【第9話】03
すっかり陽の落ちた田舎道を、自転車で十五分ほど走った場所にその家はあった。
雑草に半分埋もれた、とても人が住んでいるとは思えない苔むした板塀の平屋――。
まわりは薮に囲まれていて、ほかに隣家らしき建物は見当たらない。
「表札出てねぇけど、スマホの地図はここを指しているな」
家のまえに立つ街灯だけが、青白い光で辺りを照らしている。
「小野寺さ~ん、弁当届けにきましたよ~」
メグルと加藤誠司が門の前で待っていると、玄関の引き戸のガラス窓に弱々しい明かりが灯った。
やがて白髪頭の細身の老人が、覚束ない足取りで姿を現す。
「おお、きみが加藤誠司くんか……?」
加藤誠司の姿を見るなり、目の色が変わった。
「いい体つきをしてるな……。健康そうで何よりだぞ」
とつぜん小野寺が手を伸ばし、加藤誠司の体を触ってきた。
加藤誠司が驚いてその手を払おうとしたとき、小野寺がメグルに目を向けた。
「……なんだ、一人じゃないのか?」
「見習いの菅野メグルです。よろしく」
メグルは肩掛け鞄から星見鏡を取り出してかけた。
「ふうん、まだ子どもじゃないか。幾つになる?」
「十二歳ですけど……」
「そうか、お前さんも元気そうだな。病気なんかしたことないだろ?」
「はい。先日、頭をダンベルで殴られましたが、半日で完治しました」
顔をくしゃくしゃにして小野寺が笑った。
「そりゃあ凄いな! おれも今はこんなジジイだか、若い頃は体が丈夫で女にモテモテだったぞ。お前、彼女はいるんか? おれはお前さんくらいの歳には、もう女を知っとったぞ!」
話が長くなりそうだと感じたのか、加藤誠司は早々に切り上げようとメグルの腕を引っ張った。
「それじゃあ弁当、ここに置いてくんで。俺たちはこれで……」
「あぁ、加藤くん……」
小野寺がやさしい眼差しで誠司の肩を叩いた。
「弁当配達してくれてありがとうな。すまんが、明日もきみが届けてくれるかな?」
「え、俺がですか……。わかりました、じゃあ!」
帰り道は、加藤誠司が配達用バッグを畳み、メグルを自転車の荷台に乗せてくれた。
星が瞬く冬の澄んだ夜空を見上げながら、ゆっくりと走る。
「人当たりのいいジイさんだったな? しかし、ジジイってのは自慢話が好きだよなぁ~」
後ろの荷台にまたがったメグルが、加藤誠司の背中に訊ねる。
「誠司くん、明日もさっきの小野寺さんのとこ行くんですか?」
「ああ、指名れちまったからなっ!」
加藤誠司が自慢げに声をあげた。
「嫌なこともあるけどさ、あのジイさんのために、明日も頑張ってやるかぁ~」
白い息を吐きながら叫ぶ加藤誠司の背中で、メグルはひとり呟いた。
「試練星が十八個の、人当たりのいいおじいさんか……」




