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19 王宮

2016.6.14

「大魔法使いハネット様と、賢者クラリカ様ご両名……お迎えに参りました」


4日目の午前。

宿屋に王様からの使者が来た。

つーか片方はあの時の殺気戦士じゃねーか。

今名乗りを上げたのは別の奴だったが。


「おう、どっかで見た顔だな」


「ハネット殿、その節は本当に申し訳なかった」


戦士が真っ先に俺に頭を下げる。

俺達の様子に、使者の老人は困惑しているようだ。


「こいつがこの前、俺に無礼を働いてな。まあもう済んだ話だ。頭を上げろ」


「はい。ありがとうございます」


「そ、そうだったのですか、ゼスト殿」


「ええ、実は。……ハネット殿。王宮までの道中、護衛として一緒に馬車に乗らせて頂くが、よろしいか?」


「構わん」


「かたじけない。では、使者殿」


4人で宿の表に停めてあった高級そうな馬車に乗り込む。

大人数用なのか、中は意外と広々としている。


「ハネット殿、改めて名乗らせて頂こう。私は王国戦士団の戦士長を務める、ゼストという」


「戦士長?」


「師匠、王国の最強の戦士です」


「へえ」


31レベで?

まあ42レベのニーナが天才って言われてるからな。

そんなもんなのか。


「クラリカ様、王国最強など恐れ多いです。トリスタンの方が私より上でしょうし」


「それは?」


「近衛騎士の最強の騎士です」


戦士と騎士は違う分類らしい。

戦士職全体として見れば、その騎士の方が上ということか。


「そういえば宮廷魔法使いみたいなのはいるのか?」


「ええ、いますよ」


「どんなもんだ?」


「私より下ですから、師匠が目をかけるほどのことはありません」


「そうか」


俺達の会話に老人は苦笑、戦士長は無表情だ。


「そうだ、忘れてた。そういえば一昨日、『勇者』とかいう名前を聞いたぞ。誰だ?」


「一応世界最強の剣士です。2年ほど前に聖剣に選ばれました」


勇者とか呼ばれてるだけあって強いらしい。


「具体的にはどれぐらい強い?」


「私より上です」


おお、凄い?んじゃないか?


「ふふ、私より強いと言っても分かりませんよね、師匠には」


「恐らくだが、ハネット殿には及ばないだろう。私もハネット殿と出会うまでは、彼女が世界最強の存在だと思っていたが」


は?

『彼女』?


「おいまて、女なのか?」


「はい。私より1歳上の女性です」


はぁ。

いや、まあそういうこともあるか。

プレイヤーは女性アバターでも男性アバターと強さは変わらない。

現地でも男と女でステータスに違いは無いのかもしれんな。

つーか魔法職最強も戦士職最強も女なのかよ。

男もうちょい頑張れや。目の前の奴とか。


「聖剣ってのは?」


「王国に保管されていた伝説の剣です。世界の危機に反応し、自らの使い手を選定するという魔法の剣らしいです」


「今は世界の危機なのか?」


「『魔族』に脅かされていますからね」


「魔族?」


「あれ……師匠は魔族は分かりませんか?」


魔物(モンスター)なら分かるんだが」


「魔族は魔物の上位種のような物です。3年ほど前に突如として世界に現れ、種族に関わらず生物を根絶やしにしています」


「へえ、本当に危機じゃないか」


「……失礼だが、ハネット殿はどこのご出身であられるのだ?」


「それは言えないっつーより、説明が異常なまでに難しくてな。頭の良いニーナにすら説明できないんで、聞かないでくれ」


「……そうか。失礼した」


ふむ、この戦士長とかいうのは中々見どころがあるな。

気になる事があったらちゃんと質問するし、拒絶すればしつこくもない。

俺が一番好感を持つタイプだ。ニーナと同じだな。


「まあ簡単に言えるのはこの大陸の出身じゃないってことだけだな。あと、ごく普通のヒト族だ」


「なに……? 人間であられたのか?」


「おい、失礼過ぎだと自分で思わんか? ん?」


「あ、も、申し訳ない。てっきり、エンシェント・ドラゴンか何かかと……」


「あー、それニーナも言ってたなぁ」


「ふふ、懐かしいですね。今はもう人間だと疑っていませんよ」


「なんで?」


「師匠はドラゴンと言うには人間臭過ぎますので」


「それどう受け止めればいいの?」


雑談してるとすぐに王宮に着いた。

まあそれほど距離がある訳じゃない。


「では私が先導致しますので―――」


「待った。一応着飾らせて貰おう」


俺は装備ウィンドウから、これまで8割方外していたアイテムを全部付け直した

普段の格好の上に同じく白いマントを羽織り、その上からありったけの装飾品をジャラジャラ付ける。

杖は一番弱いけど目立つ奴にしとくか。


「『F1』」


ショートカットの番号を口にすると、俺の右手の中に大きなスタッフが出現した。

最弱とは言っても、一応『最初の世界』のユグドラシル内では最強の杖。

見た目は世界樹から作られた捻れた本体に、7つの魔法鉱石が埋め込まれた、非常に派手な物だ。

どっちかと言うと杖というより極太の弓みたいなシルエット。


杖以外はいつものデフォルト装備。

俺なりの正装だ。

まあ当然のように見た目での威圧の意味もある。


俺のフル装備に、他の3人が息を飲む。


「し、師匠。その格好で出るのですか?」


「なんか駄目か? 俺の普段の格好なんだが」


「い、いえ。駄目な事は何も無いのですが……あまりにも凄い装備の数々なので……。その杖が、師匠の杖なのですか?」


「一番弱い奴だけどな。問題無いならこの格好で行くぞ? そっちも構わないか?」


目を丸くして口半開きの使者に尋ねる。

流石に貴族社会の常識なんか持ってないからな。なんか思いもよらない不都合があったりするかもしれん。


「ぁ…………はっ、はい。大丈夫です」


「なら良かった。では先導を頼もう」


「は、はい」


使者、ニーナ、俺、戦士長の並びで馬車から降りる。


「今回は背中を狙うなよ?」


「ハネット殿、勘弁してくれ。もう懲りた」


ちょっとからかってやった。

しばらくこのネタで遊ぼう。


城内を歩くと、全ての人間の視線が俺に集まる。

さあ見るがいい。

白い服に金の装飾、それを宝石のアクセサリーが覆うという成金全開デザインを。

これが対戦64人の中で一番目立ってる時もある俺の装備だ。

ちなみに装備の効果も、ほとんど全部がMP最大値上昇。

俺が自分用に作った専用装備だ。


「しばらくこちらでお待ち下さい」


またこの前の部屋に通された。

内装が同じなだけで違う部屋の可能性もあるが、パッと見同じ部屋にしか思えん。

今回はメイドさんはいないようだ。


「し、師匠。あの……触ってみても、いいですか?」


「ああ」


服と杖を触る権利をやる。

ちょっとエロく聞こえたのは俺の方がおかしいんだろうな。


「本当に凄いですね。次元が違い過ぎてよく分かりません。この杖でも、一番弱い物なんですか?」


「ああ、俺が持ってる12本の中で最弱の杖だ」


でもその中ではこれだけがスタッフなので、サイズが一番大きく威圧感がある。

今回の「目で負けさせる」という用途には好都合だろう。

最強の12番目の杖とか、見た目50cmもないからな。


「この杖だけで、明らかに聖剣より凄そうに見えるのですが……」


おい、見る前からテンション下がるようなこと言うなよ。

この杖なんて最強とは言っても所詮惑星レベルで、200レベから宇宙に出れるようになったら店でゴロゴロ売ってるんだぞ。


(うーん、でもまあ惑星最強より弱いぐらいなら、存在が知られてる伝説の武器としては妥当な所……か?)


100レベをNPC装備のMAXとして、80レベぐらいの武器なのだろうか。


ほんの少し雑談していると、前回と違ってすぐに扉がノックされた。

向こうも準備万端なようだ。


「さて、行くか」


「はい」


これより王様と取引タイムだ。

今回は一応、こっちも無理を言うだけの用意をしてきてやった。

それでも首を横に振るなら、その首には落ちて貰う。









玉座の間の扉が、ゆっくりと開かれていく……。

この扉の向こうに、あのニーナ・クラリカをも上回る……恐らくは大陸最強であろう魔法使いがいる。

玉座の間に集まった全員の目が扉に集中した。

―――覚悟はできている。だが緊張は拭えない。

先日直接彼と会ったというギルスターと戦士長の報告により、この王国の方針は譲歩で決まった。

軍を単騎で滅ぼせるあの勇者より強いなどと言われて、逆らう気が起きる訳がない。

こちらとしてはもはや、彼の突きつける条件とやらが、少しでも優しい物であるのを願うだけだ。

4人がかりで開かれた扉が中腹まで開いた時、色々と考えていた思考が止まった。



(な……なんという……っ)



それは、究極の美。

扉の間から現れたのは、神話に在る神の姿だ。

白と金。

そしてそれを彩る様々な宝石。

素材、製法、意匠、装飾。

その全てが別次元の領域。

王族として世界有数の美を見てきたが、この究極の美を前にすれば、それらが霞んでしまうようだ。


まるで光の存在。

光輝そのもの。


そしてそれが手にする杖。

こちらは禍々しくも神々しい……まるで究極の美と対のように、究極の力を感じさせる物だ。

荒れ狂った大樹を思わせる木製の本体に、それぞれ別々の色合いをした巨大な魔石が複数埋め込まれている。

これに比べれば、後ろを歩くニーナ・クラリカの杖など、玩具にしか見えぬほどだ。

下手すれば聖剣より上の力を秘めていてもおかしくはないかもしれない。

私だけでなく、その場に居合わせた全ての者が、彼から視線を外すことが出来ないでいる。


(なんという、存在感か……!)


戦士長の言っていた意味を実感した。

この男は、正真正銘、神域に在る者なのだ。


案内を任せていた使者が、役目を終えて脇に退ける。

その後ろにいた大魔法使いと、こうしてついに目が合った。


瞬間、背筋を冷や汗が伝う。


―――品定め。

まるで自分が棚に並ぶ商品にでもなったかのような無遠慮な視線。

明らかにこちらを値踏みしている目だ。

いや、駄目だ。いつまでも怯んではいられない。

此度の会見は友好を結ぶための物。

こちらからすり寄る為に設けた場なのだ。

私はその態度を最大限に示す為―――例外ではあるが―――こちらから名乗ることにした。


「よくぞ来て下さった。私はこのライゼルファルムの現国王、キール・クロロ・ノア・ライオノスである。貴殿のような強大な魔法使いとの出会いを、神に感謝しよう」


「そうか。俺はハネットだ。よろしく」


こんな適当な挨拶をされたのは、生まれて初めてだ。

周囲がざわつくのを感じる。

私は手を軽く挙げ、場を静まらせる。

頼むからこの男の機嫌を損ねないでくれ。


「悪いんだが、単刀直入に条件の話に入っていいか?」


会話が面倒臭いとでも言わんばかりだ。

明らかに下位者と話す時の態度。

エンシェント・ドラゴンという説も間違っていないかもしれない。


「わ、分かった。そちらの要件を聞こうとも」


彼の目が細められる。

どうやら対応を試されていたらしい。

恐ろしい。

この男はわざと適当な素振りを見して、揺さぶりをかけてきているのだ。

ギルスターの言っていた、「性格が悪い」「侮るな」という2つの言葉が脳裏を過ぎる。


「まず1つ。今回の件をお前達王国側が快く飲むのなら、俺の方は今後、望み通りに友好的に接してやっても良いと思っている」


彼が指を1本立ててそう言った。

友好を「結ぶ」ではなく、あくまで「接する」という表現。

それに貸しにするとは明言しない辺りもいやらしい。

頷いた私を見て、彼はその手を下した。


「じゃあ本題だ。1年前にとあるエルフの里が襲われ、そこから7人のエルフが奴隷として捕まった。この件は知っているか?」


1年前。エルフ。

これだけでも大きな心当たりがある。

去年王国内で、数年ぶりにエルフ狩りが行われたという報告があった筈だ。


「恐らくだが、心当たりはある。この王国内で、去年1度だけエルフ狩りがあった筈だ」


「そうか。俺は諸事情あって、その時捕まった7人のエルフを探しているんだ。そのエルフたちを探すのに協力しろ。俺の出す条件はそれだけだ」


意外なことに、無理難題という訳ではなかった。

エルフならば、貴族か大商人でもない限り買うこともできない筈。

探す手間自体はそれほどの物ではない。

ただし王国中から探せば、相当な費用がかかるが。


「1人は既に俺が確保している。残りの6人を出来る限り速やかに集め、俺に引き渡して欲しい。一応費用は、こちらで負担してやろう」


思ったよりもまともな条件だ。

……いや、今私は、心を掴まれかけたのではないか?

最初の悪い印象と、そこから続く常識的な提案。

その落差により、印象が自然と修正された気がする。

もしや、全てが計算なのか?


「なるほど、よく分かった。しかしエルフを買い戻すとなると、相当な金額になる筈だが……」


「金貨2千枚でどうだ?」


彼の言葉に、場がしんと静まり返る。


「に……2千……?」


「俺が買ったエルフは金貨百枚だった。2千枚あれば、6人の値段と手間賃を含めても、十分な金額だと思うんだが?」


ああ、十分だ。むしろ多すぎる。

金貨二千枚など、国家予算の5分の1にも届こうかという金額だ。


「貴殿は……その金貨2千枚を、用意できると言うのか?」


彼は私の言葉を聞いて、無言で手の平を床に向ける。

するとその瞬間、彼のその手の平から、大量の金貨が溢れ出した。


「なっ……!?」


臣下たちの騒然とする声すらかき消すほどの金属音。

ジャラジャラと床に積まれていく金貨から、何枚かが床を転がり散らばって行く。

その内1枚が私の足元にも転がってきた。

少なくとも私の目からは本物の金貨に見える。


「一応これで金貨2千枚だ。誰か鑑定できる者を連れて来い」


彼は金貨の山の前でそう言うと、何も無い場所から椅子を2脚出して見せた。


「ニーナも座ってろ。時間がかかるぞ」


「い、いえ……流石に王の前で座る訳には……」


「そうか? まあいいけど」


もう1脚用意されていた椅子が消える。

鑑定が終わるまでそのまま待つということだろう。


「あ……急ぎ金貨を持ち出し、鑑定させて来い!」


我を取り戻した宰相が、部下たちに指示を飛ばす。


「いや、待て!」


慌ててその指示を止めた。

これは好機だ。


「私は貴殿を信用するとも。費用は確かに受け取った。今はそれより、エルフの受け渡しの話を進めようではないか」


「……へえ」


彼が目を細めていやらしく微笑む。

どうやら私の対応は評価に値したようだ。

安堵の直後、恐怖が背筋を貫く。

もしも選択を間違っていたら、どうなっていたのだろうか。


「よし。エルフの件だが、とにかく急いで欲しいんだ。なるべく早く6人全員を集めてくれ。既に死んでいた場合は、仕方ないので遺体でもいい。どうだ、出来るか?」


「ああ、出来るとも。一刻も早く引き渡すと約束しよう」


「それは良かった。ではこのスクロールを渡しておく」


彼は椅子から立ち上がると、再び空中から1本のスクロールを取り出してみせた。

部下の1人がそれを受け取り、宰相のもとに届ける。


「失礼、このスクロールは?」


「『コール』という魔法を込めたスクロールだ。害は無いので実演してやろう。―――範囲拡大化Ⅰ。『コール』」


彼の背中に白い魔法陣が浮かび上がる。

宮廷魔法使いたちが攻撃を予想して身構え、近衛騎士のトリスタンも私をかばうように前に出た。


「こんな感じで、相手の頭の中に直接話かけることができるという魔法だ」

『こんな感じで、相手の頭の中に直接話かけることができるという魔法だ』


「!?」


目の前の彼の声とは別に、耳に直接語りかけるようにして二重に言葉が聞こえてきた。

他の者たちも驚いている。この場の全員にかけられた魔法のようだ。


「そのスクロールを開くとこの魔法が発動する。俺のことを思い浮かべながら開けば、遠く離れた俺との会話が可能になる訳だ」


なんという恐ろしい魔法だろうか。

距離に関係無く会話が出来る魔法。

これは、強力過ぎる。

生活が変わり、戦争が変わる。

これまでの常識を崩壊させうる魔法だ。


「6人揃ったら、その日の内に俺に連絡しろ。身支度なんかは一切させなくていい。とにかく6人揃った瞬間に俺に引き渡せ」


「わ、分かった。一刻も早く貴殿に引き渡すと約束しよう」


「よし、俺からは以上だ。それじゃあ今この瞬間から、あんたと俺は協力関係だ。俺は何かあったら容赦なくこの国を頼る。その代わり、ある程度ならそちらの要請にも応えてやるつもりがある」


彼はそう言うと、右手を差し出しこちらに近寄ってきた。

トリスタンが警戒するように1歩前に出る。


「やめろ、トリスタン」


「……はッ」


一瞬逡巡したようだが、大人しく脇に退けた。

そのやり取りに、彼はその存在に初めて気付いたかのようにトリスタンを見た。


「……そうか、お前が騎士最強とかいう奴か」


「……恐れ多い言葉です」


「ふーん」


もう興味ない、と言わんばかりだ。

彼はそのまま私の前まで来ると、再びその右手を差し出す。


「握手の文化はこの国にもあるか?」


「ああ。これは失礼した」


私も玉座から立ち上がり、その手を握り返した。

まるで私と同じく王族のような肌の繊細さだ。


「俺を怒らせない限りは好くしてやる」


「……くれぐれも気を付けよう」


かくしてこの日、王国は最強の魔法使いと協力関係に落ち着く事ができた。

それも他のどの国よりも先に。

これは大きな意味を持つ。


(だが、運が良かったとしか思えない……)


彼は勇者やニーナ・クラリカのように一筋縄では行かない。

まるで腹芸に長けた貴族と会話しているかのようだった。

幸いなのは、彼が自分の望みを率直かつ具体的に示してくれることか。

それに応え続ければ悪くはしないと、今日の様子の全てが物語っていた。

面倒だが、役に立つ限りは利用しようといった所か。

……恐らくは、私がこう考えているのも、全てが計算の内なのだろう。

何にせよ、下手に出たのは正解だった。

まずはエルフの件を迅速に解決して、この関係の利を示すとしよう。

幸い資金は潤沢だ。取れる手段はいくらでもある。

一月もあればどうにかできよう。









「ところでハネット殿。この『友好』を祝し、今晩は晩餐会でも開こうと思うのだが、出席しないかね?」


握手を解くと、国王がそんなことを言い出した。

友好記念パーティーか。

まあこの前と違って、今は正式な協力関係だ。

城の中も見学したいし構わないか。

ただし友好関係じゃなく、あくまでビジネスライクな協力関係だというのは譲らないぞ。


「ああ、いいぞ。ついでに明日まで泊めてくれても構わんが」


「おお、勿論だとも! 今すぐ部屋を用意させるから、ゆっくりしていってくれ」


「そうしよう。当然ニーナの分も頼むぞ?」


「分かっているとも。両名共、国賓として招かせて貰おう」


「それは楽しみだ」


ゴマすりと周囲へのアピールに必死だな。

そういう大人の世界は、自分では理解がある方だと思っている。

好きにやらせてやるさ。

この場合、やるとは言わないのがミソ。



執事の1人に部屋まで案内された。

あの応接室よりも更に豪華だ。

相変わらず俺の宮殿ほどではないが。


「ハネット様。食事はどうなされますか?」


「いや、俺とニーナは出かける予定がある。夜の宴までは必要無い」


「かしこまりました。部屋の外に侍女を立たせておきますので、何なりとお申し付け下さい」


集落に昼飯を作りに行ってやらねば。

面倒事はさっさと片付けるか。

俺は部屋の中からメイドさんを呼んだ。

すぐに部屋の扉が開く。

こういうのちょっと憧れるよな。


「お呼びでしょうか?」


「ちょっとニーナを連れて来てくれ」


「かしこまりました。少々お待ちください」


言いつけてから5分もしない内にニーナが来た。


「俺とニーナは1刻ほど外出する」


「かしこまりました。門までお見送りします」


「いや、転移で行くからいい」


「え?」


テレポートで集落まで帰る。

俺の格好に住民たちが驚いていた。


「は、ハネット様、その格好どうしたの!?」


今回は子供達も普通に引いている。


「これが俺の本来の普段着だ。こっちに来てから目立つから外してたけどな。まあ気にすんな」


外したり付け直したりが面倒臭いので、明日まではこの格好でいる予定だ。

杖だけは邪魔なので消している。



住民たちに食事を取らせて部屋の前に帰ってくる。


「きゃっ」


メイドさんたちがびっくりしていた。


「驚かしてすまないな」


「あっ、め、滅相もございません。お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません」


「構わん。さて、ニーナ。午後は王宮探検といこうか」


「勝手に歩き回っていいのでしょうか?」


「俺が言ってるからいいのさ」


「それもそうですね」


ちょっと前まで真面目な委員長タイプだったのに、俺への毒され方が半端じゃないな。


「まあ一応見張りぐらい付けさせてやるか。君、戦士長とかいうのに会いたい。案内できるか?」


「か、かしこまりました。恐らく中庭にいらっしゃると思います」


中庭? 庭師でもしてんのか?

なんや気が合いそうやんけ。


メイドさんに案内された中庭は、庭っつーより運動場みたいな広さだった。

その隅に100人ぐらいの男たちが集まっている。

よく見たら戦士長の姿もあった。

メイドさんを部屋に帰らせ、集団に近付いていく。


「ハネット殿! どうかなされたか?」


俺に気付いた戦士長の方から走り寄って来た。


「今から勝手に城の中を見物させて貰う。一応監視役を付けさせてやろうと思ってな」


「なるほど。それで私を?」


「そういうことだ。ついて来るか?」


「勿論です。戦士たちに指示を出して来ますので、少々お待ち下さい」


あれは戦士団とやらだったのか。

中庭で訓練とは……訓練場みたいな物は無いのか?


「お待たせした」


「よし。じゃあまずは庭にでも出てみるか」


ニーナと戦士長を後ろに引き連れ、マップを見ながら庭まで歩く。


「ハネット殿は道が分かるのか?」


「魔法でな」


「ふむ……流石ですな」


「あ、そうだ。お前俺の後ろにいるからって、斬りかかって来たりすんじゃねーぞ」


「か、勘弁して下さい」


「ふふふ」


割と相性の良い3人のようだ。

まあこの2人が人格者だからこそだろうが。


「さっきから城内にいるのは戦士じゃないのか?」


先程から定期的に甲冑姿の衛兵に敬礼される。

中庭の訓練組とは何か違うのだろうか。


「師匠、あれが騎士ですよ」


「ああ、あれが。戦士と騎士はどう違うんだ?」


「私が説明しましょう。我々戦士は主に、魔物の討伐など王都外での仕事を主としている役職です。騎士の方は、王宮と市民の警護を任されています」


「ふーん。今は戦士は仕事が無いのか?」


「近頃は魔族の動きがきな臭いので、一旦戦力を王都に集結させているのです。他の領地と他国での魔族狩りは、勇者とその仲間が引き受けてくれています」


「軍より少数精鋭を動かす方が、お金がかかりませんからね」


「なるほどなぁ」


勇者は周辺国家を動き回っているようだ。

引き籠り癖のある俺には絶対無理だな。


(王国外でもという事は、周辺国家とは協定でも結んでいるのか?)


そうこうしていると庭に着いた。

相変わらず立派な庭園だ。


「お、あそこの植物は初めて見るな」


「ミミルですね。もう少ししたら綺麗な花が咲きます」


ふむ、花がまだ咲いてないからな。

1本だけ千切って持って帰るってのが出来ないか。

仕方ないので収穫スキルで1本まるごと引き抜いた。


「し、師匠、流石にそれは……」


「まあ見ておけ」


生産スキルで苗木数本に変える。


「おお……ハネット殿、これはどういった魔法なのだ?」


「植物を種や苗木にする魔法だ。ニーナも見るのは初めてだったな?」


「はい。花を増やすと言っていたのは、こういうことですか」


苗木を1本だけ残し、他は全部アイテムボックスに入れる。

あとはこの苗木を穴に戻して耕作スキルで成長させるだけだ。

堂々とパクったが、戦士長は咎めて来なかった。


「ほら、これで元通りだ」


「やはりハネット殿は優れた魔法使いなのだな」


「これが攻撃に向いた時は恐ろしいですよ。私の目の前で、山が丸ごと消し飛びましたからね」


「そ、それは……」


戦士長も俺の範囲魔法にはドン引きなようだ。

ふふふ、そんな褒められると照れちゃうな。


「あ、そういえばあの辺でお茶会してるのは?」


庭園ではいくつかの机でドレス姿の女性たちがお茶している。

確かこの前来た時もそうだった筈だ。


「あれは上位貴族の方々です。お互い他の貴族家とは会食でもない限り会うことが稀ですから、登城の際に意見を交換しているのでしょう」


水面下の政治の場ということか。

あんまり触れない方が良さそうだな。


「まあ、半分は本当にお茶を楽しみたいだけでしょう」


俺の嫌そうな顔を見て考えを察したのか、戦士長が冗談めかして言った。

まあ真剣な雰囲気には見えないな。

どっちかと言うとストレス発散の場なのかもしれない。

見ていたら、1組の女性陣がこっちに向かって歩いて来た。

しまった、油断したか。歩きながら話すべきだった。


「ごきげんよう、賢者様、戦士長様。あの、そちらの殿方は?」


「この方は、この度私の魔法の師となって下さった大魔法使い、ハネット様です」


「まあ……! では、この方が噂の?」


「噂?」


「はい。賢者様の師を名乗る方が王都に滞在されていると、一部で噂になっております」


さすが貴族は耳が早い。

政治に利用されたりしそうで煩わしいな。

いつの間にか他の机に座っていた女性陣まで集まっている。

その後は自己紹介されまくったが、1人も名前を憶えていない。

まあニーナが憶えただろ。


「悪いが今は忙しいんでな。そろそろ失礼させて貰おう」


「ええ、またお会いできるのを楽しみにしておりますわ」


次は城内を巡ってみよう。


「割とすんなり帰してくれたな」


「師匠を師匠だと認識していながら無理に引き留めるような人は、まずいないと思いますよ」


「私もそう思います」


そうですか。

まあ今はこの見た目だしな。

王様より凄い格好。気後れもしよう。

しばらく城内を3人で適当にぶらついた。

書庫なんかは割と興味深かったかな。

当然のように全書籍をコピーさせて貰った。

いつか集落に図書館作ろう。


3階に繋がる階段の前に、騎士がたくさんいた。


「申し訳ないが、この先はご遠慮願いたい」


騎士たちじゃなく、後ろの戦士長に止められた。


「そうか。なんでかは聞いていいのか?」


「この上は王家の方々の部屋があります」


王族の居住区か。

警備が厳重な訳だ。


「じゃあやめとこう」


「ありがとうございます」


踵を返し階段を下りる。


「ああ、次は厨房でも見てみるか」


「厨房ですか? それならば1階の―――」



「もしや、賢者様ではあられませんか?」



鈴を振るような澄んだ声が上からかけられた。

振り返ると3階から綺麗な女の子がこちらを見ていた。

隣には護衛なのか鎧を着てない女騎士っぽいのもいる。

ニーナに声をかけた筈の子は、俺が振り返ると目を僅かに見開いた。


「まあ……戦士長様、そちらの方はもしかして?」


「はい、殿下。こちらが例のハネット様です」


誰だよこいつは。

戦士長を見たら困ったような顔をされた。

その様子を見て女の子が口を開く。


「申し遅れました、ハネット様。私は第三王女のエミリア・リオーネ・ノア・ライオノスです。お会い出来て光栄です」


第三王女と名乗った彼女は、しゃらんという音でもしそうな雅な仕草でお辞儀をした。

まあ階段の上からなんだが。

丁寧なんだか失礼なんだか分からん奴だな。


「そうか、ハネットだ。じゃあな」


再び踵を返して階段を下りる。


「あっ、も、申し訳ありません、殿下。失礼します」


「あ…………は、はい。賢者様も、またお会い出来るのを楽しみにしております」


「はい。またいずれ」


挨拶で遅れた2人が後ろから追いつく。


「師匠は本当にブレませんね」


「さっさと厨房行こうぜ」


「王女より厨房ですか」


「王様すら興味無いのに、その娘なんか知ったことかよ」


「それもそうですね」


ニーナとのやり取りに戦士長が呆れている。

悪いが俺の頭の中は既に、集落の住民たちに作ってやる住居の台所設計図の事しかない。

ちなみに厨房に行ったら、晩餐会の準備で忙しそうだった。

現地の調理の手順も見れたし、予想以上に得る物が大きかったな。

本格的に家庭科の授業のやり方も考えておこう。



「そういえば、晩餐会は何時からか知ってるか?」


唯一の王宮関係者である戦士長に尋ねる。

今は午後4時前だ。

晩餐会とやらが始まる前に、解散しておいた方がいいだろう。


「15の刻からなので、あと2刻といった所でしょうか」


2時間後。つまり6時ぐらいからか。


「そうか。それならまあ、ぼちぼちお開きにしておくか」


「そうですね。私も晩餐会の準備をしなければいけません」


そういえば、俺はこの格好のまま出るつもりだが、他の人間は準備もしなきゃいけないのか。

つーかニーナも出るつもりなのか。


「そうか。俺も何か準備した方がいいのか?」


「いえ、師匠はそのままで十分過ぎるでしょう。私はドレスでも借ります」


「クラリカ様も出席なさるのですか。珍しいですな」


「師匠が出るなら、出てみようかと思いまして」


俺はこういう時何って言えばいいんだろうか。

別の話題で誤魔化すか。


「さっきの貴婦人たちみたいなドレスで良いなら、俺が出してやるぞ?」


「そうですか? 助かります。では力をお借りします」


「着替えは何時ぐらいがいい?」


「1刻ほど前でいいかと。クラリカ様はドレスに慣れておられぬでしょうし」


「そうか。じゃあニーナ、5時になったらドレスを渡しに行く。それまでに他の準備をしておけ」


「分かりました」


これにて今回の王宮探検隊は解散した。

部屋に帰って来ると、すぐに例のメイドさんがワゴンを押して来た。


「お飲物はいかがですか?」


「そうだな、何がある?」


説明された5種類の中から、まだ飲んだ事のなかったハーブティーとやらを選んだ。

ちゃんとカップをお湯で温めてから紅茶を注いでいる。

前にホテルでバイトしてた時代に習った淹れ方だ。俺の時はコーヒーだったが。

一応鑑定して毒物かどうか見てみる。

大丈夫なようだ。王国の命がな。

飲んでみたが、あんまり好みに合わんな。

子供舌の俺には大人の味過ぎたようだ。


「ありがとう、美味しいよ」


「勿体ないお言葉です」


「君も飲むか?」


ずっと廊下に立っていて大変じゃないだろうか。

廊下にはもう2人ほどいたので交代要員かと思ったが、昼からこっち、ずっと彼女しか俺と会話してないし。

多分3人の中でのメイド長的なアレなんだと思うんだが。


「えっ? ……あ、い、いえ。恐れ多いです」


顔を赤くしてそそくさと出て行ってしまった。

なんか常識外れな事を言ってしまったらしい。

そういえばメイドは主と席を同じにしないんだったか?

まあいいや。今の内に集落の奴らに食いもんを用意しに行こう。





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