悪役令嬢になれば俺は断罪されないのでは?
俺は転生術というものを持っている。しかし、それがうまく人生を支えたことはない。
むしろ、恐怖心を少しずつ重ねていっているところの方が大きい。
理由は単純だ。断罪されるからである。
一回目の罪状は『令嬢を怒らせた罪』だった。
これは仕方がない。俺が彼女に対して不敬な態度を取ったからだ。
これによって俺はギロチン送りになった。
二つ目の罪状は『令嬢を満足させられなかった罪』だ。
これはもう彼女の趣味が合わなかったというのが大きいだろう。
チョコレートよりホワイトチョコレートが欲しかったという理由だけで処刑された。
理不尽だったのが『満足させられなかった罪』という謎の罪状の影響でやたら処刑前に色々言われたことか。
そして三つ目の罪状。これは『令嬢に逆らった罪』だ。
詰まる話が反逆罪だが、どうにも彼女がきな臭いと思った俺は革命を起こしてみることにした。
俺の方が立場が弱かったので、当然負けてしまって処刑されたのだが、その時に俺は気が付いたのだ。
……彼女が『悪役令嬢』と呼ばれる存在であることを。
悪役令嬢。それは、物語において悪の役割を担う令嬢。
風の噂では報われたり改心するという話があるらしいが、現実はそうそううまい話はない。
彼女はきっとこの先も何回でも俺を処刑するだろう。
ならば、俺はどうするべきか。
悪役令嬢に処刑される王子という立場になるくらいならば、俺自身が悪役令嬢になればいい。
そう思った。
「ふふふ、私のメイク技術は完璧なのだよ」
言葉にする時はわざと『私』と言うようにして、優雅なドレスを身に纏う。
メイド達の身だしなみをよいものにする為に、俺はメイク技術を研究してきた。
どこにでても相応しいレディでいられるようにする技法が今、役に立っている。
黒ゴシックのドレスを身に纏い、フリルがいっぱいの傘を装備して外を歩く。
どうせ、王宮にいても処刑されるだけなのだ。
なら、あの悪役令嬢から離れていくことを考えるべきだ。
側近には、ついに病んでしまったかと言われたものの気にしない。
そろそろ処刑の痛みからは回避したいのだ。
「さて、悪役っぽいことをするべきか」
不敵に笑い、人を馬鹿にする態度を取ればいいのだろうか。
……いや、それはよくないだろう。あまりになんていうか、可哀想だ。
行きつけのカフェテラスで、慌てずに一服する瞬間。
店員に声を掛けられても、俺は優雅に接していた。
「高貴な方ですね……なにか、味に不服とか、ないでしょうか」
「ふむ、そうだな。よい味わいだ。君の店はきっと繁盛する」
「あ、ありがとうございます!」
……うまくいかないものだ。
処刑するというのは恐ろしいことだ。
そういう言葉を口にするのは到底できない。
「このままでは堂々巡りだな」
きっと本物の悪役令嬢は俺の噂を悪い方面に流していくに違いない。
そうすると、俺はまた処刑される。
終わりだ。詰んでいる。
「はぁ、私は籠の鳥かもしれないな……」
運命を変えてくる存在はいない。
きっと、これからも処刑され続けるだろう。
そう思いながら街を歩いている時だった。
トン。
「おい、そこのお前」
横暴な態度の男が俺の肩を触って来た。
黄金のアクセサリーを全身に付けている以上、身分は高い存在なのかもしれない。
「なんだ、君は」
「オレの妃になれ、いや、なってほしい」
……は?
一瞬思考が固まってしまった。
俺の女装は完璧だ。
しかし、妃になれというのは驚いてしまう。
あまりにも急な話だからだ。
「礼儀というのを知らないのかね」
「お、オレだって変なのは自覚してる。だが、その綺麗だったから……」
なるほど。
なるほど、なるほど。
傾国の美女の気持ちというのはこういうものなのかもしれない。
あの悪役令嬢が俺を陥れるわけだ。
そう思いながら、俺は彼を困らせるわけにはいかないから、やんわりと断ることを決める。
俺はきっと悪役令嬢には向いていないからだ。
「……残念だが、それはできない」
「な、なんでだ? 急だったからか? オレが、悪いなら謝るよ」
「いや、違う。俺が男だからだ」
そう言って目つきと態度を変える。
……まぁ、髪は地毛の白いロングで、服も変わらないので態度以外では示せないが。
「そんな冗談を」
「いや、嘘じゃない。俺は男だ」
「……本気でいってるのか?」
「あぁ、大マジだ」
困惑しながら俺の姿を見つめる彼。
少し考えたのち、彼は眼を光らせながら話してきた。
「最高じゃねえか……!」
「は?」
「華奢な男性! ドレスの似合う存在! そういうのを待っていたんだ!」
その喜び方は異様で、親愛のほかにも様々な感情があるように思えた。
「なぁ、お前、どういうやつなんだ? 教えてくれよ! オレは砂漠の王子! 交易で悩んでた!」
「……一応、このドレス王国の王子。悪役令嬢に殺されそうになってたから、この恰好をしてた」
「殺されそうになってた?」
「話すと長いんだが……」
何回も殺されたことを説明し、砂漠の王子に状況を説明する。
すると、悩みを打ち明けた瞬間、砂漠の王子が提案してきた。
「オレの国の令嬢として匿われるっていうのはどうだ?」
「こっちの王子不在はどうするんだ?」
「砂漠の国には不思議な水晶があってな。それで影武者を作る」
「なるほど、賢いな。で、俺はなんで令嬢として匿われるんだ?」
「安全だし、その恰好のお前が好きだからだよ」
「……本気で言ってるのか?」
「本気だよ。そうじゃなければ、こんな提案はしない」
真剣な眼をしながら俺の方を見る砂漠の王子。
一目惚れだとするのならば、その心意気は答えてはおきたい。
「はぁ、わかった。付き合おう。その代わりに身の安全は確保するんだぞ」
「当たり前だ! それに、交易の為にも交友関係も結びたいからな!」
「……も?」
「いーや、なんでもない。じゃあ、行くぞ! 俺の国に!」
そうして俺は砂漠の王子と共に歩む道を進むことになっていった。
砂漠の国では女性ものの衣類が交易で賑わっていた。俺は男性用に使えるものをうまく選別しながら、ドレスの国に取り入れることを意識しながら両国の繁栄を導いていった。
……その最中、俺は何回も女性ものの衣類を着せられたりもしたが。それも、側近らしい位置に座らされながらも。
「この行動に意味はあるのか?」
「オレが見てて楽しい。それに、悪い女に隙を見せないようにできる」
「なるほど、俺自身が悪役令嬢らしい姿を取ればとるほど、警戒させられると」
「そういうことだ、それに……」
俺の方を振り向いて、笑顔で言葉にする。
「イケメンだし、美人だからな。お前」
「……誉め言葉として受け取っておこう」
のちに得た情報では、俺に対して無実の罪を押し付けていた悪役令嬢は少しずつ大人しくなっていったそうだ。
すべてがうまく行くかどうかはわからない。しかし、令嬢を演じる自分というのも悪くないような気はしてきた。
これが、悪役令嬢なのかはわからない。しかし、断罪されないのであればそれは幸せなのかもしれないとは心から思えた。




