義理と人情の「炊き出し」革命
「……何だい、このスカスカのスープは。これじゃあ外に出る元気も湧かないだろう?」
リリアーヌは、屋敷の台所で木べらを片手に眉をひそめた。 目の前にあるのは、具がほとんどない塩辛いだけのスープと、石のように硬い黒パン。領民や、更生中の元ならず者たちが毎日食べている食事だ。
「お嬢、いやリリアーヌ様。この土地は土が死んでて、まともな野菜も育たねぇんです。これでもマシな方で……」
元野盗のリーダー、今は「雑用係」のジャックが申し訳なさそうに頭を掻く。
「ふん。土がダメなら、知恵を絞りな。……セバス、例のものは届いてるかい?」
「はい、お嬢様。近隣の村から買い集めた『屑肉』と、家畜の餌にされていた『大豆』、それに余り物の『根菜』でございます」
リリアーヌは不敵に笑うと、ドレスの袖をタスキで括り上げた。
「よし。まずは、この土地の連中に『本物の飯』ってやつを教えてやるよ」
秘策1:旨味(UMAMI)の暴力
リリアーヌが作ったのは、前世の組の炊き出しで一番人気だった「具沢山の特製豚汁」……を、この世界の食材で再現したもの。
ただの塩味ではなく、大豆を煮詰めて作った即席の調味料(味噌に近いもの)と、屑肉をじっくり炒めて出した脂、そして隠し味に地元で採れる「魔力の宿るスパイス」を少々。 大きな鍋から、暴力的なまでに食欲をそそる香りが漂い出す。
秘策2:新特産品「テリヤキ・ジャーキー」
さらに彼女は、余った肉を薄く切り、酒と蜂蜜、そして独自調合の「極道醤油(仮)」に漬け込んで天日に干した。
「これを『特産品』として売り出すよ。保存が利いて、酒の肴に最高。街道を通る商人たちに卸せば、金になる」
数時間後。 広場には、香りに釣られた領民たちが恐る恐る集まっていた。
「さあ、並びな! 遠慮はいらないよ、今日は私の奢りだ。その代わり、食べた後はきっちり働いてもらうからね!」
リリアーヌが大きな玉杓子を振るう。 一口食べたジャックが、目を見開いて叫んだ。
「な、なんだこれ……! 腹の底から熱くなってくる……。こんなに美味いもん、生まれて初めてだ!」
「お嬢……あんた、神様かよ!」
あちこちから上がる歓喜の声。その喧騒の中、監視役のカイルが背後に立っていた。
「……リリアーヌ。君は、一体何を考えている。令嬢が炊き出しなど……」
「硬いこと言いなさんな。ほら、あんたの分だよ。毒なんて入ってないから、黙って食べな」
リリアーヌに無理やり皿を押し付けられ、カイルは困惑しながらもスープを口にした。
「っ……!」
濃厚な肉の旨味と、野菜の甘み。そして、どこか懐かしく、魂が震えるような深い味わい。騎士団の豪華な食事よりも、ずっと「生きていく力」をくれる味だった。
「……美味い。信じられないほどに」
「だろう? 人を動かすのは恐怖じゃない、飯だよ。……さあ、カイルさん。食べたならあんたも手伝いな。あっちで薪が足りなくなってるよ」
「……俺は監視役だと言っているだろう!」
と言いつつも、カイルは文句を垂れながら斧を手に取り、薪割りを始めた。
リリアーヌはその様子を眺めながら、満足げに目を細める。 胃袋を掴み、心を掴む。辺境の「シマ」が、少しずつ、けれど確実に彼女の色に染まり始めていた。




