正規軍の悲哀
宴もたけなわ、焚き火のそばで震えていたのは、捕虜となったはずの王都軍の若手兵士たちだ。 彼らはリリアーヌの前に引きずり出され、処刑でもされるのかとガチガチに歯の根を鳴らしていた。
「……おい、いつまで震えてるんだい。見苦しいよ」
リリアーヌが声をかけると、彼らは「ひいっ!」と悲鳴を上げて地面に伏せた。
「助けてください! 私はただ、命令に従っただけで……!」 「殺さないで……っ、まだ故郷に妹がいるんです!」
「誰が殺すなんて言ったんだい。……ジャック、こいつらにも例のブツを出しな」
リリアーヌの合図で、ジャックが巨大なボウルを運んでくる。そこに入っていたのは、揚げたての黄金色に輝く『特製唐揚げ』と、炊き立ての白い飯、そして出汁の香りが鼻をくすぐる豚汁だ。
「……え?」
「いいから食いな。空腹じゃまともな反省もできないだろう?」
兵士たちは顔を見合わせ、恐る恐る箸(リリアーヌが導入した文化だ)を取った。 一口、唐揚げを口に含んだ瞬間。
「……ッ!? な、なんだこれは……。肉汁が、溢れて……」
「こんなに柔らかい肉、王都の配給でも食べたことがない……!」
彼らは無我夢中で飯を口に運び始めた。 熱々の豚汁を啜り、旨味の洪水に涙をこぼす。前世の知識と現代のスパイスを融合させたリリアーヌの料理は、王都の味気ない食事しか知らない彼らにとって、まさに「概念の破壊」だった。
「……母ちゃん……俺、こんなに美味いもん、初めて食ったよ……」
一人の兵士がボロボロと涙を流しながら呟いた。
「王都じゃ、上官に殴られ、泥水を飲まされ、挙句の果てに捨て石にされて……。でも、ここには……こんなに温かくて、美味い飯があるのか……」
「そうだろ?」 リリアーヌが、いつの間にか彼らの隣に座り、大きな皿に肉を追加してやる。 「あんたたち。王都に戻って、またあのバカ王子のために命を安売りしたいかい? それとも……ここで私と一緒に、この飯を毎日食える国を作るかい?」
兵士たちは、互いの顔を見合わせた。 リリアーヌの言葉は、無理強いではない。けれど、その圧倒的な「包容力」と、胃袋から伝わる「幸福感」が、彼らの心を完全にへし折った。
「……姐さん!!」
一人が、叫ぶように地面に頭を擦り付けた。
「俺、もう王都には帰りません! 剣を捨てて、鍬を持ちます! この飯のためなら、俺、なんだってやります!」 「俺もです! 姐さんの下で、一からやり直させてください!」
「ははっ、いい返事だねぇ。ジャック、こいつらに新しい作業着を用意しな。明日からは戦士じゃなくて、このシマの『ファミリー』だよ」
「へいっ、姐さん!」
カイルが隣で、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに呟く。 「……二千の軍勢を、飯だけで寝返らせるとはな。君のやり方には、どんな軍事教本も勝てそうにない」
「腹が減ってちゃ、正義も忠誠もただの空論だよ。……さあ、新しい仲間も増えたことだし。もう一度乾杯といこうか!」
こうして、かつての敵軍は、その日のうちに最強の「建設部隊」へと生まれ変わった。 リリアーヌの「シマ」は、こうして一晩ごとに、より大きく、より強固なものへと成長していくのだった。




