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おまけ ニーナとルルの泥酔事件

2016.7.7

おまけ話。童貞と酔っ払いとムッツリスケベ視点。

それはルルと出会った次の日の夜のこと。

……その夜。今や闇に葬られし、その事件は起こった―――。




「ふあ~あ」


ソファーに寝っ転がり大あくびをする。

誰も見てないと下品に生活しても良いから楽だ。

昨日と違い、今日からルルはニーナの家で生活している。

美少女が手元にいなくなるのは寂しいが、こればっかりは仕方ない。

だいたいあいつらが喧嘩するから悪いんだ。


現地の時刻は9時前。

まあ今日はそろそろログアウトしとくか。

あーあーバイトだりーなー。


―――ピンポ~ン♪


現実に戻りたくなくてグダグダしていると呼び鈴が鳴った。

なんだこんな時間に。


「はいは~い、今行きま―――」


―――ピンポンピンポンピンポンピンポン


うわ! めっちゃ連打してる!

どこの酔っ払いだコラァ!

長い廊下を駆け抜け、玄関を勢いよく開ける。


「あ、師匠……」


「うふふふふ」


犯人はニーナとルルだった。

予想外の2人で驚く。

ボッツ辺りだったら連打した回数だけシバいて追い返そうと思っていたのに。


「あ? どうした、お前ら―――」


「ハネットぉ~」


ニーナに肩を借りていたルルが、突然俺の方に抱き着いて来た。


「なっ―――」


「んふ~。すーはーすーはー」


思いっきり服の匂いを嗅がれている。

やだ、私シャワー浴びてないから臭いかも……。

……つーかこいつらが酒臭い。

なんだこいつ。酔ってんのか。


「うわ~、ハネット良い匂い~」


「お、おい、ニーナ。これ……」


「―――師匠、私もしてもいいですか」


ニーナも変なこと言ってる……。

どうやら2人とも酔っ払いのようだ。

なんだこれ……。


「よし分かった。とりあえず中に入れ」


とにかくどっかに座らせよう。

移動という自由を許していると、何を仕出かすか分からん。


「この前みたいに抱っこして~」


「昨日だよ昨日」


しょうがないのでお望み通り抱っこしてやる。

顔も体も真っ赤だ。こいつは肌が白い分目立つ。

マジで泥酔してやがるな。


「―――師匠、私にもして下さい」


仕方ないか。

つーか役得かもしれない。

ルルを部屋の1つまで運び、帰ってきて今度はニーナを抱き上げる。

こいつも充分細い部類だが、流石にルルと比べると肉感的だ。

というか最近なんだか女らしさが出て来た気がする。正直言って、色気があるのだ。

そのニーナがぎゅっと抱き着いてきた。

小ぶりな胸が、俺の胸板の上でふにゅっと潰れる。まさに役得。

でも匂いを嗅ぐのは恥ずかしいので勘弁して下さい。


2人をソファーに座らせ、俺もその正面に椅子を出す。


「そんで、なんでこんなことになったか説明できるか?」


「はーい! ボクできるよー!」


絶対無理だろ。

ルルみたいな何かを無視して、ニーナに視線を向けた。


「ルルさんを歓迎して、酒盛りをしていました」


なるほど、飲みニケーションという訳か。

まあ仲良くはなってそうだけど、もうちょいなんかなかったのか。


「あ、そういえば、なんで俺の家に来たんだ?」


「それは―――」


「もー、ハネットもこっち座ろうよ~」


話の途中でルルが割り込む。

俺に来いという意味なのか、両手を大きく広げている。「ボクに飛び込んで来い!」と言わんばかりだ。

こいつ酔うと人に絡むタイプか。


「まあこんな感じで、ルルさんが師匠に会いたいと言い出しまして」


「うーん……」


酔っ払いは100%思い付きで行動するからな。

なんかの話で俺の話題が出た時にでも、そんな話になったのかもしれない。


「ぶ~。じゃあいいもんっ。ボクがそっちに行くからぁ」


「ちょっ!?」


ソファーから立ち上がったルルが、そのまま俺の膝の上に、横になるようにして座って来た。

さっきのお姫様抱っこみたいな感じだ。

どうにかしなければとは思うのだが、太ももに感じるお尻の感触に全神経を集中させるという大事なお仕事があるので、今はそれどころじゃない。


「んふふふ」


そのままルルは体を捻って上半身だけ俺に抱き着き、デレデレと甘えてくる。

俺間違いなく今人生で一番幸せだわ。ゲームだけど。


「お、おいルル―――」


「ちゅー」


「はぁっ!?」


ルルが顔を近づけて来たので慌てて肩を掴む。

危なかった。あと10cmぐらいだったぞ。


「ちょ、おい酔っ払い! いい加減にしろ!」


「も~! ハネットは、ボクのことどう思ってるの!?」


「あぁ?」


酔っ払いが急にキレ出した。手が付けられん。

つーか普段とのギャップが有り過ぎだろ。


「ボクのこと『好みだ』って言ってたでしょ! 好きなの!? 嫌いなの!?」


もうこいつ誰かなんとかしてくれ。


「はいはい、好きだよ好き」


「ほんとに!? じゃあ家建ててよ!」


「家?」


「子供がいっぱい生まれても大丈夫なやつ!」


何言ってんだこいつ。

恥ずかし過ぎるセクハラ発言に思わず顔が熱くなる。


「ほら、ソファーに行け!」


抱き抱えてもう1度ソファーに座らせる。

椅子に戻ろうとしたら、ローブの袖を掴まれた。


「あ~っ! せめて、せめて……」


「なんだよ」


「胸元を舐めさせて……」


「寝てろ!!」


闇の睡眠魔法で強制的に眠らせた。次からこうしよう。


「ったく……。ボッツにこいつには酒を売らないよう言っとかねーと……」


俺に絡むならともかく、住民の誰かに絡んだらヤバい。主に俺の精神が。


「ニーナの方はそんなに酔ってないのか?」


「いえ、完全に酔ってます」


そうだね。酔ってなかったらお前はそんなこと言わないね。

顔も赤いし。


「師匠、私のことも好きですか?」


ニーナが唐突にルルと同じ質問をしてきた。

脈絡の無さが酔ってる証拠だ。


「……まあそりゃ、嫌いじゃないよ。他の奴らよりもな」


「う……そ、そうですか」


ニーナは既に赤かった顔をもっと赤くした。

おい、酔ってるからと思って言ったのに、反応が普通過ぎて恥ずかしいんだが。


「じゃ、じゃあ、キスしてもいいですか?」


「アホなこと言うな」


どうやらこいつも絡み酒のようだ。鬱陶しさがヤバい。


「俺は、そういうのは酔った勢いでするもんじゃないと思う。こっちの価値観は俺には分からんが、少なくとも俺は、そういうことをする時は……真剣に向き合いたい」


「……な、なるほど」


酔っ払いの相手ってどうするのが正解なんだろう。

俺の家族は誰も酒を飲まないから分からん。


「あ、あの……。し、師匠は、私に欲情しないんですか?」


「よし、お前も寝てろ」


冷凍マグロが2匹出来上がった。いい加減面倒臭い。

とりあえずニーナをベッドに移し、ルルも隣の部屋のベッドに寝かしてやる。

迷惑料として胸の1つでも揉んでやろうかと思ったが、なんとか我慢した。

正直言うと、先程のルルのせいで少し性欲がアレしている。帰ってアレしてソレして寝よう。


(はー……15分ぐらいで一気に疲れた……)


色々と精神に来たのでログアウトした。




翌日の朝。

レーダーの中立オブジェクトが動き出したので部屋を出る。

多分ニーナたちが起きたんだろう。

階段を下りると、廊下でニーナとルルがなぜか手を繋いでいた。


(なるべく自然に話しかけよう)


あれは無かったことにした方が良い。

俺は珍しく本気でポーカーフェイスを作り、2人に話しかけた。









うふふふ。

ニーナの作るお酒は本当に美味しいなぁ。

甘いしゴクゴク飲めちゃうよ。

それにこの『タンサン』って言うシュワシュワしたのも気に入りました! うふふ。


「る、ルルさん、もうやめておいた方が……」


「だーい丈夫だってぇ! ボク今まで酔ったこと無いんだからぁ~」


ふふふ、ボクは酔っぱらってマントを脱いだりしないよう、傭兵時代は自制して飲まないようにしてたからねぇ~。

だから大丈夫なのだぁ。


「今まで酔ったことが無いというのは、これからも酔わないという証拠にはならないと思いますが……」


「も~、難しいことはいいからぁ~。ねえねえ、それよりさぁ~」


「なんですか?」


「ニーナってぇ、ハネットとどういう関係なの~?」


「は?」


「だってさ~? ニーナってぇ、ボクのこと睨むじゃん~? ボクがぁ~、ハネットとぉ~、楽しそぉ~っにしてる時だけさ~」


「い、いえ。そんなことは……」


「じゃあハネットは貰っていい~?」


「えっ……」


「なんかさぁ~、運命だと思うんだよねぇ~。ボクとハネットって~、共通点がいっぱいあると言うか~」


そうなんだよね~。

髪は白いし~、光の魔法使いだし~、魔力量に特化してるし~、髪は白いし~、歳は近いし~、話してて落ち着くし~、歳は近いし~。

あ、目だけ色が違うのもね~。僕も目が黒だったら良かったのになぁ。


「ま、まあそうですね。確かにルルさんと師匠は色々と共通点が多いです」


「でしょ~? ボク里にいたって結婚できないだろうしぃ~、もうハネットと結婚するしかないと思うんだよねぇ~」


「ルルさんの境遇には同情しますが……でもそれを決めるのは私ではないので……」


「そっか~。じゃあハネットに決めて貰おっか~」


「え?」


「ハネットの家にいこ~!」


「えっ、えっ」




ハネットの家までニーナに連れて来て貰った。

あ、ヨビリンって奴はボクが押すぅ。これ面白いよねぇ~。

というかなんで押してるんだっけ?


いつの間にか目の前にハネットが立ってた。あ、ここハネットの家だ~。


「ハネットぉ~。んふ~。すーはーすーはー」


ハネット良い匂い~。やってみたかったんだ~。

知ってるハネットぉ~? ボクに触ったのって、ハネットが初めてなんだよぉ~?

あー、なんか舐めたくなってきちゃった。この服どうやって脱がすんだろう。


「よし分かった。とりあえず中に入れ」


きゃ~、お家に誘われちゃったぁ~。

これってそういう意味だよね~。子供がどうのって話をしたし~。

ボク子供はいっぱい欲しいなぁ。

それにしても、ボクの初めての人はハネットかぁ~。

今まで不幸だと思ってたけど、この出会いの為だったのかなぁ。

ハネットみたいな凄い人と結婚できるんなら、生きてきた甲斐もあったな~。


「この前みたいに抱っこして~」


「昨日だよ昨日」


ハネットがあの時みたいに抱っこしてくれた。や~ん好き~。大好き~。

あ、ここからだと胸元が見える。舐めちゃおっかな~ムフフ。





「そんで、なんでこんなことになったか説明できるか?」


「はーい! ボクできるよー!」


「…………」


「……ルルさんを歓迎して、酒盛りをしていました」


むぅ~、2人が無視するぅ~。

っていうかニーナはいつからいたの?


「もー、ハネットもこっち座ろうよ~」


誘ったのに来てくれない。

やだ~、もっと抱っこして~!


「ぶ~。じゃあいいもんっ。ボクがそっちに行くからぁ」


「ちょっ!?」


ハネットの膝に座った。体がたくさん触れ合って気持ちいい。

あはは~、ハネット真っ赤~。

可愛いなぁ~もう~。

抱き着いて頬ずりする。うわ~気持ちい~幸せ~。

胸元を舐めようと思って顔を上げたら、すぐ近くに口があった。

うわぁ、すごくやってみたい……。

うん、やっちゃおう!

だって今は、ハネットの家に2人きりなんだから!

天国にいるお母さん! ボクは今日、大人になりますっ!


「ちゅー」


なぜかいつまで経っても唇が届かない。

なんで~、あとちょっとなのに~。

よく見たらハネットの手がボクの肩を掴んでいた。

もう! 家に誘ったのはそっちじゃないか!


「も~! ハネットは、ボクのことどう思ってるの!?」


「あぁ?」


「ボクのこと『好みだ』って言ってたでしょ! 好きなの!? 嫌いなの!?」


ちゃんと覚えてるんだからね!

男の人に初めて言われたんだから!

責任取ってボクを貰いなさい!


「はいはい、好きだよ好き」


わーっ、聞いた? 聞いたよね~!?

ボク今の言葉、一生覚えてると思うなぁ。


「ほんとに!? じゃあ家建ててよ!」


ボク子供はいっぱい欲しいなぁ。

もしかしたら髪はみんな白くなっちゃうかもしれないけど、ハネットがお父さんなら安心だね~。

きっと良いお父さんになってくれると思うんだ~。なんかボクと違って、子供たちは普通に育ってくれる気がする。

ついでにボクも幸せにして貰っちゃお~。毎日可愛がって貰うんだ~。むっふふふ。


ハネットがボクを抱きかかえて立ち上がった。

つ、ついにボクの初めてが……。

と思ったのに、下ろされたらソファーだった。

寝台だと思って期待したのにぃ~。

しかもハネットはボクを置いて離れて行く。


(ああせめて、せめて……胸元を舐めさせて……)









なんでこんなことになったんだろう。

今私は泥酔したルルさんを連れて師匠の家に来ている。

しかも師匠にルルさんと私、どっちが好きかを決めて貰おうという謎の理由で。

私はハーフドワーフなので全く酔ってない。

でもここからの展開は素面ではキツい気がする。

私も酔っていることにしてしまおう。明日になったら「覚えてない」で全部誤魔化す。

ドワーフの性質は広く知られていても、ハーフドワーフの性質まではそうでもない。多分なんとかなるだろう。

呼び鈴を押す前に覚悟を決めていると、肩を貸していたルルさんが勝手に呼び鈴を押してしまった。

しかも面白がって連打している。

この人にはもう二度とお酒を飲ませないと誓う。


呼び鈴の音が不快だったのか、いつもより早く師匠が出て来た。

私達の異様な様子を見て眉を顰めている。


「あ? どうした、お前ら―――」


「ハネットぉ~」


ルルさんが私から離れ、突然師匠に抱き着いた。


「なっ―――」


「んふ~。すーはーすーはー」


思いっきり体の匂いを嗅いでいる。

落ち着いた雰囲気を放ついつもの彼女からは想像できない所業だ。

私だったら次の日覚えていたら自害する。


「うわ~、ハネット良い匂い~」


(やっぱり良い匂いなのですか……)


ごくり。

今は私も酔っ払いの設定だ。

ルルさんという仲間がいることだし、ちょっとぐらいなら真似しても良いかもしれない。


「お、おい、ニーナ。これ……」


「師匠、私もしてもいいですか」


「よし分かった。とりあえず中に入れ」


びっくりした。

「よし分かった」なんて言うから、しても良いのかと思った。

1人でドキドキしている私を尻目に、ルルさんは順調に師匠に甘えていた。


「この前みたいに抱っこして~」


「昨日だよ昨日」


そう冷たくあしらいながらも、師匠は本当にルルさんを抱っこしてあげた。

まるでお伽噺に出てくる騎士とお姫様のような抱き方だ。

ルルさんが絶世の美女なので、途轍もなく画になる。


「師匠、私にもして下さい」


勇気を出して言ったが、師匠は少し私に目を向けただけで、ルルさんを奥に運びに行ってしまった。

やっぱり師匠はルルさんのことが好きなんだろうか。

昨日「俺の好みだ」と言っていたのを鮮明に覚えている。

でも体型だったら私だってそんなに変わらない筈。それとも髪が白いのが良いんだろうか。それとも年齢?


落ち込んでいると、師匠が1人で戻って来た。


「えっ……」


私の肩を優しく抱き、もう片方の腕で足を抱えて抱き上げる。

さっきのルルさんと同じ抱き方だ。


(ほ、本当にして下さるなんて……!)


師匠のこういう所が愛しい。

せっかくなので思いっきり抱き着いておく。

首筋に顔を埋めると、ルルさんの言っていた通り良い匂いがした。

思わずムラっとくる。本当に酔っていたなら、押し倒してしまっていたかもしれない。

脚を擦り合わせて努めて我慢した。


師匠はルルさんと同じソファーに私を下すと、その正面に椅子を出して座った。


「そんで、なんでこんなことになったか説明できるか?」


「はーい! ボクできるよー!」


ルルさんが真っ先に手を挙げたが、とてもじゃないが信じられない。

師匠もそうだったのか、ルルさんを無視して私の方に視線を向けた。

一応経緯を説明しておく。流石に目的の方はボカしたが。


「あ、そういえば、なんで俺の家に来たんだ?」


「それは―――」


「もー、ハネットもこっち座ろうよ~」


誤魔化されなかった師匠に背筋をヒヤリとさせていると、ちょうど良いことにルルさんが会話に割り込んで来た。

師匠に向かって「飛び込んで来い!」と言わんばかりに両手を広げている。

なんて大胆に甘える人だろう。

しかもルルさんは師匠がそれを無視し続けると、自分から立ち上がって師匠の膝の上に座り込んだ。

ルルさんはここぞとばかりに師匠の体をまさぐり始める。うらやましい。

師匠は真っ赤な顔でされるがままだ。

前々からもしやと思っていたが、師匠はこういうことに耐性が無いようだ。もしかしたら経験が無いのかもしれない。

もしそうだったら、なんとなく嬉しい。……醜い独占欲だ。


「お、おいルル―――」


「ちゅー」


「はぁっ!?」


ルルさんが不意に顔を近付けたが、唇が触れ合う前に師匠が慌てて肩を掴んだ。

あっ、危なかった……。


「も~! ハネットは、ボクのことどう思ってるの!?」


「あぁ?」


どんな流れから本題に入っているのだ。

でも遮る気にはなれない。それよりも師匠の答えの方が気になる。


「ボクのこと『好みだ』って言ってたでしょ! 好きなの!? 嫌いなの!?」


「はいはい、好きだよ好き」


「ほんとに!? じゃあ家建ててよ!」


「家?」


「子供がいっぱい生まれても大丈夫なやつ!」


彼女は既に子作りのことまで考えているらしい。

……ルルさんは何でそんなにも師匠のことが好きなんだろう。

ルルさんは師匠と出会ってからまだ2日だ。

しかも私と違い、彼女は初対面の時、師匠の敵だった。

要するに、1日前に殺されかけた相手なのだ。

……もしかして、私が知らない所で何かあったのだろうか。2人の距離が親密になるような何かが。

そういえば今朝、ルルさんは師匠の家から出て来た上に、彼のことを呼び捨てにしていた。

いや、前半の疑惑は先ほどの師匠の初心な反応を見れば勘違いだと分かるし、後半の方にも心当たりはある。そもそもルルさんは全員を呼び捨てで呼ぶ人なのだ。

でも今朝のあの時には、既に2人の距離が接近していたのは間違いない。

先程ルルさんが師匠のことを運命の相手だと言っていたのを思い出す。

世の中には出会った瞬間にその相手と結婚するという予感を持つ者がいるそうだが、そういう感じだったのだろうか。


……私が師匠のことをお慕いし始めたのは、つい最近のことだ。


何かきっかけがあったという訳ではなく、彼と生活を共にする内、いつの間にか好きになっていたのだ。

今は師匠の子供のような笑顔が愛しい。誰かを気遣える心根が愛しい。

だが師匠と出会った当初、彼は私にとってはただの恩人でしかなかった。あとは途轍もない強者だと認識していたぐらいか。

今思えば出会い方は運命的だったような気がするが、少なくともその時には思ってなかったのは間違いない。

そこから今の気持ちになるまでに、2か月の時間がかかったのだ。

まるでルルさんに一足飛びに追い抜かれたみたいな気がする。

私に一瞬で魔法の技術を追い抜かれた魔法使いたちも、こんな気分だったのだろうか。


「ほら、ソファーに行け!」


師匠はさっきから、ルルさんの扱いが単なる酔っ払いに対する物だ。

少なくとも、ルルさんが師匠を想うほどの大きな感情を、ルルさんへ向け返しているようには思えない。


「あ~っ! せめて、せめて……」


「なんだよ」


「胸元を舐めさせて……」


「寝てろ!!」


師匠が睡眠の魔法を使ったのか、ルルさんが急速に大人しくなる。

ルルさんは私と互角に近い実力を持つ魔法使いの筈だが、一切抵抗できたようには見えない。

いつもそうだが、師匠の魔法には僅かばかりも抵抗が許されない。それほどに実力差があるということだ。

……それにしても、ルルさんはなんて欲望に素直な人だろうか。

いや、今は泥酔しているからこそなのだとは思うが。

酔った勢いで関係を持ってしまう男女がいるというのも分かる。私も気を付けることにしよう。


(……いえ、むしろ師匠を酔わせた方が良いのでは?)


そのまま寝台に連れ込んで既成事実の1つでも作ってしまえば、私の勝ちだ。

いや、勝ちとはなんだ。何を考えているのだ私は。


「ニーナの方はそんなに酔ってないのか?」


そういえば、師匠と2人きりになってしまった。


「いえ、完全に酔ってます」


万が一に備えてそう答えておく。

万が一の意味は複数あるので考えなくても良い。


「師匠、私のことも好きですか?」


ルルさんという強敵が消えた今が攻め時だ。

師匠が私を酔っ払いだと思っているこの機を逃すのは惜しい。


「……まあそりゃ、嫌いじゃないよ。他の奴らよりもな」


「う……そ、そうですか」


悪くない返答に顔が熱くなる。

しかもルルさんの時と違って、若干声音が本気に聞こえた。

ルルさんに倣い、勢いで踏み込んでみることにした。


「じゃ、じゃあ、キスしてもいいですか?」


「アホなこと言うな。俺は、そういうのは酔った勢いでするもんじゃないと思う。こっちの価値観は俺には分からんが、少なくとも俺は、そういうことをする時は……真剣に向き合いたい」


「……な、なるほど」


思わずときめいた。

師匠は誠実な人のようだ。今まで私に手を出さなかったのもそのせいか。

ということは、例えば……例えば、そう。

私と正式に交際していたなら、答えは変わるということだろうか。


「あ、あの……。し、師匠は、私に欲情しないんですか?」


懐かしい疑問だ。

師匠と出会った最初の日、全く同じことを考えていたのを覚えている。

あの時は単純に可能性としての話だったが、今の私だと本気さの度合いが違う。何しろ今では私の方が師匠に欲情する時がある。

その私の真剣な問いかけに、師匠はニッコリとした笑顔を向けた。


「よし、お前も寝てろ」





次目を開けたら朝だった。

私は昨日、師匠に抱き着き、欲望のままに匂いも嗅いだ。

思い出して死にたくなった。結局ルルさんと同じことをしているじゃないか。しかも素面で。


(で、でもあれは最高でした。抱き着いた師匠の体の感触も……)


他にも師匠に言われた格好良い言葉の数々などが、私の心を悶々とさせた。




最終的には色々慰めてスッキリした。

数日前に試しに初めて()()みてからという物、毎日やってしまっている。師匠と転移の度に手を繋いでいるのが原因だ。彼の手の感触が頭から離れない。

しかも今日は師匠の家でしていると思うと興奮もひとしおだった。代わりに自己嫌悪も物凄いが……。

最近私は駄目な方向に進んできている気がする。

なんとか半年前の私に戻れない物か。


(……無理だろうな。あの人と出会ってしまっては)


自分の気持ちに気付いてからという物、夢には毎日のように師匠が出てくるようになった。

まさに噂に聞く、盲目的に恋する乙女。

これが恋という物か。甘く切ないと言うのは本当だった。


……とりあえず師匠に会う前に、下着を変えてお風呂に入らなければ。

自分の家の方に帰ろうとして扉を開けると、廊下にルルさんが立っていた。

不味い、声とか音を聞かれてしまっただろうか。


「ニーナか。おはよう。なんでニーナもこっちにいるの?」


どうやら大丈夫なようだ。師匠の家の壁と扉は分厚い。

というかルルさんは昨日のあれを覚えていないらしい。

体調が悪そうには見えないので、既に魔法で治したのだろう。

この状況になった経緯を簡単に説明する。


「えっ!? ぼ、ボク、変なことしてなかった?」


私の説明を聞くと、彼女は白い顔を羞恥に赤らめた。

途轍もない可憐さだ。師匠が好みだと言うのも分かる。

とても昨日のアレと同一人物だとは思えない。


自分も酔っていたことにして誤魔化した私の手を、彼女は玄関の方へと引っ張った。

多分私と同じで師匠が来るまでに撤退するつもりだろう。


「あ、2人とも起きたのか」


同志と共に歩き出そうとした時、折り悪く師匠が来てしまった。

今日も凛々しい。さっきまでの想像通りだ。

動揺する私達と違い、師匠の方は普段通りだった。

まさに「普通」という言葉が似合う。

師匠は意外と感情表現が素直だ。この様子なら、恐らく本当に気にしていない。

酔っ払いの奇行ぐらい軽く流せてしまうのだろう。相変わらず器の大きな人だ。


「食事は普通に食えるか?」


頷いてしまってから、今の私の状況を思い出した。

あ、不味い。家に帰る機会を逃した。


そうして私は冷たい感触を感じながら、居心地の悪い朝食の時間を過ごした……。

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