20 晩餐会
2016.6.16
2016.9.17
挿絵を追加。
「ちょっとニーナの所に連れて行ってくれ」
5時になった。
ドレスをニーナに届ける為、メイドさんに頼んで案内して貰う。
ニーナの部屋の前にも1人のメイドが立っていた。
「今、入っても大丈夫か?」
「少々お待ちください」
ニーナのメイドが確認しに行くが、少しも待たずに扉が開く。
「お会いになられるそうです」
「ありがとう」
部屋に入ると髪を下したニーナの他に、2人のメイドもいた。
ここのメイドも3人組みのようだ。
「今大丈夫だったか?」
「はい。先に髪を梳いて貰っていただけです」
「そうか。じゃあ早速ドレスを作ろう。君たちも意見をくれ」
「? かしこまりました」
俺の部屋のあのメイドさんを含めた4人のメイドたちにも声をかける。
ドレスについての女性からの意見が聞きたい。
さて、とりあえず色はどうしようか。
ニーナをじっくり見て色の組み合わせを考える。
現実と違ってニーナの髪の色は深い青だ。
無難に同じ色のドレスにして、黄色系のアクセサリーで飾れば画的に映えるか?
俺に無言で見つめられてニーナが恥ずかしそうにしている。
作り直せるしさっさと作るか。
形は現実でのパーティードレス風にしよう。
「『アイテム作成』」
スキルで青いドレスを作る。
メイドたちが驚いていた。
「じゃあ部屋から出てるから、試しにこれを着てみてくれ。駄目だったら作り直せるから」
「は、はい。ありがとうございます」
部屋から出ようとすると、慌ててメイドの1人がドアを開けてくれた。
手動ドアなのか自動ドアなのか微妙なとこだな。
10分ほどしてお呼びがかかる。
部屋に入ると美女が立っていた。
やはりニーナは背は低いけど綺麗系だな。
髪とドレスの深い青色が全体の8割ほどを占め、残りの2割を肌色が占めている。
暗い青色が肌をより白く見せる最高の割合。
まあ俺の美的感覚だと色の映える比率はこんなもんなんだが。
「俺の目からは良いと思うんだが、女性陣の評価はどうだろう」
ニーナではなくメイドたちに聞く。
ニーナはなんとなくこういうのに詳しくなさそうな気がした。
「はい。素晴らしくお似合いになられます」
「こんなに素晴らしいドレスも見たことがありません」
上々なようだ。
照れるニーナを放置してアクセサリーを作る。
青が暗く深い色なので、こちらは目の覚めるような黄色系で攻める。
少しの肌を際立たせるための大きな青。
その青の部分だけを見た際に受ける、間延びした印象を引き締める為だ。
細い金の鎖にごく小さな宝石数個で作った控え目な腕輪とネックレス。
あのゼルムスの花売り少女から着想を得た、一際目立つ黄色い花のコサージュがトドメだ。
青いドレスと黄色いコサージュに視線を向けさせ、下品でない程度の金のネックレスで色の割合を整える。
青8に肌色2、そして最後に黄色1の割合だ。
メイドさん達に頼んでニーナに付けて貰う。
「うーん……ドレス部分に白もあった方が良いか」
真珠を糸で繋いだ装飾を作り、ドレスの腰辺りに追加する。
「こんなもんでどうだ?」
「賢者様、まるでお姫様のようですわ」
「素晴らしいの一言かと」
「女の夢ですね」
絶賛だ。
ファンタジー世界でなら俺のセンスはウケるらしい。
なんという意味の無い才能。
「あ、ありがとうございます。え、えっと、師匠は服飾に詳しいのですか?」
「別に服飾に詳しい訳じゃない。俺が考えてたのは色の組み合わせと割合だ。色を変えれば、俺の服と同じだろう?」
俺の今の服も、白8金2宝石1の割合だ。
「なるほど、言われてみればそうですね」
「俺は趣味で絵も描くからな。そっちの知識の応用だ」
「絵を描かれるのですか」
「別に趣味は畑作りだけじゃないさ」
まあ1番の趣味ではあるが。
「それじゃあ彼女の髪は君達に任せる。髪飾りをいくつか置いて行くから、良さそうなのを使ってくれ」
女性の髪型には詳しくない。
メイドさん達に丸投げして部屋を出た。
◆
晩餐会の会場は、広ければ良いという物ではない。
社交場は会話の場。あまり広すぎると、その機会が作りにくい為である。
広過ぎず狭過ぎずという、ちょうど良い規模が求められるのだ。
王宮の中で、上から4つ目ほどの大きさの部屋。
ここが今夜の晩餐会の会場だ。
15の刻(午後6時)に開場され、既に参加者たちは集まっている。
ハネットとの会見が失敗に終わる可能性を考慮し、参加者たちは何を祝した晩餐会なのかは伝えられていない。
それでも王家からの正式な招待だ。
全ての上位貴族家は勿論のこと、その下の下級貴族家に至るまで、総勢数百名という人数が参加している。
晩餐会の規模としては、最大級の物であった。
欲望渦巻く会場内は、いくつかの集団に分かれている。
それぞれの貴族家が、各派閥に分かれているのだ。
男性陣は派閥内での情報交換に励み、それと対照的に女性陣は束の間のお喋りに気を休めている。
晩餐会が正式に始まれば、女性陣にとってのこの場は、他の貴族家とのお見合い場と化す。
この現地の社会では、未だに女性は嫁ぐことで他家との繋がりを強くさせる為の駒でしかないのだ。
故に少女たちにとって、この晩餐会が始まるまでの短い時間だけが、心を休ませられる時間であった。
「やはり今日のは、例の御仁の件かしら?」
少女の1人が、この場にいる誰もが気にしている話題を口に出した。
聞き耳を立てれば、他の派閥でも同じ話題に花が咲いている事だろう。
「賢者様の新たな師だという殿方ですわね?」
「そうでしょうね。わたくし先程、彼の御仁にお会いしましたもの」
「まあ……!」
その言葉が伝播し、俄に会場が湧く。
昼間ハネットに会ったのはこの少女だけではない。各派閥で同じような話が繰り返される。
賢者の師の噂。
それは今、この王都の一部を最も賑わせている物だ。
とにかく目立つ人物らしく、数々の目撃情報があった。
耳の早い貴族たちは、数日前から当然のようにその情報を仕入れている。
最初にその噂が流れたのが4日前。
時期的には、彼に関係した晩餐会である可能性が最も高い。
あの千年に1人と言われた土の賢者が、ひれ伏した存在。
有力者ならば、大陸の全ての人間が繋がりを求めるだろう。
彼女たちも親からの言いつけにより、いつもより気合いの入った格好をして来ているのだ。
あわよくば、その御眼鏡に適うことを。
立場的にはただの魔法使いとは言っても、その実力こそが本物ならば、その子供もまた本物の実力を持ち生まれる可能性が高い。
強力な魔法使いは、1人で数十の兵にも匹敵する。
ましてや土の賢者は一騎当千と言われた存在だ。
それを更に上回る魔法使いの子となれば、どれほどの価値があるかは計り知れない。
この為に、成り上がりを望む下っ端貴族家が無理やり参加しているぐらいだ。
少女たちが興味津々で話を聞き出している中、儀典官の声が会場に響き渡った。
ついに晩餐会が始まるのだ。
「皆様、お待たせいたしました! これより国王陛下主催、大魔法使いハネット様と王国との友好記念晩餐会を開始致します!」
その挨拶で、予想は確信に変わる。
会場では当主たちが娘に発破をかける姿が多く見られた。
儀典官が参加する王家の人間の名を読み上げる。
壇上に現れるのは、王位継承権の低い順だ。一番最後が国王となる。
今回はこの王家の人間の登場が、なかなか終わることが無い。
驚くことに、王家の者は半分近くが参加するようだ。
いかに国王が今回の晩餐会を重要視しているかが分かる。
下手をすれば、魔族の侵攻による帝国との休戦協定の時より力が入っているだろう。
「キール・クロロ・ノア・ライオノス国王陛下!」
広い壇上には、既にずらりと王家の面々が並んでいる。
最後の国王の登場に、会場内の参加者たちは静かに頭を垂れた。
「最後の方々の紹介は、私の方からさせて貰おう」
儀典官ではなく、最高権力者たる国王自らが1歩前に出た。
異例な対応だ。
これから出てくる人間が、それほどまでに媚を売りたい相手であるということ。
貴族たちの目にある欲望の輝きが、一層光を増す。
「あの土の賢者、ニーナ・クラリカ殿と……その師である、大陸最強の魔法使い、ハネット殿だ! さあ、お2人共!」
全ての視線が、国王の視線の先である幕の奥に向けられる。
「ふわぁ……」
その幕から最初に出て来た美女の前に、女性陣から無意識の内に溜め息が漏れる。
深い海の底を思わせる、ミステリアスな青いドレス。
貴族である自分達ですら見た事も無い程の最上の仕立てだ。
そしてそれを上品に包む、極小のパーツによって作られた金細工のアクセサリー。
一体どこの名工が作り上げた逸品たちなのであろうか。
胸元に付けられた黄色い花も、命の息吹きを感じさせるように輝かしい。
その服装だけでも、この会場内で間違いなく一番の物だろう。
だが最も目を引くのは、そのドレスから覗く真っ白な肌である。
なんというきめ細かさか。
まるでその後ろに並ぶ王族たちの……いや、もしかしたらそれすら上回っているかもしれない。
腰まで伸ばされたドレスと同じ色の髪も、まるで作り物のような美しさだ。
一瞬にして、全員の視線がその美女に釘付けになった。
この瞬間だけ、全ての者たちの頭の中から、本来の目的が忘れ去られていた。
だからこそ、その次に出て来た存在への衝撃も大きい。
光。
まさに光の化身だ。
美女の後に続いて出て来た、それすら忘れさせる少年を前に、貴族達は息すら止まる思いだった。
生まれながらにして最高の物に囲まれて生きてきたからこその衝撃。
彼らにはその少年の身に付けた物の価値が、本当の意味で正しく理解できたのだ。
すなわちそれは―――理解できないという、理解。
目の前の存在は、人の手では未来永劫届かぬ場所に在る者だと。
美女が出て来た時のざわめきが、一瞬にして静まり返る。
「ハネット殿。貴殿とこうしてこの場に立てることを、心から嬉しく思うぞ」
「はいはい」
空気が凍る。
死罪を免れぬ不敬な態度だ。
だが凍りつく周囲とは違い、国王は微笑みを絶やさない。
「はっは、これは手厳しい。さあ、儀典官。ハネット殿は無駄の無い進行を望んでいる。乾杯の説明を始めてくれ」
「はッ! 皆様、今日はハネット様からのご好意により、その強大な魔法の力によって生み出された美酒を振る舞って頂けるそうです! 各々グラスをお持ち下さい!」
儀典官の説明と共に、メイドたちが空のグラスを配り始める。
魔法で生み出した酒。
参加者たちの顔に困惑が浮かぶ。
全員にグラスが渡るまでしばしの時間をかけ、誰でもなくハネット本人が口を開いた。
「全員グラスは持ったな? ではグラスを胸の高さまで掲げろ。一応言っておくが、まだ飲むなよ?」
意外なジョークに、場の緊張が若干だが緩む。
透明な酒だと勘違いするなという事が言いたいようだ。
ハネットがその右手を、ゆっくりと会場に差し向けた。
「驚いてグラスを取り落さないように」
彼がそう言った直後。
参加者たち全員のグラスに、水色の液体が満たされた。
驚きに場内が沸く。
「それじゃあ後は任せる」
そう言ってハネットは再び元居た位置に戻った。
「皆の者、落ち着くがいい。此度の晩餐会は、この素晴らしい大魔法使いとの友好を祝した物。さあグラスを掲げ直せ」
場を引き継いだ国王の言葉に、とりあえずの冷静さを取り戻した参加者たちがグラスを掲げる。
無論国王もハネットの持つ謎の能力に動揺してはいたが、そこは王として鍛え抜かれた精神力が完全に包み隠してみせた。
手の平から金貨の山を生み出すという光景を先に見ていた事も、プラスに働いたのかもしれない。
「大魔法使い殿と、王国の輝かしい未来に!!」
『大魔法使い様と、王国の輝かしい未来に!!』
国王の乾杯の言葉を復唱し、グラスが一層高く掲げられた。
これにて晩餐会は正式に開始された。
が、その手の酒を飲む者は1人もいない。
魔法で酒を生むなど聞いたことも無いし、水色の飲み物というのも初めてだ。
皆毒を恐れて飲むことが出来ずにいる。
「すまないな、ハネット殿。私も一国を預かる身。一応毒を調べさせて貰っても構わないかな?」
「当然だ。協力者は保身に長けている程望ましい」
もっともな意見だ。
2人のやり取りに、参加者たちのハネットへの印象は若干上がる。
「そういえば、俺の魔法で部屋をもう少し明るくしても構わないか?」
「勿論だとも。貴殿の強大なる魔法を直接見れるのは光栄であるからな」
会場の照明は、光の魔法を込めた魔石によって保たれている。
魔法を込めた魔石は高級品だ。それが複数個使われているこの会場は既に、他に松明か蝋燭しか光源がない現地では破格の明るさと言える。
ここからどう変わるのかと、全員の視線がハネットに集まった。
「おお……!?」
彼が手を天井に向けると、魔石の間を縫うようにして、巨大な水晶の装飾が生まれた。
彼らは存在を知らないが、それはシャンデリアである。
ハネットの宮殿と集落の家に備え付けられた物と、同じ物だ。
部屋の明るさが数段上がり、夜の屋内だというのに、晴天の真昼ような明るさとなった。
「この照明は晩餐会の終わりと共に消滅する。天上に穴が残ったりもしないから安心してくれ」
「あ、ああ。助かるよ」
流石に国王は「天井にそのまま残して行ってくれ」とは言えなかった。見栄が邪魔したのだ。
ハネットと国王が話している間に、教会から派遣された神官たちが到着する。
彼らは部屋のシャンデリアとその明るさに驚いていたようだが、聖職者として精神を鍛えられているため、すぐに立ち直り仕事に取り掛かった。
「『鑑定の魔法』」
神官たちが会場中のグラスに鑑定の魔法をかけていく。
毒を調べているのだ。
グラスの1つからすら毒が検出されないのを確認し、国王が口を開く。
「さあ、ハネット殿からの頂き物を賜ろう!」
そう言って誰より真っ先にグラスに口を着けてみせる。
これもハネットへの媚売りだ。
「おお……なんという美味さだ……!」
目を見開き再び口を着ける国王の姿に好奇心を刺激され、他の者たちも次々口を着け始めた。
「これは……なんと……!」
至る所から感動の声が聞こえてくる。
ハネットが出したのは、料理スキルで作ることが出来るカクテルの中で、上から3番目ぐらいの物だ。
ハネット自身は滅多に酒を飲まないため、「高い奴ならなんでもいいや」と選んだ物である。
本人は神官たちがやって来るとっくの前に飲み干しているが、やはり酒の良し悪しという物は分からない。
ついでに言えば、カクテルという物を飲んだのも初めてであった。
「ニーナ、美味いか?」
「はい。師匠の出す物で外れはありません」
まあニーナが言うなら大丈夫か。
ハネットは人知れずそう思った。
◆
貴族から挨拶されまくって疲れたので、壇上に戻って来た。
ニーナは人当りも良い為、未だに挨拶されているようだ。
むしろ俺が一時離脱した事によって増えているかもしれない。
帰って来たら、1人壇上に残っていた昼間の第三王女とかいうのと目が合った。
「ああ、昼間の」
「あ……先ほどは、申し訳ありませんでした」
椅子から立ち上がった王女が頭を下げてきた。
隣に立つ女騎士は対照的に俺を睨む。
なんでだ?
「なんで?」
「え? ……あ、あの、私が何か、お気に障る行いをしてしまったのですよね?」
「別に?」
「……え?」
第三王女の顔は困惑一杯だ。
「あれか? 俺がすぐにその場を立ち去ったからか?」
「あ、あの…………はい」
「別に怒ってた訳じゃない。ただ単に忙しかっただけだ」
厨房見学で。
「あ、あら……。そうだったのですか。申し訳ございません。早とちりしてしまったようです」
「気にするな。お前のことはなんとも思ってない」
女騎士の目つきが更に厳しくなる。
まあ今のはちょっと言い方が悪かったですね。
「まあ座ってろ。少なくとも不快には思ってない」
「は、はい」
俺は適当に椅子を作って座った。
ニーナの対応でも眺めて、時間を潰そう。
にしてもちょっと良いドレスを作り過ぎたな。
流石に俺以外が王族より良い格好してるのは不味かったかもしれない。
晩餐会が終わった後、風呂に入るのを勧められたが断った。
(「俺は魔法のおかげで常に清潔なので、風呂に入る必要が無い」)
断る時にした言い訳だ。
『汚染無効』のスキルを持っているのであながち嘘ではない。
俺のアバターは塗れたり汚れたりの一切が無効になるのだ。
今俺は部屋に帰ってきている。時刻は夜の11時。
さっき疲れた様子のニーナが、寝る前の挨拶に来た。律儀なことだ。
録画データから晩餐会の参加者たちの様子を分析していると、ドアがノックされた。
しばらく待っているが、メイドさんの取り次ぎの声がしてこない。
マップで見たら、扉の前に1つの緑点が表示されているだけで、メイドさん達は全員いないようだった。
こんな時間だし寝たのかもしれない。
現地では大抵9時までにはみんな寝ている。
「入っていいぞ」
中立オブジェクトだし構わない。
椅子に座ったままドアに視線を移すと、開いたドアからいつものメイドさんが入って来た。
―――ただし、その格好はスケスケだった。
慌てて顔を横に向ける。
「な!? なんだどうした!?」
「私が、夜のお相手も務めさせて頂きます」
なんやこの展開!!
一瞬しか見てないが、あの格好はマジでそういうことか?
そういうのもメイドの仕事の1つなんだろうか?
この世界の金持ち羨まし過ぎじゃないだろうか?
混乱する頭で色々考えていると、ふと漫画で得た知識を思い出した。
「―――もしかして、そういう命令を受けているのか?」
「いえ、そんなことは……」
誤魔化したいようだが、生憎と俺にはそういうのが分かる。
肉体関係を持たせて女で王国に縛るつもりか、その子供自体が目的か。
まあそういった所だろう。
「ご主人様へのご奉仕も、侍女の仕事の1つですので」
まあ本当にそうなのかもしれないが、悪いが俺はゲームで童貞捨てた気になるつもりは無い。
俺はマントを作り、彼女を見ないように歩み寄った。
なるべく優しく体を包んでやる。
「俺にはある理由があり、誰も抱くつもりはない。別に君が好みじゃないとかそういうことではなく、誰が来ようが同じ結果だ。ちゃんとそのことを報告すれば、君が処分されることも無いだろう」
メイドさんは羞恥で赤く染められた顔で俺を見上げた。
彼女だって了承の上でなのだろう。
だが本心からそれを良しとしているかは分からない。
単に雇い主に逆らうリスクを恐れただけの可能性もある。
まあ俺には女性が自分の体の価値をどれぐらいに思っているのかなんて分からないが。
意外と平気で体ぐらい許すのかもしれん。
本当は、ただ俺がそういうのが嫌いなだけだ。
「君に恥をかかせたとしたら、それだけはすまない」
「い、いえ……」
彼女の目に涙が溜まっていく。
やはり悪いことをした。
彼女をドアから送り返し、フル装備のままベッドに寝転ぶ。装飾品が食い込んで肩がいてえ。
暗い気分のままログアウトした。