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18 王都

2016.6.13

ニーナに連れられてやって来たのはかなり大きな宿だ。

なんつーか、もはや『宿』っつー感じじゃない。

「美術館?」とでも言いたくなる見た目と規模だ。


門の前に衛兵が2人いる。

その衛兵たちは、ニーナを見た瞬間に素早く敬礼を取った。


「賢者様! ようこそおいで下さいました!」


「すいません、宿を借りに来ました」


「はっ! ごゆるりとお過ごし下さい!」


相変わらずの顔パスなようだ。

まあここでは一段と知名度が高いみたいだしな。昔なんかしたんだろうか。

庭園を歩き扉番に大きな扉を開けて貰い、中に入る。

商館もそうだが、でかい扉が金持ちのステータスなのか?


「すいません。4日間ほど、2部屋貸して欲しいのですが」


「これは賢者様。再び当宿をご利用頂き、光栄の至りです。お部屋の階級はいかがなさいますか?」


「両方最上位でお願いします」


「かしこまりました。料金はお1人様につき1日銀貨5枚で、計金貨4枚になります」


「あ……師匠、すいません。払って頂けますか?」


「ああ」


俺はこちらの金貨を2枚カウンターに出した。

この前ゼルムスから持ち帰った1枚の金貨から()()しといた奴だ。

受け付けは一瞬「師匠……!?」という顔になったが、元のすまし顔を取り戻した。


「あ……た、確かにお受け取り致しました。ではご案内の準備を致しますので、しばらく広間にてお待ちください」


どうやら部屋を用意する時間というのがあるらしい。

受付前のアホみたいに広いロビーに置いてあったソファーに座る。


「お飲物はいかがですか?」


座った瞬間にメイドがやって来た。


「師匠、どうしますか?」


「ふむ、オススメは何だ?」


「え? あ、はい。いくつか御座いますが―――」


一瞬「師匠って何!?」という顔をしたメイドさんにオススメを聞く。

甘い系で1つ頼んだ。

ニーナも同じ物でいいらしい。

まあ甘いの大好きだもんな。

席まで届けられた紅茶のような物を飲む。

つーか紅茶だ。果物の味がするが。


「これ何か分かるか?」


「多分、果実水で淹れたお茶ではないでしょうか」


なんかジュース的な物で煮出した紅茶ということらしい。

若干新しい発想だ。知らんけど。

味については「普通」って感じだった。

しばらくして部屋へと案内される。

俺とニーナで2部屋取ったが、気を利かせたのか隣同士の部屋のようだ。

中に入ると質の悪いガラス窓が付けられた大きな部屋だった。

ガラス窓を見たのは、現地に来てからさっきの城とこことが初めてだ。

ゼルムスには無かった気がする。いや、あったかな? 知らん。

隣に行ってニーナを呼ぶ。


「みんなに昼を食べさせに帰るぞ」


「はい」


一旦集落に帰って食事を出す。

子供達が集まって来て、王都がどんな場所か聞いて来た。

スリのガキは少し離れた場所だ。

こいつは俺に慣れることは一生ねーだろうな。

つーか寡黙な方の男子は、懐いてくるのに未だに一言も声を聞いてないのが凄い。

もしかしたら失語症とかかもしれんな。


宿に帰って来きて、ニーナを部屋に帰らせる。


「とりあえず夕食までは自由時間にしよう。あんまり今回の関係者とは顔を合わせるなよ」


「承知しました。師匠はこれからどうされるのですか?」


「俺は王都の街並みを見てくるよ」


「では私もご一緒致します」


「お前は邪魔だからくんな」


「え……」


ここに辿り着くまでどれだけ大変だったのか忘れたのか?

目の前を塞いだ人間皆殺しにしようかと思ったぞ。

とぼとぼ部屋に帰るニーナを置き去りにし、ロビーに行く。


「夕方ごろまで外出する」


「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


一応受付に言い置きして外に出た。

門衛が敬礼してくるのは無視。

王都は広いが、滞在期間は4日もある。適当にぶらつくか。

相変わらず道行く人々は道を空けてくれる。もう俺の方も慣れてきた。

出店で色々買い食い。どれもこれもあんま美味くねーな。

これなら俺の出す料理が喜ばれるのも分かる。

買い物は当然全部金貨で済ました。「釣りはいらねー、取っときな」というヤツだ。

だって銀貨と銅貨まで持つと、アイテムボックスの邪魔だからね。


2時間ぐらいして、人の流れが集まる場所を見つけた。

行ってみると、大量の人間が列を作ってどっかの敷地に入って行く。

建物の感じは教会っぽい。宗教的な集まりか?


「おい、これは何の列なんだ?」


適当に並んでいる1人に話しかけた。


「えっ!? へ、へえ。教会の炊き出しです」


炊き出しか。

ちょっと覗いて行こう。

列に並ばず敷地に入る。

並んでいる奴等から「あ!」という声が上がるが、別に俺は横入りとかじゃない。

もう食いもんには興味無い。

門をくぐると、そこそこの広さの敷地に出た。

列は教会の中に入り、同じ扉から人がポツポツ出てくる。

多分中で食べてそのまま食器を返す形式なんだろう。

ふと石塀の内側に作られた生垣が目に入る。

生垣に咲いているのは見たことの無い花だった。

1本貰っとく。


ブチッ


「あっ!!」


さっきからうるせーな。

人の行動を一々見てるんじゃねえ。

花をアイテムボックスに突っ込むと、今度は「おおっ」というどよめきが生まれた。

はいはい、もう見世物でいいでーす。


「あの、困ります。順番を守って頂かないと……」


不安げなシスターに話しかけられた。


「別に炊き出しに参加しに来たんじゃない。教会を初めて見たから、見物して回ってるだけだ」


「あ、そうでございましたか。神に興味がおありで?」


「全く無いな。どうでもいい。俺の邪魔をするな、ってぐらいかな」


「…………」


まあこれでもう文句は言われないだろう。

無視して勝手に歩き回ろう。

シスターはどこかに行ってくれた。神のお慈悲に感謝します。

とりあえず周りをグルっと1周して建築様式を調べる。

どうやら石だけではなく、漆喰的な物も使われているらしい。

さすが教会。金がありそうだ。ガラス窓も付いてるし。

教会の中に入る。

長椅子いっぱいに人が座っている。木の食器でスープを啜っているようだ。

食器の作りが雑だな。分厚いし、削った跡そのままにデコボコしている。

まあ手が滑らない点では良いかもな。

そういえばエルフの里で見た茶碗は俺の作る奴とも遜色無かった。

やっぱ木を扱う技術に長けてたのかもしれない。

考えながら適当にその辺のドアを開ける。


「い、いけません。その先には勝手にお入りにならないで下さい」


またシスターの1人に止められた。


「そうか。悪かったな」


まあ流石に不法侵入はしない。

駄目と言われてしまえば入らないさ。


「あ、1つ聞きたいんだが、この炊き出しはどれぐらいの頻度でやっているんだ?」


「3日に1度です」


ふーん。だから何ってことでもないが。

明日はやってないというなら、もう1度来てみるか。


「ふむ。まあ帰るかな。仕事の邪魔して悪かった」


「い、いえ。あなたにも、神の御慈悲があらんことを」


(……ほんとにな)


踵を返して扉から出る。

途中、列の向こうから10人ぐらいの子供の集団が駆けてきた。

よく見ると、中心の数人が1人の女の子を抱えている。

まあ見るも無残にボロボロなことで。

すれ違う前にその前に立つ。


「おい、俺は魔法使いだ。見せてみろ」


「え!?」


ガキ共が足を止めた。

さっさと終わらすか。


「『ヒール』」


範囲強化とかしなくていいから、MP消費が少なくて助かるわ。

俺のスキルで完全強化されたヒールにより、一瞬で女の子の怪我が治る。

それを見て子供達の顔が安心に緩んだ直後、再び不安な顔になってこちらを振り返った。


「あ……で、でも、俺達お金が……」


そうか。金が無いから教会でタダで治療して貰おうと思ったのか。

お布施が無くても、労働ぐらいの対価で許してくれるのかもしれない。


「金はいらんから、代わりに1つ聞かせろ。その子はどうしてそんな怪我をした?」


俺の言葉に子供たちが苦い顔になる。


「その……怖い人に、殴られたり、蹴られたりして……」


なんか隠してるっぽいな。別にいいが。


「そうか。強い奴には逆らうな。じゃあな」


俺はその場を後にした。

種買いに行こう種。


こうして午後は現地の散策を楽しんだ。




「師匠、街はどうでしたか?」


集落での夕食中にニーナが話かけてきた。


「ああ。まあそこそこ楽しめたぞ。見たことないもんばっかでな」


「そうですか。何か師匠の琴線に触れましたか?」


「そうだな……教会が一番印象に残ってるかな。俺の故郷には宗教がほとんど残ってなくてな。教会なんて文献でしか見たことなかったんだ」


「宗教が無いのですか?」


「ああ。人間が生きていく為に誕生した筈の宗教だが、1回なんかの拍子に無くなったら、意外とどうにかなっちまったんだ。それ以来どんどん廃れていった」


「でもそれだと、犯罪が横行しそうですね」


「いや、俺の住んでた国は世界でトップレベルの平和な国だったな」


そういやなんかの話で、ニホン人は宗教が無いのにどうやって善悪を学んでるんだ、的な話があったな。

むしろ俺らからすると、宗教が無いと善悪の判断が出来んってのがよく分からんのだが。

結局ニホンみたいに平和に過ごせるなら、宗教なんて無くなってもいいんじゃないだろうか。

でも世の中には、宗教にでも縋らないと生きていけない人間が山ほどいるからなぁ。

まあニホンという国が既にあるのだからいいだろう。宗教がいらんと思う奴は、ニホンに移住すればいいだけのことだ。


「そ、そうなのですか。相変わらず不思議な場所ですね」


「まあ周辺の国からもそう言われてたよ。変な国だってな。でも戦争も無くて住みやすい国だぞ」


「そうですか。争いが無いのは、良いですね」


ああ、争いが無いのは良いことだ。

俺もそんな生活がしたい。









翌日。

今日は朝から自由行動だ。

一番最初に教会に顔を出す。

炊き出しが無いので今日は閑散としている。


「あっ……」


シスターの1人が俺の顔を見ると近寄ってきた。


「孤児の怪我を治して頂いたと聞きました」


「ああ、気にすんな。魔法の1つぐらいで」


「まあ……」


まあってなんだ。


「それより、炊き出しの無い日は教会は何をしてるんだ?」


「お勤め以外ですと、人々に読み書きを教えたりしています」


教会って学校もやってたのか。


「へえ。俺の所でも今読み書きを教えててな。参考に覗かせて貰ってもいいか?」


「はい。もちろんです。きっと子供達も喜びます」


あいつらいるのか。読み書きを習うとは見上げた奴らだ。

他の奴らなんて飯が食えない時には来ないようなカスじゃねーか。

そんなんじゃ神の導きなんてねーぞ。

教会に入ると、長椅子を机にしていた昨日の子供達と目が合った。


「あっ!!」


全員駆け寄ってくる。


「き、昨日はありがとうございました!!」


一斉に頭を下げた。

頭を下げるってのはどこの国でも共通なのか?

当然だが、怪我をしてた女の子もすっかり元気そうだ。


「別にいいって言っただろう」


あれ、こいつらには言ったっけ? まあいいや。


「それよりお前らがどうやって読み書きを習ってるのか知りたいんだ。席に戻れ」


俺の号令でササっと席に戻って行く。

ちょっと面白い。


「まあ、この方が昨日の……?」


「はい」


子供達をみていた年寄りのシスターが、案内してくれたシスターに尋ねた。

なんとなくこっちの方が上の役職っぽい感じがするな。

今の短い会話だと確証は無いが。


「わたくしからもお礼を言います。あの子を救って下さって、ありがとうございました」


「2回も3回も同じことを言わせるな。いいから早く授業を再開しろ」


「は、はい。これは申し訳ありません」


直前までの大物感が消えて、そそくさと戻って行った。

多分俺からは殺気が漏れていたことだろう。

おもいっきりイラっとしたからな。

次同じことを言われたら殺すかもしれん。

俺は同じ事を何度も言わされるのが本気で嫌いだ。

大嫌いな奴を思い出すからな。


その後20分ほど授業の様子を見学した。

子供達はツルツルに磨かれた石盤に、指に塗料を付けて文字を書いている。

布巾で塗料を拭くことで文字を消すようだ。

なるほど、これなら塗料を植物性の物で作れば金がかからない訳か。

授業の流れはうちの教師陣とほとんど変わらない。

ニーナたちも教会でこうして文字を習ったのかもしれないな。


「そういやお前ら、ちゃんと飯食ってんのか?」


子供達は全員痩せている。

さっき孤児とか言ってたし、ゼルムスのあのチームを思い出す格好だ。


「え? 食べてるよ?」


自称食べてる。


「本当か? 最後に食ったのいつだよ」


「昨日」


アホか。リアルの俺かっつーの。


「ほれ、これでも食っとけ」


俺は野菜とハムのサンドイッチを1つ渡してやった。


「え!?」


「ほら、お前達もだ」


全員にサンドイッチを渡してやる。


「お金、持ってないよ?」


「分かってるからさっさと食え」


俺に言われて子供たちはサンドイッチにかぶりつく。

2口目からはもはや一気食いの勢いだ。

シスターたちがニコニコとこっちを見ている。


「お兄ちゃん、凄い魔法使いなんだね!」


「最近よく言われるよ」


言いながらコップと水を出してやる。


「それそれ! それってどんな魔法なの!?」


「俺の家の倉庫と手を、転移の魔法で繋いでんだよ」


「てっ転移!!?」


全員が大声を上げた。シスターたちもだ。


「なんだよ」


「て、転移って、あの伝説の……?」


「伝説?」


「あの……転移の魔法は遥か昔に失伝している魔法です。何かの魔法と勘違いなさってるんじゃないですか?」


「失礼なことを言うな。―――『テレポート』」


シスターの背後に転移してやった。

にしても失伝してたのか。ニーナたちが驚いてたわけだ。


「うわ! すげええええ!!」


子供達は大はしゃぎだ。


「あ、あなたは一体……」


シスターたちは逆にドン引きしている。

あれー?


「まあただの魔法使いだよ。ちょっとその辺のよりは強いけどな」


「に、兄ちゃん! 名前を教えて! 名前!」


「名前? ハネットだ。名字はねーな」


聞かれたから答えたのに、「あれ?」みたいな顔をされた。


「なんだよ」


「そんな名前、聞いたことない」


「当たり前だろ。初めて会ったんだから」


「だってそんなに凄い人なのに、有名じゃないなんておかしいよ!」


「あ? 俺がニーナみたいだって言いたいのか?」


「え? 兄ちゃんは賢者様と知り合いなの?」


「一応ニーナの師匠だ」


「ええええええええッ!!?」


また全員が沸いた。

教会の中なので反響して耳が痛い。合唱とかするわけだ。


「うるせーな。師匠っつっても最近だよ、最近。別にクラリカとかいう先代賢者って訳じゃねえ」


「そ、そうだよね……。いや、最近師匠になったってどういうこと!?」


子供達がしつこいので20秒ぐらいで適当に説明してやる。


「す、すげえ……! 本当に凄い人だったんだ……!」


「ま、まあ、どうしましょう、シスター・ルミーネ」


「ああっどうしましょう、シスター・ニコラ!」


シスターたちまで盛り上がっている。

ニーナのネームパワー恐るべし。


「まあそんな訳で、今は王様から声かけられてる最中だ。戦争になるか友達になるかはまだ決まってない」


「せ、戦争をするつもりなのですか?」


「王様が俺の言うこと聞かなかったらな。ぶん殴って言うこと聞かせるしかない」


一気に部屋の空気が反転する。


「残念だが、俺はニーナと違って善人ではない。期待を裏切るようで悪いがな」


「そ、そうなの……?」


「ああ。むしろニーナにもっと悪人になれと教育している最中だ」


子供達のテンションの下がり方が留まるとこ知らずだ。


「まあ俺のせいでニーナが極悪人になったらすまんな。それじゃあそろそろ俺は帰るぞ」


脅しといたおかげで帰り易かった。

本当はもう5分ぐらい前に出るつもりだったんだが。

この手は次から覚えておこう。




昼前の街を歩くと、昨日と違ってホームレスの姿が目立った。

昨日いないように見えたのは、恐らくあの炊き出しに全員参加していたからだろう。

つーかシスター2人しかいなかったが、あの2人でこの人数の食事を作ったのか?

それともどっか別の場所にもう何人かいたんだろうか。

いや、その筈だ。じゃないとあの庭とかだって、あそこまで手入れ出来ない筈。

にしても大都市だけあってホームレスの数がゼルムスより多いな。

こんな統治で、王様は大丈夫な奴なのか?

馬鹿だったらマジで殺すかもしれんのだが。


しばらく歩くと馬鹿でかい建物の一角と出会った。

マジででけえ。

空からじゃないと全貌が見れなさそうだ。

衛兵みたいなのに話かける。


「すまん、このでかい建物はなんだ?」


「ああ、闘技場です」


闘技場か!

いいな、バトルとかしてんだろうか。

今は時間切れだが、午後になったらもう1度来てみよう。


12時に宿でニーナと合流して集落に帰って来た。

こういう時に時計は便利だ。

やはり渡しておいて良かった。


「ニーナ、さっき闘技場を見つけたんだが、闘技場ってのはどんなことやってるんだ?」


「人間同士の勝負から、魔物の討伐まで様々ですよ。ここの闘技場は人死にが出ないようにしているので、純粋な剣技と魔法が見れて割とオススメです」


剣の刃とかが潰してあるのかもしれない。


「そうか。午後から見に行こうかと思ったんだが、開いてるかな?」


「はい。普通は午後からなので、ちょうどいいと思います。昼食後すぐだと、開始まで少し待つかもしれませんが」


そりゃいい。早速見に行こう。

午後の予定が決まった。




「よう、見に来たぞ。開いてるか?」


さっきの衛兵に話かける。


「はい。開始は11の刻からです」


まだ何十分かある訳か。ニーナの言った通りだ。

まあ俺はのんびり待つのは割と得意な方だ。


「もう入っていてもいいのか?」


「ええ、奥へどうぞ。右手の受付に観戦料をお支払い下さい」


通路に入ってしばらく歩くと、言われた通り右手の受付と、その奥に2人の門番が見えた。

とりあえず受付に顔を出す。


「いくらだ?」


「銅貨30枚です」


「金貨しか持ってないんだが、いいか?」


「は、はい。少々お待ちください」


受付のお姉さんはお釣りを出そうとしているようだ。


「ああ、釣りはいらない。かさばるから」


「え!?」


とっとと中に入れて貰おう。

と、思ったのだが門番が通してくれそうもない。


「お、お客さん! これ!」


受付からお姉さんが身を乗り出し、なんかネックレスみたいな物を見せている。


「支払いの証明として、これがないと入れないんですぅ~!」


そうだったのか。


「帰る時は、また受付に返して下さいね」


ネックレスを受け取り帰ってくると、今度はすんなり通して貰えた。

長い通路が終わると、視界が一気に開ける。


(おおー、ひれぇー)


本当に物凄い広さだ。

確実に最大収容人数が万に届いているだろう。

そんなに人数が集まるとは思えない。やっぱり巨大な魔物とかを入れるからだろうか。

そういや席は自由なんだろうか。

適当に入口近くにいた男に声をかける。


「おい、これってどこに座ってもいいのか?」


「は? ああ、席は自由だぜ」


そいつは良かった。


「お前、この闘技場にはよく来るのか?」


「あん? まあな、庶民の一番の娯楽だ。月に1回は来てるよ」


「そうか、なら色々と解説してくれないか?」


「はぁ? ま、いいけどよ」


いいのかよ。

口は悪いが良い奴らしい。

どっかの店の死んでたおっさんを思い出すな。

こうして気の良いおっさんにあの魔物はどうだーとか、あの傭兵はどうだーだの解説して貰いながら観戦した。

途中から俺が用意した食いもんで賭けをしながら観たら、まあこれが盛り上がった。

終いには周りの奴らまで参加してきて大騒ぎだ。

俺はこの現地にちょっと良くない風習を持ち込んでしまったかもしれない……。


「なあ、今まで一番面白かったのって何の試合だった?」


「そりゃああんちゃん、あの『勇者』様の試合さ! あの日はこの席が満席になるぐらいの人間が観戦しに来たんだぜ!」


おい、『勇者』だと?

面白そうな名前じゃないか。

後でニーナに聞こう。


「へえ。勇者様の戦いはどうだった?」


「そりゃあもう、すげえのなんの!! その試合の相手はドラゴン2匹だったんだが、目にも止まらぬ剣捌きであっという間よ! 聖剣の残光がそりゃもう綺麗だったことッ!」


普通に剣を使うのか。

聖剣ねえ。レア物だったらぶん盗るか。

リーダーかクラツキ辺りにやったら喜びそうだ。


こうしてその日は夕方までおっさん達と盛り上がった。




「ニーナ。そういえば、装備屋とかはあるのか?」


「はい、ありますよ。私の装備も半分は装備屋で買った物です」


夜、食事をしながらニーナに質問する。

明日はついに、店の中に入ってみる気なのだ。


「なるほど、この王都には良い装備屋はあるか?」


「はい。帝国にも劣らない、良い店があります。ドワーフの達人鍛冶師がいますし」


「へえ。明日なんだが、もし暇だったら案内してくれないか?」


「え……いいのですか?」


「明日は観光最後の日だ。最後は色々店を回ってみたい」


「私達は観光で王都に来たのではないのですが……。あ、いえ、大丈夫です。それでは明日は、私にお任せ下さい」


「ああ、頼んだ」


俺は1人でお店とか入れないタイプだ。ほら、末っ子だから。

とにかくこれで明日は安心だ。

ニーナが一緒にいても囲まれない、良い散策法を思いついたのだ。




「俺達は夕方まで外出してくる」


「はい。行ってらっしゃいませ」


翌日の朝、ニーナを連れて宿の外に出た。

ニーナ連れで門から外に出ると、すぐにファンたちに囲まれてしまう。

今は玄関を出たばかりの場所だ。


「ニーナ、手を繋げ」


「はい」


ニーナの手を握り、魔法を唱える。


「『インビジブル』」


透明化の魔法だ。

これで俺達2人は周囲の目には見えない。完璧な作戦だ。


「あ……これは、前に使っていた透明化の魔法ですか?」


「そうだ。これで市民に囲まれることもない」


「なるほど」


「さあ、フローティングで空から行こう。魔法は無詠唱で使わないと魔法陣でバレるからな?」


「はい、分かりました」


ニーナに手を引かれ、空から目的地へと向かう。

こうして最終日はニーナと名店巡りをした。

明日はついに王様との接触だ。

奴隷エルフたちの件も大きく動く。

早く故郷に帰らしてやりたいもんだ。





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