【第11話】04(挿絵)
メグルはこんなにも凶悪な事件を人間が犯していることにショックを受けた。
人間界の悪事の全てを、越界者が起こしている訳ではないことぐらいメグルも知っている。
しかし管理人として人間界へ降りてきて、魔鬼や越界者が人間を惑わし、悪事を犯させるきっかけを与えている現実を目の当たりにして、いつしか人間は被害者だと決めつけていた。
くたびれた服をまとい、背中を丸めて弁当をむさぼる小野寺の姿を見て、メグルの目から涙が落ちる。
(この老人は自分の犯している罪の深さに気が付いていないのか、いや気づいていないはずがない。
どうしようもない今までの人生を……諦めにも近い残された人生への絶望を、己の欲望に向き合うことで誤魔化し、もたげかけた罪悪感を強引に押さえ込んでいるのだ……)
「きひひ……いまごろ泣いてやがる。やっと事態が把握できたか……。さてと、夜中にお前らを屠殺場に運ぶから、せいぜいこの世を惜しんでおくんだな……」
腰をあげた小野寺が、電灯の明かりを消して部屋から出て行った。
ドアノブに鍵を掛ける音に続き、足を引きずる音が遠ざかっていく。
外の街灯に弱々しく照らされた六畳一間の和室が、再び沈黙に包まれる。
壁にもたれ、死んだように黙り込んでいた加藤誠司が、静寂のなかで独り言のように呟いた。
「そうか……先輩もダチも売られてたのか……。どうりで突然いなくなっちまったわけだ……俺はてっきり家出でもして東京にいるのかと……。
俺の親も……捜索願いは出さねえな……。俺らみたいな社会の底辺のガキが消えたところで、どうせ家出で片付けられる……。
考えてみりゃあ、消えた先輩もダチも、そんな事情のやつばかりだ。
坂田さんに相談しちまったから狙われたのか……」
その目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。
「俺、自分のことだけじゃなく、ダチの家のことも全部しゃべっちまった……。
なんて馬鹿なんだよ! 俺の責任だ! ちょっとは世の中の役に立ててると思って調子に乗っちまった。
世の中なんて……。人間なんて、やっぱり金のためなら何でもやる、汚ねぇ奴らばっかなのにようっ!」
叫びながら頭を壁に打ち付ける。
和室の砂壁が、加藤誠司の血で黒く染まった。
「うるせーぞ、てめえら、何してやがるんだ!」
その音を聞いたのか、小野寺が怒鳴りながら戻ってきた。
ドアの鍵を開け、手にしたバットを壁に叩きつける。
「お前らの体はもうお前らのもんじゃねぇんだ! 勝手に傷つけるんじゃねぇ!」
そう言いながら、加藤誠司のロープを引っ張り部屋の真ん中に転がした。
息をあげる小野寺に、メグルが話しかける。
「……すみませんが、ぼくの体に何か巻いてくれませんか? 寒気がして風邪を引きそうなんです……鞄にマントが入ってますから」
ふんっと鼻を鳴らして、小野寺はメグルの鞄をまさぐった。
「……ったく、調子に乗りやがって。風邪を引こうがおれには関係ないが、お前は大事な商品だからな……」
メグルの鞄から引っ張り出した赤いマントを見て、小野寺の眉間にしわがよる。
「……なんか血の匂いがする、うす汚ねえ布切れだな」
文句を言いながら、横たわるメグルの体に巻きつけた。
「もっと強く、ぎゅっと勢いよく巻きつけて……」
「……ったく、息が詰まっても知らねえぞ!」
力任せにマントを巻きつけたとたん、手応えが瞬時に失せた。
小野寺の目の前から、メグルの体が消えていた。
「…………なんだぁっ!?」




