【第17話】02 〜 二条美香の決意 〜
「美華さん、泣いているの?」
雨宮香澄は如月紬の体を抱いたまま、十三階と十二階をつなぐ階段の踊り場に踞っていた。
「足の悪いこの体でここまで上がるのは、さすがに骨が折れたわ」
小野寺の体に憑依した二条杏香が、となりに腰を下ろす。
視線を合わすことなく前を向きながら訊ねた。
「美華さんの力で、その子は救えないの?」
雨宮香澄が少しだけ顔を上げた。
「紬は自殺じゃないから『地獄界』には堕ちない。仮に生き返らせても、それこそ地獄のような生活に連れ戻されるだけ……。ならば、このまま逝かせてあげたほうが……」
二条杏香が、雨宮香澄の背中にそっと手を添えた。
「美華さん、それでも生かせるのなら生かしなさい。彼女の生きる力と、彼女を支える人間の力を信じなさい」
雨宮香澄が、泣きはらした目を二条杏香に向けた。
「お姉さま……」
「あなたの体も持ち主に返すの。これ以上、干渉してはならない。彼女たちは試されて人間界にいるのだから……」
逡巡していた雨宮香澄だったが、やがて決意したように頷いた。
雨宮香澄が如月紬の体を強く抱きしめる。
すると、ふたりの体を金色の光がやさしく包み込んだ。
香澄の腕のなかで、次第に紬の体に温かさがもどっていく。
背中が小さく膨らみ、かすかに寝息もたてはじめた。
「香澄……ねえちゃん……」
ゆっくりと瞼を開けた紬に、香澄は慈愛に満ちた表情で語りかけた。
「元気でね……。いつまでもあなたは、わたしの妹よ……」
*
香澄と紬が目を覚ます。
朝日の差し込んだ、馴染みのあるいつもの場所。
子ども食堂『つながり』のテーブル席で、ふたりはうつ伏せに寝ていた。




