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自由帝国の王  作者: ぐったり騎士
第二章
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 番外編 『神秘は黙されてこそ』

「あれはラジオ、ある場所から様々な音を国中に伝える道具です。こちらは電球。魔力のこもったイカヅチを使い発光させる、ランタンの発展したものだと思ってください」


「う、うむ……」



 あれからモニンとの再会も済み、いろいろあって、ようやく落ち着いたオアド。


 これからどうするかなど、決める事はたくさんあるが、指し当たって住居が必要だろう、と、王宮のすぐ近くの兵舎の一角を一時的な住まいとすることになった。

 今後、夜叉の国に戻るにも、こちらに定住するにも、いろいろと手続きや準備が必要になるためだ。


 しかしながら、文化的に発展していたとは言いがたい夜叉の国からアフェバイラにたどり着き、すぐに眠ってしまったオアドである。

 当時ですら、他国に比べてありえない発展をしていたアフェバイラであるが、彼はそれの技術力などを見る暇がなかった。

 さらにアフェバイラの10年は、他とは比べ物にならないほどに発達している。

 オアドにとっては、アフェバイラの様々な技術やインフラ設備は、すでに異世界のそれだといっていい。

 まあ、アノンの『前』の記憶が元となった技術が多いので、ある意味で本当に異世界のものではあるのだが。


 そんな未知の道具に触れ驚いている姿は、とても歴戦の戦士のものとは思えない。

 説明するシトリーも、どこと泣く笑いを堪えているようだ。



「くっくっく。可愛いものだな」



 そしてまったく笑いを堪えるつもりの無い、アノン。



「ふん、どうせオレは時代遅れの田舎モノよ」


「すねるな、オアド。……時代遅れもなにも、我が言うのもなんだが、このアフェバイラが異常なのだ。いくつかの外地とは取引があるものの、西側のフェリス法国はもちろん、東でも南の諸国には、こんな技術はない。初めてアフェバイラの地に降り立ったものたちは、みな同じような反応をするだろう」



 そういわれれば、唸るしかないオアドである。


 結局のところ、このような技術が提供、支援されるとなれば、大抵の国々は諸手を挙げて属国を選ぶのは、無理も無いのかもしれない。

 夜叉の凍土も、今では人間種や他のか弱い亜人も移住するくらいに、生活が楽になっていると訊く。

 なにより、アフェバイラに属した国々での、亜人、フェリス以外の宗教の者たちの扱いがまったく違う

 フェリスに怯えなくてもいい、むしろアフェバイラではフェリスを信仰しながら神敵であるはずの『神敵娘。』を敬愛してやまない人々もいるというほどのフリーダム。

 「神に見放されたものたち」である亜人や、土着宗教を信仰する者達が、フェリスの神殿で孤児院の手伝いやボランティアバザーをしたり、フェリス賛美歌を娯楽として聴きに行くこともあれば、フェリスの神官がモニンのバッチをつけていたりするカオス。



 正直、こんな光景を見てしまえば、今までの種族間のいざこざなど本当にどうでもよくなってしまうから不思議だ。

 だが、アノンやシトリーの話を聞けば、それは並大抵のことではなかったことの理解は難しくは無い。

 実際、アノンがそういった行動を始めて、80年近い年月を経たからこその、この光景なのだから。



「そして、この使い方ですが――」


「ま、まってくれシトリー殿。少し頭が疲れてきた」



 とまれ、便利で平和な生活には、それなりに覚えることが多く、オアドはついに白旗を揚げる。



「くすくす……では、少し休憩にしましょうか」


「助かる。……むう、こんなところをモニンに見られなくてよかった」



 モニンはといえば、神敵娘。は解散しても、まだまだお仕事がたくさん入っているため、他のメンバーと共に巡業中だ。

 もともと、「神敵娘。」は、アフェバイラ王家の保護下によって成立した一つの事業であり、神敵のイメージを取り払うための政策でもあったのだ。

 デビューするまでの厳しいレッスン、さらにアノンの様々な「宗教的な規約により迫害される優しい女の子」が主人公の漫画とそのラジオドラマにおける中の人効果。さらにこの話はモデルとなった事実があった、という噂をばら撒き、フィクションの「主人公」と、実際の「モニン」を重ねあわさせることで、大衆はあっさりと彼女達を迎え入れたのだ。

 まあ、あれである。

 実際のところ、どれだけ「神敵」などと銘打ってフェリスのような『断罪』をうたったところで、立場を変えて第三者視点から見れば、単なる虐めと理不尽な迫害以外の何者でもないのだからして。

 それを、アフェバイラでもっとも影響力の高い「漫画」で、国民の98%が読むのである。もちろん作品の中では「ファリシュ教」や「神の敵対者」などと名前は変えていたが、何が元なのかは言うまでも無い。

 少数ながら、フェリスを貶めているという批判意見が出たことはあったが、


「え?だってフェリスは実際にこれやってたじゃん」


 という圧倒多数の意見により埋没する。

「それは相手が邪悪だからいいのだ」

 という切り替えしは、彼らもブーメランになることを理解していたのだろう。

 それを言ったが最後、


「じゃあ、たとえフェリスの教えとして神敵になる存在も、優しい、とてもいい子ならフェリスは神に祝福されたものとして扱うんだね」


と、返されるは必須である。

 フェリス法国の支配権なら、「神敵は必ず邪悪。それは全部我らを騙す策略」と言い切ることもできるかもしれないが、3割近くが神に見放された亜人と土着信仰の人間たちであるアフェバイラでは不可能だ。

 あっというまに総スカンになる。

 そんな状況下で、華々しく「断罪対象者」としてデビューする神敵娘。の彼女達。


 すでに訓練されすぎている国民達は、『手配書』や『参戦』の呼びかけ、さらに『断罪の方法』の告知を見て、すぐさま状況を理解した。

 「あの物語」の「あの女の子」が実在の子であり、さらにはラジオドラマでのヒロインの「中の人」であると発表されれば、国民達の熱狂は止まらない。

 彼ら、そして彼女らは、完全にモニンたちを「理不尽に迫害され、それでもがんばる元気なヒロイン」として捉えた。

 アフェバイラにおいて、フェリスからの精神的な離脱が行われた瞬間として、歴史書に残ることは、このとき誰も知らなかった。


 まあ、そんなどうでもいい話はさておいて。



「ふう……すまぬ、シトリー殿。基本的なことを訊き忘れていたが、水差しはどこだろうか? 緊張で喉がひりついてしまった」



 少し掠れた声で、オアドが言った。

 シトリーが、「そういえば、水道についての説明はまだでしたね」と台所に案内した。



「水道?」と首を傾けてオアドが着いていけば、部屋の片隅にある奇妙な鉄管の前。


「こちらが、水道です。ここをひねれば、このように水が出ますわ」


「ほほう、これは便利なものだ」


「ええ。なので、コップはありますけど水差しはありません。必要があれば、用意いたしますけれど」


「いや、こんなものがあるなら、大丈夫だ。いちいち汲み置く必要が無いというのは、モノグサ者からすればありがたい」



 ではさっそく、と、オアドは初めて宛がわれた玩具に喜びながら、水道をひねりコップに水を満たす。

 それを一気に飲んで、



「……ぷぅ!うむ、冷たくて美味い」


「汲み置いた水は、腐ることもありますから、流動する水道水を使用されることをお勧めしますわ」


「ああ……そういえば、オレが起きたときに部屋の水差しから飲んだ水は、確かに妙な味だった気がする」


「え」


「え」







「え?」








 上から順に、シトリー、ぼけっとしていたアノン。そしてその二人の反応に驚くオアド。



「水差し……って、あの部屋に置いといたっけ?」


「いいえ、王。……備品の管理はしていますが、そのようなものは特には……あ!」



 何かに気づいたらしいシトリーが声を上げ、そのままアノンに何かを耳打つ。

 そして、無言になる二人。



「……気にするな、忘れろ」


 なぜか妙に優しい声のアノン



「……ファイト、です」


 謎の言葉を吐きながら、なぜかオアドから少し後ずさりするシトリー。

 

 

 

 

「え、なに、その反応」


 とてつもない不安になるオアドである。








「ああ、うん、お前が水差しだと思ったのはただの『おじちゃん!遊びに来たよ!』びんだ」








 丁度仕事を終わらせてやってきたモニンによるナイスフォローにより、真実は闇の中。


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