怪しい2人
暗い森の中でうごめく2つの影が、紅葉たちの方へ向かっていた。
なにかが来る!!
紅葉はいち早くその影に気づき移動を始めていた。
「いきなりどうしたのですか紅葉さん?」
・・・・・・・・・
「いや、ちょっとヤバそうなのが追っかけて来てるんでな」
「・・・紅葉さんが逃げなきゃいけないほどヤバいんですか?」
「1対1ならともかく、2対1じゃ分が悪そうだ」
紅葉はしばらく森の中を走り回った。
・・・が、2つの影を振り切ることはできなかった。
「チッ!!」
紅葉は小さく舌打ちをした。
「速いな!!」
2つの影の速さは常軌を逸していた。
「まだついてきやがる」
紅葉のイライラは募る一方だ。
「じゃあ、これならどうだよ!!」
紅葉は地面を強く蹴り、さらに加速した。
それはまさに、縦横無尽にコースを変えながら加速する『ジェットコースター』のようだった。
しばらく走っていると視界が開け、森から出てしまった。
「やっば!!」
「勢い余って森から出ちまった!!」
紅葉は焦っていた。
森から出てしまえば隠れる場所のない草原が広がっていた。
これでは「俺はここだ!!」
と言っているようなものだった。
ほどなくして、森の中から2つの影が現れた。
2つの影の背中からは大きな黒い『翼』が生えていて、手の爪は10㎝近くまで伸びていた。
身に着けている黒服も、とても人間とは思えないような服装だった。
「ちょっとあんた!!」
「私のかわいいクロちゃんを殺しといてなんで逃げんのよ」
正体不明の2人のうち、女の方はうるさく騒ぎ立て、もう片方の男はそれを見て呆れ顔をしていた。
男がおもむろに口を開いた。
「うるさいぞサタナキア!!空気を読むこともできんもできんのかキサマは」
「え~だって~、私にシリアスな空気って似合わないし!!」
「・・・お前ら、何者だ?」
紅葉は2人に質問をぶつけた。
クールな男の方が口を開いた。
「お初にお目にかかります!!」
男は声の衝撃で、後方の木々を数本横倒しにした。
なんてでけー声だ!!
耳がいかれちまう。
「失礼、少々声が大きすぎましたか?」
「何分、母から『あいさつする時は大きな声で』といつも言われてきたので。
「私はアスタロトと申す者です。こっちのうるさいやつは部下のサタナキア。」
「おいアスタロト!!」
女の方は顔をムスっとさせていた。
「私はお前の部下になった覚えはないぞ!!」
「それに、お前の『あいさつ』の方が100倍うるさかったからな!!」
「・・・・まったく、ムードが台無しだな」
男は改めて自己紹介を始めた。
「私はアスタロト。『西の領地』でしがない悪魔をやっている者です」
「このたび、わたしたちはこの『東の領地』を『偵察』に参りました」
「悪魔ですって!!」
しばらく口を紡いでいたチルが急に震えだした。
「・・・なぜ悪魔がこんなところにいるのですか?」
「それにアスタロトといえば・・・」
「『ソロモン72柱支団』、29軍団長。」
「地獄の支配者が一人『地獄王・アスタロト』ではないですか!!」
「ほ~!!」
男は関心したような声を出した。
「・・・きみ、物知りだねー。知識がある子は嫌いじゃありませんよ」
「・・・ですが、利口でない子は好きではありませんねえ」
紅葉は、男をずっと睨んでいた。
その姿は、人間を襲う『野獣』のようだった。
「やめましょう、無益な争いは」
男はそう切り出した。
「私たちは『偵察』に来ただけです」
「私とあなたが本気でやりあったら、どちらも無事では済まなそうだ!!」
そう言われて、紅葉は睨むのをやめた。
「・・・わかっていただけて何よりです」
「それでは、また逢う日まで、ごきげんよう!!」
男は、西の方へ飛んで行った。
紅葉は、力が抜けたかのようにその場へ座りこんだ。
「チル…俺…」
「今戦ってたら…確実に死んでたぜ…」
1部内容を変更したので、これからの話の中でわからないことがありましたら、最初から読むことをお勧めします。