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追放された悪役令嬢ですが、中身が極道の娘なので辺境を最強の「シマ」に作り変えます  作者: 丸ノ内きみこ


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勝利の美酒

王子が退散した後、辺境の領地はかつてない熱気に包まれていた。 広場には巨大な焚き火がいくつも焚かれ、リリアーヌの指示で用意された大鍋からは、肉と香辛料の混じり合った暴力的なまでに美味そうな香りが漂っている。


「さあ、遠慮はいらないよ! 今日は無礼講だ。腹一杯食べて、嫌なことは全部酒と一緒に流しちまいな!」


リリアーヌの声が響くと、領民も、元野盗も、さらには降伏してそのまま残った一部の王軍兵士までもが、一斉に歓声を上げた。


「姐さん、この『唐揚げ』ってやつ、最高っす! ビールが止まらねぇ!」 「こっちの『モツ煮』もたまんねぇな! 身体の芯から熱くなってくるぜ!」


かつては互いに睨み合っていた者たちが、今は同じ鍋を囲み、笑い合っている。リリアーヌは特等席の切り株にどっしりと腰を下ろし、湯呑み(の中の強い酒)を煽りながらその光景を眺めていた。


「……いい光景だねぇ」


「ああ。君が言っていた通りだ。飯を食えば、人は敵ではいられなくなる」


隣に座ったカイルが、木皿に盛られた料理を器用に口に運びながら頷いた。彼はもう重苦しい鎧を脱ぎ捨て、袖を捲り上げたラフな格好だ。その表情からは、王都にいた頃の険しさが消え、一人の男としての柔らかな余裕が漂っている。


「カイルさん、あんたも飲みなよ。ほら、これは私の秘蔵の銘柄さ」


リリアーヌが差し出した盃を、カイルは迷いなく受け取り、一気に飲み干した。


「……くっ、相変わらず強いな。だが、悪くない」


「ははっ、強情だねぇ。……ねぇ、カイル。あんた、本当に良かったのかい? 騎士の誇りも、王都の暮らしも全部捨てて、こんな掃き溜めの用心棒ボディーガードになってさ」


リリアーヌはわざと茶化すように聞いたが、カイルは盃を置くと、真剣な眼差しで彼女を見つめ返した。


「誇りなら、ここにある。……王に媚び、民を虐げる騎士など、ただの着飾った人形だ。俺は今、自分の意志で、守るべきもののために剣を振っている。これ以上の誇りなど、どこにあるというんだ?」


カイルはそっと、リリアーヌの手に自分の手を重ねた。


「それに、この『掃き溜め』を一番の楽園に変えたのは君だ。……俺は、その楽園の女王に一生仕えると決めている」


「……あんた、酔ってるね。そんな歯の浮くような台詞、シラフじゃ言えないだろう?」


リリアーヌは照れ隠しに顔を背けたが、その耳たぶが赤くなっているのを月明かりが暴いていた。


「姐さーん! 樽が空きました! 次、行っちゃっていいっすか!?」


ジャックが酔っ払った顔で叫ぶ。リリアーヌは立ち上がり、コートを翻して空中に拳を突き上げた。


「当たり前だろう! 祝いの席だ、朝まで飲み明かすよ! 音を上げた奴から、明日の肥溜め掃除の刑だからね!」


「「「うおおおおおぉぉぉ!!!」」」


夜空に響き渡る笑い声と歌。 前世では孤独な闘いの連続だった「姐さん」の魂は、今、この異世界の辺境で、誰よりも温かい「ファミリー」に囲まれていた。


隣には、背中を預けられる最強の右腕。 目の前には、自分を信じてくれる愛すべき民たち。


リリアーヌは、もう一度カイルと盃を合わせ、極上の気分で夜の風を感じた。 悪役令嬢の破滅ルートなんて、もうどこにも見当たらない。ここにあるのは、彼女が自ら切り拓いた、仁義と愛に満ちた新しい「シマ」の物語だ。

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