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1話完結シリーズ(歪み)  作者: ライス伯爵
6/6

忘れてて良かったのに

ふとしたことでゆがんだりするんですよ。

上京して2ヶ月、久しぶりの着信だった。僕は埃を被っているスマートフォンのもとへすぐさま駆け寄り、着ていたTシャツで埃を拭い、画面を確認した。


着信は、中学の同級生だったあいつからだった。


もしもし。

もしもし?

お久しぶりです。

おう。久しぶり。

お元気ですか。

おう。元気だよ。そっちは?

こちらも元気です。


僕は違和感を感じていた。あいつとは中学の同級生でとても仲が良かった。高校は別の高校だったけど、お互いの休みが合うと海まで自転車ですっ飛ばしたり、水族館の魚にオリジナリティーあふれる名前を勝手につけたり、必ず遊んでいた。


そんなあいつが、なぜ僕に敬語を使っている

んだ?


あのさ、

何ですか?

何か隠し事してる?

してないですよ。

じゃあ何で敬語?

そんなことどうだっていいじゃないですか。

よくねえよ。水臭えことはしないって「友達の誓い」で言ったじゃん。

友達の誓い?

そう。「友達の誓い」。


「友達の誓い」とは、僕たちが中学1年の時に流行ったものであった。誰もいない夕暮れの海岸に2人で立ち、3分間手を合わせて見つめ合うのだ。ちなみに、異性の2人だと「恋人の誓い」になる。ある日、僕とあいつが夕暮れに海岸に向かうと、クラスメートの2人が「恋人の誓い」をしていた。僕たちはその模様をこっそり写真で撮り、すぐさまプリントアウトして教室の黒板に貼り出した。それもまた思い出だ。


そのことを覚えていないなんて、やっぱり今日のあいつはおかしい。


…ごめんなさい。思い出せないです。

とにかく、敬語はやめて。親友なんだから。

親友?

そう。親友。

親友…。


やっぱりだ。そう確信した。電話の向こうはいつものあいつじゃない。


あのさ、

はい?

何かあったの?

…。

なぁ、言ってよ。

…。

親友だろ?何でも言い合える仲じゃなかったのかよ。がっかりしたよ。「友達の誓い」忘れたのかよ?

…。

なぁ。


すると、あいつは小さな声で「忘れた。」と言った。


…えっ?

忘れたんだよ。全部。

…。

俺は草野球をやってた。そこで試合中、打球が頭に当たった。すぐ病院に運ばれたよ。幸い、命に別条はなかった。安静にするため、1日だけ入院する予定だった。

でもさ、次の日の朝、目が覚めると試合より前の記憶がごっそり抜けてた。ごめんな。相手チームのメンバーはわかるのにお前のこと、何も思い出せないんだ。ごめんな…。

僕も…強く言っちゃって悪かった。

大丈夫だよ。親友なんだろ?

おう。

あっ。

何?

お前のこと、一つだけ思い出した。

何?教えて。


俺さ、お前に2万貸してたよね?

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