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24 ニーナ VS ルル

2016.7.2

ステータス表はPC表示を基準にして編集しているので、スマホなどでの閲覧時は表示がズレるかもしれません。

いえーい、朝だよーん。

今日はバイトが休みなので、朝起きてすぐに来た。

俺は大抵の場合は朝が一番元気だ。多分起きて20分ぐらいまでがテンションマックス。そして夕方ぐらいになると死にかけの魚みたいになる。


とりあえず無駄に玄関まで走ってみたりする。

廊下の途中、通り過ぎた部屋のドアが独りでに開かれた。思わぬホラーイベントにビビる。


「ど、どうかした?」


扉の間から出てきたのは白い幽霊……ではなく、ルルだった。

赤い目を丸くして俺を見ている。

やべえ、そういえばいたんだったな……。

普段1人の時に夏休みの小学3年生みたいなことをしているのがバレてしまった。うわ、恥ずかしい。


「おおおお、おう。いい今から朝食だが、お前も食べるか?」


「あ、うん」


そんなやり取りをしていると呼び鈴が鳴った。ニーナだな。

大抵の場合、俺とニーナは一緒に調理場に向かう。

ルルと一緒に玄関に出向くと、やはり待っていたのはニーナだった。


「よう、おはよう」


「……………………」


「お、おはよう……?」


ニーナは扉が開くなりルルを見て硬直した。

俺の挨拶はもちろんのこと、当の本人であるルルからの挨拶にも反応を示さない。

無遠慮に見つめられているルルは居心地悪そうだ。


「どうしたニーナ」


「…………なぜ彼女が、師匠の家に?」


ああ、そりゃそうだ。普通に変だわな。


「色々あってな。あの家は嫌なんだそうだ」


「あ……なるほど」


現地の価値観を持ち頭も良いニーナには、その説明だけで事情が飲み込めてしまったようだ。

場を支配していた謎の緊張感が緩む。


「そうだ、ルル。お前結局、家はどうする?」


「え?」


「この家か、お前個人の家を建てるか、ニーナの家にするか。どれが良い?」


「え……ハネットの家でいいよ」


「『ハネット』……?」


ニーナが目を鋭くした。

どうやらルルが俺を呼び捨てにしていることに不満があるらしい。

何故かこいつは俺を本気で尊敬してる節があるからな。

どう考えてもこいつの方が人間として俺より上だと思うんだが……なんでこいつはこんなに俺のこと大好きなんだろう。

ま、俺ってばマジ神クラスのイケメンだから、ニーナが惚れちゃうのも分かるけどね。


「まあ落ち着け」


「…………」


渋々といった感じだ。

ルルの方も微妙な顔をしている。

まさかあのニーナと反りが合わないとは。

まあルルは別に悪い奴ではないっぽいから、その内解決すると思うが……。


「……あ、そうか。ルル、お前今日からはニーナの家に住め」


「えっ」

「えっ」


今のニーナは、ルルという人間をよく知らないだけだ。

恐らくだが、この2人は一緒にいる時間さえ確保できれば、勝手に打ち解けるタイプだ。

2人とも不満そうだったが、せめて1日ぐらいは一緒に生活してみて欲しい。

多分仲良くなれる筈だ。

……関係ないけど、この状態だと両手に花だな。

俺だけ機嫌良く調理場への道を歩いた。





住民たちが頑張って畑を耕している間、俺はぶらぶら集落を散歩していた。

なんか集落に追加できる施設を思いつかないかなーと思ってだ。

ちなみに後ろにはいつものニーナと、なぜかルルもついて来ている。


「あ、展望台でも作ってみるか」


「展望台ですか?」


「ああ。上から集落が一望できる感じの」


「やっほー」とかやりたくなるイメージ。

さて、それはいいが、どこに作るのがいいだろう。

候補としては中央広場の周辺、北西のくっそ適当な謎の区画、東の畑といった所か。

中央広場にはこれ以上巨大な物を増やさない方が良いかもしれん。

北西は眺めても面白くない。

やっぱ畑か。畑だわな。見て面白いと言ったら。


「よし、畑に作るか」


「なんとなくそう言うと思いました」


ニーナもとうとうFFFのメンバーみたいな感想になり出したな。

俺が言う前から「どうせ畑でしょ?」と言えるようになったら完璧に俺の仲間として認めてやっても良い。


畑にやってきた俺を見て遠くの指南役たちがみんなの手を止めさせたので、『コール』の魔法でこっちは気にしないよう伝えておいた。

突然喋り出した俺と、それが聞こえたかのように作業を再開したみんなを見て、ルルが驚いている。


「今、何か魔法を使ったの?」


「コールっていう魔法でな。遠くの人間と会話できる魔法だ」


「へえ、便利だね。ねえ、なんでいつも無詠唱で魔法を使うの?」


そういえばこいつと会ってからは、無詠唱でしか魔法を使ってないかもしれない。

『ライトランス』だけは格好付ける為に詠唱したが。


「俺はどんなに無詠唱化したって魔力が尽きないんだ。魔力量が多過ぎてな」


「そうなの? ボクもそうだよ」


「え?」

「何?」


面白い発言が飛び出した。


「ボクも魔力量には自信があるんだ」


「でもお前詠唱してたじゃん」


「そりゃあ、普通は全部の魔法を無詠唱で使ったりはしないよ。それに自信があるって言っても、多分ハネットほどじゃないんじゃないかな? 流石に何回も無詠唱化したらボクだって疲れるし」


そりゃ俺にMP量で勝る存在が現れたら困る。下手したらガチ勢でも俺のMP量には勝てないのに。


「ふむ。お前達2人、ちょっとそこに並べ」


「え?」

「? はい」


困惑しているようだが2人とも素直に並んでくれた。


「ちょっと魔法でお前達2人の魔力量を見てみる。肩に触れさせて貰うが、いいか?」


「面白いですね。私は構いません」


「いっ……いいよ」


了承も貰えたので遠慮なくやらせて貰おう。


「『ペネトレート』」


ステータス看破の闇魔法を発動し、2人の肩に触れた。

ペネトレートは戦略的に超強力な魔法であり、その代わりに対象に直接接触しないと発動しないのだ。

接近戦を苦手とする魔法使いにはキツい発動条件。使い勝手が糞なことで有名な闇魔法らしい物だ。


「さてさて……ちょッ!!?」


俺の目の前に2人のステータス表が表示され、目を通した瞬間、とある部分に視線が釘付けになった。




●ニーナ・クラリカ 【Lv.42】

称号:『賢者』

HP  ■■

MP  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

物攻  ■■■

魔攻  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

物防  ■■

魔防  ■■■■■■■■■■■■■■■

耐久  ■■

敏捷  ■

運   ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

※特殊

・MP上昇【小】 ・魔攻上昇【中】 ・MP回復速度3倍 ・変異者


●ルル 【Lv.28】

称号:『最上位傭兵』

HP  ■■

MP  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

物攻  ■

魔攻  ■■■■■■■■■■

物防  ■

魔防  ■■■■■■■■■

耐久  ■

敏捷  ■

運   ■

※特殊

・MP上昇【小】【中】【大】 ・MP回復速度5倍 ・光属性【特化】




(ニーナ運たっっっけええええええええええ!!!!)



もはやMPとかどうでもいいわ! どんな運だよお前!

普通運のステータスというのは、全ステータスの中で最も低くなるものだ。

それがニーナの場合はこの長さ。本来ならこの5分の1でも不思議は無いのに。

とにかくニーナの運がヤバい。リアルの俺に是非分けて欲しい。

つーかゲーム内でくじ引きとかあったら、次からニーナに引かせよう。


「し、師匠? どうかされましたか?」


そのニーナがおろおろと俺を窺っていた。

どうやら思いっきり顔に出てしまっていたらしい。ルルの方も不安そうだ。


「い、いや……ちょっとニーナに途轍もない才能があったので驚いてな」


「え?」


「実に羨ましい才能だ。人間なら誰もが一番欲しがる才能と言っても過言ではない。お前はきっと、寿命で死ぬまで最高の人生を送れるだろう。ああ羨ましいほんと」


「は、はあ。まあ師匠の弟子になったので、そうかもしれませんが」


そうか、そういうのも運のおかげなのか。

そういえば王族なんかとも顔見知りだし、上位者とのコネがいくらでも転がり込んでくるのだろうか。

くっそ、マジで羨ましいなぁおい。


「魔力か魔法に関係した才能でしょうか?」


「あ、そういえば魔力の話だったな」


「え? ……えっと、何の才能だったのですか?」


やっと思い出した。

今更ステータス表をちゃんと見る。


(……あれ、『※特殊』ってなんだ?)


プレイヤーのステータスだと見たことないぞ。

うーん……。

……名前的には、スキルみたいな感じだろうか。

『○○上昇』とか『MP回復速度○倍』とか、俺らのスキルにモロ同じのがある。

『光属性【特化】』ってのも、要するに光魔法の強化スキルみたいな物か? プレイヤーのは『光属性威力1.5倍』とか『光属性範囲1.5倍』とか、同じ属性でも各性能ごとに別のスキルとして分かれているが……。

完全に謎なのはニーナの『変異者』とか言うのだな。とりあえず厨二心が刺激される名前だ。


「ふむ……色々と興味深いが、とりあえず魔力量はルルの方が上だな」


「えっ……」

「わぁ、そうなんだ」


ニーナが驚愕の目で隣のルルを見た。

まあ魔法使い最強クラスという話だったからな。俺以外には負けない自信があったのかもしれない。

ルルのは見た感じ、MP特化っぽいステータスだ。成長ボーナスを全部MPに突っ込むとこうなる。ソースは俺。

にしてもニーナの運はどういう訳だ? こいつは魔法攻撃力に全振りしてある感じだし。

つーかニーナと比べたらルルの運が低すぎて泣ける。


それと今回ので俺の、「現地人は成長にも適性がある説」が正しいことも証明された。

プレイヤーだったら魔法関係以外のステータスも2分の1~3分の1ぐらいは伸びる筈だが、こいつらは最低値からほぼ伸びていない。マジで才能の無いステータスは全く伸びないようだ。逆に魔法関係のステータスはレベルに比べて高い。

だがニーナの運はその法則すらも無視している。プレイヤーならチート疑惑だ。変異者とか言うのが関係しているのか……?


「ルル。しかもお前は、魔力の回復速度が他よりも早いようだ」


ルルはMPの回復速度が5倍。

これは凄い数字だ。

装備とスキルで強化している俺ですら3.5倍ぐらいの筈。


「あ、やっぱりそうなんだ」


「何か心当たりがあるのか?」


「うん。他のみんなより、魔力切れから回復するのがやけに早いな、と思ってたんだ」


まあ流石に5倍も早いと気付かない方がおかしいか。

というかそのMP量でMP切れを起こしたことがあるのか。何したんだ。


「師匠、それならば私もその筈ですが」


ニーナにも自覚があるようだ。

こいつの場合は実験かなんかしたのかもしれんな。


「ああ、ニーナもそうだ。だがルルは更に早い。ニーナは他の3倍の早さで回復するが、ルルは5倍だ」


「なっ……」


千年に1人の天才のアイデンティティが崩壊しているらしい。

俺の時は平気そうに見えたんだが、実はあの時もショックを受けていたのだろうか。

まあ早まるな。

MP関係だけならともかく、『魔法使い』としてならどちらが上かはまだ分からない。


「ルル、お前は光魔法が得意なようだが、それ以外の適性はあるのか?」


「ううん。物凄く小っちゃい頃は普通に使えた気がするんだけど、光魔法ばかり使ってる内に使えなくなっちゃったんだ」


「あ、それはたまに聞きます。1つの属性を過剰な程に鍛えると、その他の属性の適性を失うそうです」


それが『光属性【特化】』の『【特化】』の部分か?

光魔法を大幅に強化する代わりに、他の属性が使えなくなるとか。

もしそうだとしたら、バランス調整的に光魔法が超強力になっていそうだ。


「ボクは凄く体が弱かったから、頑張って光魔法で治してたんだよ。日の光に当たっただけで火傷したりするし」


「ああ、アルビノだからな。肌の色ってのは、日光から体を守る為に付いてるんだ。アルビノにはそれが無いからモロに悪影響を受ける」


なるほどな。日光から体を守るために回復魔法を使い続けてたのか。

多分日中はずっと使っている必要があるんだろう。それで自然と光魔法とMPにステータスが特化した訳だ。

肌が綺麗なのもそのせいなんだろうな。回復魔法での美容とか、広めたら儲かりそうだ。


「へぇ~そうなんだ」


「やはりルルさんは白化なのですか。ヒト近親種では初めて見ましたね」


ニーナもアルビノの存在は知っているらしい。


「それにしても、肌の色にも役割があるのですか……。面白い話ですね」


「そうか? ……まあルルは光魔法に限って言えば凄腕のようだが、ニーナは基本7属性全てで凄腕なんだ。あんまり拗ねるなよ」


「す、拗ねてないです」


目が一瞬泳いだぞ。


「あはは、そうか? ……あ、そういえば。いい加減高台を作るか」


ずっと放置されていた本題に戻る。

中央道路を挟んだ畑の向かい側、俺の家がある北東の区間に広大な花畑を作る。

前に言っていた、花畑専用の畑だ。

それを眺められる感じで展望台を建てれば素敵やん?


「うわ~……き、綺麗だね」


ルルが俺の作った花畑に感嘆の声を漏らした。

ニーナとの初めてのお茶会の時と同じだな。やはり女性陣にはウケが良い。


「とりあえず10mぐらいで作るか。平野だからなんとか集落中見えるだろ」


拠点作成から展望台を出す。階段で登れる塔みたいな物だ。

10mというのは結構な高さになる。多分これ以上高いとみんな怖くて登れないだろう。

早速柵で囲われた頂上まで登ってみる。


「おお、やっぱり上から見ると壮観だな」


「はい。これは良い眺めです」


「凄いね」


展望台正面には一面の花畑。後ろには自分たちの生活する集落が広がる。

振り返るとみんなが作業しながらこちらを見ていた。あとで好きに登っていいと伝えてやろう。

あ。そういえば、この花畑で養蜂とかやると良いかもしれない。

砂糖が高級品なら、ハチミツも高級品なんじゃないだろうか。





「ニーナ、今日は時間があるからもう2~3回やっとこう」


「はい」


夕方の修行の時間。

最近はほとんど反復練習で、新しい修行はしていない。

訓練や修行という物は、考えなくても条件反射で体が動くように刷り込むのが本来の役割だ。

同じことを無意味に何度も繰り返す事にこそ、真の意味がある。

俺なんて普段ニーナに頭を使うよう言っているが、自分の戦闘中にはなんも考えてなかったりする。9年もやってれば考えなくても分かるようになる。


「ん?」


レーダーに中立オブジェクトの反応がある。

振り向くと、遠くからルルが歩いて来ていた。

ルルは何故か1日中俺について来るので、修行の間だけは近寄らないよう言ってある。

もしかして何かあったのだろうか。


「どうかしたか?」


「えっと……あのさ。ボクもその修行、参加していい?」


(うおおお、めっちゃ萌える!)


ああいや、そうじゃない。一瞬美少女のモジモジした上目使いに全意識が持って行かれてしまった。

なんだっけ。あ、ルルの参加か。

光魔法とか教えて欲しいんだろうか。

…………ふむ、結構良い案かもしれない。

ニーナと実力の近い現地人は貴重だ。修行の幅が広がるんじゃないだろうか。


「べつにいいぞ。ニーナはどうだ?」


「ええ、私も構いません。ルルさんも強力な魔法使いのようですし」


ニーナは朝の予想通り、ここ半日でルルへの対応は軟化している。

でも本心では嫌いなのかもしれないと思って話を振ってみたんだが、この感じは本当に大丈夫っぽいな。


「じゃあお前も参加してみるか」


「うん。ありがとう」


「よろしくお願いします」


「うん、よろしくね」


とりあえず最初の実力テストはパスで良いか。

こいつの魔法は既に受けたし、ステータスも見てる。


「そうだな。それじゃあゴーレム戦からやってみて貰うか」


「ゴーレム戦?」


ルルは確か約30レベだった筈。10レベのゴーレムから行くか。

雑魚ゴーレムを1体だけ召喚する。


「こいつと実戦してみるんだ。強さはお前の3分の1ぐらい。倒せるようなら徐々に強さを上げていく。やってみるか?」


「3分の1ぐらいなんでしょ? 試しに1回やってみたいかな」


流石に余裕そうだな。

まあ俺の拳にも2発耐えたしな。むしろ怪我の心配自体はニーナよりしなくていいか。


「よし、それじゃあここに立ってろ。ニーナ、俺と一緒に見学するぞ」


「はい」


「ルル。開始の合図はこの鉄パイプが地面に落ちた音だ。鳴った瞬間から戦いは始まってるからな」


「分かった。頑張ってみる」


ニーナは50mほど離れさせ、俺はルルとゴーレムの中間地点に立つ。俺もパイプを投げたらニーナの所まで下がる予定だ。


「俺もパイプを投げたらすぐに逃げる! こっちは気にせず戦え!」


「分かったー!」


一応ニーナにも無敵化魔法をかけておこう。

これで全ての準備完了。

鉄パイプを高く投げ、すぐにフローティングでバックした。

下がりながら構えたルルを観察する。

ルルの杖は30cmぐらいの細いワンドのようだ。それを片手で相手に突き出すように構えている。

いかにも攻撃しますよと言わんばかりの構えだな。

高い音を響かせ、鉄パイプが地面に落ちた。同時にゴーレムがルルに突っ込む。

ルルの背後に光属性の魔法陣が出たが、魔法自体は出ていない。

杖の先端を自分に向けていたし、自分の強化魔法か何かか。攻撃力か防御力かは分からんが。


(初手は強化か。光使いらしいな)


その辺で俺もニーナの場所まで到着した。一応ニーナより2歩ほど前に立って盾になっておく。


ルルが次に使った魔法はこの前と同じ『ライトバインド』だ。

輝く鎖に拘束されて、ゴーレムの足が止まった。

そのままルルの3つ目の魔法、『ライトアロー』が炸裂して勝敗は決した。

あっさりとしたものだ。

ニーナと2人でルルの場所まで戻る。


「やっぱり全然大丈夫だったよ」


「そうだな。でもいくつか直した方が良い部分はある」


「えっ……そう?」


「ああ。ニーナも分かるな?」


「はい。2つほどですか」


「そうか。解説してやれ」


俺はなるべく、同じことを2度以上口にしたくない。

ここは門下生のニーナに任せよう。俺は漏れを補足するぐらいで良いか。


「まず1つですが、杖の構え方がよくありません」


「構え方?」


「はい。あなたの構え方からは狙いが簡単に分かります。杖を敵に向けているなら攻撃、自分に向けているのなら補助というように。師匠が言うには、そのような単純な構えでは、熟練の者と戦う時に不味いそうです」


「そうなの?」


「ああ。例えば俺だったら、お前が杖を自分に向けた隙に攻撃をぶち込むし、こっちに向けた瞬間に防御か回避するな」


「あ、そうか」


まあガチ勢なんかにはそれを利用して、逆に自分に向けながら攻撃を、敵に向けながら回復をと言う具合にフェイントを入れる奴もいるがな。

流石にその辺はこいつらにはまだ早いだろう。


「杖の構え方はなるべく一定にした方が良い。俺なんて、もはや構えないしな」


「構えもしないの?」


「ええ、実際師匠と戦うと厄介ですよ。師匠は基本的に無詠唱で魔法を使いますし、次の瞬間何が起こるか全く分かりませんからね」


「な、なるほど……」


「それと2つ目ですが、光の拘束の魔法(ライトバインド)は初手で使った方が良いと思います。光の拘束の魔法(ライトバインド)で敵を拘束し、安全を確保してから強化魔法を使った方が良いのでは?」


「いや、それは違うな」


ニーナは光魔法の適性が無いので、普段使うことが無い。

恐らく俺の教えた『初手は不意打ち』というのからその発想に至ったのだろうが、光魔法の使い手の場合は初手強化からでも悪くない。

なにしろ魔法攻撃力が上がれば魔法の効果も上がるからな。この辺の思考は『魔法攻撃力』という概念が無い現地人には辛い所か。


「光魔法の使い手の場合は、強化魔法が初手でも構わない」


「そうでしたか。申し訳ありません」


「いや、俺が教えてなかったからな。それにルルの使い方はあんまり良くない」


「え?」


「一応これはニーナも覚えておけ。……強化魔法は、必ず無詠唱で使うようにしろ。これは絶対だ」


「ほう。何故でしょうか」


「強化魔法は発動中もその後も完全な無防備だ。隙を少しでも無くす為には無詠唱化するに限る。なんだったら一瞬で複数の強化魔法を掛けることも出来るしな。しかも強化魔法はエフェ……目で見えない。魔法陣さえ出なければ、敵には強化魔法を使ったこと自体がバレないで済む」


「なるほど」

「なるほど」


生徒2人の声がハモった。顔を見合わせて苦笑している。

意外と明日辺りには仲良くなっているかもしれない。


「まあお前は魔力に優れてるし、数個ぐらいなら無詠唱で使っても構わんだろう? 次からは攻撃より強化を優先して無詠唱化しろ。ライトバインドとかも同時に使えるようになってちょうど良い」


「そうだね。次からそうしてみるよ」


「あとは距離を取る方法が要るな。フローティングは使えないのか?」


「あれは無の魔法だからね。ボクは適性の関係でちょっとキツいんだ」


そうかぁ……。

移動魔法はほとんどが無属性だからなぁ。

ルルの場合は光使いらしく真正面から受け止めるのが基本になるか。


「でも魔法使いは距離が命だからな。それは光魔法の使い手でも根本的には変わらない。まあルルの場合は強化の魔法で運動能力を上げるしかないな。次からは防御しつつ後ろに下がりながら魔法を使え」


「うん、分かった」


「特に相手が俺みたいに強い敵だった場合はな。接近されたら次の瞬間に死ぬぞ」


「……そ、そうだね。よく意味が分かったよ」


ルルの白い顔が更に青ざめる。

多分昨日の俺との戦いを思い出したんだろう。


「ふむ、他には……あ。実力を知らない相手と戦う時は、最初の攻撃は最強の物を使えよ。今回はあらかじめ敵が弱いことを教えてたからライトアローでも良いが、もしこれが実戦で、しかもあのゴーレムがお前より強かった場合、あの1回のチャンスで仕留めてなければ結果は逆だったかもしれんからな」


「うん」


「よし。もう1回やってみよう。今度はゴーレムを若干強くするぞ」


「えっと。構えと、無詠唱と……距離と攻撃だっけ?」


「そうだ」


「分かった。やってみるよ」


ルルは慣れないなりにそれらを頑張っていた。

戦いの方は、ニーナと違って短期決着と言うより長期戦になることが多い。

これは攻撃力の違いだ。

ルルは俺と同じくMP特化という変態ビルドだし、ニーナの方は魔法攻撃力特化のガチビルドだ。

ニーナが2発で倒せる敵でも、ルルの方は5~6発はかかる。

今回のゴーレムたちは戦士系だったが、相手が魔法防御力の高い魔法使いだった場合、この差はもっと広がるだろう。複雑なダメージ計算の結果そうなる筈。

例えば防御力の高いモンスターがいたとして、そいつにルルが攻撃した場合、防御が貫けず0ダメージだったとする。

次にニーナが攻撃したら5ダメージが出た。そうなると、ニーナが十発の攻撃で勝てる敵だったとしても、ルルは百発撃とうが勝てない計算になる訳だ。

このゲームが「攻撃力特化が安定」と言われる所以。

しかし、安定感ではニーナよりルルの方が上だ。

ルルは強化魔法や拘束魔法などの補助魔法で上手い事立ち回る。常に余裕があり、俺達外野も安心して見ていられるのだ。

さっきの話で言えば、ルル自身が『防御力の高いモンスター』その物という訳だ。

低い攻撃力と高い安定感は光魔法の特徴。

どうやら生粋の光魔法使いらしいな。

まあ俺と共通点が多いし、教え易いか。

ちなみにゴーレムは55レベまで倒せた。ニーナが初めてやった時より上。

ニーナは1発喰らえば即アウトだが、ルルの方は何発喰らっても平気だからだ。

これは面白いことになるな。






「そろそろ最後にしよう。最後はニーナとルル、2人で模擬戦をしてみろ」


ルルを回復してやりながら指示を出す。

最後は姉弟子と妹弟子の力比べだ。


「なるほど。普段の師匠の代わりという訳ですか」


「へえ。面白そうだね」


なんとなくだが、2人の間に火花が散っているような気がする。

まあ実力も互角に近いしな。俺は勝つ方が予想できているが。


「俺が無敵化の魔法をかける。1発でもまともに魔法を直撃させた方が勝ちだ」


「無敵化?」


「発動中ならどんな攻撃を喰らっても無傷で済むという魔法だ。昨日お前と戦ってた時にも使ってた」


「うわ、凄いね、それ。だからボクの魔法が効かなかったの?」


別に使ってなくても防御力の差で無傷だけどな。

なんとなくこれは黙っておいた。情報を隠すいつもの癖が出た。


「よろしくお願いします、ルルさん」


「うん。よろしく、ニーナ」


2人が定位置についた。


「効果最延長化。『フォースフィールド』」


分かり易いよう普通に詠唱して無敵化をかけてやる。

鉄パイプを空に投げ、後ろに下がった。







「参ったよ。ニーナは本当に強いんだね」


「ルルさんも相当な腕ですよ」


結局勝ったのはニーナだった。俺の予想通りだ。

同じ魔法使いという職業ならば、レベルが上の方が勝って当たり前。

しかもニーナはガチビルド。俺だってこの条件なら勝つのは……無理とは言わんが、面倒臭い。

それを完全に不可能になるまで駄目押ししたのが、ニーナの戦い方だ。


「ニーナ、上手く戦えてたな」


「ありがとうございます」


ニーナはまず最初に、ルルに数発の魔法を叩き込んで様子を見た。

防御魔法が何発で貫けるかを観察していたのだ。

そしてルルが発動し直した防御魔法が、次の一撃で破れるであろう瞬間。ニーナは温存しておいた魔力で魔法を無詠唱化し、2発連続で放った。

その結果、1発目が防御を貫くと同時、2発目はルルに直撃する。

それが勝負の決着。

勝敗を分けたのは、戦いの駆け引きだ。

魔力量や防御力による持久力の差という弱点を、最短で戦いを終わらせることによって無効化する速攻作戦。

対戦の基本戦術の1つ。

要するにこれは経験の差。ここ2か月ほどの俺の修行が役に立った訳だな。


「まあルルも落ち込むな。ニーナが勝ったのは俺の修行を受けているからだ。もしお前達が2か月前に会っていたなら、勝ったのはどちらだったか分からん」


「そうですね。あの頃の私なら負けていたかもしれません」


「ああ。それにニーナは千年に1人の天才で、大陸最強の魔法使いなんだぞ? それに肉薄したんだからむしろ凄い」


事実ニーナはルルの攻撃を防ぐのに必死だった。

光魔法は命中率最強。

一撃喰らったら終わりという不利なルールの中で、ニーナは土魔法や氷魔法で盾や壁を作ることで何とか凌いだのだ。

『疑似防御魔法』って感じだったな。

現地の魔法は応用が効いて便利そうだ。


「ふふ、大丈夫だよ。ボク別に落ち込んでなんかないから」


ルルが苦笑する。ちょっと励ましが過剰だったか。

リーダーがボロ負けした時にみんなで慰めてる癖が出た。あいつは戦闘力だけじゃなく、メンタルの方も最弱だからな。


「いえ、本当に凄いと思います。師匠を除けば、恐らく私が知っている魔法使いで一番でしょう」


「そうなんだ。あはは、照れるね」


照れてるルルも可愛いな。

邪な目でニーナと話す彼女を眺めていると、その視線が不意にこちらを向いた。


「ね。この修行って、明日からも参加してもいい?」


若干不安そうな仕草が一々可愛い。

たとえ数日後には会えなくなるとしても、良い拾い物だった。美少女最高。


「ああ。明日はお前ら2人と俺1人で、2対1の模擬戦でもしてみるか」


「えっ……」


「大丈夫ですよ。さっきのと同じで怪我はしませんから。良い経験になります」


「そ、そっか。頑張るよ」


ルルは俺と模擬戦するのが不安なようだ。最初の頃のニーナもこんな感じだったな。

2人のMPを回復してやりながら、調理場までの道を帰る。

この日は帰り道に伸びる影が3人分だった。


……影は俺だけ長くて、他2人の分は短い。身長の差だ。

まさか影に萌える日が来るとは……新たな境地だ。





次の日から、2人にはパーティー戦の基本である役割分担を叩き込んだ。

もちろん役割はニーナが攻撃でルルが補助。

攻撃系特化のニーナに、持久力と補助技特化のルル。

事実この2人は魔法使い同士のパーティーとしては最高の相性だ。下手したら百レベぐらいの相手にもなんとか勝てるかもしれない。

それにすっかり打ち解けたようで喧嘩もしないし、間違いなく良いコンビだ。

これは2~3日したらルルが去ってしまうのが悔やまれる。


(まあ仕方ないけどな)


世の中は全てが運だ。

俺たちは出会いの運が悪かった。……ただ、それだけだ。

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