表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻と土竜(メグルとモグラ) 芝蘭結契篇  作者: ひろみ透夏
第16話 煉獄長

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/61

【第16話】02

 

 割れた窓から猛烈な勢いで流れ込んだ大量の水に、メグルは壁に叩きつけられた。

 そのまま激流とともに廊下を流される。



「……相変わらず邪智深(じゃちぶか)いやつ。不意打ちも躊躇なくやるか」



 水のなかで体勢を直したメグルは、即座にモグラの姿を捉えようと視線を走らせた。


 廊下を走る激流は一本の水柱となり、割れた窓から外へ飛び出していく。

 その姿はまさに空を舞う水龍だった。


 ずぶ濡れのメグルが白い息を吐きながら立ち上がり、窓枠に飛び乗った。背中から黒い霧を吹き出し、翼のように広げる。



 その姿はまさに黒い揚羽蝶――。



 黒雲に覆われた冷たい雨が降りしきる空のもと、旋回して迫り来る水龍に狙いを定め、窓から飛び出した。




 そのときーー。


 突如頭上から現れた二匹目の水龍が滝のごとく駆け下りて、大量の水とともにメグルを地面に打ちつけた。



「無駄な感情は一切持たぬ。目的を達成するのに手段は選ばんよ」


 衝撃で抉られた地面が池となり、メグルの背中がうつぶせに浮いている。その様子を廃病院の屋上から見ていたモグラが、とんっと飛び降りた。



 二匹の水龍の背を滑るようにして、地上に降り立つ。


「無意味な正面突破とは、感情が先立つ輪廻メグルの魂が混ざったか……」


 慈悲とは無縁の表情で、水面に浮かぶメグルの背中をステッキで突いた。




 瞬間――。




 自らの背中に激痛が走った。

 思わず膝をついたモグラの背中から、血がほとばしる。



「貴様のような老獪(ろうかい)なジジイに、無策で飛び込むものか」



 振り返ったモグラの目に、ジャケットを脱いだメグルの仁王立ちする姿が映った。

 鋭く尖った爪の先から、血が滴り落ちている。


 メグルは地面に激突した直後、水飛沫に紛れて廃病院一階の廊下に身を潜めていた。


 モグラの表情が、おだやかな笑顔に変わる。



「なかなか面白かったぞ、また今度あそぼうな……」



 血反吐を吐きながらそう言った途端、二匹の水龍がモグラの体を飲み込んで、螺旋を描きながら飛び上がった。



「……逃すかっ!」



 十三階の窓に飛び込んだ水龍を追って、メグルが飛び上がる。

 水浸しの廊下には、所々に血が滲んでいた。


 その血を追って、廊下の角を曲がる。

 闇に沈んだ廊下の突き当たり、弾け飛んだドアを跨いで灯りの漏れる手術室に入った。


 血溜まりの手術台の上で、モグラは意識を失っていた。




「所詮、こいつも使い捨てか……」


 鋭く尖った爪を、モグラの喉元にあてる。


「哀れなやつだが、また閻魔のジジイに体を奪われたら厄介だからね」



 そのまま喉を掻き切る。


 ……つもりだったが左腕が動かない。


 それどころか、黒い腕に血色が戻っていく。





「如来との契約を破り、魂を闇へと(いざな)う魔鬼よ。我が()すことは、如来の()すことと知れ……!」





 メグルは思わず、右手で口を押さえた。

 その言葉は、意識せず己の口から発せられていた。



「ぼくの大事な相棒を、ぼくに殺させるな……二条飛鳥!」



「しぶといやつめ、完全に抑え込んだはずなのに……! 出しゃばるな六道メグル! 大人しく眠っていろっ……!」



 大声で喚き散らすも、時すでに遅し――。

 メグルの全身は硬直し、びくりとも動かなかった。




「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界の法を犯す者よ。三世十方(さんざじっぽう)を統べる如来の名において、魔界送りの刑に処す!」




 メグルの額に玉のような汗が浮かぶ。



「愚かなやつめ! この動かぬ体で、どうやって魔捕瓶を使うつもりか!」



 嘲笑うメグルの紅い瞳が、しかし元の色に戻っていく。

 二条飛鳥は、己の魂がメグルの体から抜けていくのを確かに感じた。



「閻魔のやつにしてやられた……。なるほど、越界門か……」



 すっかり観念した声色で、メグルがつぶやいた。


 その背中から黒い霧が吹き出している。

 それは鏡に大きく口を開けた越界門のなかに吸い込まれていた。



「二条飛鳥……! お前の無限封印を解き、越界門から『魔界』へ戻す。だが、ぼくはお前を許したわけじゃないぞ……」



 メグルが崩折れて、床に倒れた。

 その口から二条飛鳥の声が漏れる。



「それはわたしの台詞だメグル。裏切り者を我らは絶対に許さない。いつかまた、お前の体を奪ってやる……」



 その言葉を最後に、二条飛鳥の魂はメグルの体から完全に消え失せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ