ランク10の領主さま
「ちょっとそこの勇者さん。」
声の方向に振り返ると、少女が立っていた。
顔つきや体格からして、俺よりは年下だろう。
ショートカット気味の赤髪が、まだあどけなさの残る顔によく似合っている。
美人、というよりは『カワイイ』といった表現の方が合っているだろう。
なんだ…こいつ?
「…こんな時間に一人遊びは危ないぞ。親はどうした…迷子か?」
「俺らは今、宿探しの途中だからあんまり付き合ってはやれないぞ。」
俺は、親切心のつもりでそう言った。
「君はなにか勘違いしていないかい?」
「僕は別に迷子じゃない。君に会いに来たんだよ。『伝説の勇者くん』。」
少女の声は、見た目より少し大人びて聞こえた。
…何言ってんだ?こいつ。
「僕の名前は、『ハルカ=フォルン』。この町の領主をしている者さ。」
ハルカ=フォルン?
確かランク10の…超級勇者!!
「プッ、はっはっは、じゃあその小さい胸に付いた勲章は本物だってことか?」
おもちゃか何かかと…
「まさか、こんな子供がランク10だったなんてな。」
「人は見かけによらないと言うだろ。それに、僕はこれでも18歳だよ!!」
ハルカは何か言っている様だったが…笑いすぎていて『18歳』以外、耳には入らなかった。
この見た目で18歳?
そう思うと、さらに笑いが込み上げてきた。
「ちょっと、笑いすぎだよ!!」
「せっかくのシリアスなムードが水の泡じゃないか。」
「いやー、悪い悪い。『その断崖絶壁の胸で18はないなー』ってww」
ハルカは顔をムッとさせた。
「む、胸は関係ないだろ。まだ『発展途中』なだけさ。」
「これからもっと大きくなるさ!!」
…あんまり期待しない方がいいと思うが。
「で、領主さまが俺に何の用かな?」
「領主さまに目を付けられるような問題は起こした覚えはないが…」
「立ち話もなんだし、僕の家に来ないか?」
「君たちは宿を探していたんだろ。じゃあ、僕の家に泊まればいいさ!!」
「め、滅相もございません領主さま。私たちはご遠慮させていただきま…」
俺は、チルの言葉を手で制した。
「お言葉に甘えさせてもらおうかな。ハルカさま。」
「俺も…あんたに用があったんだ。」
「交渉成立だね…紅葉くん」
あれ…コイツに名前なんて名乗ったっけ?
「招待するよ紅葉くん、それにお付のピクシーさんも。」
君とはこれから…長い付き合いになりそうだよ。
紅葉くん…いや、伝説の勇者くん。