【第10話】01 決裂
加藤誠司とメグルが『つながり』にもどると、テーブルに雨宮香澄が座り、向かいに座った如月紬に勉強を教えていた。
別のテーブルでは料理を手伝っていたボランティアの大学生たちが楽しげにおしゃべりをしながらコーヒーを飲み、子どもスペースでは赤ちゃんを連れたお母さんが二組、世間話をしている。
加藤誠司が厨房を覗き込むと、モグラがひとりで皿を洗っていた。
「すんません、坂田さんは?」
「ちょっと前に白スーツのスカした野郎がきて一緒に出て行ったぜ。子ども食堂の今後についてディスカッションしたいとか何とかスカしたこと抜かしてたから、しばらく戻らねぇんじゃねぇか?」
「……そっすか」
加藤誠司はテーブルの雨宮香澄に声をかけた。
「じゃあ、俺も今日は家で勉強しなきゃいけねえから、弁当もらって帰るわ」
帰ろうとする誠司の背中に、香澄が声をかける。
「誠司くん、来年調理師免許の試験受けるんでしょ? がんばってね」
メグルも深々と頭を下げて挨拶した。
「おつかれっした!」
加藤誠司が背中を向けたまま片手を上げて、子ども食堂をあとにする。
そこへモグラがやってきて、崩れるようにテーブルに突っ伏した。
「佐和子さんがいない皿洗いは、ただの労働だ……」
雨宮香澄が冷めた目線をモグラに向ける。
「あなたも大変ね。坂田さん、金山さんにお熱だから脈ないよ?」
モグラがテーブルに突っ伏したまま、ほっぺたを膨らませた。
「知ってらい、そんなこと! 金山は危険な男だから、何とかしてあいつの『尻尾』を掴んで、佐和子さんの目を覚ましてやりてぇんだ!」
同じテーブルに座ったメグルに、雨宮香澄が視線を移す。
「……で、どうだった、配達?」
「これと言って別に……。なぜ、ぼくに配達をさせたんですか?」
「さあ……誰かさんの『尻尾』を掴めるかと思って……」
相変わらず雨宮香澄は確信を話さない。するとノートとにらめっこしていた如月紬がひょいと顔を上げた。
「誰が猫なの……?」
「猫……?」
「じゃあ、わんこの尻尾つかむの?」
「わんこなんて可愛いもんじゃねぇ! あいつは狐だ! いや、狸かも知れねえぞ! お前さんを捕まえて、喰べにくるんだぜぇ~!」
モグラに脅かされた如月紬が、奇声を上げて席から逃げ出した。
となりのテーブルの大学生たちも一緒に巻き込んで、せまい子ども食堂の中で追いかけっこを始める。
「何か知ってるんだったら教えてくれませんか? 被害者が出るまえに……」
子ども食堂が笑い声で包まれるなか、メグルが小声で懇願する。
しかし雨宮香澄は、コートのポケットに手を突っ込んだまま、冷めた視線をテーブルに落としていた。
「わたしは黒いオーラが見えるだけ。ほんとのところ、誰が黒幕だかよくわからないの」
それでもメグルが真剣な眼差しで見つめ続けるので、雨宮香澄は小さく息を吐いて続けた。
「……しょうがないわね。雨宮香澄は配達先で命を絶った。彼女の魂はいまでも裏切られた悲しみでいっぱいになってる……。あと、紬ちゃんのことも……」
「あの子のことを……?」
メグルは弾けるような笑顔で走り回っている如月紬に目を向けた。
雨宮香澄も悲しそうな視線で紬を見つめている。
「助けたい……という強い感情に覆われていて記憶が読みきれない。彼女の魂はまだ、ショックと絶望で満たされているのよ……」
おもむろに雨宮香澄がテーブルに片手を置いた。
ゆっくりと持ち上げると、そこに真珠色の粒子が揺蕩う魔捕瓶が現れた。
「約束……でしょ?」




