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40 魔王城へ

2016.11.11

 衛兵長に案内され応接室に戻ると、部屋にはメイドが2人来ており、ニーナ達に給仕していた。


「あ」


 片方は例のメイドさんだ。

 彼女は俺と目が合うと、洗練された動作で頭を下げた。隣のメイドもそれに続く。

 深い礼だ。

 言葉は無いが、これは国王たちと同じく、命を救われた事に対する礼なのだろう。

 何も言わないのはアレかな。メイドは自分から喋っちゃいけないとか、そういうルールがあるのかな。


「やあ、あれから問題無かったかい?」


 向こうからは喋れないようなので、こっちから話題を提供した。

 まあ全然関係ない話題だが。

 正直、人から感謝されるのはくすぐったい。


「あ…………はい。特に処分が下る事もありませんでした。全てはハネット様のお口添えのおかげです」


 「あれから」というのは今朝の話ではなく、前回会った時からの事だ。

 ルルと出会った時に王宮内に変わらず居たので、多分クビにはなっていないだろうとは思っていたが……。本当に、お咎め無しで済んでいたようだ。

 俺の「口添え」のおかげという事は、俺が何か言ったせいなんだろうな。3か月も前の事だから憶えてないけど。


「そうか。減給とか降格とかされてないなら、良かった」


「?」


 事情を知らないルルとティアがその遣り取りに疑問符を浮かべる中、先程と同じくニーナの隣に腰を落ち着けた。

 流れるようにしてメイドさんがお茶を用意してくれる。


「ああ、そうそう。突然だが、今夜はここに泊まることになった。3人部屋があるらしいんで、お前達はそこにして貰った。ニーナ、2人のことは任せたぞ」


「そうですか。畏まりました」


 2人の監督役となるニーナが頷いたのを確認し、暇潰しにメイドさんから現在の王宮の状況を聞いたりした。

 20分ほどした頃、執事の1人が部屋へやって来た。


「皆様方、お部屋の準備が整いました。ご案内致します」


 俺達が泊まる部屋の準備が出来たらしい。

 執事に案内され、まずは俺の部屋へと向かう事になった。




---




「おお、良かった。あと少しで入れ違いになる所だったか」


 応接室を出てほんの僅か。廊下の先から戦士長と騎士長がやって来た。

 言い方からするに、俺に用があったんだろう。さっきニーナが言ってた件かな。剣だけに。


「ハネット殿、よくぞ戻られた。犠牲者を復活させに向かったという事だったが、そちらはもう良いのだろうか?」


「ああ、もう蘇生させた後だ。今頃向こうでは、お前らの部下達が頑張って後片付けしてるだろうよ」


「そうか、では民達も皆生き返ったのだな。……流石だな」


 正確には全部じゃないけどな。

 つーか俺の皮肉をスルーすんな~?


「それで、何の――ん?」


 用件を聞こうとしたが、その途中で騎士長の方の目が、一瞬だけ俺の背後にチラリと向けられたのが気になった。


(? なんであいつはニーナの背中に張り付いてるんだ)


 その視線を追って振り返ってみると、なぜかルルがニーナの背中に隠れていた。

 身長があまり変わらないから、隠れているというより張り付いているという方が近い見た目だが。

 一体何の遊びだろう。セミごっこ?

 セミ目セミ科セミ属のルルゼミか。


「出会いが出会いですからね。戦士長が苦手なようです」


 俺の視線を受けて、ニーナが彼女の気持ちを代弁した。

 見ると戦士長もルルにどう接すればいいのか分からず、戸惑っているようだ。

 そういえばあの時は敵同士だったな。俺もだけど。


「ふーん。……ルル、ちょっと『ミーン、ミーン』って言ってみてくれ」


「? ……み、みーん、みーん」


 うん、かわいい。

 満足したので戦士長に向き直った。


「それで、何か用か?」


 ミーンミーンと言わせたのは何だったのか。というかルルと戦士長についての話には触れないのか。というか会話の流れという概念が無いのか。

 今の数秒の間にツッコミ所が有り過ぎて全員の頭に「?」とか「!?」とか浮かんでいるが、気にしないし説明もしない。

 会話がキャッチボールじゃなくドッジボールになるのはFFFでは日常風景だ。


「あ、ああ……。んんっ、――まずは感謝を。ハネット殿のおかげで、私は勿論、この王国の未来は守られた。本当に感謝している」


「ハネット様。私からも、最大の感謝を」


 国王やメイドさんたちと同じく、2人は最初に礼から入った。

 それにしても、この世界に来てからたまにあるが、自分より年上の男に頭を下げられるというのは、変な気分だな。


(……いや、それは差別か)


 自分の中にごく自然に湧いた感想を、直後に自分で非難する。


 頭を下げたのが年上だからと言って、特別視する必要は無い。例え相手が年下だろうが、感謝を向けられるのはありがたく思うべきだろう。

 要するに――誰かから感謝されるという事は、全てが等しく、『特別』なのだ。


(――いやいや、真面目に考え過ぎだろ。ゲームだぞ)


 一瞬『()()()()()()が、ギリギリで持ち直した。

 危うく真面目な2人の感謝に、真面目な返事をする所だった。


(そもそも、その道徳観は俺には必要ない。性格上、お礼なんて言われる事は、まず無いんだから……)


「ああ、安心しろ。国王陛下がお前らのその気持ち分まで頑張って払って下さるから」


「フ……」


 咄嗟に出した軽口だったが、今度のはウケた。ニーナにだけど。

 肝心の2人は上司をネタにした冗談を笑う訳にもいかず、ちょっと反応に困っている。


「そ、それと、この宝剣をお返し致そうと思ってな。あの後何度か魔族が来たが、これのおかげで容易く撃退できた。本当に素晴らしい剣だ。重ね重ね、礼を言う」


「ああ、それは在庫処分のつもりでやったもんだから、気にせず受け取れ」


「…………」


 2人とニーナが目で会話をする。なんだろう。


「師匠、その2本の剣は、この大陸では最上位の領域にある魔法剣です。ですので……」


 なるほど。無償の施しを受けるのは勿論、価値が高過ぎて腰が引けるのか。

 実を言うと、俺も意外とそういうの気にするタイプなのでよく分かる。

 昔友達の家でそのお婆ちゃんに「子供が遠慮なんてするもんじゃないよ!」と怒られて以来、意識して素直に受け取るようにしているが。

 相手がくれるという物を受け取らないのも、それはそれで失礼な場合があるのだ。俺はそれをあの件から学んだ。

 つーか今回の場合は失礼というより、単純に困る。アイテムボックスの容量的に。


「ふむ……なるほど。――では、こう言ってやろう」


 重要な発言をすると分かり易いよう、2人に向けて人差し指を1本立てた。




「――命令だ、受け取れ。……以上ッ!」




「……………」


 顔をポカンとさせる2人。

 ニーナ達3人は俺の言動に慣れてしまったのか普通だ。


「クッ……ふはは!」


 戦士長が堪えきれないという具合に笑い出した。

 騎士長の方も「やれやれ」といった雰囲気で微笑む。


「くくく、命令ならば、仕方がないな。――王国戦士長、ゼスト。ありがたく頂戴する」


「王国騎士長、トリスタン・ボルヴ。謹んで頂戴致します。この剣に見合う剣士となれるよう、努力します」


 一応納得したらしい。よかったよかった。

 空いた2マスには小麦でも詰めとこう。




 そんなこんなで慌ただしい1日は終わっていった。

 現実世界に()()()()ならないよう、『ゲーム内時間で72時間まで』と設定されている【連続プレイ制限】。

 昨日から2日連続で接続している俺は、そのタイムリミットまで残り24時間だ。











 翌日。

 例のなんとかかんとかのなんとか予定地に再び足を運んだ。今回はニーナ達も最初から一緒だ。

 更地をザッと見渡した所、新たに3千人分ぐらいの遺体が並べられているようだ。


「君、最後の遺体が収容されてから、どれぐらい経つか分かるか?」


 あの後教会の人間から正式に役目を引き継いだのだろう。王宮から派遣されているらしい衛兵の1人に尋ねた。


「はッ!! 9刻ほどです!!」


 つまり新たな遺体は9時間見つかってない訳か。

 衛兵団と戦士団が総出で徹夜してまで王都中を捜索してくれたそうだし、今ここに集まっている分で今回の犠牲者は全部なのだろう。

 この後は一番面倒臭い街の修繕作業が残っているので、2度目の蘇生はサクッと終わらせその場を後にした。


「範囲拡大化Ⅲ、【コール】。……王都の住民諸君、昨日の魔法使いだ。今日はこれより、倒壊した街並みの修繕を行う。瓦礫が勝手に浮かび上がるので、驚かないように」


 修繕作業を始める前に、一応コールで住民達に声をかけておいた。

 とりあえず現在地が北東なので、東→南→西→北と上から見て時計回りに1周しながら直す事にする。

 珍しくチマチマとした作業をやろうとしているが、それは本来あくまでアイテム修復用のスキルである【修繕】スキルの効果範囲が狭い為だ。魔法じゃないから範囲拡大化とかも出来ないしな。

 その為今回は徒歩で王都を1周する事になる。


「【修繕】」


 正面に右の手の平を向け、修繕スキルを自分を中心に効果範囲最大で発動させる。

 倒壊した建築物は動画を逆再生したかのように元の姿を取り戻していき、ついでに経年による素材の劣化まで無かった事にして新品同様の輝きを取り戻させた。

 スキルレベルがMAXだったおかげで思ったよりは範囲が広い。蛇行しながら進んだり、2周する破目にはならずに済みそうだ。

 まさか生活スキルにポイント振りまくった恩恵をこんな形で受ける事になるとはな。

 つーか俺のキャラビルドって、もしかして対戦じゃなくてロールプレイ向けなんじゃ……。


「かみさまー!」

「魔法使い様ー!」

「ありがとうー!」


 表通りを隠れる事なく歩いていると、俺達に気付いた住民達から、声援や感謝のような物が送られてくる。

 「様」や「大魔法使い」、「ご主人様」に続き、ついに「神様」まで出てきたか。


「1日ですっかり有名人だな」


「当然です。むしろ今まで無名であった事の方がおかしいです」


 だって王宮が依頼してこなかったんだもん。


 住民達は道の端から遠巻きに声を送って来るものの、俺達の近くまで直接近寄るような事はなかった。

 先程のコールと目の前で起こる不思議な光景を前に、ただ歩いているだけに見えても魔法の行使中であるのだというのは分かるんだろう。

 おかげで大勢の群衆の中にありながら道は広いという、なかなかに珍しい状況が展開されている。


「に、人間って、いっぱいいるのね」


 ティアが初めて見る都会の人口という物に気圧されていた。

 まあそうなるのも無理はない。

 何しろ今は、どうやら王都の人口15万人がほとんど出てきているみたいだからな。


「ね、びっくりするよね」


「うん」


 同じく森の中で生きていたルルには、ティアの気持ちがよく分かるらしい。


「私も初めて王都に来た時は驚きました」


 あれ、ニーナもか。


(んん? …………あ、そうか)


 この世界は通信手段も移動手段も両方未発達だ。

 つまり、生まれた村や集落という狭い範囲から、1歩も出ずに生涯を終えるのが普通なのだ。

 あの北の村やエルフの里のように、百人や二百人という規模の世界しか知らぬ人間。

 そんな現地人と現代ニホン人とでは、初めて都会という物を見た時の衝撃は比べものにならないのだろう。

 多分ド田舎で育った俺が人口一千万の都会を見た時の物よりも、その驚きは更に上な筈だ。

 しかもその中でエルフなのは自分達だけであり、なおかつ全ての視線がこちらに向いているとなっては、2人が居心地の悪さを感じるのも仕方ない。


(つーか今更だが、ルルとティアがついて来る意味とは)


 道案内はニーナだけで十分なんだが。……まあいいけどね。

 この4人で王都を歩いているというのも面白い。考えようによっては観光みたいなもんだろう。


「にいちゃーん!」


 教会の前を通る時、孤児達が俺に向けて手を振っていた。見ればあのぶっ倒れた司祭も一緒だ。

 道を歩いていればルルの知り合いとかいう傭兵達も野次馬していたし、ニーナの元使用人達は頭を下げ、大司教達は静かに祈りを捧げている。……もしかしてそれ、俺にか?


「ハネット様!! 是非一度魔法協会にいいいいぃぃぃ……―――」


 途中いた変な集団は『魔法協会』とかいう所の魔法使い達らしい。半分ぐらいがニーナと同じく黒帽子に黒マントという出で立ちだ。

 魔法協会と言えば、あのポーション作ってるとかいう所だな。

 そちらには元から見物に行く予定だったので、彼らの願いはすぐに叶う事になるだろう。


「魔法使いはみんなお前みたいな格好をするもんなのか?」


「…………」


 ニーナに尋ねたのだが、沈黙を返されてしまった。

 若干恥ずかしそうにしている。なんでだろう。


 こうして朝7時から昼の2時まで計7時間という長い時間をかけ、王都の街並みを修復した。

 ぶっちゃけ後片付けっつーより、ほとんど英雄の凱旋みたいな感じだったな。そうやって見ると全員徒歩なのがちょっと間抜けだ。普通は馬車とか乗るんじゃないか?


(英雄の凱旋……あ、そういえば。こんな時に肝心の勇者様は、何やってるんだ?)


 本当なら今回の俺の役目は、勇者とやらがやるべき物だと思うんだが。

 はてさて、本物はこの国の一大事に、一体何をしていることやら……。











「さて、まあ俺の仕事はこんなもんか。他にして欲しい事はあるか?」


 王宮の応接室。俺の前に座るのは国王と宰相。

 ……ついに対価の話をする時がやって来たのだ。

 2人の後ろには戦士長と騎士長が並んでおり、俺の後ろにはニーナ達3人が並んでいる。


「いやいや、それには及ばんとも。貴殿が犠牲者と街の被害という一番頭が痛い所を両方解決してくれたおかげで、残るのは各所とのすり合わせなど、細々とした物だけだ」


 まあそうだろうな。俺も最大の恩が売れるようにと思ってそうした訳だし。

 確認したのは行政の事となると一般人の俺には思いつかないような点があるかもしれないので、一応念のため尋ねただけだ。


「ハネット殿。今回はよくぞ力を貸してくれた。貴殿がいなければ、この国は今頃地図から消え去っていたことだろう」


「本当に、どれだけ感謝しても足りません。貴方は救国の大英雄です」


 この2人が頭を下げるのを見るのはもう何度目だろうか。

 本当は国のトップに頭を下げられるなんて(特にこの時代では)滅多に無い事なんだろうが……。

 俺は性格上「責任者ってのは大変だな」ぐらいにしか思えないので、ありがたみが薄い。


「では今回のハネット様のご助力に対して、王国が支払うべき報酬の――」


「あ、その前に1個不思議に思った事があるんだけど、いいか?」


 宰相が交渉を正式に始めようとしたが、手を軽く上げて中断させる。


「も、もちろんだ。何でも聞いてくれ」


「ああ。じゃあ聞くが、勇者って今回、何してたんだ?」


 それは今日街を直しながら浮かんだ疑問。

 そもそも勇者って、どこで何をしてる奴なんだ。前にどっかでニーナ辺りから聞いたような気がするが、ぶっちゃけもう覚えてなかった。


「ああ、それか……。あれは今、()()()()()に出かけている」


「……なに?」


 サラっと物凄く重要な事を言われたような気がする。

 詳しく話を聞くと、こういう事だった。


 まず1つ。

 勇者パーティーは普段、最精鋭が集結している王都以外の領地や、協定を結んだ国に出現した魔族を討伐して回っている。

 2つ。

 現在勇者パーティーは『魔王城攻略作戦』という、数か国共同出資の一大攻勢作戦に参加しており、帰ってくるまでには数十日単位の時間がかかる。

 3つ。

 魔王城攻略作戦は勇者パーティーが魔族の総出撃周期を割り出した事で実現可能になった作戦であり、魔王城の防備が手薄になった隙を突くという、一種の奇襲作戦である。

 4つ。

 敵の総出撃に合わせてこちらも最精鋭を突撃させるというカウンター攻撃である性質上、当然王都の防衛力は強化していたのだが……そこで予想を遥かに超える、4部隊での強襲という前代未聞の攻撃を受けてしまったのが、今回の事の顛末である。


「……という事なのだ。全く、これまで2部隊以上での行動が1度たりとも確認されていなかった魔族達が、よりにもよって賭けに出たこの時期に、4倍の数でそれを行ってくるとは……。私の治世中に帝国が台頭してきた事といい、私には運という物が無いのかもしれな――」




「それを早く言えやッ!!!!」




 なんだ魔王城って……! なんだ魔王討伐って……!


 ……そんなん、めっちゃ行きたいやん!!


 突然声を荒げながら立ち上がった俺に、戦士長と騎士長が即座に2人を守るようにして前に出た。

 が、俺はそれを完全に無視し、王宮側の面々ではなく、自分の後ろにいる弟子達3人に向き直った。


「お前達、行くぞ!!」


「えっ? し、師匠、まさか……」


 ニーナは話の流れから、俺の言いたい事にすぐに思い至ったようだ。


「決まってるだろ。――魔王城だ!!」


 俺がここでこんなことしてる間に、裏では明らかなラスボス戦が始まっていたとは。

 ラスボス戦なんてRPG最大のイベントを、勇者なんかに取られてたまるか!

 俺は魔王を討伐したという称号を得る為なら、世界すら滅ぼすぞ!!

 魔王の首は俺のもんだ!!


「あ、あの、師匠……」


「国王!! 魔王を討伐するのは勇者ではなく、この俺だ! 文句あるか!?」


「い、いや、無い!!」


「よしッ!!」


 言質は取った。早速転移で――。


「――あ、待て。先にその魔王城攻略作戦とやらの詳しい概要を教えろ」


 危ない危ない、勢いで何の用意もせずに突っ込む所だった。それは俺らしくない。

 呆気に取られていた王宮側の面々だったが、すぐに宰相が説明してくれた。


「なるほど、敵側の第1階層をベースキャンプにしているのか」


 魔王城は超巨大な塔であり、その塔の第1階層を速攻で奪取し、内側から籠城戦を決め込むという大胆な作戦であるようだ。

 勇者パーティーというのは中々面白い作戦を考える。敵にとっては王宮と言える建築物な訳だから、派手に破壊する訳にもいかないだろうという魂胆か。

 まあもしも俺が魔王だったら、容赦なく魔王城ごとペシャンコにするけどな。


 ちなみに魔王城の場所はマップを検索したらすぐに分かった。だって名前がそのまんま「魔王城」で、「魔」で検索した時点で一番上に出てきたんですもの。


「よし、それではこれより、今回の作戦を説明する。お前達、気を引き締めろ」


「はい」

「うん」

「は、はい!」


 弟子達がしっかり頷いたのを確認し、概要を説明する。


「『勇者より先に魔王を倒す』。まずはこれが今回の戦いの目的であり、最優先事項だ」


「はい」


「今回、俺とお前達は昨日と違って、完全に別行動だ。詳しく言えば、お前達は第一階層で連合国軍の助勢。俺は勇者達より早く魔王の下に辿り着き、そして勝利する為、『単独』で行動する」


「……私達は足手纏いという事でしょうか」


「そういう事だな」


 ニーナの核心を突いた問いに、肯定を返す。

 具体的には転移で魔王の部屋に直接突っ込んで、範囲攻撃で速攻ぶっ殺して終わりにするつもりだ。

 俺は範囲攻撃連射型という爆弾みたいなアバター性能のおかげで、ニーナ達がいると本気が出せない。

 なのでこいつらは、今回はほとんどお留守番みたいな物だ。ちょこっとレベリングの続きをしといてくれれば、それでいい。


「む、何さそれ。ハネットだって昨日の見たでしょ? ボク達だって魔族なんかには遅れを取らないよ」


 俺の肯定に対し、尋ねた本人であるニーナは黙っていたが、代わりにルルが抗議してきた。

 昨日のレベリング作業は超余裕だった上に、それによりレベルも10近く上がっているのだ。正直負ける気がしないのだろう。


「ほ~う? じゃあ逆に聞くが、お前は昨日の俺の範囲攻撃を見てなかったのか? 言っとくが俺は今回、ちょっと本気で戦うつもりだぞ? 間違いなくアレの巻き添えになるぞ?」


「…………ごめんなさい。大人しくしてます」


 増長すると困るので、叩き潰しておいた。

 確かに魔族よりは強くなった。魔族よりは、な。

 だがそんな自分の強さですら、世の中から見れば一番上ではない事を忘れてはいけない。


「結構。ちなみに連合国軍との接触・連携はニーナが責任を持って行え。お前は顔が広いからな」


「かしこまりました」


 反対意見も出なくなったようなので、以上で作戦会議を終わりにする。

 時刻は既に午後3時だ。日没まで3時間ぐらいしかないし、俺にはそれに加えて連続プレイ制限というタイムリミットもある。早く行こう。


「ということで国王。俺達は魔王の討伐に出かける。話の続きはそれからだ」


「あ、ああ……。ぶ、武運を」


 引き攣ったように無理やり笑顔を作る国王に背を向け、ニーナ達を連れて魔王城の座標まで転移する。


 ―――さあ、突然だがラスボス戦だ。


 因縁とか一切無く、降って湧いたような物だ。

 なので、正直感慨みたいな物は全く無いが……ここにきて、怒涛のイベントラッシュが始まったのは、間違いがない。

 国王にはお土産に、魔王の首でも持って帰ってこよう。そして勇者は魔王討伐に失敗して、数十日かけてトボトボ帰って来た所で、それを見るのだ。民衆から神と崇められる俺を、セットにして。


 我ながら、これは中々の嫌がらせ(アイデア)だ。

 だが、仕方ない。この真の主人公様である俺を差し置いて、勝手に主人公してやがったと言うのだ。

 小物には小物らしいオチを飾って貰う事としよう……。













「……なあギルスター。魔王討伐の対価も追加だそうだぞ」


「……本当に王位ぐらいは要求して来るかもしれませんね」

ということで、次回から魔王城攻略作戦編です。

第3章も前半が終わり、折り返しに入ります。


※書き溜め作業の為、次回の更新はお休みさせて下さい。

 6日後から更新再開します。

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