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二、都市伝説

「おはよう!」

「おっはよう!」

次の日の朝、いつも待ち合わせしている交差点で純子と挨拶を交わした。

ホムペに書き込まれた宣伝には触れないようにした。

興味がないということを意識させたい。

純子から話しを持ち出されないように、昨日見たテレビ番組を話題にして積極的に振舞う。

「今日はハイテンションだね」

純子が私の顔を覗き込む。

「そうかな」

怪しまれないように作り笑いでごまかした。

地下鉄駅へと通じる階段を下り、自動改札口にICタグ付きの定期券をかざす。

【汐見台行き】のプラートホームに下り立つとき、左に視線を動かして鏡に入っている自分を見詰めた。

「気になる?」

純子が微笑んで訊く。

「純子があんなメール送ってくるからだよ」

私が怖がると純子は微笑んだ。

純子は悪戯好き。でも、嫌われることはない。相手の気持ちを読んで、ここまでならいいだろうという見極めがうまい。

私に怖い話をしても怒らないことは、とっくに調べがついているのだ。

「続きは休み時間まで待ってね」

純子の悪戯っぽい笑顔を向けられたら、私に対抗手段はない。

約束どおり純子は休み時間になると、数人の女子が自分の周りに集まってきたのを見計らって話をはじめた。

「あのね、私とミキが通学に使っている地下鉄の平豊駅や他の駅にもプラットホームに大きな鏡があるんだけど、その鏡は自分を見詰め直す効果があって自殺防止のために設置されたんだ。けれど、ちょっと訳ありなの」

「どんな?」

「それって怖い話なの?」

「ひょっとして都市伝説?!」

純子を取り囲むクラスメイトは興味津々。

「今年に入ってすでに四件の自殺があったの。そのうちの何人かは鏡を割ってから走ってくる地下鉄の先頭車両にぶつかるように飛び込んだの。というのも過去にプラットホームから落ちて地下鉄に轢かれた少女が、醜い顔を見たくないから“鏡を割って……”とお願いしてくるらしいの」

「やだぁ~ジュンちゃん怖いよぉ~」

「それだと鏡の効果ないじゃん」

「そうそう、鏡を撤去すればいいのに」

一部から異議が飛んだが、純子はまったく表情を変えずに話しを続けた。

「設置されている鏡は市が相談した心理学者の面子とかで、すぐに撤去というわけにはいかないんだって」

純子の説明のあと、みんなが一瞬だけ静かになる。

「そ、そういうのって、大人の事情で断れないのかな」

誰かが逃げ場のない都市伝説に耐え切れず、脅えた声を出す。

「これから学校に来るのが怖くなるね」

すっかり純子の都市伝説を信じきったクラスメイトから、私は同情するような言葉をかけられた。

「バスで通おうかな」

私は苦笑いで答えるのが精一杯。

「ミキ、大丈夫よ。いまの話はネットで広まっていた都市伝説に私が脚色したものだから。地下鉄の駅で自殺した人の数は本当だけどね」

純子が私を心配して都市伝説を打ち消す。

「もう!ジュンは人が悪いなぁ~」

純子は手加減して首を絞められたり、背中を突かれたりして笑っていたが、私はあまり笑えなかった。

「本気にしないでね。ごめんね」

学校帰りのプラットホームで純子は謝ってくれたけど、さすがに今回の作り話は尾を引きそうだ。

現実に私は鏡をチラ見してから階段を上がった。

これから私は毎日鏡を気にしながら登下校しなければいけない。

朝とは違い下校中の私は口数が少なかった。

「また明日ね」

「うん」とだけ返事をして交差点で純子と別れた。

そして、純子の姿が消えるのを待ってから、私は地下鉄駅に引き返した。

柳沼家に向かうには、学校に行くときと逆方向の【姫野丘行き】に乗らなければいけない。平豊駅は対向式のプラットホームで【姫野丘行き】の二番ホームにも鏡が設置されていた。

目が鏡を追いかけてしまう。

小心者の自分に愛想が尽きてため息が出る。

【姫野丘行き】の地下鉄がホーム内に滑り込んできて、平豊駅から離れることができて安堵した。


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