】――ッ!!」
敵の正体を認識した瞬間、すかさずニーナが攻撃力に優れる火魔法によってカウンターを放つ。
【エクスファイアボール】。
数日前にニーナが開発した、【オリジナル】魔法だ。
より高温である青い炎を使用しており、範囲は通常のファイアボールと変わらないながらも、威力だけはアグニフレイムと同等の物を持たせる事に成功している。
陣形の中に深く入り込まれた現在の位置関係において、他の2人を巻き込まず、かつ将には最大のダメージを与えられる、効果的な魔法選びだ。
「ぐぁ……ッ!?」
昨日は他の将の魔族たちに、軽い火傷を負わせる程度のダメージしか与えられなかった青い炎だが、今度は違った。
あのアグニフレイムと同じ炎に焼かれた将の魔族が、明らかにその威力に怯んだ様子を見せたのだ。
王都での戦いにより、『実戦』と『実践』を経験した事で、自身の魔法を扱う技術力が一段階成長した事を、ニーナは確信した。
(よし、通る!! これなら行け――)
「えいっ!」
「ゴフッ――!!!?」
ニーナが勝利までの道筋を高速で計算している最中、ティアがスノーファングから咄嗟に放った魔弾が、将の魔族に直撃した。
……そしていつも通りの破裂音を轟かせながら、体の半分を失う将の魔族。
「……は?」
「え?」
「えっ……」
たった一撃で行動不能の大ダメージを負った将の魔族を見て、逆に思考が停止する3人。
「ゲフッ!? ガハッ……!」
「…………あっ、え、えいっ!」
――ドパァンッ!!
2発目の魔弾により、残っていた部位すらも爆発四散させた将の魔族は、あっけなく息絶えた。
一般的な魔族たちが全て一撃死であった事を考えれば、それに2発耐えてみせた将の魔族は、流石……と言うべきなのだろう、か?
「……う、嘘。本当に倒せちゃった……」
「うわぁ……」
「や、やはり、聖剣に匹敵するほどの……?」
「――ウ、ウワァアアアアア!!!!」
ハネットが近所の子供に飴をあげるような感覚でポンと寄こしてみせた武器の威力に、ドン引きするニーナ達。
それを見ていた生き残りの魔族達も、一目散に逃走を再開させた。
「糞!! 応援ヲ……応援ヲ呼バナクテハ……!!」
命からがら逃げ延びた百体ほどが、とにかく魔王城から距離を取ろうと大地を駆ける。
総出撃した魔族の数は、約2万。その中には2体の四天王も含まれている。
残り1万いる魔族達が一堂に会し、生き延びた自分たちの情報を元に対策を立てて再度挑めば、必ず勝利出来ると希望を抱いて……。
「はぁ……。もう、色々と考えない事にしましょう。いつもの事ですし。
――【地神の魔法】」
そんな哀れな敗残兵たちの足元に、トドメを刺すようにして、地獄の扉が口を開けた――。
---
「なんなんだ、これは……。お、俺が見ているのは、現実なのか……?」
その空前絶後の蹂躙劇を、壊れた出入り口から眺めていたガイゼル将軍は、呆けた表情でそう零した。
彼が目の前の光景を受け入れられないのも、無理はない。
それどころか、伝説の転移の魔法をあっさりと使い、一撃で8千という数の魔族を滅ぼすような存在の時点で、既に受け入れらない状況だったのだから。
「……しょ、将軍。これは……勝ったんですよね?」
「!」
ガイゼル将軍と同じく、呆けていた副官がポツリと零した。
その言葉を聞き、部下の士気を上げねばならぬ立場のガイゼル将軍はハッとする。
「――み、皆の者!! 土の賢者様とその仲間が、1万の魔族を滅ぼし尽くしたぞ!! 分かるか!? たった4人で、1万をだ!!!!」
「お……おお。
………………おおおおおっ!!?」
ガイゼル将軍の咄嗟の言葉に、彼らと同じく茫然としていた兵士達が、少し間を持ってから顔を見合わせる。
あの千年に一度の天才と呼ばれる土の賢者より、更に上位の魔法使い。
それが閃光の大魔法により8千もの魔族を容易く薙ぎ払い、そして彼女達もまた、たった3人という人数で、2千の魔族を滅ぼし尽くして見せた。
一国の軍が対峙して、初めて対等に戦える魔族の量が、およそ1部隊。すなわち、1千だ。
それの10倍もの数を、たったの4人で……しかも、2分ほどという超短時間で。
――どう考えても、それは伝説に残る戦いである。
そんな伝説の光景の中に、今まさに自分達が立ち会っているのだという事実に、やっと頭が回り始めた。
「見ただろう、今の蹂躙を!! もはや敗北の可能性など、1分も無い!! この戦い、確実に勝ったぞ!! 我ら人類の、完全勝利だ――ッ!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお――ッッッ!!!!」
ガイゼル将軍にここぞとばかりに煽られ、誰しもが歓声を上げる。
兵士達の士気は最高潮に達し、『土の賢者コール』が鳴り止まない。
ハネットがこの場にいれば、「え? そこ俺じゃなくてニーナなの? 倒したのほとんど俺だよ?」とでも言っただろうが……忘れてはいけない。
ハネットは地味に、ここに来てから誰にも自己紹介をしていなかったのである。
兵士達も一番の功労者が誰であるかなど分かっているが、ガイゼル将軍含めて誰もその名前を聞いていないので仕方がない。
……ただし、そこに知名度と日頃の評判という物も関係しているのは、誰にも否定できないだろう。
「うおおおおおおおお!!!!」
「土の賢者、さいこおおおおおう!!!!」
そうして籠城戦が束の間の終わりを見せ、ニーナ達が騒がしい第一階層へと再び足を向けた時の事である。
――その、禍々しい『滅びの予感』が、全員の背筋を舐めたのは。
◇
(まーたデカい扉だよ)
この世界の奴等は、本当に扉を大きくするのが好きだな。
魔王城最上階。
転移したそこでは、黒い石かなんかで出来た、相変わらず無駄にデカい扉が俺を待ち構えていた。
ゼルムスの奴隷商館、王都の高級宿屋や王宮など、本当にこの世界ではどこに行っても扉がデカい。
他人から見られる玄関や門をデカくするのは分かるが、屋内の扉までデカいのは本当に謎だ。やはり現地の価値観だと何らかのステータスになるんだろうか。
(ん?)
扉を観察して気付いたが、どうやらこの階は、第1階層とは材質や【付与スキル】が……とにかく、造りが全く違うようだ。
(なんだこりゃ。やけに丈夫に作ってあるな。……ボス部屋だからか?)
この塔を作った奴の、『そもそもの目的』は知らんが……。
少なくともこの階層からは、「戦闘に耐えられるように」という製作者の意図が、透けて見えた。
下手をしたら、この惑星自体よりも、この部屋の方が頑丈なぐらいかもしれない。
まあそうは言っても、俺が1発本気の攻撃魔法を撃ち込むだけで、あっさりと崩壊しそうだが。
(……あれ? ということは、これ範囲攻撃使えないんじゃね?)
おっと、これは嫌な事に気付いてしまったぞ。
上に支える物がある他の階層ならばともかく、最上階なので吹っ飛ばしてもさほど大きな被害は出ないと思うが……。
まあ念の為に、単体攻撃だけで戦うか。
瓦礫とか落ちて、下で戦ってるニーナ達に当たっても困るし。
(まあ魔王っつっても、所詮雑魚だろうしな。余裕だろ)
一般的な魔族が30レベ前後。
それを束ねる中ボス的立場の将たちでさえ、最高で70レベ台だったのだ。
多めに見積もったとしても、魔王のレベルは最高150ぐらいだろう。無難な所で120ぐらいだ。
このゲームでの『ボス』の代名詞である、期間限定イベントのボス……通称【レイドボス】達とは、比べようもない。
あれはステータスの一部が『測定外』になるほど高く設定されており、挑戦する際はプレイヤー複数人での協力討伐が公式で推奨されているような、アホな次元の敵だからな。
FFFは蘇生魔法無限発動マシーンである俺がいるおかげで、現状の3人でも時間さえかければギリギリ何とかなるが。
うむうむ。やはり今回のように敵が弱いのは、非常によろしい。
俺は弱い者イジメしかしない主義だ。
ただし1つだけ不満があるとすれば……それはやはり、ソロプレイ初のボス戦だというのに、得意の範囲魔法で派手に戦う事が出来ないという点だろう。俺のようなタイプのプレイヤーは、マップは広ければ広いほど戦い易いのだ。
(まあしゃーない。さて、勇者が来る前にさっさと終わらせるか。――【セイクリッドコート】)
重さ数トンはありそうな巨大な扉を片手で軽々と押し開けつつ、同時に罠を警戒して、無敵化魔法をかけておく。
探知系スキル【ピーピングアイ】に反応が無いから、トラップは仕掛けられていないみたいだが……開けた瞬間に魔王本体から不意打ちが飛んで来る可能性もある。
堂々としているように見せかけつつ、ちゃんと保険をかけて侵入したが……特に何も起こらなかった。
――せいぜい中にいらした魔王様と、目が合ったぐらいである。
「…………」
「…………」
部屋の中央、動物の骨で出来た禍々しい玉座に腰かけていた魔王(?)とやらは、その所々から妖しい緑の光を漏らす、漆黒のフルプレートメイルを纏っていた。
あ、懐かしい。クラツキがレベル100ぐらいの時に着てた装備だ。
やはりこいつもプレイヤー装備か。本当にどういう経緯でこんな状況になっているのか。
もしかしてこの魔王城と魔族自体、運営がイベントとして用意した物とかじゃないだろうな?
俺と相手の間に、謎の沈黙が流れる。
なぜか知らんが、向こうの方から攻撃してくる気は無いようだ。
というか……。
●オークロード
(……こいつ、なんで『中立オブジェクト』なんだ?)
俺の視界に浮かぶ魔王の名前欄には、レベルが表示されていなかった。
これはニーナ達と同じく中立オブジェクトの証であるし、事実マップに映るこいつの点も、赤色じゃなく緑色だ。攻撃して来ないのはその為だろうか。
つーか……。
(オークロードかよ!! 糞雑魚じゃねーか!!)
オーク。
二足歩行の人型モンスターである。
オークロードは、それの上位種だ。
ちなみにこのザ・ワールドではオーガと同じく鬼っぽい見た目をしているが、公式設定資料集によれば、デザインのモデルは豚らしい。
ぶっちゃけそっち方面は詳しくは知らないんだが、もしかしたら元ネタの『オーク』という空想上の存在自体が、豚の化け物なんだろうか。
それにしても、他の将のラインナップから、まあそんなもんだろうとは思っていたが……。基本レベルが40に設定されている筈のオークロードじゃ、プレイヤーにどれだけ育てられていたとしても、せいぜい100レベって所だろう。
装備なんて、まさに適正レベル100のやつな訳だしな。
とりあえず距離が遠すぎるので、会話ができる場所まで近付いてみることにする。
その間も、魔王(?)は何もしてこない。
てくてくと歩いてくる俺を、黙って眺め続けるだけだ。
なんだこのシュールな空間。
「おい、お前が魔王か?」
中立オブジェクトになっているのが謎なので、一応確認だけ取っておく。
バグかなんかで、鎧の中身だけ罪なき一般人NPCになってたりしねーだろうな。
「――ああ、私が『魔王』だ」
低い声での返事と共に、魔王が気品を感じる仕草で頷いて見せた。
なるほど、品格だけは魔王に相応しいようだ。中身は豚だけどな。
「良かった、魔王なのか。じゃあ今からお前ぶっ殺すけど、なんか言い残すセリフはあるか?」
「ふむ……そうだな。では、今から私を殺すという勇者の名を、聞かせて貰っておこうか」
お、こいつノリがいいな。ちゃんとボス戦っぽいやんけ。
(……あと、安い挑発に乗るようなタイプではない、と)
『敵』を観察し、いつも通りこれからの流れを適当にいくつか考えておく。
「俺の名か。ハネットだ。勇者と言うより、勇者代行の方が近い」
「ふむ、そうか……。『ハネット』、か」
「で、気は済んだか?」
「ああ、済んだとも。――では、始めるか」
やけに平然としているから、戦う気が無いのかと思ったが……意外と向こうもやる気のようだ。
魔王は玉座から立ち上がり、これまた昔、どっかの青い奴が装備しているのを見たような、低レベルの見た目だけは良い双剣を抜き放った。
「――おう、来いや。屠殺してやるぜ豚野郎」
指をクイクイと曲げ、「かかってこい」と構えてやる。
……ま、こっから既に演技なんですけど。
(【フローティング】、【ライトウィング】――!!)
「ぬっ――!?」
「来いや」とか言いつつ、こっちから先に不意打ちをかましてやった。
具体的には、文字通りの『光の速度』で、魔王に真っ直ぐ突っ込んだ。
敵が確実に勝てるような雑魚であっても、容赦はしない。卑怯は俺の代名詞だ。
咄嗟に剣を振り抜き迎撃しようとする魔王だったが、その剣は先に発動しておいたセイクリッドコートが無効化してくれるので無視する。
――は!?
というかこいつ、俺の動きについて来ただとッ!?
(ぐ!? 【ペネトレート】ッ!! ――なに!?)
有り得ない速度で繰り出された敵の反撃を、片腕で無理やり受け止め、その一瞬の隙にステータス情報だけ盗み取る。
それとほぼ同時、突っ込んだ時と同じ速度で一気にバックし、慌てて敵から距離を取った。
「な……お前……ッ!?」
視線の先。
反撃がクリーンヒットしたのに一切ダメージを負った様子の無い俺に、警戒を見せつつ再び双剣を構え直した魔王は……戦意を持ったことで、通常通りの敵性オブジェクトに変化していた。
●【RAID BOSS】オークロード Lv.527
HP 測定外
MP 測定外
物攻 ■~■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
魔攻 ■~■■■
物防 ■~■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
魔防 ■~■■■■■■■■■
耐久 ■~■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
敏捷 ■~■■■■■■■■■■■■■■■■■■
運 ■~■■
※備考---【RAID BOSS】
対象レベル以上のプレイヤー複数人での協力討伐推奨。
(あ、あっれれ~? こ、これ、や、ヤバいかもぉ~~~?)
セイクリッドコートの効果により、敵の攻撃からダメージを肩代わりしたMPを見れば……膨大を誇る筈のそれが、なんと1割近くも減っていた。
それはつまり、もしもセイクリッドコートを発動してなかったとしたら――。
――即死の一撃を受けていた、という事だった。
ニーナ達の無双シーンはもしかしたら書き直すかもしれません。