幕間 ルルの選択-2
2016.7.5
ルル視点その2。
2016.9.10
挿絵を追加。
王宮に忍び込んでから半月後。
ティアが連れて来られないまま、とうとうエルフが6人揃ってしまった。
どうやらティアは既に依頼主とやらに買われているか、何らかの理由で除外されているようだ。
奴隷にしては割と丁重に扱われていたエルフたちが、お城の入り口に集められる。
盗み聞きした話では、これからエルフたちを件の依頼主に引き渡すらしい。
ティアが6人に含まれていなかった以上、ボクはその依頼主とやらに会わなくてはならない。
幸いな事に、依頼主は6人のエルフを『生死は問わず』という文句で集めていた。だから死体すら集められていないティアは、最初から除外されていた可能性が高い。
そしてそれはつまり、ティアの除外は意図的だと言うこと。依頼主は最初っからティアを集める気が無かったんだ。
ボクが知りたいのはその理由。
その理由にこそ、ボクの旅の結果が懸かっているんだ。
お城の入り口には6人のエルフたちの他に、20人ぐらいの人間の男たちもいる。
ほとんどの人間が大したことないけど、1人だけかなり強そうな戦士がいる。この人は要注意だ。
準備が整ったのか、一番偉そうにしていた老人が部下たちに指示を出す。
1人がスクロールを手に取り、それを3人ぐらいの魔法使いが囲んだ。なんだろう。
「では開いてみるぞ。複製できるかどうかはお前達の腕にかかっている」
「はッ!」
魔法使いたちが鑑定系の魔法をそれぞれ発動した。
それを確認してから真ん中の男がスクロールを開く。
―――次の瞬間、そのスクロールが青く燃え上がって消失した。
ボクも驚いたけど、その場にいた人間たちも何故か驚いていた。自分たちがやった癖に。
全員が不安そうに目配せし合う中、スクロールを開いた男が覚悟を決めたかのように口を開いた。
「ハネット様! 聞こえますでしょうか!」
この人間たちは、さっきから何をしているんだろう。
男はよく通る大きな声で、独り言を叫んでいる。
「はッ! 約定の通り、エルフ6人、本日全員揃いました!」
(うん? もしかして……?)
独り言の内容が、まるで依頼主とやらと会話しているかのような物だ。
もしかしたら、遠くの人と話ができる魔具か何かだったのかもしれない。
「どうやら終わりのようです」
2~3言誰かと会話していた男が老人に向き直る。
「彼のお方は正門から来て下さるそうです」
「そうか、意外と常識のある行動だな。……それでお前達、どうだった?」
老人の言葉に、話を振られた魔法使いたちが首を振る。
「申し訳ございません。一体どうなっているのか……正直に申しまして、何一つ分かりませんでした。少なくとも、魔具とは全く違う工程で作られているようですが……」
「むぅ……そうか。まああの方の残した物だ。我々では理解できなくとも仕方ない。ご苦労だった」
よく分からないけど、さっきの魔具は貴重な物か何かだったんだろうか。
話を終えた人間たちは、居住いを正して綺麗に整列し直した。
依頼主を待っているようだ。
ほんの少しして、門の方から3人の人影が歩いて来た。
先頭に立つのは門を守っていた中で一番強そうだった戦士だ。
そしてその後ろには―――。
(あの人……ボクと同じ……?)
後ろにいたのは人間の少年と少女。
その少年の方が、なんと髪が白かった。
歳を取った白髪とも違う、作り物みたいな完全な白色。
ボクの髪の毛と同じだ。
でも肌の方はボクとはちょっと違う気がする。
白いには白いけど、ただ単に日に焼けてないだけという感じだ。
というか彼は服まで真っ白だ。……凄く綺麗な服だな。
ローブっぽいから魔法使いなのかな。杖があるようには見えないけど。
隣の少女の方も魔法使いの格好をしている。
こっちは杖が物凄い大きさ。一体、金貨何枚ぐらいする杖なんだろうか。
身長はボクよりちょっとだけ高い位かな。
よく見ると耳が尖っている気がするし、ハーフドワーフなのかもしれない。
門衛と2人が到着するなり、王宮の人間たちの空気が変わった。
「ハネット様、ようこそお越し下さいました」
さっきの一番偉そうだった老人が、少年に向かって頭を下げた。
空気が変わったのはこのせいか。この少年がこの場で一番偉い人間に変わったらしい。
もしかして、依頼主はこの少年なのかな。服的にもお金持ちっぽいし。
でもだとしたらこんなに近くにいたのに、なんでわざわざ貴重な魔具を使ったんだろう。いつもみたいに侍女とか執事とかいう人間たちに呼びに行かせればいいのに。
「ああ。思ったより早かったじゃないか」
少年が口を開く。
なんとなく穏やかな印象を受ける声だ。
「いえいえ。この程度のことは容易いことです」
「フッ」
老人の言葉を少年が鼻で笑った。
あの一番強そうだった戦士がビクリとする。他の人間たちも同じだ。
場を支配していた空気がまた変わる。
……その空気は、『恐怖』の物。
どうやら王宮側はこの少年を恐れているみたいだ。
強そうには見えないんだけどな。
でも念を入れておこう。ボクの失敗はティアにも関わる。最初に拘束と弱体化の魔法をかけた方が良さそうだ。
少年は王宮側の反応なんてどうでもいいみたいに話を進め始めた。
そしてその言葉でボクの行動も決定する。
「まずは俺が探しているエルフなのかどうかを確かめさせて貰おう」
やっぱりこの少年が例の依頼主のようだ。
そうと決まれば早速行動させて貰おう。
「光の拘束の魔法!」
ボクは真っ先に目的の少年を拘束した。
続いてあの強そうな魔法使いの少女、戦士、門衛の順で全員拘束していく。
他の人間達には負ける気がしない。
とりあえず先に弱体化の魔法をかけて―――
そこで気付いた。
少年が、こっちを見ている。
背筋が凍った。思わず詠唱が止まる。
偶然じゃない。
現に混乱する他の3人と違って、この少年だけは至って冷静な様子だ。
ただボクの方をじっと見ている。
見えない筈なのに、観察されてる。
この少年は異常だ。
あの戦士たちが恐れていた『何か』があるんだ。
「ふむ」
少年は不意に他の3人を見回した。
今が好機かもしれない。
弱体化の魔法をかけようとした瞬間、少年が再びこちらを振り向いた。
「で? 俺になんか用か?」
―――戦慄。
やっぱりバレてた。
少年のその言葉と様子に、周囲の人間達も急速に落ち着きを取り戻した。
「どうした? なんか用があったからこんなことしたんだろ?」
少年はボクが何かを言うのを待っているのか、ほんの数秒間だけ黙った。
対するボクは焦って何も言うことができない。
次の瞬間、少年を拘束していたボクの魔法が弾け飛んだ。
(打ち消された!? こんな簡単に!?)
魔法の抵抗は不可能じゃなくても時間がかかる。
普通は優れた魔法使いになるほど、打ち消すまでの時間が短くなる。
つまり、この少年は圧倒的に優れた魔法使いだということ。
恐怖するボクに、少年は1歩1歩、ゆっくりゆっくりと近付いて来た。
無表情だったその顔に、ほんの僅かに微笑……いや、嘲笑が生まれる。
「―――さて。答える気が無いんなら、無理やり答えさせてやろう」
死んだ。
……のかと思ったけど、まだ死んでなかった。
少年は何か魔法を使った訳でも、変に動いた訳でも無い。
ただその身から殺気を放っただけだった。
人生でこんなに後悔したことは無い。
ボクは一体何に喧嘩を売ってしまったのだろう。
もう話を聞き出すとかは無理だ。
とにかく自分が死ぬ前に、この少年を殺すしかない。
それ以外にこの場を切り抜ける方法が思いつかない。
勝てる気なんて、全くしないけど。
「『光矢の魔法』ッ!!」
先手を取って攻撃する。
威力の弱いことで知られる光の魔法だが、ボクの場合はその限りではない。
長年使い続けて成長したボクの光の魔法が、少年に直撃した。
普通の人間なら何人いようが一撃で粉々に砕け散る。
この前なんて、ドラゴン相手でも容易く翼を破ってくれた。
それが直撃。
それなのに。
光の矢は少年に当たった瞬間、固い物にぶつかったみたいに裂けた。
衝撃で地面が大きくめくれ上がる。
その余波を見れば、大抵の魔物なら即死の一撃であることが分かる。無効化された訳じゃないんだ。
でも、少年は無傷だ。
まるで何も起きてないみたいに、先程と変わらず平然とこっちに向かって歩いて来ている。
服がなびいていた所を見るに、防御の魔法で弾いた訳でもなさそうだ。
正真正銘直撃している。……ただ単に、彼の皮膚を貫くには威力が足りないとでも言わんばかり。
悪夢でも見ているみたいだ。
「お前光の魔法使いか? ―――ちょっと遊ぼうぜ」
瞬きした次の瞬間、少年が目の前にいた。
「!?」
咄嗟に無詠唱で、ボクの使える最強の防御の魔法を使う。
そこに目で追えないぐらいの速度で拳が突き込まれた。
途轍もない衝撃に襲われて後ろに吹き飛ぶ。
(戦士!!?)
魔法使いだと思っていたけど、今の動きと一撃は魔法使いに出来る物じゃない。
何が起きたのか分からなかった。
今の防御の魔法も、傭兵を経験してなければ間に合わなかっただろう。
1年前のボクなら今ので死んでいた自信がある。
(とにかく不味い! 距離を―――)
―――取ろうとしたら、既に少年が目の前にいた。
再び見えない一撃が叩き込まれ、ボクの自慢の防御の魔法は砕け散った。
(たった……2発で……)
膝が崩れそうになったけど、魔力はまだまだ残ってる。
諦めるのは最後まで足掻いてからで良い。
「くっ―――! 『光輪の魔法』ッ!!」
見た目が派手な魔法を使った。
予想通り、自分を囲むように出現した光の輪っかに、少年の意識が向かう。
その間に地面に伏せるようにして距離を取った。頭上を輪っかが通過していく。
転がるようにして距離を取りながら見ていたけど、光輪の魔法も少年には効かないようだ。
傷1つでも負わせられる気がしない。
「なっなんで!?」
思わず弱音が出た。
誰か助けて欲しい。
泣きべそをかきそうなボクに、少年の楽しそうな声が届いた。
「ハッ、残念だったな。これが本当の光の魔法って奴だ―――範囲最縮小化。『光槍の魔法』」
魔法の詠唱。それも光の。
戦士なのか魔法使いなのか分からない。
少年の右手に、光り輝く細長い槍のような物が生まれる。
彼はそれを掴んでこっちに投げた。無意識の内に防御の魔法を使う。
が、その光の槍はボクの魔法なんて紙切れみたいに容易く貫通して飛んで行った。
後ろで物凄い音がして、地面から振動が伝わってくる。どうなってるのか振り返るのが怖い。
気付いたら地面にへたり込んでいた。
立とうするのに膝に力が入らない。これが心が折れたって奴なんだろうか。
「終わりか。それじゃあ姿を見せて貰おうか」
少年が指をパチリと鳴らす。
透明化の魔法が打ち消されて、視界に自分の手足が映った。
今更だけど、魔法を打ち消す魔法……みたいな何かを使っているのかもしれない。
泣きそうなボクを見て、少年は大きく目を見開いた。
さっきまでと違って、1歩もこちらに近付いてこようとしない。完全に動きを止めてしまっている。
「…………女の子?」
どうやらボクが子供だと思ったみたいだ。
場所は分かってても、姿の方は見えてなかったのかな。
「る、ルル!?」
あ、子供だってことにしたら見逃して貰えないかな、と思った所でエルフたちから声が上がった。終わった……。
「あん? お前らの知り合いか?」
「う……は、はい……?」
疑問形だ。
まあ顔は知ってるけど、知り合いではないよね。
ボクの方は君たちの名前も知らないし。
「サンヌ! 捕らえるぞ!」
少年の後ろから、あの戦士と門衛が走って来た。
そういえばそういう経緯で戦いになったんだったね。全部忘れてたよ。
ごめん、ティア。
ボク、ここで終わりみたい。
「やめろ」
「うぉっ!?」
少年が戦士と門衛の前に魔法を撃ち込んで足を止めさせた。
いつの間にか消えていた殺気が、再び漏れ出している。
「ちょっと黙ってろ。今は俺が話してる」
少年が脅すように言うと、戦士も門衛も大人しく剣を下した。
この少年に逆らえる人間なんて世界中探してもいないかもしれない。
最初に少年の隣にいた少女もガクガクした変な動きで近寄ってくる。
多分この場にいる全員が気持ちが分かる。
「さて、それでお前はなんなんだ? 何が目的だ? あと誰だ?」
「…………」
「さっさと答えろ」
答えに逡巡していると、ボクの体に光の鎖が巻き付いた。
思いきり地面に引っ張られて痛い。
全力で抵抗したけどビクともしない。力の差があり過ぎる。
一生このままだと言われても納得できるぐらいだ。
「なんでもいいから何か言え」
観念した。
もうボクには選択権なんて無い。
黙ってると何をされるか分からなくて怖い。
「……みんなを……みんなをどうするつもり!? エルフを集めて、何をするつもりなの!?」
「『みんな』か。んー……さっきからアレだな。お前ら、もしかして仲間なのか?」
少年がエルフたちの方を指し示した。
まあ決して仲間じゃないけど、ここは意味合い的に頷いておこう。
「……言っとくが、俺はお前らの敵じゃないぞ」
少年が溜め息をつきながらそう言った。
どういう意味だろう。
「ニーナ、あの一族は何って名前だったっけ?」
突然話を振られた少女がビクっとする。
「え? あ。ラーの一族です。族長の名は、確かグリフだったと思います」
やけに覚えのある名前が出てきて困惑する。
そしてその次に開かれた少年の口から出た言葉は、ボクたちが想像もしていなかった内容だった。
「俺はラーの一族、その族長のグリフから、お前達を里に連れ戻して欲しいと正式に依頼された者だ」
「えっ……!?」
族長から救助の依頼を受けた者?
ボクがいない間の話だろうか。
驚愕するボクらを置き去りにして、少年は顎に手を当てて思考に耽り始めた。
「変だな。あの族長からは捕まったのは7人だと聞いている。ティアはもう助けたし、お前は一体……」
「てぃ、ティアを知ってるの!?」
ティアの名前に反応する。
今この少年は「ティアはもう助けた」って言った気がする。
少年は大きな声を上げたボクに目を細めると、意外にも普通に質問に答えてくれた。
睨まれたのかと思った。
「ティアは一番最初に助けた。族長と俺とを繋いだエルフだ」
その返答に、ボクの中から急速に力が抜けていく。
不思議な脱力感だ。
「そ……そっか。無事だったんだ……」
そうだ。この少年に保護されたのなら無事に決まっている。
少なくとも今のボクより無事だろう。
安堵していると、ボクの体を拘束していた光の鎖が消失した。
代わりにまわり中に大量の高級そうな椅子が現れる。
不思議な光景に戸惑っていると、少年が自分の後ろにあった椅子にドカッと座った。
「ほら、全員一旦座れ。状況を整理しよう」
椅子は少年が魔法か何かで生み出した物のようだ。
木や石の形を椅子に変えるならともかく、何も無い場所に椅子自体を生み出すなんて魔法は聞いたことも無い。
みんなで困惑する中、例の少女が恐れるでもなく少年の隣に座った。
それを見て、他の人間たちも徐々に座っていく。
ボクも座るべきなんだろうかと迷っていたら、少年に「早く座れ」と怒られてしまった。
ボクが座ると、少年が今の状況をまとめる為に、これまでの経緯を話してくれた。
彼はティアを奴隷として買った後、「本人が帰りたがったから」という謎の理由で里に送り返したらしい。
そしてその時にティアの父親である族長とも出会い、今回の依頼を受けたそうだ。
それから少しして、彼の所に王国から招待状が来た。……やっぱり彼は物凄く強い魔法使いのようだ。
これ幸いとばかりに王国に出向いた彼は、友好の条件としてエルフ探しを手伝わせることにした。
彼の力が是非欲しかった王国側は、その条件を飲んでエルフを探し回っていたという訳らしい。
ちなみに本人曰く、エルフの味方という訳じゃなく、単に依頼主と傭兵の関係なんだそうだ。
……不味いよね。これ。
主にボクが。
「さて、それじゃあお前の方の言い分を聞こうか?」
彼の言葉に、その場の全員の視線がボクへと向けられる。
今回のは里の頃とは違い、完全にボクが悪い。
何度も謝りながらボクの方の事情を話した。
多分生きてきた中で今が一番情けない。
「なるほど。エルフを集めているらしい俺から、ティアの場所を吐かせようとした訳か」
「ご、ごめんなさい!」
特にこの少年には頭が上がらない。
彼はティアの恩人であり、つまりはボクの恩人だ。
それを攻撃したんだから、どんな罰を受けることになっても文句は言えない。
「別にいい。割と合理的な判断だ。ただ運が悪かっただけでな」
ボクの覚悟とは裏腹に、少年は全く気にしてないみたいだ。
まあ彼にしてみれば、ボク程度に攻撃されたのなんて、どうでもいいことなのかもしれない。
「じゃ、お前も一緒に帰るか」
少年が普通の調子でそう言った。
「ついでに飲み物でも買ってくるか」というぐらいの気軽さだ。
「え?」
「ティアの親友なんだろ?」
「う、うん……」
なぜか上手く返事が出来ない。
何かが引っかかっている感じだ。
「ハネット殿。申し訳ないが、そのルルという少女の身柄は、こちらに引き渡して貰いたい」
ここまでのやり取りを黙って聞いていた戦士が、そこで急に口を挟んだ。
「なに?」
少年の説明を求める呟きに対し、戦士と門衛がこっちを睨んだ。
うん。分かってるよ。
少年は許せても、王国の方はボクを許すことは出来ない。
「彼女は王宮の敷地内に不法侵入した上、私達に魔法を行使した。はっきり言って重罪だ。とても見過ごせる物ではない」
「別に良いじゃねーか。ガキのしたことだぞ?」
少年はボクのことを本気で子供だと思っているみたいだ。
まだどんな人なのかは分からないけど、少なくとも子供を庇おうとするぐらいの人間性は持ち合わせているらしい。
……まあボクは21だけどね。
「ハネット殿、彼女は本当に子供かどうか、分かりませんぞ」
「む」
戦士の方には完全にバレているらしい。
逆に少年の方は今気付いたと言わんばかりの顔だ。
さっきからそうだけど、割と思っていることが素直に顔に出る人だね。
「お前は……エルフなのか?」
少年が微妙な顔でボクを見る。
素直にボクの正体が何なのか分からないという感じの顔だ。
「ぼ、ボクは…………ハーフエルフ、です。多分、ヒト族との」
「なんと……!」
老人が驚いた。
他の人間たちもみんな似たような反応をしている。
ハーフエルフなんて、多分この大陸にはほとんどいない。
無反応なのは少年だけだ。
なんというか、この少年にはエルフとか人間とか、そういうの関係なさそうだよね。
「ふーん。歳はいくつだ?」
「に、21……」
「に…………」
ボクの歳を聞いた少年が、今までに無いぐらいに驚きの表情を浮かべた。
完全に子供だと思ってたから衝撃が大きいんだろう。
そんなに驚かれると罪悪感が凄い。
罪を暴かれた罪人の気分。ごめんなさい、黙ってて。
少年はポカーンと口を開けていたけど、不意に真面目な顔になって目を瞑った。
「―――俺の好みだ」
…………え?
「…………え?」
場の空気が静まり返る。
今ボクは何って言われた?
「悪いが戦士長。こいつは連れて帰らせて貰う」
静かな中、少年だけが淡々とした口調で話を進める。
もう決めましたと言わんばかりの様子に、戦士が慌てて口を挟んだ。
「あ、い、いや、しかし」
「じゃあ今日が王国の命日だ」
彼がそう言って指を鳴らした瞬間、一瞬物凄く周りが明るくなった後、ボクの後ろから物凄い音が鳴った。
びっくりして振り向いた瞬間、遅れて叩き付けられてきた爆風に煽られて顔を塞ぐ。
熱波が少しだけ弱まった頃、腕の隙間からその先の光景を見ると、とにかく赤い色だけが見えた。
赤色の正体は炎だ。
庭園の3分の1ぐらいが火の海になっているんだ。
みんなで茫然としていると、少年が椅子から立ち上がった。
ボクを含めて全員がビクッとする。あの青い髪の少女も同じだ。
例の老人が膝をガクガク震わしながら戦士の所に駆け寄った。
「いっ、いえ! 大丈夫ですともッ!! そうだろう、戦士長ッ!!?」
そう叫びながら戦士の頭を掴んで無理やり下げさせる。
戦士の方もそれに従ってブンブン頭を下げ始めた。
必死で謝罪する戦士と老人を見て、ああ、ボクもさっきはあんな感じだったのかなぁと漠然と思った。現実逃避の一種かもしれない。
こうしてボクは、エルフの仲間の1人として、少年に保護されることになった。