33 襲来
2016.10.21
読み直ししてないので出来が微妙かも。
あれから更に、3日ほどの何も無い日々が流れた。
これまで通り、王宮から【コール】がかかってくる気配は微塵も無い。
ニーナは先週辺りから練習していた火の中位魔法を完全習得し、ルルも相性が良かったのか、光の中位防御魔法をたった2日で覚えてしまった。
ニーナは元から天才の上に【プラズマウィップ】の練習からヒントを得たらしく、ルルは単純に、普段使ってる【ライトシェル】の上位版だったので楽に覚えられたらしい。
逆にこれまで触れた事がなかったという近接戦闘系魔法は、10日ぐらいかかってしまった。
なるほどと思い、今は【ライトアロー】の範囲攻撃版である【ホーリーレイン】を教えている。これも今日辺りには修得するだろう。
あの『魔力に性質を与えて発動する』とかいう【オリジナル】のおかげで、与える性質さえ普段と同じなら、範囲を広くする……注ぎ込む魔力を増やすだけでいいので、楽なようだ。
あと小ネタとして、現地では俺等にとっての【中位魔法】が『上位魔法』として扱われているらしい。
というか現地だと、魔法は下位魔法と上位魔法の2種類しかないようだ。
本当の上位魔法と更に上の最上位魔法なんて見せた日には、失神してしまうかもしれんな。
というか最上位魔法を使うと宇宙ごと滅びるけど。
まあ、そんなアレやコレやはさておき―――。
「―――なんで人間って、下ネタを『面白い』と感じるんだろうな」
「……は?」
「あはは、またなんか変なこと言い出した」
「…………」
すっかりお馴染みになった、ニーナ宅でのお茶会。
俺の脈絡無く展開される上に微妙な話題の数々に、女子3人は呆れたり苦笑したりしている。
「いや、エルフは知らんけどさ、少なくとも人間の間だと、下ネタって大抵万国共通でウケるんだよな。ということは、タブーの一種でもある下品な事柄ってのは、国とか集落とかの枠を越え、人間という生き物全体にとって、何かしらの共通な心理作用をもたらす効果を持ってるんじゃないかと」
「ほう、なるほど。少し面白い話ですね。……まあ異性とする話題ではないと思いますが」
「あれ? なんか意外と真面目な話だった……」
「え、そうなの? 変な話を真面目にするっていうハネット様なりの冗談かと……」
弟子達は三者三様の反応を見せる。
ルルは微妙だが、ティアの方は一切興味が無いみたいだな。
やはりエルフはそういう方面には忌避感の方が強いんだろうか。異性との接触が厳禁なくらいだし。
「少なくともドワーフは下ネタ大好きだよな? ほら、前にニーナと王都を散策した時に会った、装備屋の店主とか……」
あの王宮に招かれた時。
あの時の城下町の散策で出会ったドワーフのおっさんは、店に俺達が入って第一声が「なんだ、賢者さんの『コレ』か?」だったからな。
『コレ』ってのは俺がニーナの彼氏か?って事な。
言い方的に「彼氏か?」っつーより完全に「セ○レか?」だったけど。
「……あの人はあれでも一応、鍛冶の腕は確かなんですよ。……鍛冶の腕は。それにドワーフだって、全部がそうという訳じゃありません」
要するに完全否定は出来ないのな。
ドワーフは下品な奴が多そうだ。ニーナみたいなのは少数派なのかな。
「なんでなんだろうな。常識的な観念からすれば……っていうか実際、俺等の中にも忌避感みたいな物は存在してる筈なんだが……。いや、だからか? わざとそういうタブーに踏み込んで、開けっ広げにする事の解放感とか? それか、まだその忌避感を感じなかった頃……つまり子供っぽさを覚える事から来る、微笑ましさとか可笑しさ的な?」
「ふむ……」
「難し過ぎて何言ってるのか全然分かんない」
「私も……」
そんな適当な雑談で暇を潰している時だった。
―――敵性オブジェクトが侵入しました。
敵が現れたことを告げるアラーム。とりあえず椅子から立ち上がる。
『プレイヤーが侵入しました』じゃないので危険度は低いだろうし、前回これが鳴った時は、レベル10前後の盗賊の集まりという糞雑魚共だった。
おかげで全く湧いてくれない緊張感に気怠さを感じながら、レーダーを見ると……集落南の方角が、赤い点でびっしりと埋まってしまっていた。
(あれ? 思ったより危険?)
赤点の数はパッと見でも4桁はありそうな数だ。
相手がプレイヤーなら【サモン・ダークウィッチハンド】に代表される大群系の召喚モンスターであると仮定できるし、それ以外であることが確定している今回の場合などは、「軍隊が攻めてきた」とでも言えるような数だろう。
「ハネット、どうしたの?」
突然席を立った俺に、3人が疑問の眼差しを向けている。
俺はレーダーを見たまま状況を分析しつつ、冷静に指示を出した。
「ニーナ、集落南に敵が来た。『戦闘態勢』だ」
僅か10分後。
俺からのコールの魔法で呼び出された集落中の全住民たちが、集落南、いつもの修行場に集まっていた。
エルフたちの移住による人口増加により、あらかじめ決めておいたいくつかの約束事。
その中の1つ、住民達にとっては避難指示である『戦闘態勢』が発令されたからだ。
『戦闘態勢』が発令された際に住民達に求められる行動はただ1つ。
―――ただちに俺の近くに集合すること。
これだけだ。
これはこの集落……いや、この世界において、俺の目の届く範囲こそが最も安全な場所であるからだ。
今回僅か10分という短い時間で迅速に行動出来たのは、現代ニホンを参考に2~3回ほどの避難訓練をあらかじめやっておいたのが大きいだろう。
まさかこんなに早く本番が来るとは思わなかったが。
そして今。
その住民たちのほとんどが結界の外……数百メートル離れた場所で、見えない壁に阻まれ進攻出来ずにいる『敵』へと向けて、恐れと憎しみ……その2つが深く複雑に入り混じった視線を向けている。
なぜならその敵の大群の正体が―――。
「―――魔族……!」
エルフの里を襲った、【最初の世界】のモンスター……通称『魔族』だったからだ。
俺の隣に立つニーナが、苦々しげにその名を呟く。
「ふむ、魔族だったか。前回もそうだったが、こいつらはいつもこんな大群で行動してるのか?」
「……はい。魔族は基本的に、『軍』で行動しています。数はおおよそ、一千前後。今なお世界を蝕み続ける、害虫です」
実際に襲われたエルフたちは勿論、珍しくニーナも嫌悪感を露わにしている。
どうやら現地人にとっては本当に許せぬ相手であるようだ。
まあ俺らで言ったら、ある日突然地球を侵略しに来たエイリアン……みたいな感じだろうしな。
モンスターオブジェクトを弾くという拠点の結界により、強制的に侵入を制限されている魔族たちは、見えない謎の壁が破壊出来ないかと嵐のような攻撃を繰り返している。
数が多いからか、元の音量が大きいのか。人型モンスターの怒号や罵声、鳴き声などがここまで届いてきている。
「これが『魔族』か……。ハネット、ボクたちが行く? 今のボクらなら、ハネット無しでも全員でかかれば倒せるかもよ?」
現地とユグドラシルで行動に違いがあるのだろうかと魔族たちを観察していると、ルルがそう声をかけてきた。
後ろを振り返れば、エルフたちは何かに期待するような目を俺の背中に向け、北の村からの移住者たちは、抱き合ってガタガタと震えていた。恐らく盗賊に襲撃された時のトラウマが刺激されるのだろう。
なるほど、住民たちの精神衛生を思えば、1秒でも早く目の前から消した方が良かったか。
隣を見ると、ニーナとティアも杖と弓とを構えて見せた。エルフの狩人たちも同じだ。
「やってやる」、ということなのだろう。
「はい、恐らく可能でしょう。今の私達ならば、3人がかりで行きさえすれば、将の魔族にも勝てると思います」
目が合ったニーナがルルの提案に対する同意を示す。
が―――。
「―――いや。手っ取り早く、俺が掃除しよう。なるべく早く住民たちの前から排除した方が良いし、わざわざお前らが怪我するような危険を冒す必要も無い。……自らの手で復讐したいのなら悪いが、な」
「……そうですね。師匠の言う事が、正しいと思います」
それを最後に会話を打ち切り、1人前へと出る。
後ろからは住民たちの視線が、前からは魔族たちからの視線が集まる。
Lv.32 Lv.29 Lv.32 Lv.26 Lv.38 …………
魔族たちの平均レベルは30ぐらいか。
前回は突然だったので咄嗟に杖を装備したが、この程度なら必要無いな。
むしろ下手に攻撃力を上げて、魔法が星の裏側まで貫通したりしたら不味い。
百mほど近付いた所で、魔族の群れが左右に割れた。
その真ん中から、1匹のモンスターが代表するかのように前に出る。
「脆弱なる人間よ! 言え!! 誰がこの壁を作り出した!! これは我々の―――」
「死ね」
声を張り上げる魔族を無視し、魔法を発動する。
俺の左右に次々と黄色い魔法陣が浮かんで行く。
(【チャージマジック】―――トリプルマジック、威力低下Ⅱ、【ライトアロー】)
使うのはただの光の下位魔法、ライトアロー。
それを魔法の発動タイミングを自由に操ることが可能になるスキル【チャージマジック】で空中に固定。
同時展開数の限界は15発までだが、1回で同じ魔法を3発分発動させる【トリプルマジック】を併用することにより、3倍の全45発を第一陣として用意する。
「なっ―――!?」
大量の魔法陣が浮かぶ光景を前にして、先程の魔族が目を見開いた。
「―――『解放』―――」
チャージマジックの解放と共に、込められた光の弾丸たちが左端の魔法陣から順に発射されていく。
その様子は、まさに『掃除』。
いわゆる『機銃掃射』という奴に近い。
発射されたライトアローは魔族の大群に命中すると、最初の1体を貫き、更に爆散させただけでは飽き足らず、その背後に立っていた別の魔族を、そしてその背後にいた更に別の魔族もと、たった1発で数十に及ぶ数をミンチに変えて屠って行く。
全く勢いを衰えさせず、千の大群を容易く貫通したライトアローが、最後に地面にぶつかって、大地すらも抉り取った。
許容範囲外の莫大なエネルギーを叩き付けられたその大地は、まさに大爆発と呼ぶに相応しいほどの現象を生み、土煙が30m近くにも渡って巻き上がる。
―――それが、更に44発。
大量の爆弾が連鎖起爆されたかのような、連続して発生する轟音に大気は揺れ、原型を失っていく地面は断末魔の振動を伝えてくる。
魔法の解放から5秒ほどで4割の数を消滅させた赤点の群れに、最初の45発が撃ち切られる前に『第二陣』を準備する。
(チャージマジック。トリプルマジック、威力低下Ⅱ、ライトアロー)
作業のように同じ工程を繰り返し、再び準備されたマガジンを空中に装填。
既に3割ほどしか生き残っていない哀れな的たちに、最初の45発の最後の1発が発射されると同時、廃棄処分を言い渡した。
「―――『解放』」
攻撃開始から10秒ちょい。
そこにはただ、決定的なまでに壊れてしまった世界のみが残されていた。
降って来る土砂で「ゴゴゴゴゴ……」と空気が唸っている。
(光魔法で相手は悪魔だし、さながら『神の裁き』と言った所か)
ドロップしたモンスター素材を、オークションに出して最低限売れそうな物だけ回収し、【ブラックホール】で本当の意味で『掃除』する。
千の軍勢を30秒ちょっとでササッと片付け、みんなの所へと帰った。
(お、レベル上がってるじゃ~ん)
俺は普段、レベルアップの通知と効果音を【OFF】に設定している。対戦中にレベルアップの通知が目の前に出てくると邪魔だからだ。
音の方は「ジュワキィィィイイイイインッッ!!!! ガシャシャシャァァァァン!!!!」って感じでクッソうるさいから。最初レベル2に上がった時マジでビビったわ。頭の中にこれが大音量で響くんだもんよ。
という訳でその代わり、戦闘が終了する度に小まめにステータス画面を開くようにしているのだ。
今回もニーナたちの所に歩きながら、半ば無意識の内にその確認作業をしていたのだが、今の戦闘でレベルが上がっていたようで、【Lv.1367】だったのが【Lv.1368】になっていた。
そして「欲しいスキルまであと1ポイントだ」と呑気に考えていて、はたと気付いた。
(そういえば……ニーナたちが倒せば、ニーナたちに経験値が入るのか?)
ニーナのレベルはこの3か月間で42から変わってない。
だがレベルが設定されている以上、彼女たちNPCもレベルアップ自体はする筈。そしてそれが無いということは、ただの訓練などでは経験値が入らないということなのだろう。
ならば恐らくだが、彼女たちNPCは、敵を倒す以外の方法では経験値が入らないのだ。
逆に言えば、モンスターを倒しまくればレベルアップする可能性は非常に高い。
これはミスったな……。やっぱりニーナたちに相手させれば良かった。
(まあいっか、俺がレベル上がったし)
次魔族が来た時はニーナたちに相手させてみようと思いながら帰って来ると、住民たちの様子がさっきとは変わってしまっていた。
女・子供を中心にして半分ぐらいの人間が地面にへたり込んでしまっているし、それを含めたこの場の全員が、一様に俺に怯えたような目を向けていた。
「あれ? なんかあった?」
比較的平気そうな顔をしているニーナたちに尋ねる。
「師匠の魔法を、初めて見たからですよ。普通の人間があんな光景を見せられたら、腰が抜けて当たり前です」
なるほど。確かに現実で同じ物を見せられたら、俺でも怖い。ただ……。
「さっきの、ただのライトアローなんだが……」
「……そうなんですよね」
今のは手加減中の手加減を加えた上での戦いなのだ。
ライトアローは攻撃力に劣る光属性。しかもその中でも低位に位置する下位魔法だ。
更には範囲攻撃でも無いので、これでもまだ見た目が派手でない方。
要するに……。
「ま、仕方ない。俺が戦えば最低限の力でも周りはこうなる。なら一々気にしても無駄だな」
「ですね……」
もう「そういうもんだ」と思ってお互いに諦めるしかない。
こうして「俺が戦う=周りはドン引き」という新たな法則がこの世界に誕生した。
「ボクって運が無いと思ってたけど……あれと戦って生きてたんだから、十分過ぎるほど良い方だったんだなぁ……」
「そ、そうね……。え? ルル、ハネット様と戦ったことあるの?」
「あっ」
その横でルルとティアもそんな会話をしていたが、未だ振り続ける土砂の音にかき消されて、ハネットたちの耳までは届いていなかった。
そんな悪魔のような強さを見せたハネットと、そのぶっ飛び具合に若干慣れたかのような3人の姿を見て、エルフたちはこう思ったと言う。
「やっぱ言うこと聞いて移住しといて正解だった」、と。
◇
魔族の襲来から2日。
あれ以来、図らずも集落の住民達はより一層従順になった。
どうやらあのイベントは、圧倒的な武力というカリスマを提示する物になったようだ。
エルフは人間との共同生活への不満げな顔を抑えるようになったし、北からの住民が下げてくる頭もより低くなった。
元奴隷組なんかは俺が戦う姿を正真正銘初めて見たので変化は人一倍だし、相変わらずスリのガキは青い顔をして仲間の影に隠れる。
そんな中で態度に変化が無いのは、柔軟な頭を持つ子供たちと、俺のこと好き疑惑があるハンカチ娘。そして忠誠心が何故かMAXのギルと、いつもの弟子3人組みだろうか。
子供達に変化が無かったのは、見せられた光景がいかに非常識な物なのかが理解できていないからだろう。
まあ早い話が、みんな俺のことを上位者として完全に認めたということだ。
指示を出す時、よりスムーズに従ってくれるようになったのは良い変化かもな。……ぶっちゃけると、どうでもいいけど。
「…………」
「むむむ」
「……っ」
現在弟子たち3人は、あの戦いで俺が使った【トリプルマジック】……正確にはその1段階下である魔法二重化【ダブルマジック】と、それに並行して【チャージマジック】のこの2つを再現しようと頑張っている。
「……また失敗ですね」
「~~~駄目だぁ!」
「難しいわ……」
魔法の複数同時発動も魔法の発動遅延化も現地には無かった概念であり、これまでで一番の難航を示している。
昨日などは修行の時間を全部この再現に費やしたのに、一向に成功するビジョンが見えなかったのだ。
最悪これがNPCには再現出来ない類いの物である可能性もあるので、今日からは時間の浪費を恐れて修行時間の一部ずつだけをその練習に当てることにした。
今のは本日最後となる5回目の練習だったが、相変わらず成功までの道のりは遠いようだ。
「やはり魔法陣についての研究から始める必要がありそうですね」
こちらに歩いて来たニーナがそう言う。
彼女が言うには、この2つを成功させる為には、そもそもこの世界に存在する『魔法の発動』に関する法則から追っていく必要があるかもしれないということだった。
火の使い方を極める為には、熱の勉強から始める必要がある、みたいな話だ。
「そうか。……それは長い戦いになりそうだ」
「そうですね。10年、20年……もしかしたら、もっとかかるかもしれません」
「ええ~……もしそうなったら、ボクは研究はニーナに任せるかな……」
「私も……」
つい最近まで原始人だったエルフ2人組にはきついか。
まあ言われなくてもどうせ研究するのはニーナだろうしな。能力的にも性格的にも向いてるし、なんてったって賢者だからな。
ただし試行錯誤するのは悪いことでは無い。この短時間集中型の練習自体は毎日続けることにしよう。
「さて、ちょっと休憩しよう」
「はい」
修行を終えエルフたちに夕方分の家庭科の授業を施し、ルルと世間話をし、この世界でのルーチンワークを全てこなして深夜になる。
俺は一旦世界との接続を終了してから、いつも通り現地時間で翌日の午前4時になるよう接続し直す。
今日はゲーム内時間でもう2日分ほど遊ぶつもりだ。1回のログインで許されている『連続プレイ制限』の、限界ラインギリギリである。
入り直した自室の窓から見える外は、うっすらと白み始めている。
朝食作りが始まるのが朝6時半。それまでの2時間半は、基本的にアイテムボックスの整理や、ボッツの店で売る道具の制作作業に当てている。
何しろ俺の所持アイテムは膨大だ。しかも日々数百・数千個単位で増え続けている。
ちょっと見やすいよう並べ替えするだけで、1時間とかかかるのだ。
そうして5時頃になった時、頭の中に突然声が響いた。
『―――ハネット殿!! ライゼルファルム国王、キールだ!! 聞こえているか!?』
「きたああああああああッ!!!!」
ついに王宮から依頼か何かが来たようだ。思わず叫んでしまった。
本当に長かった。まさかこのコールを3か月も待つことになろうとは、あの時は夢にも思わなかった。
にしても国王直々に連絡してくるとは。時間もやけに朝早い。
(あれ? そういえばこんな感じのことが最近何度かあったような……。具体的には2度ほど)
なんとなくこの先の展開が読めた。
どうせ魔族関連だろう。どっかの領地が襲われてるとか。
まああの時点で既に、最初の依頼は魔族関連である可能性が高いだろうとは思っていた。予想通りだ。
個人的には依頼の難易度が高いほど、ふっかけられる対価が大きくなるので助かるのだが。
何かあった時のために登録してあった国王の座標にコールを飛ばす。
「国王か。聞こえているぞ。何かあったか?」
『王都が魔族の大軍勢に襲われている!! このままでは日の出を待たずして滅んでしまう!! 頼む、助けてくれ!!』
(ええっ!? 予想以上のピンチ!!?)
どうやら領地どころか王都自体に侵攻されたらしい。
俺らが「平和だなぁ」「そうだねぇ」なんて言ってる間に、王国は滅亡の危機に瀕していたようだ。もしかしたら一昨日のあの魔族たちも、王都に向かっている最中だったのかもしれない。
思わず2つ返事で助けに行きかけたが、ギリギリで本来の目的を思い出した。
「……なるほど、大変なことになっているな。もちろん助けてやってもいいが、それほどの事態の解決となると、成功の暁にはかなりの対価を貰うことになる。―――その覚悟が、お前にあるのか?」
『…………』
黙り込む国王。
俺は無言で返事を待つ。
ほんの数秒後、1人の王は、その問いに答えを出した。
『―――ああ、いいだろう。貴殿がこの国を救ってくれると言うのなら、私の裁量で決められる一切の物を払うと誓おう。……例えそれが私の王位や、命であってもだ』
良い答えだ。
ソファーから立ち上がり、部屋を出る。
「契約成立だ。……という所で悪いが、今は朝早いこともあって、そっちに飛ぶまで少々時間がかかる。まあせいぜい半々刻ほどだ。それまで粘れるか?」
『分かった、半々刻だな? 死にもの狂いで時間を稼ごう』
玄関を出た辺りでコールを切る。
向かうのは隣に並ぶニーナとルルの家だ。その後にティアの家にも寄る。
せっかくだから、こいつらも連れて行くのだ。
―――さて、弟子たちのレベリングついでに、1つ、国でも救ってみせるか。