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幕間 王宮の人々

2016.6.17

王国側のキャラたち視点です。

「さて、皆の者。彼のことをどう思う?」


王宮の会議室。

晩餐会の終了後、そこには国王他、信頼のおける重役たちが勢揃いしていた。

議題は当然、ハネットについてだ。


「やはりあの装備を見てしまいますと、大魔法使いというのは間違い無いように思われますな。実際の魔法の方は戦う為の物ではなかったので微妙な所ですが、少なくとも見たことも聞いたことも無い魔法ではありました」


国王の意見を求める声に、集まった数人の内の1人が即座に返答した。

ここにいる人間たちは運命共同体。今更世辞や能書きはいらない。


「うむ。流石にあの身なりは、普通の人間に用意出来る物ではない。戦いの方は……トリスタン、どう思う?」


「はッ」


国王に促され、隣に控えていた王国最強の騎士が前に出る。


「申し訳ありません。率直に申しまして、私の方では判断しかねます。確かに装備は神話の域にある物のようですが、あの方には驚くほどに殺気がございませんでした。しかし接触の機会が多い戦士長などは、あの方を勇者殿より上位の存在だと確信しているようです」


「勇者より上位……まああの身なりを考えると、あながち否定も出来んか」


なにしろ世界最高峰である筈の、勇者一向の装備より更に上なのだ。

下手したらそのへんの農民に着せるだけでも歴戦の戦士ぐらいの働きはしそうだ。

……それどころか、実際に農民に着せたら世界を滅ぼせてしまうほどの……文字通り神話の域にある装備なのだが、そんな装備を普段着として着用するような存在に寄生されてしまった王国側からすれば、それは知らぬが仏という物であった。


「うむ……。私個人としては、戦士長の意見に賛成だな。午前の会見からの印象だが、彼は侮ってはいかん。気を遣い過ぎるぐらいでちょうど良いだろう」


「なるほど……。『様子見』はどう致しますか?」


様子見。すなわち、賊をけしかけて実力を試してみるかどうか。

このような場合には、シンプルかつ有効な手だ。

しかしハネットの底の知れなさを承知している国王には、これは悪手としか思えない。

なんらかの魔法で賊の出所を探られる予感があるし、ハネットから受けた印象からだと、単純に頭脳によってその答えまで辿り着かれても不思議は無かった。


「いや、やめておけ。あの方は絶対に刺激するな。確実にこちらの意図に気付かれる」


「それほどですか」


「それほどだ。いいか、絶対に手荒な真似で実力を暴こうなどとするなよ。それぐらいなら、素直に何かの荒事が起きた時にでも手を借りてみればいいのだ」


「かしこまりました」


「陛下、では『宛がい』の方は?」


「ふむ……」


この場合の『宛がい』とは女のことだ。

婚姻関係や肉体関係を政治に利用するのは世の常である。

国王もこちらの手段ならば試してみる気があった。

男色でもない限り喜ばれるだろうし、一番縁を持たせたい自分の娘たちは自慢の美人揃いでもある。

娘たちからなら候補が2人ほどいるが、ここで国王の脳裏に閃く物があった。


「エミリア辺りが妥当だと思っている。先ほどの祝宴では、唯一あの方と会話出来ていたしな。歳が近いのが良いのかもしれん」


先程の晩餐会では全ての娘がハネットに話しかけていたが、二言以上会話が持っていた者はいなかった。

その中で唯一会話が続いていたのがエミリアである。

それにエミリアは側室との子供であり、3番目という大した使い道の無い女でもある。

大陸最強と強い縁を繋ぐには、最もコストパフォーマンスが高い。


「……だが、いきなりエミリアを向かわせるのも不安があるな。誰か様子見に適当なのを見繕ってみてくれ。今晩にでも向かわせてみよう」


「かしこまりました。そちらはメイドにでも任せてみましょう」


「頼んだぞ。ではエルフの件だが……」


こうして会議は進められていく。

それはこの先、ハネットと関わることにより、何度も開かれることになるのであった。









「よう、トリスタン」


「ああ」


陛下が就寝された後は、私も束の間の休息を与えられる。

その間の交代要員はゼストだ。他の者はともかく、この男になら自分の代わりを任せられる。


「なあ、トリスタン。例の方だが、お前はどう思った?」


ゼストの真剣な顔から出たのは、今日何度目か分からない質問。

意見を求められる立場でありながら、明確に返答することの出来ない自分が歯痒い。


「私の方では、まだどちらとも言えないな。あまりにも一般人らしく見えた。それが逆におかしくもある訳だが」


あのハネットという少年からは、驚くほど荒事の気配を感じなかった。

だが逆にあそこまで気配が穏やかだと、胡散臭くもあるのだ。

もしかしたら魔法か何かで殺気を隠しているのかもしれない。

それともう1つ、個人的には態度が気に入らないという感想もあるが、そちらは胸に秘めておこう。


「そうか。それはつまり、会合は上手く行ったということなのだな。あの方が機嫌を損ねていれば、お前もそのような感想ではなかっただろうからな」


ゼストは自嘲気味に苦笑している。

もしかしたら、王国内で彼の少年のことを最も理解しているのはこのゼストなのかもしれない。


「やはり、それほどの相手か」


「ああ。生まれてこのかた、あれほど恐ろしい存在には出会ったことが無い。しかも正真正銘ヒト族だというのだから、なお怖いな。まだドラゴンであった方が理解できるのだが」


意外な言葉に驚いてしまった。

まさかゼストの口から「怖い」などという言葉が聞ける日が来るとは。

彼は不撓不屈の戦士長だ。それこそ王国の為ならば、歴史上実際に確認されたドラゴンの中での最強種、エルダー・ドラゴンにでも容易く勝負を挑むだろう。

つまりはゼストの中では、彼の少年は『災厄の象徴』たるドラゴンより圧倒的な存在だという事。

勇者様より上というのも本気の認識であるらしい。


「お前が怖いなどと言うとはな。私も下手なことをせぬよう気を付けておこう」


「ああ、そうしろ。昼間に共に行動する機会があったが、機嫌さえ良ければ意外と付き合い易い人柄だった。……ふふ、まあおかげで初対面の時の事を弄り倒されて困ったがな」


「覚えておこう」


そういった日常的な面での何かが引き金になり、不和を招く可能性もある。

友からの忠告は有り難く胸に刻むことにした。


(この出会いが王国にとって、幸となるか不幸となるか)


最高の騎士は未来を想う。

自身が命を賭けて守るべき、王国の未来を。









階段で賢者様の姿を見つけた。

隣には戦士長様もいる。

そしてその2人の前を歩く、光り輝かんばかりの人物。

後ろ姿なので分かりませんが、身長から考えると殿方でしょうか。

もしかして、今お城を騒がしているという、あの……?

声をかけると3人ともが振り向いた。

この中では唯一の臣下である戦士長様に尋ねる。


「まあ……戦士長様、そちらの方はもしかして?」


「はい、殿下。こちらが例のハネット様です」


賢者様の新しい魔法の師になられたという、大魔法使い様。

この前窓から見た時にはお弟子さんかと思っていたけど、まさか反対とは夢にも思わなかった。

そのハネット様は、私の登場に訝しげな表情で戦士長様を見ている。

この場において微妙な立場にある戦士長様は、軽々しく私を紹介することもできず、困り顔だ。実際の雇い主と実質的な最上位者に挟まれてしまった気苦労が窺えた。


……そう、ハネット様は賢者様をも超える、王国内最上位のお方。

ここはあまり無いことではありますが、念のために私から自己紹介した方が良いかもしれません。


「申し遅れました、ハネット様。私は第三王女のエミリア・リオーネ・ノア・ライオノスです。お会い出来て光栄です」


「そうか、ハネットだ。じゃあな」


私の挨拶に、ハネット様は返事をしながら元の方向に向き直ってしまった。

振り返ることも無く、階段を下りて行く。

戦士長様も賢者様も、私に最低限の挨拶だけは済ませてその後を慌てて追った。


「お、おのれ、姫に向かってなんという態度を……!」


隣で御付きのレヴィアが怒っている。

彼女は私の事になると直情的な部分がある。

というのも、幼い頃から私の絶対の味方であるよう育てられ、忠誠心がもはや崇拝の域にあるのだ。

こういう時は、彼女の主として、それを宥めるのも私の仕事です。


「……いえ、きっと何か失礼をしてしまったんでしょう。もしかしたら、ハネット様の故郷では不作法とされている何かがあったのかもしれませんし」


「で、ですが流石に今のは……」


「いいのです。……でも、ありがとう」


「…………」


レヴィアの困ったような顔。

彼女はいつでも私の為に怒ってくれる。

あなたがいてくれるだけで、私は大丈夫ですよ。

……でも、何がハネット様の気に障ったのでしょう。

数刻後には、ハネット様との友好を祝した晩餐会があるとのことだ。

もしかしたらこの邂逅は、王国にとって凄く悪い物になってしまったかもしれない。

きっとレヴィアにはこの不安がバレてしまっているのでしょうが、私は何でもない風を装い、階段を下りた。




晩餐会が始まり、1刻ほど経った。

王位継承権の低い私の元にはあまり人が来ない。

壇上でレヴィアに付き添われて休んでいると、会場を回っていたハネット様が戻って来られた。


「ああ、昼間の」


意外なことに、ハネット様の方から話しかけて下さった。

ずっと見ていたけど、ハネット様はほとんどの方の挨拶を適当に流していらっしゃった。

彼の方から話しかけられたのは、賢者様を除いて私が初めてかもしれない。

まず最初に昼間のことを謝罪しなければ。


「あ……先ほどは、申し訳ありませんでした」


「……なんで?」


私の謝罪に、ハネット様は眉を顰められた。


「え? ……あ、あの、私が何か、お気に障る行いをしてしまったのですよね?」


「別に?」


「……え?」


怒ってらしゃらないのでしょうか。

でも、それならどうして昼間はあんなに冷たくされてしまったのでしょう。


「あれか? 俺がすぐにその場を立ち去ったからか?」


「あ、あの…………はい」


「別に怒ってた訳じゃない。ただ単に忙しかっただけだ」


私がどうのこうのではなく、単純にお忙しい時に話かけてしまったらしい。

こういうのを自意識過剰と言うのでしょうか。羞恥で思わず顔が熱くなる。


「あ、あら……。そうだったのですか。申し訳ございません。早とちりしてしまったようです」


「気にするな。お前のことはなんとも思ってない」


ドキリとした。

その言葉は私を象徴するような言葉であり、そして面と向かって言われたことは無かった言葉でもあったから。

ハネット様は一瞬眉を顰めた後、魔法で椅子を作り出して着席なされた。


「まあ座ってろ。少なくとも不快には思ってない」


嫌味で言った訳ではないみたい。

ハネット様は、思ったことを直接的に表現される方なのですね。

新鮮な感覚。

王宮内は当たり障りのない世辞と、ひたすらに媚びへつらう美辞麗句に塗れている。

一番近くにいるレヴィアでさえも、私には気を遣って話しかける。


(まるで既に夫婦のような距離感……)


変なことを考えてしまいました。


「ひ、姫……」


うっ、バレてしまった。

レヴィアが顔を赤くしている私に複雑な表情を向けている。


「ち、違うんです。違うんですよ?」


「そ、そうですか……」


なんだか口を開くほど墓穴を掘るような気がする。

私は言い訳するのをやめて、姿勢を正してただ座っていることにした。









先にお湯で温めたカップにハーブティーを注ぐ。

今私が給仕をしているのは、ハネット様と呼ばれる大魔法使い様だ。

あの土の賢者様ですら、あまりの圧倒的魔力に魅せられ、ひれ伏したという存在。

事実彼は、いとも容易く伝説の転移の魔法を使ってみせる。

私はそんな彼に専属として付けられた3人の侍女の侍女長だ。

今は部屋にお帰りになられた彼に、飲み物を出している所。


「お待たせ致しました」


「貰おう」


彼は味を確かめるかのように紅茶に2~3度口を着けた。


「ありがとう、美味しいよ」


なんとなくだが、彼は肩書きに似合わず、意外と親しみ易い人柄をしているように思う。

人当りが柔らかいのは当然のこと、どこか庶民的な匂いも感じるのだ。


「勿体ないお言葉です」


この仕事をしていれば、主人に礼を言われることはたまにある。

私はいつも通りの世辞を述べるが、その後はいつも通りとはいかなかった。


「君も飲むか?」


お茶に誘われてしまったのである。

無言でお尻を撫でられた経験なら何度かあるが、こんなに普通に口説かれたのは流石に初めてだ。

思わぬ展開に、つい顔が熱くなってしまう。

当然主人と同じ席に着くなど許されることではないのでお断りさせて貰った。

廊下に戻ると、聞き耳を立てていた他の侍女たちにからかわれてしまった。

後でおしおきなんだから。





「ちょっとニーナの所に連れて行ってくれ」


夕方。

ハネット様に頼まれ、賢者様のお部屋まで彼を案内する。

すれ違う使用人たちが、彼の服装を見て僅かに驚いている。

王宮では使用人といえども優秀な者ばかり。

態度には出さないが、長年彼らと働いて来た私には分かるのだ。

実は私も最初に会った時は驚いた。彼は基本的には規格外な方だ。


どうやらハネット様は、賢者様にドレスを渡しにやって来たらしい。

何も無い場所から物を出すという不思議な魔法で美しいドレスを作っていく。

こんな魔法があるのなら、その服装にも納得がいく。どんな服でも作りたい放題な訳だ。

ハネット様に格好を見繕われていく賢者様が、どんどん綺麗になっていく。

元から女の私でも目を奪われるような美しい方だったが、今の賢者様なら王族よりも上かもしれない。

ハネット様に似合うと褒められ、賢者様は歳相応な照れを見せていた。

この賢者様の様子を見る限り、ハネット様のお手付きになっているようには思えない。

もしそうなら、こんなに初心な態度をしていないように思える。


(下衆な勘繰りね……)


私的な思考になりかけたのを中断し、再び侍女としての物に切り替える。

私たちはただ、言いつけ通りにご主人様のお世話をするだけでいいのだ。

そこに個人の意思や感想などは存在してはならない。

……そんな物は、持っていても面倒臭いだけだ。

他の侍女たちと賢者様の御髪を整え、晩餐会に送り出した。





「ハネット様の夜のお相手をしろ。これは陛下からの命だ。断ることは許されん」


晩餐会の後、1人呼ばれたファルス様の執務室にて、その命令を受けた。

これも上流階級に仕える侍女の常。今回は私に白羽の矢が立ったらしい。

陛下よりの命でなくとも、元々私たちに断るという選択肢は無い。

高い給金にはこういった仕事の分も含まれているし、王宮の覚えが悪くなれば別の職にも就けなくなる。


「……かしこまりました」


「1刻後に向かえ。半刻ほどで服を届けさせるので、それに着替えてな。人払いはしておく」


少しの間仕事を残りの2人に任せ、身を清める。

半刻後に届けられた煽情的な下着に着替え、静まり返った廊下を歩いた。

ハネット様の扉の前に着いたが、すぐには扉を叩けない。

心臓の鼓動を抑える為、しばし心の準備をする。


「入っていいぞ」


覚悟を決め扉を叩くと、若干遅れて返事があった。

服から透ける体を隠さず、中に入る。

私の姿を見ると、彼は一瞬で顔を横に向け、真っ赤になった。

途轍もなく初心な反応。

もしかしたら、経験が無いのかもしれない。


「な!? なんだどうした!?」


「私が、夜のお相手も務めさせて頂きます」


彼はしばらく頭を掻きながら目を泳がしていたが、ふとその目を細めた。


「―――もしかして、そういう命令を受けているのか?」


そんなのは決まっている。

なのに、思わず私は否定してしまった。

彼の声に凄味があり、なぜか責められているような気がしてしまったのだ。

怯んだ心を落ち着かせ、冷静さを装う。


「ご主人様へのご奉仕も、侍女の仕事の1つですので」


そう言い直した私に、彼は一層目を細めた。

その仕草が私を好き勝手に出来るという下卑た欲望を現した物なのか、それとも義憤から来る不機嫌ゆえに出た物なのかは、彼と言う人間をほとんど知らない私には分からない。

彼は不意にドレスの魔法と同じように1枚のマントを作り出すと、顔を背けたまま私の方へ歩いてきた。

そしてそのまま私の前まで来ると、彼はその手のマントで私の体を優しく包んだ。

予想を超えた紳士な対応に心臓が跳ねる。


「俺にはある理由があり、誰も抱くつもりはない。別に君が好みじゃないとかそういうことではなく、誰が来ようが同じ結果だ。ちゃんとそのことを報告すれば、君が処分されることも無いだろう」


その言葉が本当なのか、嘘なのかは分からない。

だが彼が私の為を想ってそう言っているのは伝わって来た。


「君に恥をかかせたとしたら、それだけはすまない」


なぜか涙が込み上げてきた。

ほっとしたような不思議な感じだ。

彼に促されるまま、私室に帰る。

……とりあえず、着替えてファルス様に顛末を報告しなければ。

私の報告に難しい顔をしていたファルス様は、すぐにどこかへと赴かれた。私はもう休んでいいという事だった。


私室に帰り、下着だけになり寝台に潜り込む。

彼のことを思い出すと気持ちが昂ぶって眠れない。

なぜか今更になって残念に思えて来たのだ。


「はぁ……」


もしも彼が私を受け入れていれば、今頃は彼の腕の中だったのだろうか。

想像して顔が熱くなる。毛布から頭を出した。


…………。





翌朝。

彼が起きているかどうか、扉を少しだけ開いて確認する。

既に起きていた彼と、思い切り目が合ってしまった。

思わず部屋の中に入って後ろ手に扉を閉めてしまう。

他の2人が疑問に思っていることだろう。まるで昨日の密会よりも密会らしい。


「申し訳ありません。既にお目覚めでしたか」


「どうかしたか?」


数刻前に()()()()()をしてしまった。きっと今の私の顔は赤いことだろう。

でもよく見ると彼の顔も赤い気がする。昨日のマントのことを思い出してもっと鼓動が早くなる。


「あ、その、お目覚めかどうかの確認に……」


「そうか。気を遣ってくれてありがとう」


「い、いえ……」


彼の微笑にドキドキする。

やはり昨日のことは残念だったかもしれない。


彼に食後の紅茶を淹れていると、賢者様が訪ねて来た。

どうやらもう彼は帰ってしまうらしい。


「あの……ハネット様」


「ん?」


どうせクビになるかもしれないのなら、彼について行ってしまおうか。

そう思って声をかけたが、結局それ以上の勇気が出なかった。

彼とは住む世界があまりに違い過ぎる。


「……次お会い出来る日を、心待ちにしております」


「……ああ、元気でな」


やはり一夜の思い出ぐらい貰っておけば良かった。

彼と過ごした部屋を掃除しながらそう思う。

あのマントだけでも大事にしよう。


すでに覚悟を決めていた私だったが、次の日にはお咎め無しだと言い渡された。

ハネット様の言った通りになったようだ。

私室に帰り、なんとなくマントに顔をうずめる。

彼と王国は友好関係に落ち着いたらしい。もしかしたら、また会えることもあるかもしれない。

その日が来るのが、ちょっとだけ楽しみだった。




そろそろ書き溜めていたストックが切れるので、更新頻度が下がると思います。

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