ギリギリの戦い
ハルカ邸、
地下フロア2階『闘技場』
そこは、地下2階にある1室。
かなり広い空間が広がっていた。
「ここなら思う存分戦えるね。」
確かに…でもちょっと広すぎる感じもするが…。
「じゃあルールを決めようか。ん~…、こんなのはどうかな?」
ルール1:相手を殺してはいけない。
ルール2:闘技場の外に出てはいけない。
ルール3:相手が降参することで、勝者を決す。
「まあ、いいんじゃね。シンプルで。」
「そうか、納得してもらえてなによりだよ。」
俺はチルを闘技場の隅に座らせた。
「今回は、何が起こるかわからない。それに、お前を守れる保障もない。だから、ここにいろ。」
「…わかったのです。ご武運を。」
「ああ、行ってくるぜ!!」
決闘開始まで1分。
「俺が、お前に勝った時は、どうすんだよ。」
開始45秒前
「その時は、その時だよ。」
コイツは負けるなんて、これっぽっちも思っちゃいないな。
開始20秒前
「…どうした、なんか喋ろうぜ。それとも、負けるのが恐いのか?」
「人間は、不安な時ほどよくしゃべるそうだよ。…恐いのは君の方では?」
「その余裕、いつまで続くかな。」
開始5秒前、4,3,2,1スタート。
始まりの合図とともに、俺は全力で地面を蹴りつける。
その勢いを利用して、ハルカに接近して蹴りつける。
ハルカは小さな体を回転して、攻撃を回避する。
俺の蹴りは、ハルカには当たらず、地面にめり込む。
闘技場に蹴りの衝撃で穴が開いた。
「ふー、危ないな。あんなのまともにくらったら体がもたないや。」
そんな事を言うハルカの顔に、先ほどまでの笑みはなかった。
腰にさした2本の剣に手を伸ばす。
木刀などは、何度か握ったことはあるが、剣などは使ったことはない。
それでも、ハルカ相手に素手で戦うより幾分ましだろう。
剣を両手に持ち、再びハルカに近づく。
ハルカは、自分よりも遥かに大きい『大剣』を両手で持った。
あんな物を持った状態で動けるのか?
しかし、そんな心配はむようだったようだ。
ハルカは大剣を持っているとは思えないほどの速さで移動を始めた。
ハルカは、一瞬のうちに俺の背後を取る。
2mはあろうかという大剣を振りかざす。
一瞬…反応が遅れた。
大剣は俺の頬をかすめた。
あ、危ねえ!!
傷口からは、血が垂れてきた。
どうやら、皮が少し斬れたようだ。
もう少しずれていたら、死んでいたかもしれない。
…ハルカの奴、殺す気じゃねえか?
「さすが最強の勇者様だな。大したスピードだよ。」
俺はハルカを尊敬した。
あれほど素早い動きができる者など、この世界に存在するのだろうか。
「いやいや、君の反応速度も素晴らしいよ。」
「あれを避けるとは大したものだ。完全に死角を取ったつもりだったんだが・・・。」
ハルカは、悔しさをにじませていた。
攻撃をかわされたのがかなりショックのようだ。
…集中だ、集中。
気を抜くと、一瞬で背後を取られてしまう。
ハルカは戦闘のプロだ。
相手の殺し方を熟知している。
こんなにギリギリの戦いは初めてだ。
戦いが楽しいと思えるほどの緊張感。
それがこんなに良いものだとは、思わなかった。
俺は、少しずつハルカとの距離を詰め、攻撃に移った…。