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自由帝国の王  作者: ぐったり騎士
第三章
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第十四話 『愚者と賢者の狂想曲 ~終曲~ 』

「これは由々しき事態である!」


 怒りの声とともに石卓を叩いたのは、王宮第三級の地位を持つ法武官、『顎鬚』である。

 それはいつかの、そしてどこかで起きたものとまったく同じ光景であった。




「まったく、王子には困ったものだ……」


「さよう、これはさすがに見逃せまい」


「ふむ……」



 いつか、どこかと同様に、「その場所」では再び、己を賢人と称する愚かしい会議が行われている。

 だが、その人員はあのときの4人、『聖老』たちではない。否、最初に述べたとおり、一人『顎鬚』だけはそこにいた。

 そして何より異なるのは、その人数だ。



 その部屋にいるのは、ゆうに20に達するかと思われる法官たち――いや、良く見れば下級兵士やただの小間使いたちもいるではないか。

 その熱気は人数の多さもあってあのときの『賢しき賢者の会』の比ではない。



 絶対の猛者と言われてなにを疑うことがあろう、法武官。

 あらゆる数値は我が手足、森羅万象を算術で現す、法税官。

 知識の泉、法の番人、あらゆる考察を武器として戦うは、法務官。

 善と悪の判別者、いと高き精神に己を導かんとする、法神官。


 他にも、様々な種類の法官たちが、そこに集まっていた。ただ――法武官の割合が多い気がしないでもない。

 そして、本来ならば彼らと同席することはありえないはずの、役職のない者達すら同じ机に同席している。

 これはいかなることか。


 ざわめき収まらぬその部屋の中で、指導者としての貫禄を見せて立ち上がったのは、法武官の『顎鬚』である。

 彼は、以前の憤怒とは異なり、ただ静かな熱をその身に留めながら、朗々と宣言をした。



「では――、我ら『賢しき隠者の会 きゅーと部門』の今日の議題だが――『はぷにんGU!』の最新話において、ピーチちゃんの台詞の『キライっ……でも、大好き』とロンちゃんの『バカ……本当に、バカなんだから』のどちらがグッときたか……これについて検討を行いたい!」


「「「異議なし!」」」



 万来の拍手により、議題は開始された。



「まったく王子は相変わらず我々を惑わしおる……だが、ここはやはりピーチだろう……。キライといってしまいつつ、すぐにそれを否定する可愛さは、見事といったところだな」


「いや『流星』殿、そこはロンちゃんでしょう。この『バカ』ですが、単なる繰り返しではなくそれぞれ別の意味がありますね。最初は呆れ――そして後半はそんなバカな主人公に対する愛おしさから着ています。これはロンちゃんの勝ちですね」


「FUUUUUU!MOOOOOOOO!」


「おいおい、『可憐な人』さんよう。聞き捨てならねえな。ピーチちゃんの台詞だが、これは主人公がキライっていうのを否定しているわけじゃないんだよ。キライなのは本当なんだ。だけど、同時に『大』好きなんだ。主人公がキライだけどそれ以上に好きなんだ。だから生まれてるジレンマ……わかるかなー。たしかにロンちゃんもいいけどな」


「『逞しい剣士』様の考察は見事ですね。でも私こと『記録係』からもロンの台詞について言わせてください。ロンのバカっていう本来罵倒であるはずの言葉が、逆に彼女の好意を表しているという高度な描写ですよ。普段から主人公にバカバカといい続けてる彼女だからこそ、この台詞の重さが輝いてくるんです」


「MOOOOOO!EEEEEEE!」


「おーい、そこの牛角族のにーちゃん、今回の『はぷにんGU!』が神回過ぎてうれしいのはわかったから、落ち着け、なー?」







「バカばっか」


 王子の呟き。



「どうしてこうなった」


 なんか最近、国政の会議が終わったあとの大会議室に、いろんな法官たちが集まり、重要な議題に関する会議が行われているらしいとのことで調べてみたら、ごらんの有様である。

 隠し鏡と望遠の魔法を併用して映像を、これもまた隠して設置した伝達官による音声を、アノンの執務室にライブ中継した光景は、カオスの一言であった。


 法武官、法神官、法税官、法務官と、ほぼ全ての種類の法官たちが、集まって何やっているのかと思えば――嫁論争やら萌えるシチュエーション談義やら、かっこいい変身ポーズやら決め台詞談義やら、別作品同士のキャラが戦ったらどっちが勝つか論争とか、カップリングとか展開予想とかそんなんばっかりであった。

 法官どころか一般兵とかメイドとか雑用係まで参加してるし。


 余談であるが、現在『監視者』は「かっこいい変身ポーズ」、『聖老』は「バトル論争」、『鼠の耳』は「殺人事件の真犯人とトリックの推察」の会議に参加している。

 だからどうしたという情報ではあるが。



「いや作品そのものにはまってるのは知ってたけどさ。なんでコイツらオタ会議するのにハンドルネーム的なもの使ってんだよ」


「ああ、それですか。最初にこの会議始めた面子がお互いをそんな感じで呼んでたらしくて、それがいつのまにかこの会議での暗黙のルールになってるらしいですよ」



 答えたのは、部下であり従者である特級法務官である人間種の女性、リート・マシ。

 最近では有能な二級法務官を新たに部下にしたとかで、前にもまして精力的に働いてくれている。

 王子にとっては困ったことだが。


 王子の知らないところで、リートとその部下たちは何かいろいろと動いているらしいが、優秀なので心配することもないだろう。

 いろいろと神経を尖らせる仕事も多いため、ストレスがたまっていないかと心配になることもあるが――。


 『彼女の部下』である隼描族の少女ーー赤い肌が特徴的だったので覚えていた――から報告を受けていたとき、



「『顎鬚』wwwww『聖老』wwwww。二つ名付け合ってるとかもう全員堕ちる要素ありすぎでしょw。というか最初から堕ちてるようなもんじゃないwwww」


「いくら静音の処理施してるって言ったって、王宮内の会議室を『手続きを踏んで予約』してる時点で呼び名を変える意味ないですもんねー。あれ絶対、『なんかかっこいいから』やってるんですよ」


「それになんだっけ?『押し付けられた子供達プレゼント・チルドレン』だっけ?もう笑い死ぬwww」


「ですよねー、王子は単に『監視者』(笑)』さんに孤児になりそうだった親戚の子をちゃんと引き取るように言いつけて、その手続きや支援をしただけなのに、『まさか押し付けられた子供達プレゼント・チルドレン か!(キリッ)』とか言い出すんですよw。なんで勝手に古代語をもじった意味ありげな名称にしちゃってんのって、私もう笑いが抑え切れなくて陰行が解けそうでしたよー」


「だいたい『眷族』ってなによ『眷属』ってw。何自分が『特殊能力のある異形の統括者』みたいなノリなのよ!」


「リート様、私も眷属ッスから!三重の諜報員っていっても一応名目上は私も『アレ』の眷ぞぶふぉおおお! だめwww、もう限界www私がネタばれ情報を持ち込んだときの反応とかもうね!もうね!」


「たすけて!誰かたーすーけーてーwwwwぽんぽん痛いwwwww」




 などと、内容はさっぱりわからないが実に楽しそうにガールズトークをしていたので、大丈夫だろう。




 とりあえず、謎会議についての疑問は解決したわけで、謀反とか不穏なことされてなくて、よかったよかったと安心するアノン王子である。

 急速に進めた改革だったので、昔ながらの価値観に囚われた者達からの反発を覚悟していた。それでも、謀反や暗殺などされたら怖いなーとは思っていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 だいたいあの場に混じっていた牛角族とかは「神に見放された者達」の亜人である。

 最近になってようやく雑用やら一般兵として王宮内で重用できるように制度を整えたばかりで、このことも不満を生む要因であるはずだった。いくら自分ががんばって「みんな仲良くしろ!」と命令し、法を整えたからといって、目に見える反発は絶対にあるとアノンは思っていたのだ。

 ところが――



「FUMOOOO!FUTOMOMO!MOEEEEE!」


「そうだ、このページのヒロインがスカートを翻しながら振り向くその一瞬に見えるフトモモ!それが素晴らしいのだ。貴様、わかっているではないか!」



 バン、バンと牛角族の青年の肩をうれしそうに叩く『顎鬚』さんの映像が、しっかりとアノンの前には映し出されている。

 確かこの『顎鬚』さんは、リートの強い薦めで『おおっ!フェリス様!』の主人公のモデルに選んだ法武官だ。

 はじめはリートの薦めに「この人、硬そうな人だけど大丈夫かな」と不安に思ったが、完全に美少女系作品に馴染んでいるようだ。 リートの目は確かだったということである。


 そんな彼と、牛角族の青年のやりとりをみて思ったが、どうやら「ぐっとくるシチュエーション」や「萌えポイント」や「好きなキャラ」が同じだと、意気投合のしかたがパネェらしい。

 まあ嫁論争とかで喧嘩になる可能性もあるが、そもそも喧嘩というのは相手を対等と認めるからできることでもある。

 同じ釜の飯を食べると身分や立場を越えて連帯感が生まれるというのはこの世界でもよくあることだが、考えてみれば属性が同じ場合のオタの結束力もすさまじいことを、アノンは遠い目をしながら思い出していた。


 何はともあれ、彼らは現状を不満なく受け入れているようで、なによりであった。



「よし!それじゃ謎も解けて安心したところで、ちょっと休憩を――」



 さりげなく立ち上がり、部屋を出ようとしたアノンの腕――下側の右手をがっしりつかむ、リート。

 そして悪魔の笑みで、彼女が現状を告げる。



「王子?まだあと2ページ、残ってますよ?」


「やるから!ちゃんと休憩で町を散歩とかしてきたらやるから!」


「ダメです。入稿は今日中なんですから。ちゃんと締め切りは守ってもらわないと」


「大丈夫だって!一日くらい伸びたってなんとかなるって印刷の人が--」


「一日締め切り守れなかったら、来週予定されていた王子の休暇を倍の二日分カットして隣国の大臣との謁見を入れますが」


「鬼ぃぃぃ!やめてよ!そういう脅迫やめてよ!」



 絶叫が響く、(やみ)の王子の執務室にて。



「……逃がしませんよ?私たち『近衛兵』が居る間は、絶対に締め切りは守らせますからね」


「休載とアシスタントぷりいいいず!」



 今日も王子は、原稿アップの修羅場と、容赦なき『締め切りを守る者達(たんとう)』との戦いに、泣き喚くのであった。







ちなみに某ガールズトーク?の終わりに――



「あ、ちなみにことあるごとに含み笑いしながら『了』とか呟いちゃう貴方も、もうダメな人ですから」


「ばれてる!?」


とかあったとかなんとか。 

どうすんだこれ



今日か明日、蛇足的な人物紹介その2 を投下します。

その後 「アノンエピソード集 幼少期編」とかを投下予定

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