【第10話】03
「遅いな~佐和子さん、どっかで金山とイチャついてやがるのかなぁ……」
子ども食堂のテーブルに突っ伏しながら、モグラは壁の時計を見上げた。すでに二十三時をまわっている。
静まり返った食堂に、時を刻む針の音だけが漂っている。
「なあ、聞いてるのかよう……メグルちゃんよう……」
メグルはメグルで、子どもスペースのカーペットに大の字で寝転び、天井を見つめていた。
「少しは理解し合えると思ったのになぁ……二条美華……」
公園や子ども食堂で見せる、如月紬に対する雨宮香澄の態度。
あの慈愛のこもった眼差しは、偽りのない真実のものだった。
二条美香の氷のような冷たい視線に、雨宮香澄のやさしい眼差しが重なる。
「モグラの言葉の通り、少なからず影響を与えているはずなんだ、雨宮香澄の魂が……」
そのとき、大きな音を立てて食堂の引き戸が開いたので、ふたりは驚いて体を起こした。
「……あなたたち、いつまでここにいる気なの?!」
引き戸を締めながら怒鳴ったのは、坂田佐和子だった。
「とんでもない! 佐和子さんが帰るまでお留守番をしていたんです!」
モグラがあわてて弁明するも、
「今日は泊められないわ、帰ってください!」
佐和子は厳しい表情で言い捨て、食堂のテーブルに座り頭を抱えた。
「何かあったんですか?」
「まさか、金山の野郎に酷いことでも……!」
普段は決して見せることのない佐和子の取り乱した態度に、ふたりが心配して駆け寄る。
「ごめんなさいね、あなたたちに当っちゃうなんてわたし……。金山さんにこのままだと支援を打ち切るって言われたものだから……」
それを聞いてメグルが首をひねった。
「このままでは……? 金山さんは何が不満なんだろう。子ども食堂は沢山の人が利用してるし、みんなの役に立っていると思うけど……」
坂田佐和子が顔を上げて、独り言のようにつぶやく。
「今まで以上に、やらなければいけないのね……」
モグラが拳をぎゅっと握りしめながら訴えた。
「できることがあるなら何でもします! おいらたち、佐和子さんの志に共感してるんですっ!」
メグルも後に続く。
「ぼくなんかで役に立つなら、何でもお手伝いします!」
心のこもったふたりの言葉。
しかし疲れた表情で笑みを浮かべた坂田佐和子は、力なくため息を吐いた。
「本当にありがとう……。でも今夜はこの食堂で考えごとをしたいの。ひとりにさせてください……」
*
「心配だなぁ、佐和子さん……」
公園の芝生広場から、小さく明かりの灯った子ども食堂を振り返り、モグラがつぶやく。
「お金の問題かもしれないな。少しでも料金を取る仕組みに変えないと、続けていくのが難しいんじゃないだろうか?」
凍てつくような夜更けの風にあたりながら、メグルが震える声でつづけた。
「とにかく、このままじゃ凍え死ぬぞ。……何処かにいいマンホールはないか? 今夜は地下に潜って寝よう」




