【第8話】02
「おはようございます、金山さん!」
坂田佐和子がモグラの横をすり抜け、金山と呼ばれた男性に駆け寄る。
その瞳はきらきらと輝いていた。
「きのう小学生の子どもたちが初めてお手伝いをしてくれたんです! 何も言わないのに、自発的にやってくれたんですよ!」
「それは良かった。配達の方も手伝ってもらえてる?」
金山が坂田佐和子の肩に馴れ馴れしく手をかける。
しかし佐和子は、まったく嫌がるそぶりを見せなかった。
「ええ、年上の子たちが一生懸命やってくれています」
あまりにも不憫で、メグルはモグラの姿を直視することができなかった。
しかし運悪く、金山は厨房で立ち尽くしているモグラを発見してしまった。
「あちらの方は……」
「ああ、昨日からお手伝いをしてくれている、ええと……なんだっけ、なんとかドリュウさんです。親子でいらして、子どもたちにとっても人気なんですよ!」
背中を向けたまま肩を小刻みに震わせていたモグラが、ゆっくりと振り返る。
懸命に笑顔を作ってはいたが、いつも垂れている目尻が異様な角度で吊り上っていた。
「はじめまして、ここの出資者 金山寛助です。佐和子さんの人助け精神に感銘を受けて、この子ども食堂『つながり』の経費をほぼすべて、単独で援助させてもらっています」
自信たっぷりの爽やかな笑顔で差し出されたその手を、モグラが強く握り返す。
引きつった笑顔からなんとか声を絞り出して、挨拶をした。
「湖南……。いえ菅野土竜です……よろしく……」
金山の訝しげな視線が、モグラのつま先から頭の先まで何度も往復する。
「こ、ここは食堂ですので、なにぶん清潔に頼みます……。きみは菅野さんの息子さんかな?」
とつぜん目を向けた金山に、メグルはとっさに手に持っている星見鏡を掛けた。
「おはようございます。小学六年生の菅野メグルです」
「礼儀正しいお子さんだ。良いご教育をされてますね」
金山はメグルの頭を軽く撫でると、すぐに踵を返した。
「え、もう行ってしまうんですか?」
坂田佐和子が名残惜しそうに金山の背に声をかける。
「これから朝の大事な会議で……。また夜に来ます、では!」
金山の白い前歯が朝日に照らされキラリと光る。
公園の芝生広場を颯爽と歩いて行く金山を、坂田佐和子はいつまでも見送っていた。
*
「けっ! なぁにが出資者だよぅ、白いスーツなんて着てスカしやがって! 世の中の金持ちなんて大概が汚ねえことして儲けてんだからよ!」
モグラの愚痴に付き合いつつ、メグルがメモ書きを見ながらカートに食材を入れる。
ふたりは近くにある激安スーパーに買い出しに来ていた。
午前中だからか、客足はまばらだ。
「とんでもない偏見だな。でもまあ、あの金山って男に関しては言い当ててるかも知れない。星見鏡で星を見てみたけど……。驚くなよ? 成就星が二つ、試練星が二十三個だ」
「に、に、にじゅうさんこ……? 確実に来世は『堕界』じゃねえか……」
「ああ、日常的に悪事や犯罪に手を染めていないと、ここまで試練星が増えることはない。あいつ、とんでもない悪党だぞ。……そこのもやし、取ってくれ」
モグラが一袋十五円の特売もやしを両手でつかみ取り、力任せに握りつぶす。
「そんな男に純情な佐和子さんは騙されて……。おいら絶対に佐和子さんを守るぞ! あの男の尻尾を掴んで、ぎゃふんと言わせてやるっ!」




