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輪廻と土竜(メグルとモグラ) 芝蘭結契篇  作者: ひろみ透夏
第15話 魔鬼

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【第15話】03

 

 起こしていた首を戻し、メグルが天井を仰ぎながら静かに笑う。

 不可解なメグルの態度に、如月紬が眉をひそめる。



「やっぱりな……。魔鬼なんて、たいしたもんじゃない……。結局お前らは人間を、いや六道を生きるすべての魂の本質を何も理解してやしない」



 息も絶え絶えにメグルが続ける。


「ぼくは子ども食堂で魂の繋がりを見た……。

 越界者、坂田佐和子の愛情が……、彼女の作った温かい料理が『つながり』に訪れる全ての人々の心を繋げ、貧困ゆえの不遇を吹き飛ばす光景を目の当たりにしたんだ」


 如月紬が笑い飛ばす。



「そんな彼女を心から支援していた金山も、簡単に金の力で人身売買の話にのった! 坂田佐和子も『つながり』を維持するためなら簡単に金山に尻尾を振った!


 すべては、金、金、金!


 魔鬼が創造した『金』というパワーに抗えやしないのだっ!」



 身動きが取れないはずのメグルがじりじりと体を起こし、如月紬に手を伸ばす。

 驚いた如月紬は思わず手術台から飛び降りた。



「彼女から子ども食堂を奪おうとした、貴様はあああっ……!!」



 しかし、伸ばしたその手が、力なくその場に落ちた。

 メグルの意識が深い闇に沈んでいく。


 メグルの体は手術台から転げ落ち、如月紬の足元に前のめりに倒れ込んだ。



「……無理するな管理人、お前はすでに死にかけているのだ」


 床に転がるメグルを一瞥すると、如月紬は手術室の壁にかけられたシーツを外した。

 そこに現れたのは、壁一面に貼られた巨大な鏡――。


「満月の今夜、ここで仮死状態になった子どもの体を魔鬼が奪う。すでに一年で十五人もの魔鬼がここで人間の体を得た。雨宮香澄も、ここで新たな魔鬼になるはずだったのだ」


 紬がメグルの肩を掴んで仰向けにした。



「だが面白いことを思いついたぞ管理人。貴様の体を魔鬼が奪ったらどうなるか? 試してみようじゃないか」


 如月紬がメスを手に取り、鏡の前に立った。

 自らの掌を切り裂き、血だらけの手で鏡に巨大な六芒星を描く。



「開け越界門! 出でよ我が同志! 満月の今夜、生贄に捧げたこやつの体を奪い取れ!」



 手術台を照らしていたライトが瞬くように明滅する。

 手術室を映していた鏡が、一瞬の闇に紛れて黒い霧に覆い尽くされる。


 やがて黒い霧は、描かれた六芒星を中心に猛烈な勢いで渦を巻いた。



「今宵もついにこの時がきた! お前の体を我が物にしようと、たくさんの同志がやってくるぞ!」



 瞬間、鏡に描かれた六芒星が黒い渦に吸い込まれて消えた。

 越界門が、ついにその大きな口を開けたのだ。


 手術室に轟々と唸りをあげて風が渦巻く。

 漆黒の闇へと続く越界門をのぞきながら、狂喜する如月紬。



「待ってくれ……」



 その小さな背中に、焦点の定まらない視線を彷徨わせながらメグルが話しかけた。


「ぼくの体を魔鬼に奪わせるのを許そう……。そのかわり、ひとつ頼みを訊いてくれ……」


 足元に転がる気息奄々のメグルの提案に、如月紬が声を上げて笑った。




「管理人が魔鬼と契約するのか? ……面白い、訊いてやろう」



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