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23 ルル

2016.7.1


2016.9.8

挿絵を追加。

『ハネット様! 聞こえますでしょうか!』


あれから1週間ちょっと。

移住者たちも新しい生活に慣れてきた頃、村長以外の人間の声から、初めて『コール』が掛かって来た。


(ついに来たか!)


探知魔法でコールの発生地を特定し、発動者に急いでコールを掛け返す。


「ああ、ちゃんと聞こえてるぞ。エルフの件か?」


『はッ! 約定の通り、エルフ6人、本日全員揃いました!』


ニーナの予想より随分早い。


「分かった。ではそちらに行こう。時間はどれぐらいが良い?」


『いえ! 既にお引き渡しの準備は整っております! いつでもご来城下さい!』


「そうか、なら今から行く。一応正門前に転移させて貰おう」


コールを切り、隣にいたニーナに振り向く。


「エルフが揃ったそうだ。今から出向くぞ」


「かしこまりました。それにしても、予想よりかなり早かったですね」


「まあ媚を売る為に急いだんだろうさ」


2度目だし、もう格好はこのままでも良いだろう。

ニーナと手を繋ぎ、王宮の正門前に転移した。


「!」


突如出現した俺達だったが、衛兵たちは取り乱す事も無く、すぐさま敬礼を取って見せた。

やはり随分と訓練が行き届いているようだ。

王宮で働いてるぐらいだから、多分エリートなんだろうな。


「これはハネット様、クラリカ様。本日は、例のエルフの件でしょうか?」


すかさずあの門衛長みたいなのが話しかけてきた。


「そうだ。早速案内してくれ」


「かしこまりました」


門衛長が部下たちに許可を出し、道が空けられる。

流石に俺の顔パスじゃ勝手な入城は無理なのか?

そういえばニーナも証拠として書状を持って来ていたな。

あんま面倒だったら、次から勝手に中に転移しちゃおうかな。


庭園を進むと、城の前に件のエルフたちとたくさんの人間が並んでいた。

あの戦士長とか宰相も一緒だ。これでいつもの面々だな。()()()()()()()もいるが。

()()を告げるレーダーを見ていると、ふとあのメイドさんのことを思い出した。

マーキングを検索したらちゃんと王宮内にいた。どうやら解雇はされなかったようだ。


「ハネット様、ようこそお越し下さいました」


今回の件の責任者なのか、宰相が挨拶してくる。


「ああ。思ったより早かったじゃないか」


「いえいえ。この程度のことは容易いことです」


「フッ」


少しでも王国(じぶん)を有能に見せようと必死だな。

鼻で笑ったら戦士長が若干身じろいだ。

顔色を変えない宰相は流石だ。俺と違ってポーカーフェイスが上手い。


「まずは俺が探しているエルフなのかどうかを確かめさせて貰おう。おい、お前達」


俺が話しかけると、エルフたちはビクっと怯えた。

人数はピッタリ6人。

あの奴隷商館と違い、服はちゃんと最低限の物を着せられている。


「お前達は―――」




―――敵性オブジェクトが発生しました。




ティアの仲間かどうか聞こうとした瞬間、警報アラームが響き渡った。


「―――光の拘束の魔法(ライトバインド)!」


詠唱の声がどこからか響き、パッと見誰もいない筈の場所に黄色い魔法陣が展開された。

同時に俺の足元から光り輝く鎖が伸び、俺の体を拘束する。

ふむ、何が目的なのかと思って()()していたが、俺自身か。


「師匠ッ!!」

「!? 襲撃!?」

「―――!!」


ニーナと戦士長、そして門衛長っぽいあの男の3人が、瞬時にそれぞれの武器を構える。

が、その3人も、俺と同じく光属性の拘束魔法『ライトバインド』により一瞬で絡め取られてしまった。

敵は戦闘力の高そうな3人を真っ先に潰して来たようだ。

それにしても、戦士長と衛兵長も捕まったということは、この襲撃者は王国側の『様子見』とかではない訳か?

どうせ俺の実力が知りたいとかそんな所で働いた無礼だろうと思って、エルフ以外は皆殺しにするつもりだったんだが……こうなると微妙だな。

まあ俺にこうして躊躇させる為の演技という可能性もある。もう少し様子を見てみるか。


「こ、これは!?」

「糞っ!!」

「くっ―――!」


「ふむ」


突然の攻撃に慌てる3人と、最初に攻撃されたのに至極冷静な俺の図。

戦士長と門衛長の様子はとりあえず演技っぽくは見えない。

もし第三者だとしたら、これは緊急事態って奴か。


「で? 俺になんか用か?」


俺から見て左側。庭園の誰もいない場所に向かって話しかける。

その場の全員がパニックに陥った中、1人だけ平気そうな俺に視線が集まった。


「どうした? なんか用があったからこんなことしたんだろ?」


見えない襲撃者からの返事は無い。

まあいいか。興味があるから力ずくで聞き出そう。

俺は魔法抵抗スキル『マジックレジスト』を発動して敵のライトバインドを打ち消した。


「!?」


驚く周囲を尻目に、俺はさっきから見ていた誰もいない場所に向かって歩いていく。


……目には見えないが、そこには誰かがいる筈だ。


残念だが、レーダーには赤い点が見えている。当然最初から気付いていた。

次から認識阻害系の魔法も使うんだな。


「―――さて。答える気が無いんなら、無理やり答えさせてやろう」


「ひっ……!」


エルフたちから悲鳴が上がる。

また殺気が漏れてしまったか。


(効果最延長化。『フォースフィールド』)


とりあえず真っ先にニーナたちへ無敵化の魔法をかけておく。

さあ始めようか。面白い襲撃者さんよ。


(効果最延長化。『セイクリッドコート』)


「『光矢の魔法(ライトアロー)』ッ!!」


まずは自分にも無敵化の魔法。

ほとんど同時に敵から攻撃魔法が飛んでくる。


(さっきから全部光魔法だな)


ライトバインドも光魔法。ライトアローも光魔法だ。

恐らく姿を消しているのも、透明化の光魔法の筈。

光魔法の特徴は高い命中率だ。だからあの3人でも避けることが出来なかった。

そして俺にも敵のライトアローは直撃する。

だが俺は無敵化しているので当然無傷。

俺にぶつかり弾けた魔法の衝撃波で、地面が大きくめくれ上がる。

だがMPを見たらそんなに減って無かった。大した威力じゃないな。

……この無敵化魔法『セイクリッドコート』は、発動すると攻撃を受けた際にHPの代わりにMPが減る。

要するにMPが切れるまでは無敵ということ。

まあこう言うと便利な魔法に聞こえるが、実際には俺みたいにMP特化にでもしてない限りは使い物にならない糞魔法だ。

何しろこのゲームは大抵のプレイヤーが攻撃特化。普通は1発でも攻撃を喰らえばMPが消し飛ぶからな。

しかも魔法使いにとってはHPよりもMPの方が大事だし。

……だが、こういう攻撃力の低い雑魚相手には、優れた防御手段となる。

なにしろMP切れが効果終了条件なので、俺が使えば制限時間無しで無限に使えるような物だ。……何度も言うが、雑魚限定だぞ。


「お前光魔法使いか? ちょっと遊ぼうぜ」


現地のご同業とは初の邂逅となる。この俺様が先輩として採点してやろう。

探知魔法で敵の場所を正確に把握し、一歩で接近する。


「!?」


正面から『敵』の物と思われる驚愕の声が聞こえた。

そのまま右の拳を突き込む。


―――ガィンッ!


固い感触。


(へえ、防いだか)


どうやら無詠唱の防御魔法か何かでギリギリ防いだようだ。

まさか俺の不意打ちを防いでみせるとはな。


「やるな」


そのまま後方に距離を取ろうとする敵を追撃。

もう1度拳を叩きつけた時、防御魔法を叩き割った感触がした。


(適当とはいえ、俺の攻撃に2発耐えたか)


下手したらニーナより強いな、こいつ。

さっきのライトアローの威力から考えても、プレイヤー換算でレベル40~50ぐらいはあるだろう。

俺はなかなか面白い奴に狙われているらしい。


「くっ―――! 『光輪の魔法(エンジェルリング)』ッ!!」


敵が光の範囲攻撃を詠唱した。

30mを超える巨大な光の輪が俺を中心にして出現する。

次の瞬間には俺を上半身と下半身に切断しようと収縮しているが、相変わらず俺にはノーダメだ。


「なっなんで!?」


「ハッ、残念だったな。これが本当の光魔法って奴だ―――範囲最縮小化。『ライトランス』」


俺の右手に光り輝く1本の投擲槍が生まれる。

それを敵に直撃しないようにぶん投げた。

不可避の一撃が敵の真横をかすめて飛び、新しく展開されたらしい防御魔法を容易く貫通してみせる。

槍はそのまま敵後方の地面に着弾し、大爆発を巻き起こした。

ビリビリと地面が揺れる。


「あ……うぁ……」


どうやら敵は今のにビビって、座り込んでしまったようだ。

前にニーナにライトアローを撃った時と同じリアクション。腰が抜けたという奴か。


「終わりか。それじゃあ姿を見せて貰おうか」


指を鳴らしながら無詠唱で『クリア』を発動させる。

透明化を打ち消された敵の姿が露わになった。


「―――」




その瞬間、あまりの美しさに目を奪われた。




最初に言うと、敵はまさかの子供だった。

身長は140cmちょいぐらいしか無さそうだ。多分立ってもニーナより5cmは低い。

黒い布を適当に縫ったみたいな、変な服を着ている。


が、それよりも特徴的なのが、その美しさだ。


俺と同じ……()()の髪の毛。

それが肩より少し長いぐらいに伸ばされている。

肌も全く同じく透けるような白色。

こんなに白いと日焼けで肌が荒れそうな物だが、どういう訳かシミ1つ無い綺麗な肌だ。

白い毛に白い肌。

白人系な分、受ける「白」という印象は俺よりも上だろう。


そして唯一色素を持つのが……その、瞳。


―――赤。


全身真っ白な中、瞳だけがルビーのように赤いのだ。

それを見た瞬間、俺の脳裏に1つの単語が思い浮かぶ。


(アルビノ?)


白い体に赤い目。

白ヘビとかのアレだ。

メラニンか何かの異常で、生まれつき真っ白に生まれてくる突然変異。

確か2万分の1ぐらいの確率で生まれてくるとかいう。

人間にもたまにいるというのは知っていたが、本物は初めて見た。いや本物じゃない、これゲーム。

つーか……。


「女の子?」


襲撃者は少女だった。

それはもう超絶美少女だ。ティアを思い出す。


「る、ルル!?」


エルフの1人が襲撃者のことをそう呼んだ。


「あん? お前らの知り合いか?」


「う……は、はい……?」


なんで疑問形なんだよ。

これはいよいよもって謎な展開になって来たなぁ……。カオス過ぎて訳が分からん。


「お前は―――」


「サンヌ! 捕らえるぞ!」


少女に何者なのか尋ねようとした時、戦士長が走ってきた。

どうやらライトバインドの効果時間が切れたらしい。

だが今はちょっと邪魔だ。


「やめろ」


無詠唱魔法で戦士長と門衛長の目の前の地面を抉る。


「うぉっ!?」


「ちょっと黙ってろ。今は俺が話してる」


戦士長たちはそれはもう大人しく剣を下してくれた。

ニーナはちょっとギクシャクした動きで俺の横まで来る。いやいや、ニーナにまで攻撃したりしないから。お前には普通に言葉で声をかけるから。つーか怖いんなら来なくてもいいんだぞ?


「さて、それでお前はなんなんだ? 何が目的だ? あと誰だ?」


「…………」


「さっさと答えろ」


無詠唱のライトバインドで拘束する。

さっきのお返しだ。


「ぅくっ……!」


「なんでもいいから何か言え」


じゃねえと手足の2~3(にさん)本弾くぞ。

本当は闇の読心魔法で簡単に頭の中を覗けるんだが、俺はその手は最後まで使わないことにしている。

せっかくの弱い物イジメの機会が減るからな。

白い少女はライトバインドに抵抗しようと頑張っていたが、やがて無駄だと悟ったのか観念した。


「……みんなを……みんなをどうするつもり!? エルフを集めて、何をするつもりなの!?」


透明感のある赤い瞳で俺を睨む。

う、ちょっと可愛いと思ってしまった。俺はロリコンじゃない。ロリコンじゃないぞ。


「『みんな』か。んー……さっきからアレだな。お前ら、もしかして仲間なのか?」


エルフたちの方を示して尋ねる。

白い少女は苦々しげに頷いた。

さっきからマイナスの表情なのに全部が可愛い。これぐらいの美少女だと人生得だな。


「言っとくが、俺はお前らの敵じゃないぞ。ニーナ、あの一族は何って名前だったっけ?」


突然話を振られたニーナがビクっとする。


「え? あ。ラーの一族です。族長の名は、確かグリフだったと思います」


話の流れから俺の言いたい事を瞬時に悟ってくれたようだ。しかも記憶力も抜群。我が弟子はまこと優秀である。


「そうか。俺はラーの一族、その族長のグリフから、お前達を里に連れ戻して欲しいと正式に依頼された者だ」


「えっ……!?」


白い少女とエルフたちから驚愕の声が漏れる。

これでエルフの方はティアの仲間で確定したようなもんだが……。

ちょっと鎌をかけてみるか。


「変だな。あの族長からは捕まったのは7人だと聞いている。ティアはもう助けたし、お前は一体……」


「てぃ、ティアを知ってるの!?」


白い少女はティアの名前に食い付いて来た。

どうやら本当にエルフの仲間っぽいな。


「ティアは一番最初に助けた。族長と俺とを繋いだエルフだ」


「そ……そっか。無事だったんだ……」


なんか状況がややこしそうだなぁ……。

一旦全員で落ち着いて話すか。

少女のライトバインドを解いてやるのと同時、アイテム作成で複数の椅子を出した。

その1つに座り、他の面々にも着席を促す。


「ほら、全員一旦座れ。状況を整理しよう」


「は、はぁ……」


周囲と違い、ニーナはすぐに俺の隣の席に腰を下ろした。

それを見て他の面々も、とりあえずと言った様子で近くの椅子に座っていく。


「ほら、お前も座れ」


「え……う、うん……」


最後に白い少女が着席し、第一回「これどうなってんの」会議が始まる。


「よし。もう面倒だから、俺が事の始まりから解説しよう。まず俺達は2か月前ぐらいに―――」


俺は王国側、エルフ側の面々に事の顛末を説明した。

ティアを奴隷として買ったこと、故郷に帰らせてやったこと、そこで族長から依頼を受けたこと、それを手伝わせる為に王国と接触を持ったこと。

説明を進めるごとに、エルフたちの表情は喜びに満ち、白い少女の表情は青くなっていった。


「で、ではハネット様は、エルフと友好を結んでいらっしゃるのですか?」


宰相が白い少女と同じぐらいの青い顔で尋ねてきた。


「別にそんなことはない。ただ単純に、仕事として依頼されただけのことだ。言ってみれば客ではあるが、ただの他人だ」


「そ、そうですか」


一安心したように胸を撫で下ろす。

もし俺がエルフの仲間だとすれば、彼からすれば生きた心地がしなかったのだろう。

その仮定だと、俺にとっても王国の人間は敵になるからな。

まあエルフが正当な対価と引き換えに「王国を滅ぼしてくれ」とか依頼してきたら、そうなる可能性もゼロじゃないんだが。


「さて、それじゃあお前の方の言い分を聞こうか?」


「うっ……」


白い少女に話を振ると、全員から非難するような目が彼女に集まった。

居心地悪そうに身じろぎしながら、少女はまごまごと説明を始める。


「そ、その、ボクはティアを探して里を出て……」


どうやら俺の説明を真似し、最初から説明してくれるようだ。

にしてもこいつボクっ子か。

貴重な属性だな。ロリコン共が喜びそうだ。



白い少女は、その名前を『ルル』と言うらしい。風邪に効きそう。

ルルは1年前の襲撃から逃げ延びたが、親友だったティアが捕まってしまった為に単身里を飛び出した。

そして光魔法で道を切り開き、1年かけて情報の集まるこの王都に辿り着いた所、そこで大々的にエルフを集めている人間がいることを知ったそうだ。


「なるほど。エルフを集めているらしい俺から、ティアの場所を吐かせようとした訳か」


「ご、ごめんなさい!」


ルルがその小さな頭を下げる。

やっぱり頭を下げるというのは共通の動きなのか?


「別にいい。割と合理的な判断だ。ただ運が悪かっただけでな」


そう、こいつは運が悪かっただけなのだ。

その1つ1つの行動自体は正しい行いに思える。

しかもそれを可能とするだけの力も持っていた。

事実相手が俺じゃなければ、エルフたちを連れて王都から脱出することも出来ただろう。

現地人にしてはなかなか強力な魔法使いなんじゃなかろうか。

年齢から考えても天狗になるのは仕方ない。

相手がその自分より遥かに強者な上に、まさか味方だなんてことは夢にも思わなかっただろう。


「じゃ、お前も一緒に帰るか」


「え?」


ルルは俺の提案に単純に驚いたような顔をしたが、なぜかすぐに嫌そうな物に変わった。


「ティアの親友なんだろ?」


「う、うん……」


じゃあ帰ればいいじゃねーか。ティアを喜ばしてやれよ。

早々に結論を出そうとしたが、そこにこれまで黙っていた筈の戦士長が突然口を挟んできた。


「ハネット殿。申し訳ないが、そのルルという少女の身柄は、こちらに引き渡して貰いたい」


「なに?」


戦士長と門衛長の鋭い視線に、ルルが諦めたような顔をする。

む、その儚い表情は特に似合うな。こいつ守ってあげたくなる系か。


「彼女は王宮の敷地内に不法侵入した上、私達に魔法を行使した。はっきり言って重罪だ。とても見過ごせる物ではない」


「別に良いじゃねーか。ガキのしたことだぞ?」


そりゃ重罪なのは俺にも分かるが。完全にテロだからな。


(……でも子供だからなぁ)


10代序盤ぐらいの少女。

それがたった1人で、友達のために1年かけて大陸を渡って来たのだ。

この王都に辿り着くまで、それはもう色々な苦労があった筈だ。まるでなんとかを訪ねて三千里。

これで死刑とかになったらバッドエンド過ぎる。さっき手足の2~3本どうのとか言ってたのは忘れろ。


「ハネット殿、彼女は本当に子供かどうか、分かりませんぞ」


「む」


……そう言えばそうだな。エルフの仲間な訳だし。

ルルを見ると、耳がちょっとだけ長い。

ハーフドワーフのニーナより、若干長いぐらいだろうか。


「お前は……エルフなのか?」


「ぼ、ボクは…………ハーフエルフ、です。多分、ヒト族との」


「なんと……!」


宰相から声が漏れる。ニーナを含む他の面々からも同様だ。

お、ついにハーフエルフが出て来たか。

一部ではエルフと人間の良いとこ取りとか言って人気だよな。俺は純粋なエルフ派だが。

だって人間の血が混じった結果、巨乳のキャラとかいるじゃん? 俺は貧乳のままがいい。

にしてもみんなの驚き様が凄いな。

ヒト族と仲が悪いってんなら、貴重な存在なのか?

エルフが性奴隷として売買されてる時点で、いてもおかしくないと思うんだが。


「ふーん。歳はいくつだ?」


「に、21……」


「に…………」



( 2 1 ィ ! ! ! ! ? )



それは俺にとって、今日1番の衝撃的事実だった。




―――神よ。私は今……女神と出会いました。




ここに今、俺のタイプを究極の形で再現した存在が座っている。

ロリ系の同年代。しかも……白髪!!

俺は銀髪白髪フェチだ!!

しかも肌も色白好き!!


ヤバい。これははっきり言ってヤバい。

どこにも嫌いになる要素が無い。なんなら神の使い……そう、まさに天使だ!

ロリだと思っていたのでどうでもよかったが、年齢が同年代だと言うのなら話は別だ。

こいつは絶対に連れて帰る。

数日でもいいので、我が拠点の看板娘になって貰おう。


「俺の好みだ」


「…………え?」


俺の呟きに、変な空気が流れる。


「悪いが戦士長。こいつは連れて帰らせて貰う」


「あ、い、いや、しかし」


「じゃあ今日が王国の命日だ」



俺は指を鳴らし、無詠唱の『ヘルレイン』を庭園にぶち込んだ。



数十m級の大爆発。

熱波は当然俺達まで届き、衝撃波で城中の窓ガラスが割れる。

至る所から悲鳴が上がった。


「いっ、いえ! 大丈夫ですともッ!! そうだろう、戦士長ッ!!?」


顔面を蒼白にした宰相が割って入る。正真正銘の必死さだ。


「え、ええ!」


戦士長もガクガクと頷く。


「ああそうだろうとも。まさか女1人の為に、国の未来を捨てるなんて馬鹿はいないよなぁ……」


「も、勿論です! はい!」


王国側はもはや全員跪いている。宰相の短い寿命が更に短くなったかもしれない。

それにしても良い反応だ。めっちゃ楽しい。ドS心が満たされる。

機嫌が良いのでスキルで庭園と城の損傷を修復してやった。


「ということで、怖いお兄さんたちはお前を許して下さるそうだ」


俺なりの爽やかスマイルでルルに振り返る。


「う……うん……」


エルフ側も王国側と同じぐらい顔色が悪かった。

ちょっとやり過ぎたか。


「まあもう用も無いし帰るか。宰相ッ!」


「は、はいッ!!」


弾かれたように宰相が立ち上がる。

弱い者いじめほど楽しいことは無いな。


「コールのスクロールの補充だ。毎回1本ずつ支給する」


「はッ! かしこまりました!」


1本だけコールのスクロールを渡す。

あの村と違って悪用とかしそうだからな。変な使い方が出来ないよう、1本だけだ。


「それじゃあ一旦俺の住処まで帰るぞ。全員こっちに来い」


エルフ組7人を呼び寄せる。当然ニーナもだ。


「あ、そうだ。宰相! 約定通り、なんかあった時には助けてやる! 安心しろ!」


「はっはい! ありがとうございます!!」


宰相が遠くでカクカクとお辞儀するのを見ながらテレポートした。




(あ、転移の説明すんの忘れてた)


宰相を虐めるのに夢中だった。

案の定、エルフたちがパニックを起こす。

カウンセラーニーナが緊急出動した。




「て、転移の魔法が、使えるの?」


「まあな。いやー、すまんすまん。説明を忘れた」


ニーナからの視線が痛いので笑って誤魔化した。


「ん゛ん゛っ! さて、とりあえずの予定だが、まずはお前達はここで体を癒して行け。5日後ぐらいに里に送ってやる」


言いながら無詠唱で範囲強化のヒールをかける。


「……えっ?」


ルルが驚いている。

同じ光魔法使いだから、格の違いがよく分かるのかもしれない。


「お前達、腹は減ってるか? 減ってたら食事を用意してやるが」


全員が頷いた。この辺は相変わらずか。

とりあえずあの時と同じでスープだけ出してやる。

これまた相変わらずで、みんな美味そうに完食してくれた。


「この集落ではティアが暮らしてた。ほとんどの住民がエルフに友好的な筈だから、安心しろ」


居住区まで全員を連れて行き、倉庫と浴場を1軒ずつ建てる。

これもあの時と同じだ。


「ニーナ。それじゃあ風呂に入れてやってくれ」


「かしこまりました」


あとのことはニーナに任せておこう。

俺はその間に畑に向かい、みんなを集合させてエルフたちのことを説明した。









王宮は大騒ぎだった。


敷地内に敷かれた何重もの警備が、容易く賊に突破された。

普段ならこれだけで数週間に渡って対策会議が開かれる重大事件だ。

だが今回はそんなことが霞むほどの、前代未聞の大問題までもが同時に起きてしまった。


そう。一番の騒ぎの元凶は、あのハネットという大魔法使いだ。


彼の放った魔法により、王宮内は大混乱へと陥った。

突然の大爆発で動けなくなる婦女子の方々。

何者かからの攻撃と見て緊急出動する衛兵と騎士。

大事な会談中だった陛下も、避難の為に中止せざるを得なかった。

それらの騒ぎを治めるのに2刻ほどの時間をかけ、今やっと一息つけた所だ。


「はぁ……」


椅子の背もたれに深く沈み、思わず溜め息を漏らしてしまう。


今回の件で、戦士長たちの意見など聞かずとも十分に理解できた。

あれは、本物の化け物だ。


(今なら勇者より強いというのも素直に信じられる……)


彼があのハーフエルフと戦い始めてからは、ずっと生きた心地がしなかった。

今思い返してもゾッとする。あれが殺気という物なのだろうか?

クラリカ様や勇者のような純粋な迫力とは違い、まるで血に濡れた死刑台のような禍々しい印象を受けた。


とにかく今回で、彼が平気で王国に牙を向ける存在であることが確定した。

もしもあの存在が敵となったら……。

……これは本格的に対策を考えておく必要がある。まるで魔王がもう1人増えたかのようだ。

これまでのことを総合するに、勇者1人では勝てるかどうか怪しい。

となれば援軍が欲しいが、帝国は今回の『魔王城攻略作戦』にすら『雷鳴』を貸さなかった。恐らく『四魔将』もそうだろう。

そもそもあの女帝ならば、王国の滅びを喜びはすれども、助けることは有り得ないか。

その他の周辺国家などに至っては単純に戦力がいない。

これは完全に王国内だけで対処する必要がある。

問題はもしも彼が王国の敵となった際、クラリカ様がどちらの味方につくのかということだ。

これまでのように王国の未来を想って下さるのか、それとも彼への忠誠を取るのか……。

……あのハーフエルフを取り逃したのが地味に痛い。

あれは相当に強力な魔法使いのようであった。下手したらあの『ルーチェ』と同格かもしれない。

取り込むことが出来ればさぞ役に立っただろう。

ああ、目の前にあるのに届かぬ物ばかりだ……。


「はぁ……」


二度目の溜め息をついて顔を覆った。

やはり彼には譲歩し続けるしかあるまい。

少なくとも、今回の『作戦』が無事成功し、勇者が自由に動けるようになるまでは。

……それにしても、これからは定期的にこんなことが起きる予感がする。

一際大きい溜め息をつきながら、更に深く椅子にもたれた。









夜。時刻は8時前。

居住区は半分ぐらいの家が既に光を落としている。


「ん?」


ボッツの店から空を飛んで家に帰る途中、レーダーを見ると中央広場に緑の点が1つだけあった。

この時間帯に人が出歩いているのは珍しい。

視界をズームしてみると、結界の石碑にルルがぽつんと座っていた。

フローティングを切って彼女の側に下りる。


「月見か?」


声をかけるとルルがこちらを振り向いた。

月光を透けさせる白い髪と、ミステリアスに光る赤い瞳が綺麗だ。

夜の彼女はより幻想的に見える。





挿絵(By みてみん)





「ぁ……」


慌ててルルが石碑の台座から飛び降りる。


「ごめんなさい。座っちゃ駄目だった……?」


「別にそんなことないさ。ほら」


俺も台座に飛び乗って座る。

手を差し出し、おずおずと握り返した彼女を引っ張り上げた。


「この魔石は凄いね。こんなに大きなのは、見たことも聞いたことも無いよ」


「結界の石碑だ。これが有る限り、魔物は集落に近付けない」


「そうなんだ……。凄いね」


それっきり無言になる。

俺は無言が平気なタイプだが、気を遣って何か話題を探した方がいいんだろうか。

にしても美少女と夜の月の下2人っきりとは、雰囲気のあるシチュエーションだ。


「その……昼間のことは、ごめんなさい」


考えていると、ルルの方が先に口を開いた。

やはり彼女にはこういう(さち)薄そうというか、陰のある雰囲気が似合う。


「別に気にしてないさ。こっちは傷一つ負ってないし」


「あの……君は、有名な人なの?」


「君」か。

見た目のせいで違和感があるが、同年代なのを考えれば、別に変な呼び方では無いな。

にしてもなんで急にそんなことを聞いてきたんだろう。


「……どういう意味だ?」


「物凄く強い魔法使いだよね?」


光魔法に自信があったのかもしれない。

「我が魔法を受け止めるとは……さぞかし名のある者と見た」みたいな感じか。


「あのニーナって子も、噂の土の賢者なんでしょ?」


と思ったら単にニーナパワーだった。いつものやつだ。


「まあニーナは超有名人だな。俺は一部では、って感じか。この大陸に来たのは2か月前だし」


ルルが不思議そうな顔をするので、2か月の出来事を簡単に説明してやった。


「そっか。ねえ、ティアは元気だった?」


「ああ、傷一つない。幸運なことに酷い目にも会ってないみたいだしな。他の奴等と違って泣いてる所も見なかった」


「……そっか。良かった」


「ティアと友達なのか?」


「……うん」


頷いたその顔は穏やかな物だ。

だが、目だけが寂しさを宿しているのが分かった。


「ティアと何かあるのか?」


「え? ……ううん。なんで?」


「なんでって言われてもな……」


なんって言えばいいんだろうか。


何度目かの静寂。

今度もやはり、口を先に開いたのはルルだった。


「……ボクね。村で唯一のハーフエルフなんだ」


ルルはポツポツと自分のことを話し始めた。

生まれた時から両親がいなかったこと。

人間の血が混じることと髪の色から、村八分にされていたこと。

狭い里の中なのに、ティアだけが知り合いだったこと。

……つーかティアは本当に性格良いな。


それにしても、俺はたまにこうして初対面の人間に愚痴をこぼされることがあるんだが、何でなんだろう。

まあ別にいいけど……。誰でも良いから言って楽になりたいのかもしれんし。


「そうか。髪が白いのだがな、それは『アルビノ』っていう症状だ」


「『白化(アルビノ)』?」


「ああ。生き物は、2万に1つぐらいの確率で真っ白な固体が生まれるんだ。お前はそれだな」


「そうだったんだ……2万に1つ……」


「世の中探せばお前だけじゃないってことだ。もう何十人かぐらいはいるだろ」


まあ虚弱に生まれてくるアルビノは生き残る確率が低いらしいから、いないかもしれんが。

でもどうなんだろうな。

例えば単純に医療技術が未発達だから、普通に考えれば子供の死亡率とかは高い筈だ。

だがこの世界には魔法という便利な物がある。

現実のこの文化レベルだった時代よりも、人の生存率は高いんじゃないだろうか。

……いや、でもアルビノについてはやっぱり分かんねえな。忌み子として生後すぐに捨てられる場合もあるだろうし。


「君もその白化なの?」


う、良心が痛い。

もしかして今日1日ずっと、俺のことを仲間だと思って見ていたんだろうか。

すまん、俺のこれは設定で変えてるだけなんだ……。


「……いや。俺のこの髪は魔法で色を変えてるだけだ。……白が好きなんでな」


一応最後にフォローを入れておく。

事実俺は白が好きだし、お前も好きだぞ。頑張って生きろ。


「そ、そっか……」


表情は見えないが、その相槌は震えていた。

やはり落ち込ませてしまったか?


「あ、ちなみに子供には遺伝しないそうだから安心しろ」


「えっ……そうなの?」


代わりにもう1つフォローを入れておく。

さっき聞いた話だと、ルルは自分という物にかなりのコンプレックスを持っているようだった。

そういう場合「自分には子供を残す資格が無いんじゃないだろうか……」という、ネガティブな思考を持ってしまい易い。

この時代背景なら「女の幸せは子作り」みたいな価値観だろう。これは結構重要な情報の筈だ。


「ああ。両親揃ってアルビノでもない限り、確率は低いらしい」


「そうなんだ……」


ルルがシーンと黙り込んだ。

やはり悩んでいた問題だったのだろう。

……もし子供を産んだら、自分と同じような目に遭うんだろうか、とか。


(多分、他にも色々考えただろうな)


何度目か分からない沈黙の中、今度は俺から口を開いた。



「……お前、だからここに1人でいたんだな」



「………………うん」


脈絡の無い話題。

だがルルには伝わる。図星だから。


彼女はあのエルフたちの家にいたくないのだ。

彼女にとって、心を許せるのはティアだけなんだろう。

きっと里にいた間、多くのことがあった筈だ。

嫌な嫌な、多くのことが。

それこそティアという理由が出来た瞬間、飛び出してしまうぐらいには。


横目で彼女を盗み見る。

儚げ。

その言葉が似合う少女……いや、女性だ。


「じゃあ俺の家に来るか?」


「え?」


「泊まる場所だ。別に新しい家を建ててやるのでも構わんし」


思い出すのはうちのクランだ。

俺は嫌な事がある度にこのゲームに逃げていた。

クランのみんなで馬鹿騒ぎして、束の間の楽しさや穏やかさを甘受して、現実逃避したもんだ。

俺は逃避を否定しない。

逃げるというのは、あくまで生きる為の手段の1つに過ぎない。

人間が生きていくには、逃げ場所が必要なのだ。

ルルにはそれを用意してやった方が良い。


多分だが。

そうしなければ、こいつはもう、()()()()()()()


ニーナの所が一番だが、この時間ならあいつはもう寝ているだろう。

とりあえず今日一晩は俺の家の方に泊めてやるしかない。

言った通り、個人の家が欲しいなら建ててやるし。


俺の提案にルルは沈黙した。

少しして、小さく「行く」と答える。


「そうか。じゃあ行くか?」


「うん……」


手を差し出すと、最初と同じくおずおずと手が握り返された。

そのままルルをお姫様抱っこしてフローティングを使う。


「ひゃんっ!?」


最初は持ち上げられたことに驚いていたみたいだが、空に浮かぶと恐怖からかギュッと抱き着いてきた。

初めて感じる女の子の柔らかさにドギマギする。

かっこつけた手前下ろす訳にもいかず、動揺を隠し、そのまま5百mほどの夜間飛行と洒落込んだ。

にしても本当にロマンチックな夜になったもんだ。


家に到着し、ルルを地面に下ろした。


「そ、そっか。この家なんだよね……」


外観にビビっているらしい。

ちなみにこの俺の家とハネットファームの宮殿の外装はアジア系。インドのタージ・マハルみたいな感じだ。中身は普通に西洋風なんだがな。

あと俺のフル装備時の見た目も、一般的な西洋系魔法使いではなく、アジア系魔法使いだ。イメージはランプの魔神とかあんな感じ。


「どうせ魔法で適当に作った家だ。気にするな」


彼女を招き入れ、客間として用意していた部屋の1室に案内する。

同居人か。ニーナ以来だな。


「今日はもう遅いから寝よう。それじゃあお休み」


「あ、あの」


自分の部屋に帰ろうとしたら呼び止められた。


「あの……君は、名前は何って言うの?」


「あれ? 言ってなかったか?」


「うん。まだ聞いてない」


だから君って呼んでたのか。

単純にそういうキャラかと思ってた。


「俺はハネットだ。じゃあな」


「あ……おやすみ。……ハネット」


扉を閉める間際、最後に彼女もそう返してくれた。

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