表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッズテイル ~サイコ男の異世界神話~  作者: 柴崎
おまけ ~日常詰め合わせ~
48/103

おまけ 農場ガチ勢

2016.8.4

2章で尺の都合上カットされた話その1。

農場王SUGEEEEという謎の誰得描写。

俺がこの世界に侵入して今日で54日目。

昨日農業指南役であるハンカチ娘たちが移住して来て、住民たちも学校を卒業。

今日からはついに正式に仕事が始まるのだ。


「えっと、畝を作る所から教えればいいのですよね?」


住民たちの前に出た農業指南役の代表が再確認してくる。

見た目35歳ぐらいのおっさん。名前は当然の如く忘れた。


「お前名前なんだったっけ?」


「あっ! む、ムントです!」


忘れてたっつーか聞いた覚え自体が無い。

自己紹介はまだだったか。それすら覚えてなかったわ。

今後畑の責任者として話す機会が多いかもしれんから憶えとこう。ムントムント。あだ名はムンムンで決定。


「ムントな。見ての通り、もう土の方は耕してある。お前が言った通り、農具の使い方から教えてやってくれ」


今俺は、ニーナたち学校組を除いた全住民たちと共に畑に来ている。

朝食を食べ終え、時刻は8時。

ここから12時までの4時間を、この集落での仕事の時間にする予定だ。

畑は10枚作ってあるが、住民たちが使えるのはその内の2枚。

残りの8枚は俺の畑だ。こいつらにはやらん。


「は、はい! ……あ、えっと、農具はハネット様がご用意して下さるという話でしたが……」


「ああ。とりあえずクワなんかで良いか? 今日は種を蒔く所までの予定なんだが」


当然だが農具は俺が作る。

俺が『アイテム作成』で作れば、使う奴の体格にも合わせられるので便利だし。


「そうですね……。あとは水やりの道具と、種を蒔く為の小袋もお願いできれば……」


「そうだな。よし」


じゃあクワとジョウロを作るか。

袋はそもそも種系アイテムが小袋入りだからいいだろう。


「『アイテム作成』」


とりあえず最初にムンムン用のクワを作る。

柄に使う木材はゲーム内で一番軽くて丈夫な奴を。刃は適当に『オリハルコン』辺りにしよう。

ついでにクズ素材も調合して、『作業効率Ⅰ』という性能強化の効果も付与しておく。


軽く広げた右手に自作のクワが出現する。

ゲーム内だと怪力を誇る俺の腕には重さが分からん。

だが木材は一番軽いのだし、刃も極限まで薄くしてある。一応オリハルコンだから、この薄さでも折れたりはしない筈。

本当はより丈夫な金属である『アダマンタイト』にしたかったが、あっちは重いので女子供に持たせるのに不向きだ。

ちなみにオリハルコンもアダマンタイトも、アイテムボックス3ページ分(99個×81マス×3ページ)ずつぐらい持っているので、いくらでも無駄遣いして構わない。

これは分かり易く言うと、プレイヤー1人頭の平均所持量の40倍ぐらいだ。

え? なんでそんなに持ってるっかって?

農場王だからだよ。

これ以上説得力のある説明があるか?


「こんなもんで良いか?」


適当に片手で振ってみてから、目を丸くしているムンムンに手渡す。

だが受け取ったムンムンは、その目を更に見開くことになった。


「おお!? かっ、軽い……!!」


俺の真似をして片手でブンブン素振りしている。

一般人が片手で素振り出来るなら、軽さは申し分無いな。


「あ……で、ですがハネット様。これだと少し軽過ぎるかもしれません。クワはもう少し重みもないと……」


まあムンムンのその心配はごもっとも。

クワは振り下ろす時、クワ自身の重さを利用する。

それは俺もリアルの方で何回かやったことあるので分かる。

だからこそ、さっき『作業効率Ⅰ』を付けてプラマイゼロにしたのだ。


「多分大丈夫な筈だ。試しにその辺を耕してみてくれ」


「は、はあ」


ムンムンが半信半疑の顔で足元の地面を抉る。

その瞬間、ムンムンの目がおもちゃを与えられた子供のように輝いた。


「うおお! す、凄い! これは凄い!!」


そのまま何mもザクザクと後退して行く。

どうやらあんまりにもクワの性能が良いので楽しいらしい。

ふむ、アイテム作成は補助スキルで強化してあるからな。プラマイゼロどころか、プラスになっている訳か。

これぞ農場王クオリティー。


「な? 大丈夫だろ?」


「は、はい! まるで地面が小麦粉になったかのようです!」


そんなにか。

まあ俺は怪力だからいつもそんな感覚なんだが。


「お、おい! 俺にもちょっと貸してくれよ!」


「俺にも!!」


ムンムンの評価に他の農業指南役たちが集まってくる。

まあ他の農業指南役って言うか、昨日のハンカチ娘の父親と兄な訳だが。この家族全員元気そうだな。


「全員に作ってやるから慌てるな。ほら」


1人1人順番に呼び出し、体格に合ったサイズのクワを作ってやる。

全員に行き届いたのを確認し、早速仕事を始めるよう言い付けた。

ムンムンが前に出てクワの使い方を説明し、他の農業指南役たちは全員真似出来ているか確認して回るようだ。


「えー、ではクワの構え方ですが、まず進行方向に対して背を向けて、左足を直角に置きます。この時右足は進行方向に対して平行になるように―――」


おお、めっちゃ本格的な教え方だ。

この分なら俺の出る幕は無さそうだな。


俺は耕し作業はムンムンに任せ、この隙にジョウロの方を作っておくことにした。


(えーっと、1、2、3、4―――)


農作業組は全部で33人か。

確かこの集落の住民が24人だから、移住組は9人が現役農民だった訳だ。

33個分の樹脂製ジョウロを作り、畑の脇に建てた道具小屋に突っ込んでおく。

そうだ、そういえば畑に使う用の水源が要るな。俺のスキルだと水撒き作業自体がいらないから忘れてたわ。

みんなが畝を作るのに四苦八苦している中、俺はその辺の細々(こまごま)とした仕事を進めて行った。




「ハネット様。目標の畑1枚、耕し終わりました」


それからほんの2時間ぐらいで、ムンムンがそう報告してきた。

100m×50mの畑を人力で1枚耕そうとしたら、普通なら数日がかりの大仕事になる筈だ。

だがそんな物、俺のクワの手にかかればこの程度よ。

やはり農場王製クワは、量産型ですら神性能だな。

まあこのスピードで終わったのは俺のクワの性能というより、俺のクワの性能に感動した指南役たちが、調子に乗って耕しまくったのが原因だろうが。

ちなみにもう1枚の畑は明日に回す予定だ。種蒔きなんかの時間も考えると、とてもじゃないが4時間では終わらない。


「そうか。じゃあみんなを集めてくれ。少しだけ休憩にしよう」


最初の場所に全員を集め、飲み物を渡して休憩させる。

俺はその間に、アイテムボックスから今持ってる種を色々取り出した。何を植えるかの検討だ。


とりあえず1つは二十日大根だな。

住民たちは半分以上が畑での仕事経験が無い。作物を育てる事の楽しさと有意義さを、さっさと覚えさせた方が良い。

ただし今のこの20度前後の気温だと、30~40日ぐらいはかかるだろう。たしか二十日大根が二十日で収穫できる気温は、もうちょい上の筈だ。

まあ間引きの時に抜いた奴は食えるらしいから良いだろう。そう考えれば、初収穫はほんの数日後の話だ。


そんなこんなで色々と植える野菜を考えた。

今回はリアルっぽく、1つの畑で複数の野菜を育てる予定だ。

2枚目の畑もあることを考えれば、10種類ぐらいは植えられるだろう。

そうそう、北西の家畜たち用のエサも忘れず育てないとな。


「ハネット様ー! 何を植えるんですかー!?」


木陰に椅子と机を出して座っていると、種の小袋を見つけた元孤児たちが走り寄って来た。

あのスリのガキもなんだかんだ言って来る辺り、少しは慣れてきたのかもな。


「10種類ぐらい植える予定だから迷ってんだ。とりあえずこの二十日大根は植えるつもりだが」


「は、ハツカ大根ってなんですか?」


5人の中で一番地味な女の子が質問して来た。初めて会話したかもしれん。


「植えてから20日で収穫できるっていう、成長が早い根菜だ」


「へー!」


「ほう、ハネット様は、面白い物をお持ちですね」


俺達の雑談に興味があったのか、ムンムンを筆頭に指南役たちも近寄って来た。

この集落の住民は基本的に俺を恐れて近寄って来ないのだが、こいつらの場合は好奇心の方が勝っているらしい。

というかたった2時間で俺への心の開き方が凄い。どうやら俺の農場王印のクワは、彼らの心をガッシリ掴んでしまったようだ。

ほらな? 分かる奴には分かるんだよ。この俺から立ち上る、農場王の圧倒的王気(オーラ)がな……!


「ふふふ、そうだろう。他にもジャガイモなんかもあるぞ」


「わー、ジャガイモー!!」


俺の取り出した種芋の袋に、元孤児たちが大きくリアクションを取る。

ジャガイモはこの集落での人気食材の1つだ。


「ジャガイモも植えるんですかー!?」


「ああ、そうするつもりだ。何しろ畑が広いから、何種類でも植えられる。他にも好きな野菜があったら出してやるぞ」


「やったー!!」


「『ジャガイモ』ですか。今朝の朝食に出ていたあの芋ですよね?」


「そうだ。美味かっただろ? 育て方や性質とかの詳しい話でもしてやろうか?」


「はい、是非に!」


やはりこいつらは俺と気が合いそうだな。

元孤児たちが飽きない程度に、軽く授業でもしてやるか。ジャガイモ含むナス科の植物は、連作障害とか色々あるし。

俺も本職ではないので有名な話や手法しか知らないが、それでもこの時代の人間たちよりはマシだろう。


「まずこのジャガイモだがな、実は毒がある」


「……えっ!?」


そんな感じで和気藹々とした休憩時間を過ごした。

やっぱ畑は良いね。和みやでほんま。




種蒔きも順調に完了し、住民たちの初農作業は無事に終わった。

指南役たちは俺の作ったジョウロの方にも興味深々だった。そりゃ桶とひしゃくで水を撒くよりは楽だったことだろう。樹脂製だから軽いし。

ここからは毎日水をやり、雑草を抜いたり、育ちの悪い芽を間引いたり。人工授粉とかはもうちょいしてからで良いだろう。

にしてもついに雑草が生え始めたか。

俺がこの辺り一帯を『ブラックホール』で消滅させてから2か月。

流石に2か月も経つと種かなんかが飛んできたのか、一面の更地だった地面にも緑が目立つようになってきた。

雑草の繁殖力はゴキブリレベルだ。草抜きの仕事かなんか作ろうかな。


「じゃあみんなお疲れ。少し早いが、今日の仕事はこれで終了だ」


「お疲れ様でした!」


住民たちが頭を下げる。

特にやる作業も無いので、時計台が鐘を鳴らす前に終わりにした。


「俺は今から自分の方の畑を弄る。お前達は昼飯まで自由にしてて良いぞ」


「おお……ではハネット様、私達も少し見学してよろしいでしょうか?」


指南役たちが俺の農作業と聞いて食い付いてくる。

お、気になる? 気になっちゃう?


「おう、見てみるか? もっとも、参考にはならんだろうが…………『頂点』を見るのも良い経験だ」


俺のニヤリとした笑いに指南役たちがゴクリと喉を鳴らす。

せっかくだから、農場ガチ勢たる俺の『聖剣』を見せてやろう。


すぐ隣の俺の畑に移動し、指南役たちには、危ないので少し離れた場所から見学するよう言っておいた。


「『F10』」


武器のショートカット番号を口ずさむと、俺の右手に圧倒的な『美』を彷彿とさせるクワが出現した。

それは刃から柄までの全てがダイヤモンドで出来た、光り輝く透明なクワ。

透けるように透明な本体には、溝を掘る事で緻密な模様があしらわれている。

それが光を乱反射させることで、ここまで美しく輝いているのだ。言うなれば、ダイヤモンドカットと同じ要領である。

そしてこのクワは見た目だけでなく、その内包した能力まで圧倒的だ。


そう、これこそが、農場王たる俺の聖剣。

その名も―――



―――『神器エクス()()リバー』であるッ!!



スキルで全作業が行えるので全く作る意味の無いクワ!!

それを見た目に究極にまで拘った上、更に総額300億ゴールドぐらいかけて素材を購入しまくり、『作業効率Ⅴ』、『作業範囲Ⅴ』、『耐久強化Ⅴ』、『収穫数強化Ⅴ』、『収穫ランク強化Ⅴ』などの畑作りに役立つ全15もの最高ランク効果を付与!!

でも別に普段は使う事は無い、ただただ自分の自己満足の為だけに作ったクワ!!

『F12』が魔法使いとして作った最強の装備なら、この『F10』は農場王として作った最強の装備だ。

ちなみに攻撃力と魔法攻撃力は1mmも上がらない。


「おおお……」


遠くから指南役たちのどよめきが聞こえてくる。

どうやら遠目からでも分かる究極の美を前に感動しているようだ。

だがこのクワは見た目だけじゃない。

究極の美の次は、究極の力を見せてやろう!!


「―――ふんっ!」


俺はエクスクワリバーをゴルフクラブのように構えると、無造作にスイングした。

クワの刃先が地面を抉る。

そして、その瞬間。




―――ズゴゴゴゴゴゴ!!!!




「うおおおおお!!?」


刃の触れた場所から扇状に、畑が勝手に耕されていく。

『作業範囲Ⅴ』と『作業自動化Ⅴ』の効果により、オートで作業が進んでいるのだ。

空気を混ぜ込みながらふんわりと耕された土。

そして今度は、それが畝の形に成形されていく。

ほんの10秒ほどで、1枚の畑が耕されてしまったのだ。


「…………」


指南役たちの方を振り返ると、彼らは茫然とした顔で綺麗に整えられた畑を眺めていた。

きっとモーゼが海を割った時の群衆も、こんな顔だったことだろう。

エクスクワリバーを持ったまま、そちらに歩き、一言。


「―――使ってみるか?」


「―――やります!!!!」


こうして「すげー!!すげー!!」とはしゃぎながらクワを振り回すおっさん達という光景が展開された。

指南役たちはそれはもうラジコンを買って貰った小学生のように楽しげに畑を耕しまくった。

おかげでちゃっかり俺の作業量が減っているのは内緒だ。


まあそんな感じで、俺は信者を手に入れた。

エクスクワリバーだけでなく、その後のスキルを使った全自動農業風景も見た指南役たちは、心の底から俺を崇めているようだった。

後の世に、俺の名前が豊穣の神として伝わるかもしれんな。




途中で二十日大根の成長を早める為にこっそりスキルを使ったりもしたが、その後毎日平和に時は流れた。

二十日大根で初収穫を終えた住民たちは、仕事を割り振りし直した時にも、3分の1ぐらいは残ってくれた。

何かを育てることの楽しみを理解した者が、それだけいたのだ。

まあ1人、俺の騎士になりたいとかほざいてた奴も、体を鍛えさせる意味でここに突っ込んどいたが。


かくして、後にいくらかのエルフも参入することになる、この集落最初の畑が誕生した。

規模では俺のハネットファームに遠く及ばないが、作業者たちの顔に充実感のある、綺麗な良い畑になった。


ちなみに俺の方の畑では、現地で手に入れた『オリジナル』植物たちを育てている。

採れた作物で調合などを思いつく限り試してみたが、ほとんどの作物は友好活用が難しいようだ。

せいぜい3種類ぐらいの植物が、ポーション素材の代替になるぐらいか。


(ま、それでも育てるけどな)


特に使い道は無いが、とりあえず増やしておく。

日々圧迫され続ける俺のアイテムボックスだが、そんな悲鳴も一切無視だ。

なぜかって? 決まってるだろ。


(農場王だから、だよ)






ザ・ワールドというゲームにおいて、その性格の悪さと、高いサポート能力で知られるプレイヤー、ハネット。

これはFFFのクランメンバーなら誰でも知っていることではあるが…………彼の真の強みは、その類い稀なるMP量でも、範囲攻撃でも、サポート魔法でも無い。


―――それは、彼の唯一の趣味。


彼の真価は、その類を見ない膨大なアイテム貯蔵量―――すなわち、『持久力』にこそあった。

この趣味が、後の決戦で明暗を分けることになるのだが……それは、まだまだ未来の話。

作者マイページの『活動報告』でハネット、ニーナ、ティア、ルルのキャラデザ絵を公開しました。興味があればお楽しみ下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ