【第17話】01 決意 〜 輪廻と土竜の決意 〜
メグルの背中から吹き出す黒い霧が完全に止んだとき、咳き込みながら手術台のモグラが体を起こした。
床に倒れたメグルに気がつき、抱きかかえる。
「いったい何が起こったんだよメグル……。まさかおいら、お前さんを倒しちまったのか……」
モグラの言葉が終わるや否や、メグルの眉がぴくりと上がる。
尋常ならざる自尊心の強さが、その瞼を押し開けたのだ。
「舐めるなよモグラ……。お前なんかに、ぼくがやられるものか……」
虚ろな視線を彷徨わせながら続ける。
「安心しろ……誘拐された子どもはすべて魔鬼になった……。ある意味、人間に誘拐されるよりマシだ。取り敢えず、まだ生きているんだからな……」
眉間に深いシワを刻みながら、なんとか自分の力で体を起こす。
「いいかモグラ……。これまでに誘拐した子どもの情報を金山から問いただすんだ。そして子どもたちの体を魔鬼から奪い返してくれ……」
「奪い返してくれって……お前さんはどうする気なんだよ……」
立ち上がろうとするメグルの体を支えながら、モグラが訊ねた。
メグルの視線が、漆黒の闇へと大きく口を開けた手術室の鏡に移る。
「……ぼくはこの越界門から、魔界へ越界する!」
「なに言ってやがんだよ! お前さん、気でも違ったのか!」
メグルがわずかに笑みを浮かべる。
「仮死状態にする注射で体のダメージはでかいが、頭はなんとか正常だ……。以前から一度、行ってみたかったんだよ……」
「ばかやろう、観光に行くんじゃねえんだ! 生きて帰れねぇぞ!」
モグラが力任せに肩を揺さぶった。
がくんがくんと頭を前後に揺らされながら、メグルがこたえる。
「薄々感づいていたんだ……。六道にはそれぞれの世界に、相応しい霊格の魂が振り分けられている。ならば本来、魂の移動は頻繁に起こらないはずだ。
飛び級で昇界しているぼくは、過去に一度、何かの理由で地獄界まで堕ちているってことになる……。
もしくは、六道の魂ですらなかったのかも……」
「まさかお前さん……。飛鳥みたいに、自ら魔鬼になったなんて……」
メグルは何もこたえず、普段見せないような笑顔を向けて、モグラの肩を力強く掴んだ。
「モグラ、ぼくが行ったらこの鏡を壊せ。それが本来の管理人の務めだからな……。いつまでもこの世界にいてくれよ、またいつか……必ずぼくは……人間界に戻ってくる!」
モグラの腕をほどいて、メグルは越界門に身を投げた。
その姿が、越界門の漆黒の闇に吸い込まれていく。
「ばかやろう! いつもひとりで突っ走りやがって! おいら、お前さんについて行くって、心に誓ったのによう……」
むせび泣くモグラの声が、十三階の廊下を静かに響く。
空を覆っていた黒雲はいつのまにか姿を消し、白銀色の満月がやさしく廃病院を照らしていた。
*
「美華さん、泣いているの?」
雨宮香澄は如月紬の体を抱いたまま、十三階と十二階をつなぐ階段の踊り場に踞っていた。




