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32 始まりの足音

2016.10.12

第3章スタートです。


※作品タイトルに副題を追加しました。

サイコ男が送る一風変わった異世界無双をお楽しみ下さい。




挿絵(By みてみん)







俺がこの世界に侵入してから、既に111日が過ぎた。

ティアたちエルフ……『ラーの一族』が仲間になってからだと、20日ほど。

最近は徐々に気温も高くなってきており、もうすぐ夏が来る事を実感できるようになってきた。

そろそろボッツの店で売る服を夏物に変えないとヤバいかもしれない。デザイン考えるのが面倒臭いけど。

最悪もう布と裁縫道具だけ売って、各自自分で作って貰おうかな……。そしたら人間とエルフの服装の違いとか考えなくてよくなるし。


40人から180人へと増えた賑やかな朝食の後、暇なので集落中を歩いて回る。

これはここ最近の日課だ。


「あ、ハネット待って。ボクも行く」


同じく暇人であるルルが隣に並ぶ。

一応こいつにも診療所の仕事があるが、いくらなんでも2日に1回ぐらいしか人が来ない場所に拘束し続けるのは可哀想だった。なので現在は、待合室に患者からの呼び出し用の【コール】のスクロールを設置し、呼び出しが無い時は自由行動を許している。

その裏では相変わらず夜の雑談タイムを続けているので、昼も夜もと、今一番集落で一緒にいる時間が長いのはルルかもしれない。ログインするだけで美少女と会えるゲーム。うーむ、完全に神ゲー。


「今日はどこに行くの?」


「もちろん畑だ」


「あはは、やっぱり」


最初に向かうのはやはり畑。

エルフ参入による急激な人口増加に合わせ、住民用の畑は2枚から6枚に増やした。

管理維持には元からいた19人に、新しくエルフ20人を加えることによって対応。

こうすることでエルフたちは人間との交流の良い経験になるし、こちら側は植物に詳しいエルフのおかげで作業効率が上がるしで良い事ずくめだ。


ついでに気温を操作するマジックアイテムを作り、各畑に新しく設置。これでこの辺の涼しい気候だと育ちにくいような作物も作れるようになった。

現地だと貴重な装置だろうからと思い、盗難防止として物理的に移動させられないよう、鉄より遥かに重たいアダマンタイトで2m×2mぐらいのビッグサイズで作ったら、それを見たニーナが目を回していた。

なんでも現地では、アダマンタイトは希少金属の中でも最上位の物で、世界中を探して集めたとしても、この装置1個分の半分ぐらいの量にしかならないんだそうだ。

リアルで例えたら金の数十倍とか数百倍ぐらいの価値な金属な訳か。そりゃそんな物がこんな量ポンと置いてあったら、いくら千年に1人の大賢者様でも動揺する。多分俺らで言うと冷蔵庫サイズのダイヤモンドみたいな感じだ。

ニーナにとってあまりにも衝撃的な光景だったのか、「クワどころじゃなかった……」とか訳の分からないことをブツブツと言っていた。なんかごめん。


向かいにある花畑の展望台から、いつも通りルルと2人で畑の様子を眺める。

ちなみにこの花畑では最近、以前アイデアとして出していた養蜂を本格的に始めた。

これは森の住人であるエルフたちの仕事になった。なんでもこの現地でのエルフは、人間に比べると蜂に刺され難いという体質なんだそうだ。

……蜂は黒い物を襲うと言うし、もしかしてエルフの肌が白いのって、そういう進化を遂げたからなんだろうか。

ま、作業中は刺されないようにちゃんとスーツを着せてるから、本当は作業員が誰だろうと関係無いんだけどね。


展望台の手すりに肘を突いて景色を眺める。

集落の中を風が吹き抜け、揺れた花々と作物たちがサワサワと涼しげな音を立てていた。


「……平和だなぁ」


「ふふ、そうだね」


ああ、平和だ。平和平和。

平和はいいけど…………。






(―――平和過ぎるわボケがァ!!)






いい加減なんかのイベント起きてくれないと困るわ!


(特に王宮からの依頼とか!!)


そう、最初の接触からゲーム内時間で既に3か月は経とうかというのに、未だに向こうからの連絡が無いのである。

おい世界の危機どうした。魔族とかその辺、攻めてこい。王都を滅ぼせ。

おかげで鍛冶屋とか交易の目途がいつまで経っても立たないだろうが。


(もう王都で自分で悪い事して、マッチポンプで無理やり依頼を作るか?)


爽やかな風に撫でられながら正反対の悪巧みを考えていると、畑組のメンバーたちが少し遅れてやって来た。

最初に少しだけミーティングした後、青々とした畑に入って各々作業を開始していく。

最初の2枚の畑は、作物を植えてから1ヶ月半ぐらい経っている。トマトの木なんかはもうかなりの大きさだ。


「ねえ、ハネットってさ。いつも眺めてるだけだけど、楽しいの?」


その様子をボーっと眺めていると、ルルがそう言って首を傾げた。

前にクラツキにも似たようなこと言われたな。

あれはたしか、ハネットファームの畑で朝会った筈の俺が、夕方寄った時も同じ場所に座ってたからだったか。

ちなみにこの世界に来るまでの俺の膨大なプレイ時間は、7割が『畑を眺める』という作業に費やされている。クラン内で付いた名前が『かかしプレイ』。


「うーん。どっちかと言うと、眺めるのが楽しいっつーより、ボーっとするのが好きなんだ。のんびりした感じがして」


何をするという訳でもなく、ただただ無駄な時間を過ごす。

それはつまり、『人生の浪費』だ。

現実ならば「何かしなければ」という強迫観念により、とてもじゃないが真似出来ない過ごし方。

ログアウトするとログインした直後の時間に戻って来られる……『現実の時間』を消費しない低次世界体験型ゲームだからこそ可能な、時間の無駄遣い。


つまりこれは、偽りのこの世界だからこそできる、究極の『贅沢』なのだ。


まあそれを誰かに分かって貰えるとは思わないが。

人間誰しも「何かを無駄にすること」に暗い快感を覚える物だが、普通は自分のそんな一面を肯定するのには抵抗があるものだ。

誰もが「自分はまともである」と思っていたい。

「所詮そんなもん」と悟って生の快楽を謳歌している俺の方が、現代ニホン人の割合としては少数派だろう。


「ふーん」


やはりルルにはつまらないんだろうか。

別に無理して俺に合わせる必要は無いんだが……。

でも毎日これなのに、懲りずについて来ようとするしな。


チラリと見た横顔は微笑み。


……こいつもこいつで結構変わり者だし、意外と楽しんでいるのかもしれない。








「……よし、次はギルの陣中見舞いにでも行くか」


「うん」


そのまま少しだけ穏やかな時間を楽しんだ後、今度は北の街道へと向かう。

空を飛んで行くとすぐに着いてしまい後でやることが無くなるので、時間をかけて徒歩で移動する。……いかに今の俺が暇潰しに困っているのか、お分かり頂けただろうか。

道路を通り中央広場に帰ってくると、そこには3つの施設が面している。

それぞれ学校、ボッツの店、ルルの診療所だ。


学校はエルフの数が多過ぎるので2部屋増設。全3教室の校舎となった。

その3つの教室を、ニーナを筆頭にした2人1組の教師陣が交代制で面倒見ている。

交代制にしたのは、全てのエルフに、一番分かり易い授業をするであろうニーナの教育を平等に受けさせるためだ。

あとの5人の教師陣は、ぶっちゃけそのニーナを補佐するためのおまけに過ぎない。

ちなみに学校は昼食を挟んで午後3時まで。そこからがエルフたちの仕事の時間となっている。

仕事の内容は先程言っていた養蜂であったり、当初の目的である林業と加工品の生産など。

勉強の方はストレスになるだろうから、本当はこんな長時間ではなく、ゆっくりとやらせたいんだが……流石に買い物も出来ないような状態で置いておく訳にもいかない。

仕方ないので代わりに飯をこっそりと豪華にしてやっている。最低限の読み書きと計算だけ出来るようになったら解放してやるから、それまで辛抱してくれ。


続いて学校の向かいにあるボッツの店。現在その隣には、ズラリと工場が並んでいる。

前にパンを作った調理室や、木材の加工場。

こういった商業関連の施設は、全部この区画にまとめた。言うまでも無く、なるべく近い方が店への商品輸送の負担が減るからだ。

ちなみにボッツの店にも店員が2人ほど増えた。元奴隷組の算数が得意だったメンバーから、立候補してくれたのだ。

今は良いが、エルフたちが計算を覚えて買い物するようになったらかなり忙しくなる筈。それまでに業務に慣れておいて貰いたい。


これまで空き地だった北西に建てたルルの診療所は、集落の人口が少なく医者がルルしかいないのもあって小さな物だ。

大抵の怪我や病気は魔法で1発で治せてしまうので、入院用の病室なども1部屋しか作っていない。

診察・処置室も1部屋だけだし、スペースのほとんどが待合室だ。

その待合室もほぼ常に無人だし、ルルの仕事はもう百人ぐらい人口が増えてからじゃないと、本格的に始まらないかもしれない。

ちなみにルルも給料制なので、治療費はタダだ。今後交易などで外部の人間が集落を訪れるようになったら、そいつらからは金を取ろう。


中央広場から道路を北に向かい、やたらと目立つ俺の家を通過して街道に出る。

そこから少し歩くと、2体のゴーレムと、最近新しく建てたガラス張りの小屋……『見張り小屋』が見えてくる。


「ハネット様! 何かありましたでしょうか!」


俺の姿を見つけて慌てて飛び出して来たのは元奴隷の青年、ギル。

俺の騎士になりたいとか言ってたあいつだ。

当初は体作りと称して畑仕事に従事させていたが、俺のクワが高性能すぎてあんまり筋トレにならないことが発覚したので、せめて俺の役に立ってるっぽい仕事として、この見張り役に抜擢してやった。

仕事は集落の門番みたいな物だ。誰か客が来たら俺に知らせる、一目見て分かる盗賊などの敵の類いなら、警告を発し追い返す。

初めて集落に来た人間に、一々「害意が無ければ安全だよ」と説明するのは面倒くさいことこの上無かったからな。でも集落の安全上、ゴーレムと看板を撤去する訳にはいかないし。

だが今はギルがその辺の説明に加えて不審者の報告、客の案内まで全部してくれる。

こうやって考えると、事実割と役に立ってるな。


「なに、暇してないかと思って見に来ただけだ。本の追加でも出してやろうか?」


まあ暇だったのは俺なんだけど。


「おお……! それは気を遣って頂き、ありがとうございます! ですが本は先週頂いた物がまだ2冊ほど残っているので、大丈夫です!」


見張りという仕事の性質上、ギルは夜以外の1日中をこの小屋で過ごしている。

なので暇を持て余さないよう、王宮の書庫から勝手にコピーしてきた本やら、筋トレグッズなどを与えてやったのだ。

基本的には筋トレをして、休憩時間に本を読むという感じで過ごしているらしい。

おかげで奴隷商館で買った時はガリガリに痩せていた身体も、細マッチョと言えるぐらいにはガッシリ、かつ健康的になった。

本が読めるだけの教養もあるし、まるで別人だな。


「そうか。他にもなんか欲しい物が出来たら言え」


俺は先ほどの畑の一件で分かるように、暇であることが何ら苦痛では無いタイプだが(依頼が来なくて困っているはどちらかと言うと集落の発展が遅れるのが大きい)、それと同時に世の中の大半の人々が俺とは違って暇を嫌っていることもちゃんと弁えている。

なのでギルのこの仕事は集落内で一番キツい仕事と位置付けて考えており、少しぐらいの融通は利かせてやるつもりがあるのだ。


「……あの、それでしたら、1つよろしいでしょうか」


「おう、何だ?」


「その、実際に仕事をするのはゴーレムだとしても、一応この仕事は衛兵のような物な訳ですし……前に言っていた、剣と防具を頂ければ……と思うのですが」


ふむ、装備が欲しいという訳か。

たしかに何も知らない人間がこいつを見た時、ちゃんとした格好をしている方が案内や警告を聞き入れ易いかもしれない。

視覚効果による強制的な威圧。

言わば警官の制服のような物だ。


「そうだな。じゃあ適当に見繕ってやろう」


【アイテム作成】で最低ランクの素材から軽装鎧を作る。ついでに鞘に納められた片手剣も。

王宮で見た騎士たちの格好を参考にした。

良い素材を使わなかったのは、こいつの今後の成長の為だ。装備だけ強くなっても意味が無い。


「おお!! あ、ありがとうございます!」


「シンプルな作りにしたから着け方は分かる筈だ。あとこれを着て訓練するのはいいが、怪我はするなよ。剣は本物だ。診療所まで自力で来れないぐらいの大怪我をすると、滅多に人が来ないんだから死んじまうぞ」


まあ死んでも治せるけど。


「はい! 気を付けます! 本当に、ありがとうございます!」


頭を下げるギルを置いて、街道を後にする。

次はふれあい牧場――畑と同じく拡張したので『広場』から『牧場』へと名前を変えた――にでも行くか。


「ハネットを守る戦士……騎士? になりたいって言ってた人だっけ」


少し歩くと、俺とギルの会話を黙って聞いていたルルが口を開いた。


「ああ。そのうち王国戦士団辺りに潜り込ませて、鍛えて貰うつもりだ。ちゃんとした装備をくれてやるのはその後だな」


「うわ~、修行した上にハネットの装備まで貰ったら、最強の戦士になっちゃうかもね」


「まあ目標はそこだな。何しろ俺の隣に立とうと言うんだ。最低限それぐらいにはなって貰わなきゃ困る」


「そっか。……じゃあボクもがんばろ」


「ん?」


「ううん、なんでもないっ」


そうして昼までルルとダラダラして過ごした。

今日は診療所に誰も来なかったようだ。医者に仕事が無いのは、この集落が平和な証だな。








「【岩槍の魔法(ロックランス)】ッ!!」

「【光矢の魔法(ライトアロー)】ッ!!」


夕方の修行の時間。

ニーナとルルから示し合わせたかのように同時に魔法が飛んでくる。

俺はそれを適当に受け止め、なるべく軽くなるように手加減して反撃する。


「そこっ―――!!」


「おっと」


反撃に転じようとした瞬間という、こちらの出鼻を挫くような良いタイミングで1本の矢が飛んで来た。

普通の人間なら眉間を貫かれた所だが、俺の身体能力なら避けるどころか掴むことさえ容易い。

これは40mほど離れた場所から、ティアが弓で射ってきた物だ。


あれから色々あり、現在は精霊魔法とやらの使い手であるティアまでこの修行に参加している。

このティアの精霊魔法とかいう【オリジナル】、これがもう物凄いチート能力だった。

なんでも精霊の力を借りてステータス強化や攻撃魔法を使用するらしいのだが、その効果の大きさがヤバい。本当に、あれを初めて見た時の俺の衝撃と言ったら。

ティアの初ゴーレム戦の際、【ペネトレート】で表示されていた彼女のステータス。それがその【精霊の加護】とやらを発動させた瞬間、HP以外の全ステータスがプラス30レベ分ぐらい一気に上がったのだ。

ティアの元のレベルが17レベだったことを考えると、実に3倍近くの上昇である。

ちなみに俺達プレイヤーは、スキルや魔法でどんなに強化しまくっても、2倍ですら超えることは出来ない。

しかもこの「全ステータスが」、という部分が凶悪だ。

これはつまり、現地特有の『ステータスの適性』……「魔法職は戦士職関連のステータスが極端に低い」という弱点まで補ってしまえる物なのである。

おかげでティアはレベル30前後の戦士の動きをしながらレベル50前後の魔法を撃つという、現地人にとっては反則なスタイルを取っている。

いかに精霊の加護とやらがチートか、お分かり頂けただろうか。

いや、ティアとルルの話を聞く限り、ティアは精霊魔法が使えるエルフの中では弱い部類らしい。だから正確には、精霊の加護がと言うより、エルフという種族自体がチート種族なのだろう。寿命もぶっちぎりで長いらしいし。

流石現地の人型種族の中で最強と言われているだけある。


……ちなみにこの精霊魔法、チートと言えどもたった1つだけ弱点があった。


ぶっちゃけて言えば、俺である。

何故なのかは不明だが、俺がティアの半径30m以内に近付くと、精霊魔法は強制解除されてしまうのだ。

俺が「現地側から見た【オリジナル】」……プレイヤーだからなのか、それとも圧倒的にレベルが高い存在だからか。とにかく精霊とやらは俺に恐怖を抱いており、少しでも近づこうものなら発動者を置いて逃げ去ってしまうんだそうだ。

こうなると問題になるのが、精霊魔法無しの状態……つまりは素のティアの強さについてだ。

正直言って、精霊魔法が無ければティアは弱い。

エルフなので十分強い筈……的な話をニーナとルルはしていたが、50レベ台と一騎打ち出来てしまうクラスの人たちに言われても説得力が無い。

もしかしたらティアのこのステータスも、現地の価値観だとかなり凄かったりするのかもしれないが……俺から見たら、正直「雑魚」以外の表現が浮かばない。

しかもこいつは80年も生きていながら戦闘経験がほぼ皆無という箱入り娘だ。

とてもじゃないが、俺たち3人の修行について来れるとは思えない。

そこで緊急会議を開くこと、たったの2秒。大賢者ニーナ先生が言った。


―――エルフらしく、普通に弓で戦えばいいのでは?


言われてみればその通りである。

弓を主体に距離を取りながら戦えば、精霊も逃げない訳だ。幸いティアも他のエルフたちと同じく弓は使えるらしかった。

ということで、ティアは精霊魔法で身体能力を強化しつつ、こうして30m以上離れた場所から弓で射ってきているのである。


アタッカー役のニーナに、サポート兼タンク役のルル。

攻撃もサポートも出来るティアは、さしずめ遊撃担当と言った所か。

こいつら人が増える度に良いパーティーになって行くな。FFFなんて俺以外全員アタッカー(しかも全員戦士職)とかいうゴミクズバランスなのに……。


まあそれは置いておいて、とにかく今は、防御魔法ガン積みで前衛しつつ回復をするルル、中距離から弓と魔法で攻撃するティア、最後方で火力の高い魔法を連射するニーナという布陣が出来上がっている。

あと1人、ルルの代わりに前衛を張る戦士職でも入ってくれれば完璧なんだが……いや、別にこいつらは修行を一緒にやってるってだけで、このメンバーでチーム組んで冒険に出るとかって訳じゃないからな。そこまでガチに考えなくていいか。


(威力最低化、【エアスラッシュ】)


左手で矢を難なく掴み、無詠唱魔法で反撃する。


「【外殻の魔法(ライトシェル)】ッ!!」


「お」


風の刃が3人を薙ぎ払おうとしたが、ルルの範囲防御魔法がそれを阻んだ。


(なんか知らんが、今日はいつもより更に気合いが入ってるな。よしよし)


先程からやけに前へ前へという姿勢を見せるルルに、うんうんと頷く。

なんというか、今までが『真剣』だったとしたら、今日は『本気』になっている、という感じだ。


(ま、だから何って訳でも無いけど)


「うああっ!」


ルルがいくら本気になった所で、千以上もレベルが離れた俺の攻撃を防ぎきれる筈がない。たとえ威力を最低まで落としていてもだ。

連続して出した新たな無詠唱魔法で、ルルの防御はあっけなく破壊された。

いい加減、一段上の中位の防御魔法でも教えてやるか。








「―――だからね、光をこうやって集めると、熱くなって火が起こせるんだよ」


「おお……」


模擬戦はいつも通り俺の勝利で終了し、現在はその後の新魔法開発タイム。

椅子に座って弟子たちの試行錯誤を眺めている俺の前では、ルルがニーナとティアに、光魔法の高度な使い方を実践して見せている。

今やっているのは指先、または杖から光を発するだけという光魔法【ライト】を応用して火を起こす方法。レンズや鏡で日光を集めて高熱を生む例のアレか。

ルルはこれを普段の生活の中で、疑似的な火魔法として使っているらしい。

光に熱があることに自力で気付くとは凄いな。こいつは光という物の性質を、誰に教わるともなくうっすらと理解しているのだろう。

初めて出会った時に使っていた【インビジブル】も、ニーナが言うには、『そもそもなぜ目には物が見えているのか』ということが解明されていない現地には本来存在しない筈の魔法だと言う話だったし、光魔法の応用力においては他の追随を許さないようだ。

……まあその使い方が火を起こすとかの生活的な面である辺りに、家なき子だった苦労が窺えてアレなんだが。


「ルルさんはどのようにして、それほど多彩な光魔法を編み出したのですか?」


「―――えっ? あの、うーん、その……あ、そうそう、適性が光に変わってすぐの頃、色々遊んでた内に偶然見つけただけだよ! あはは……」


そう言ってティアの方をチラリと見るのを、俺の無駄に鋭い観察眼が捉えた。

どうせ本当は「ティアの家を勢いで飛び出したはいいものの、火が使えなくてまともなご飯が食べられなかったので、必死に開発しました」とか、そんな感じのしょ~もない理由なのだろう。

そりゃそんなことを飛び出された側であるティアがいるこの場で白状しよう物なら、ティアは良い気分じゃないだろう。一応その辺には気を遣ってる訳だ。

ルルとティアのこの辺りの話はかなりデリケートな部分なようだな。今後気を付けておくことにしよう。


「ま、まあそんなのはいいじゃない。それよりも、次はニーナの番だよ」


「え? あ、はい。それでは今日は、例の【火神の魔法(アグニフレイム)】がやっと物になったので、まずはそれのお披露目から―――」


こんな感じで新魔法を習得させていっている。

なんでも出来るニーナにはなんでも教え、光魔法しか使えないルルにはより強力な光魔法を、そしてティアには【フローティング】などの適性が無くても使えた方が便利な魔法から優先して覚えるようアドバイスしている。

あとは俺が習得のヒントになりそうな理屈をでっち上げるか、3人であーだこーだと議論しながら勝手に習得しているか、といった具合だ。

ちなみにルルとティアがこの20日間でやっと2~3個の魔法を覚えたのに対し、ニーナは同じ期間でなんと10個以上の魔法を覚えている。さすが天才。








まあこんな風に、毎日ダラダラ過ごして、ちょっとだけ口を出して。たまにクラツキたちなんかも遊びに来たりして。

この世界での20日間は、そんな平和な毎日だったのだ。


―――そしてこの翌日。

俺の「そろそろイベントが起きないかな」という願いは、唐突に叶うことになる。


そしてそれは、予想だにしていなかった『戦い』と『邂逅』、その全ての、始まりとなる出来事だった。




次回からねじ込むタイミングを逃した幕間話が2話ほど続きます。

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