愛・コンタクト
───世の中には
見てもいいものと
いけないものがある───
廊下を独特のステップで駆ける音。
あのコに、違いない。
「聞いてぇぇええぇぇ!!るくちゃあぁぁぁん!!」
奏城るくは、長いストレートの髪をさらりと揺らしながら振り向いた。
叫びながらやってきた宇月ゆなは、
るくの肩をがっしりつかむ。
勢いがあって、すごい力だ、るくは圧倒された。
おっと、眼鏡が落ちちゃうじゃないか。
「あたしぃぃ、佐原くんと付き合うことにぃぃ!!」
「おめでとう」
るくは驚いた様子もなく、さらりと言った。
それが気に入らなかったのか、
驚くと思っていたのだろう、
「なんか、知ってたよな反応だね?」
ゆなは少しふくれ、ゆな、つまらん、と言った。
それを聞いて、るくに衝撃が走った。
そうだよ、
知っていたから、この反応なんだよ───
「そっ、そんなことないよ!!おめでと〜!」
心の内とは裏腹に、
わざとらしく手をあげて、”やったー”のポーズをした。
一般の人なら疑ってしまうところでも、
ゆなはすぐに信じるし、疑うことを知らぬようだ。
単純で良かった…
”素直”という意味で、るくはゆなのことが好きだ。
誰に対しても明るく、人見知りのしないゆなだからこそ、
少し”くせ”のあるるくと、中学に入って3年生になる今まで、
ずっと仲良しでいることが出来たのである。
ところでるくの”くせ”とは、ふたつある。
ひとつは、ゆなとは逆に、人見知りだということ。
そしてもうひとつ───
私は、このだて眼鏡を外し、
人の瞳を「直接」見ると、
その人の、
今一番愛している人が、見えるのだ───
見え方は「幽霊」のようだ
見つめた本人のすぐ横に、ぼやっと顔が見える
好きな人が見えない、ということはない
異性でなくても、親や、友達が一番大事、ということもあるからだ
なぜ見えるのかはわからない
そして、なぜ「わたし」なのかも───
この能力により、ゆなと、ゆなのできたて彼氏、佐原君の、
好きな人を事前に知っていたので、いつかはこんな日がくると、
驚くこともなかったというわけだ。
わかっているよ
これは、見てはいけないものなんだって
そして最近、もうひとつわかったことがある
私は「恋」をしたことがないし、興味がない
だけど、それは───
「あたっ」
るくは頭部に痛みを感じた、ぽかっという軽い音の。
振り向くと、そこには同じクラスの新野颯太が、口元をほころばせながら立っている。
いつもいつも、こいつは───!
「そんなとこに突っ立ってると、邪魔なんだけど?」
言いながら、彼は私のだて眼鏡をはずしてしまった。
こいつはもしかして、私が目が良いことを、知っているのか?
いや…ただの、いつものいたずらなんだろうな。
「ちょっと───…」
私は、何も遮るもの無しに、彼の瞳を見つめてしまった。
もしかしたら、私は恋をしているのだろうか?
誰だって、自分のことが一番わかっているようで、わかっていないのだ
これはその、暗示なんだろうか?
「恋」をしたことがないし、興味がないというのはきっと言い訳で───
新野は何かといつも、私に絡んでくる。
顔を合わせば、眼鏡ちゃん、と言い張るし、
自分の身長を生かして、頭をぽんぽん叩き、子ども扱いしてくる。
その度に、私はいらいらしていたのはずなのだが───
知っていたよ
私、好きな人がいるんだ
だって、彼、今見つめてしまった人の
好きな人だけは、見えないから
「…返して」私はうつむきながら、手を出した。
「…お?今日は、いつになくしおらしい反応じゃん。好きなやつでもできたか?」
新野は片手をズボンのポケットに突っ込みながら、私の眼鏡を返してくれた。
見なかったことにしよう
見ることができても、見ないほうがいいものもある
「そうかもね、できたのかも」
「…まじ?」
私はこれからも、見てはいけないものを見てしまうんだろう
だけど、きっとがんばるから
目と目で見なくても
心の瞳で見ることができるように
まだまだ未熟です…でも目を通してくださっただけで嬉しいです★