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ゴッズテイル ~サイコ男の異世界神話~  作者: 柴崎
おまけ ~日常詰め合わせ~
50/103

おまけ FFF-1

2016.8.15

おまけ話その3。まだハネットたちが弱かった頃。

これは俺達が『ザ・ワールド』をプレイし始めてから、初めてパーティーを組んだ時の話。

確か中学2年の夏休みだったか。

あ、そういえば。あの頃俺は、まだ自分のことを「僕」って呼んでいたっけ……。











世界座標00:00:00:00:01。

『最初の世界』、ユグドラシル。


そしてその惑星の最初のリスポーンポイントである宿屋。

その宿屋に併設された巨大な酒場の片隅に、この僕ハネットを含めた6人……『FFFの最初の6人』は集まっていた。


「おっすー」


「おっすおっす」

「よー」


酒場のテーブルの1つに集まったのは僕、リーダー、クラツキ、クー、ユウスケ、ユーサク。


今日はFFFのメンバーで、初めてパーティーを組んでみることになった。


ちなみに一番レベルが高いのが大剣使いのユーサクで、レベル13。

僕はプレイを始めるのが数日遅かったので8レベだ。


「そんじゃ、適当にクエストでも行ってみるか~」


「おう」


色々相談した結果、試しに『クエストボード』で報酬の良さげなパーティークエストを受けてみることにした。


「お、これ良いんじゃないの。『オークの討伐』」


ユウスケからクエストウィンドウが送られてくる。



●『オークの討伐』 ※パーティー推奨

・クリア報酬:5000ゴールド、2000xp、ランダム報酬

・推奨レベル:12以上

・最大参加人数:10人

・場所:『東の街道』



「あー5000か。結構良いな」

「いいんじゃね?」


クラツキとリーダーが同意を示す。

僕の今の所持金が2000ゴールド。5000も入れば一気に3倍以上か。

確かに報酬は良いが……。


(経験値も多いのが気になるな……。つーか推奨レベル12以上だし……)


経験値が2000xpも入ったら、一気に2レベぐらい上がりそうだ。

それはつまり、それだけ難易度が高いということ。

ユーサクはレベル13なので安全ラインだが、次点でクーが11レベ、そしてそれ以外のメンバーは全員が10以下だ。

しかも人数も10人フルじゃなく6人。ちょっと厳しいんじゃないか?


「ユーサク、推奨レベル12以上って書いてあるけど、行けるんか?」


今の所一番の経験者であるユーサクに聞いてみる。


「んー、俺もパーティークエは初めて受けるからなぁ……」


煮え切らない返事。

チッ、役にたたねーな、ボッチ野郎。


「まあやってみようや! 行けるって!」


クエストを提案したユウスケが能天気な声を上げる。

ちなみにこの男は「行ける行ける!」と言いながら、大抵の場合真っ先に死ぬ。

その為こいつはメンバー内で「歩く死亡フラグ」とか呼ばれているのだ。


「今お前のおかげで完全にフラグが立った訳だが」


「いやいや、大丈夫だって!」


「大丈夫だって!」まで出たか。

僕の中の予想が『失敗する』に一気に80%ぐらい傾いたわ。


「まあ行ってみようぜ。どっちにしろどんな感じかは分かるし」


クーは賛成なようだ。

確かに、失敗するにしてもパーティークエの難易度を知る良い機会ではあるな。

それに賛成4で過半数は超えてる。

まあ反対してるのが一番レベルが高くて仕事を押し付けられるであろうユーサクと、パーティー内唯一のヒーラーである僕の、仕事多いコンビってのがアレだが。

そりゃお前らは突っ込むだけだから楽だろうよ。


結局僕たちはこのクエストを受注した。

街を出て、東の街道をマップに表示されたクエストポイントまで進んでいく。


「オークって初めて戦うんだけど」


「12レベぐらいの人型モンスターだよ。俺初めて倒した時10レベだったし、行けるとは思う」


「とは思う」か。不穏だな。

まあ10レベで倒せる敵の推奨レベルが12なのも謎だし、パーティークエになってるのも謎だわな。

…………もしかして、何体も出てくるんじゃないか?


ほぼ失敗するだろうと確信している俺とは裏腹に、アタッカーたちは能天気に雑談している。

駄目だ、このクランには脳筋しかいねえ。僕が対策を考えとかないと。

僕は貧乏性により道端に生えている薬草を採取しながら、最後尾を歩くのだった。





「この辺の筈だけど」


更に20分ほどして、クエストポイントまで着いた。

幅6mほどの広めの街道。その左右には広大な森が続いている。


「警戒しながら進むか。『F1』」


ショートカットから杖を取り出す。

金が無いので初期武器のスタッフを使っているが、正直言って長すぎて邪魔だ。次買う奴はロッドかワンドにしよう。


「!! 来たぞ!」


50mほど周囲を警戒しながら歩くと、脇の森から1体のオークが飛び出して来た。

緑っぽい肌をした、2mぐらいの鬼のような見た目のモンスターだ。

両手には重厚な2本の鉈を装備している。ユーサク君、君にはそういう情報を話して欲しかったのだよ。


「『ラウンドフォース』!」

「『バックスタブ』ッ―――!」


ユースケとクラツキが真っ先に攻撃する。

ちなみにユースケは銃を使うガンナー、クラツキはナイフを使う暗殺者だ。


遅れて他のメンバーも突撃しようとしたが、僕はユーサクの肩だけ掴んで隣に引き留めた。


「? なに?」


「ヒーラーを置いて行く馬鹿がいるか」


「あ、そういえば」


まあ実際にはオークが複数体出て来た時の為の()()なのだが、黙っておこう。


「『ライトリーンフォース・アタック』、『ライトリーンフォース・ディフェンス』、『テンダーエレメント』」


メンバーたちに2つの強化魔法と1つの持続回復魔法をかけておく。

これで僕と同じぐらいのレベルの奴等も、10レベぐらいのステータスにはなっただろう。

ちなみに攻撃には面倒臭いので参加しない。見てるだけだ。


「おお、物攻が上がってる」


ユーサクが自分のステータスを見ながら感心している。

防御力も上がっているのに攻撃力しか見てない辺り、こいつも大概だな。


「おらおらおら!」


「いてえ!? ちょ、ユウスケ、俺まで撃つなや!!」


オークを狙ったユウスケの弾がちょいちょい他メンバーにも当たっている。

酷いなこのパーティー。

傍観してるだけで報酬を貰おうとしている僕も含めて。


「痛っ……!」

「ぐあ!?」


「範囲拡大化Ⅰ、『ヒール』」


リーダーたちがオークに攻撃された端から回復をかけてやる。まあ見てるだけなんだから、これぐらいはしてやるか。


「サンキュ!」

「助かる!」


いやいや、騙されてますよ皆さん。

そいつただ突っ立ってるだけですよ。


ほんの30秒ぐらいの戦闘で、オークの方は死に体だ。

まあ12レベって言っても、こっちは10レベ前後が4人がかりだからなぁ。


「ははっ! やっぱ余裕じゃん!!」


ユウスケさんがご丁寧にフラグを立てて下さった。

嫌な予感に眉を顰めていると、そのユウスケの真後ろの茂みから、新たにもう1体のオークが飛び出してきた。


「あ! ユウスケ!! 後ろ後ろ!!」


「え? ちょっ、アギャーーー!!」


バッサリ斬られた。流石っす、ユウスケさん。

内心で皮肉の拍手を送りながら、一応ヒールをかけてやる。


「―――っ! ふん!!」


状況を察知したクラツキが、急いで1体目のオークの背後に回り、背中を一突きした。

『バックスタブ』とか言うトドメを刺す技だ。さっき最初の一撃に使って地味に失敗してたやつ。

事切れたオークが地面に倒れる。

それを見てすぐにクーが2体目のオークに向き直る。この2人は流石の動きだな。

ちなみにリーダーは当然の如く反応が遅れている。


「俺らもそろそろ行く?」


「えー、めんどいからヤダ」


「お、おお……さすがハネット」


4対1なら余裕で勝てることは証明されてるんだ。ほっといてもいいだろ。

と、余裕をかましていた僕だが、死んだ方のオークの茂みから、更に2体のオークが出て来た。

予想していた通り、複数討伐クエだったようだ。


「うげ、4体目」


「はあ……しゃーねえ、行くか!」


「おう!」


流石に戦力差が危うくなってきた。しょうがないので参戦する。

威勢よく突っ込んだ僕を見て、すかさずユーサクもついて来た。

が、そこで僕はしれ~っとバレないようみんなとオークの脇をすり抜け、死んだオークの所まで来た。


「『ペネトレート』」


闇魔法を発動させてオークの死骸に触り、ステータス情報をゲット。

戦士系なのでHPは高いが、魔法防御力はそれほど高くないようだ。

なんだ、この中で一番相性が良いのは僕だったのか。


「『フォトン』」


光の最低位魔法で、ユウスケを執拗に狙っていたオークを遠くから攻撃する。

頭に直撃させたのが効いたのか、グラリと巨体がよろめいた。


「死ねや雑魚がぁ!!」


ユウスケが狙われ続けたお返しとばかりに銃弾を撃ち込みまくる。

ちなみにユウスケも僕と同じく口が悪い。


「はっはー! どうだ、豚が!!」


僕の一撃の隙に距離を取ることが出来たユウスケが勝った。

でもユウスケのこの手の小者っぽいセリフは、大抵フラグなんだよなぁ……って、あ!!


「ユウスケ、油断すんな!! ―――フォトン!!」


「え?」


オークに死体撃ちしていたユウスケの後ろから、更に4体のオークが湧いた。死神かなんかかコイツは。

その内の1体に咄嗟にフォトンを撃ち込んだが……焼け石に水。

残りの3体がごくごく普通にユウスケに斬りかかった。


「ぎょわーーー!!!!」


ユウスケ、即死。南無。

今回も立派にフラグを回収されて逝かれた……。

今頃はさっきの宿屋でリスポーンしてることだろう。


戦場は5対7の状況となり、乱戦にもつれ込んでしまった。

まあ「しまった」って言うか、乱戦の方が僕は戦い易いんだけど。


「フォトン、フォトン、フォトン、ヒール、フォトン」


外側から他人事のように戦いを眺めつつ、適当にフォトンを連射。たまに味方のダメージを回復。


「『マジックトラップ』」


「おお! ナイス!!」


クラツキを追い回していたオークの足元に、持続ダメージを与え続ける罠を設置。

突然足から伝わって来た激痛にオークが膝を折り、クラツキが即座に反撃に出た。


「あ、やべ」


活躍し過ぎてオークたちが僕に気付いた。一度に3体が走ってくる。

すぐさま僕はその場を離脱。念のため離れないようにしていたユーサクを捕まえた。


「ユーサクガードッ!!」


「え!? ちょおおおお!!!?」


説明しよう、『ユーサクガード』とは。

ユーサクを敵の前に突き飛ばして、盾にすることである。


「ハネットおおおおおッ!!!!」


「あっはっは。ふう、MP回復しよ」


「狂ってる!!」


ユーサクがボコボコにされてる間に、来る途中で採取した薬草でMPポーションを作り回復する。

あー、パーティープレイって楽でいいな。


「まあまあ、そんな怒んなって。回復してやっから」


真っ先に盾にしたユーサクのHPを回復してやる。

これで盾としてまだまだ役に立つ。


「むしろ死なせてくれ!?」


そうこうしている内にクーが2体目を片付けた。数秒遅れてクラツキも3体目を屠る。

これで5対5。やっと戦力が拮抗した。


「さあ、本格的にやってやろうかい!!」


ユウスケとか言うバカタレは死んだが、オークの方もこれ以上増える気配が無い。

このまま行けば、僕のおかげでギリギリ勝てるな。

1対1で戦えるようになった戦場に、僕は颯爽と魔法を放った。







結論から言おう。

MPがねえ。


「ヤバい! MP切れた!!」


「マジかよ!!」


チックショー! リーダーが攻撃喰らい過ぎなんだよ糞!!

他が1発喰らう間に15発ぐらい喰らいやがって!!(※誇張表現有り)


僕の回復魔法が止まると、当の本人であるリーダーがいとも容易く死亡してしまう。


「リーダー! こっからは自分でポーション使え!!」


「ええ!? 戦いながらは無理!!」


「なんでだよ!! ショートカットがあるだろ!!」


ショートカットに登録したアイテムは、使用する動作を省いて効果だけもたらすことが出来る。

要するに、剣を握ったままポーションを使うことも可能なのだ。

が。



「『ショートカット』って何!?」



「馬鹿やろおおおおおおおお!!」


説明書読んでねえのかよ糞が!!


仕方ないので僕が背中からポーションをぶっかけてやることにする。


(次が右! そんで左! ―――今だ!!)


「ゴアッ―――!?」


目の前のオークの一瞬の隙を突き、脇を潜り抜け、リーダーの場所まで走る。


「ハネットさん助けてえええええええ」


「分かった分かった!!」


情けない悲鳴が断末魔に変わるギリギリでポーションをかけてやる。


「お前、今のどうやって避けた!?」


さっき僕がオークの脇をすり抜けたのを見ていたのか、クラツキが遠くで叫んだ。


「目を見たら避けれる!!」


「目!?」


クラツキは納得できないながらも真似しているようだが、成功せずに弾き飛ばされている。

変だな、相手の目を見れば、次にどう動こうとしてるのか分かりそうなもんだが。


「!! あぶね―――!」


嫌な予感がして地面に伏せる。

ほとんど同時に僕の頭上を横薙ぎの鉈が通過していった。さっきのオークが後ろから追いついてきたのだ。

なんとなくそろそろ攻撃してくる頃だと思った。


「お前後ろに目ーあんの!!?」


「僕はいいから自分の敵をさっさと倒せ!! ―――『フルスイング』!!」


杖で敵をぶん殴る魔法使いの初期技、『フルスイング』でオークをノックバック(後退)させる。

相手と距離を取る為の技なので、ダメージはほとんど無い筈だ。相手は戦士職だし。


(とりあえずMPが回復するまで、逃げ回って時間を稼ぐしかない……!)


魔法職の僕のMPは1秒毎に2ずつ回復する。フォトンは10秒に1回使える計算だ。

とりあえず目の前のこいつは、あと5発もぶち込めば倒せる筈―――!


「ぐああああっ」


後ろからリーダーの悲鳴がした。

気になるが、攻撃を避けるのに必死で振り返る余裕が無い。

常時表示していたパーティーウィンドウをチラ見すると、リーダーの欄が黒くなっていた。

って、死んどるやんけ!!


「なんでだよ!! 今回復したとこだろうが!!」


リーダーのあまりの弱さにツッコミを入れていると、「ポコン♪」とチャット受信のアラームが鳴った。


―――メタル: ごめん><

―――ハネット: 死ね!

―――メタル: 俺死んだのに更に死ぬの!?


ちょっと面白いツッコミ入れんな。


状況は4対5。

位置的にリーダーの受け持っていたオークが僕に来たので、さらりと移動して2匹ともユーサクになすりつけた。


「おいハネット!! わざとだろ!!」


「ああ!」


「認めた!?」


「クラツキ! とりあえずそいつ殺すぞ!!」


「おう! 助かる!!」


「ハネットおおおお!! 先にこっち来てくれええええええ!! 頼むううううう」


クラツキの担当オークを2人がかりで一気に片付けようとしたら、クーの方から情けない要請がかかった。

振り向くと、クーが片手剣でオークと鍔迫り合いをしている所だった。


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬうううう!!」


「クラツキ、てめーは一生1人で戦ってろ!!」


「なんでわざわざそんな捨て台詞を残した!?」


クーの方が優先順位が上と判断した僕は、クラツキをあっさり見捨ててクーの方にフォトンを放つ。


「サンクス!! 『ラウンドフォース』!」


クーはオークが怯んだ瞬間に剣を胴体に叩き込んだ。

同じ片手剣使いでもリーダーとは雲泥の差だな。


「もういっちょ! フォトン!!」


「ラウンドフォース!!」


これでまた4対4。しかもその内3匹はユーサクと戦闘中。

先に3人がかりでクラツキのオークをフルボッコにして倒し、ユーサクに助勢した。






「な……なんとか勝った……」


5分ほどかかってやっと戦闘が終わった。

激戦過ぎるだろ。つーかよく勝ったな。

たった3匹相手に時間がかかったのは、僕の強化魔法が切れて全体の攻撃力が下がったせいだ。

やはり強化魔法の有無はでかい。

下位魔法なので上昇値は1.1倍とかその程度の筈だが、与えるダメージにはより大きな差が出るようだ。


「ハネットはんが一番の敵らったんらけろ」


ユーサクがオーク3匹にタコ殴りにされ腫れた顔で抗議してくる。

まあユーサクにとっては災難だっただろうが、俺が生き残ってなかったら100%負けてたからな。自分では最善の判断だったと思っている。まあピンチじゃなくてもやるけどな。楽だから。


MPの回復に2分ぐらいかけて全員のHPを完全回復させてやった。


(MPか……。正直あそこでMP切れになってなければ、リーダーは死ななかったよな……)


まあリーダーがちゃんとショートカットを知っていれば解決できた話でもあるが。

今回の初パーティー戦で気付いたが、俺に必要なのは攻撃力じゃなく、持久力だ。

回復と強化の魔法を吐き出す機械と化すのが理想形。


(回復魔法はともかく、強化魔法は魔攻に関係なく一定割合での上昇だ。それに回復魔法だって、圧倒的なMP量さえあれば解決できる話ではある……)


1回で全快しないなら2回かければいい。

更に10回で全快しなければ、20回かければいいのだ。


(……決めた。こっからはレベルアップ毎の成長ポイントはMPに振ろう。駄目だったらもう1個アバター作ってやり直せばいいし)


俺には俺のサポートのやり方がある。

結果さえ残せるのなら、別に攻略サイト通りのキャラビルドでなくとも良いのだ。

それに攻撃力が足りなくても、このFFFは俺以外全員アタッカーだから、パーティーを組めば解決する話でもある。


「そういえば、あそこの洞窟はなんだろうな」


「ん?」


クラツキが見ている方向。

そちらを見れば、遠くの岸壁に、石製の巨大な扉が付けられていた。


「ユーサク、知ってるか?」


「ああ、なんか『スフィンクス』が封印されてるらしいよ。街でNPCが言ってたわ」


スフィンクスか。確かボスモンスターだっけ。


「ウィークリーで難易度変わるらしいけど、掲示板では先週15レベぐらいだったって言ってたし……ちょっと覗いてみる?」


「…………そうだな。試しにどんな奴か覗いてみるか」


「ヤバそうなら逃げればいいしな」


俺達4人は街で待ってるリーダーたちを完全放置し、まだ見ぬボスとやらにちょっかいをかけてみることにした。

いつでも逃げられるように石の扉を開けっ放しにし、中に入る。

洞窟を100mほど進むと、薄暗い広場の中央に、10mぐらいの巨大な犬のような物が丸まっていた。

呼吸で規則的に揺れる体を見る限り、眠っていてこちらには気付いていないようだ。


「おお……マジでいた」


「何レベだろ」


「ちょっと攻撃してみようぜ」


「あ、じゃあ僕がやるわ」


攻撃して敵性オブジェクトになれば、レベルが表示される。

遠距離から僕のフォトンで攻撃してみることにした。


「フォトン!」


スフィンクス(?)の背中辺りに、光属性の爆発が起きる。

「キュオオオン」という女性の金切声のような物を上げながらスフィンクスが目覚めた。


「どれどれ、レベルは―――」






●スフィンクス Lv.45






L v . 4 5


L v . 4 5


れ べ る よ ん じ ゅ う ご






「逃げろおおおお―――!!!!」


「ヤバいヤバいヤバいいいい!!!!」


「走れえええええ!!!!」


好奇心は猫をも殺す。

運悪く、今週のスフィンクスはとんでもないレベルになっていたらしい。

僕たちは一目散に出口に向かって走り出す。

戦士職の奴らとの敏捷ステータスの差で、僕だけどんどん置いていかれる。


(糞! こんな時に空が飛べたら!!)


走りながらスフィンクスの方を振り返る。

起き上がったスフィンクスは、犬の体に女の上半身がくっついたような見た目だった。


「キモッ!?」


こちらを追いかけようとしていたスフィンクスだったが、俺たちが洞窟に逃げ込むと急に動きを止めた。

流石にこれだけ狭くなるとあの巨体では追って来れないのだろう。

それでも油断せず観察を続けていると、スフィンクスの背中に赤い魔法陣が出た。


「やべえ!! なんかくるぞ!!」


「え!?」


僕の報告に前を行っていた3人も振り返る。

その視線の先では、スフィンクスの頭上に巨大な火球が出現していた。

みるみる大きさを増していくそれは、4mほどのサイズに達すると、こちらに向かって飛んできた。


「ちょ―――」


次の瞬間、視界が赤一色に塗りつぶされた。


範囲魔法。


後に『ファイアーボール』という魔法だと判明した、たった1発のそれによって。

……僕達FFFは、全滅した。











「はい、反省会しまーす」


「いえーい」


宿屋にリスポーンすると、リーダーとユースケが退屈そうに待っていた。そういえばいたね、お前ら。

今は晴れて全滅した6人揃って、元の酒場に帰って来た所だ。


「まず僕の反省点。MPが足りん。とりあえずポーションを大量生産することにします」


どっかに畑でも作って薬草を増やしまくろう。


「続いてクラツキ君」


「俺は火力が足りないように感じたから、攻撃力上げるスキルでも取ってみようかな」


まあ暗殺者なら一撃必殺じゃないとな。火力上げるのはこのゲームのテンプレでもあるっぽいし。


「次、クー」


「俺は厨武器買うわ」


清々しいまでの武器頼り宣言!

いわゆる「金で解決する」という奴か。


「じゃあ、ユーサク」


「大剣の技、別の奴覚えよう……」


多分防御技か範囲技だろうな。俺のせいで複数に囲まれることが多そうだから。


「まあそんなとこだな。それじゃあちょっと休憩してからもう1回行ってみるか。報酬の経験値でレベル上がったし、今度は楽だろ」


「あれ? 俺とリーダーの反省点は?」


「てめえらはもう引退しろ」


「見限るのがはえーよ!!」


え、早いか?

普通に見限られる程度の働きしかしてないと思うんだが……。


この後レベル上げとして同じクエストに5回ぐらい行ったが、ユウスケが2回、リーダーが4回死んだ。

と言っても、ユウスケは別に弱い訳ではない。プレイヤースキルは十分にあるのだ。

ただ「宇宙意志によって殺されてるんじゃ……」というぐらいフラグ回収能力が高いだけで。

リーダーはただ単に雑魚。


ちなみに他のメンバーはスフィンクス戦以外1回も死んでない。

僕に至っては完全に無傷だ。というかあの範囲魔法以外の攻撃を喰らったことが無い気がする。

今思ったが、僕のこれは結構凄いのではないだろうか。

理由を探ればいつか覚醒するかもしれん。





こうして俺達は負ける度に思考錯誤し、徐々に徐々に強くなっていった。

『対戦に現れる害悪クランFFF』として名が知られるようになるのは、これから3年ほどしてからの話だ。

後編に続きます。

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