【第7話】03
「なあメグルよ……佐和子さんって本当にやさしいな。いきなり現れたおいらたちを、食堂の一角に泊めてくださるなんて……」
メグルとモグラが今夜泊まることがないことを知った坂田佐和子は、幼い子どもたちが遊ぶカーペットが敷かれた子どもスペースに寝泊まりすることを勧めてくれた。
厨房も食堂も照明を落とし、子どもスペースの蛍光灯だけが微かなノイズを響かせながら光を放っている。
「一歩間違えたら本当にマンホールに潜るところだったなからな。ここはとっても暖かいや……」
山積みにされたパステルカラーの沢山のぬいぐるみに、メグルが体を沈めた。
「素敵な出会いだ……。おいら魔鬼なんかと争わないで、ここでず~っと人助けに生きようかな……」
モグラが幼い子ども用のミニテーブルに頬杖をついて、お茶をすすりながら、ぽよよんとつぶやく。
「その魔鬼なんだけど、さっきの女子高生、二条美華だった」
「そうか……二条美華だったか……。ぶふっ! 二条美華ぁ?!」
思わずモグラがお茶を吹き出した。
「もっと驚くぞ。彼女、四聖から来たらしいんだ」
「しぇえええええ~~~っ!」
握りしめた湯呑みを放り投げて、さらに大きな声で絶叫した。
「そうか……。精神世界の四聖の魂は魔鬼と同様、六道で体を持てない。だから林姉妹の体に憑依していたのか……。しかし、四聖とは驚いたな……」
ぬいぐるみに埋もれていたメグルが体を起こした。
「三〇〇年も人間界にいるモグラでも、やっぱり珍しいのか?」
「直接会ったことはねえが、話には聞いたことがあるぜ。もともと四聖の魂は六道なんかに興味はねえが、たまに 『菩薩界』あたりの奇特なお方が人間界に降りて人助けをするとかなんとか……。いわゆる神様的な存在としてよ」
メグルはくせのある前髪を人差し指に絡ませながらつぶやいた。
「二条美華は、そんなんじゃない……」
そしてサヤカの体を奪った魔鬼が、二条姉妹の魂から分裂した飛鳥だったこと、さらに飛鳥を封印された仇討ちが二条姉妹の目的だったことを説明した。
「そうか、サヤカの体を奪ったあの魔鬼が……。しかし四聖と魔界、両極端の世界だと思ったが、方向性が違うだけで、割と近しい世界なのかもしれねえな……」
そこまで言って、モグラははっとした。
「林美沙衣の体は無事だったのか?」
「二条美華が体から出たあと蘇生処置を行った。息を吹き返したそうだ」
「そうか、良かったぜ。……そんであの少女の体は?」
「ぼくらから逃げたあの夜、新たに調達したんだって」
「レンタカーみたいに言うな!」
思わずモグラが突っ込む。
「二条美華が自殺に誘導したのか?」
メグルは首を振った。
「二条姉妹は魂のオーラが見えるらしい。昨夜、黒いオーラを感じる家に行ったら、あの少女……雨宮香澄の自殺現場に出くわしたそうだ。きっと林美沙衣からも黒いオーラが出ていて、タイミングよく手に入れたんだろう……」
モグラがふんっと鼻を鳴らした。
「わかったもんじゃねえや。四聖のくせに仇討ちをするような奴らだぜ? どうせ二乗(独覚界・羅漢界)あたりの出だろ。やつらにしてみれば六道の魂なんて虫ケラみたいなもん、どうなろうと関係ないのさ……。だいたい一度逃げたあいつがいまさら何しに戻ってきた? 宣戦布告でもしにきたか?」
メグルが再びぬいぐるみの山に体を沈めて、天井で白々と光る蛍光灯を見つめた。
「二条美華から敵意は感じなかった……。彼女はただ、ぼくから奪った二条杏香の魔捕瓶を開けて欲しい。それだけのように感じた。あの瓶の蓋は、管理人と煉獄長しか開けられないから……」
ふてくされたようにモグラがカーペットに寝転がった。
「誰が好き好んでパンドラの箱を開けるやつがあるか! 口車に乗せられんなよ?」
「もちろん簡単に開けるつもりはないけど、交換条件としてある情報をくれるそうだ」
「ある情報……?」
モグラが片肘をついて訪ねる。
メグルはちらりと、厨房に目を向けながら言った。
「この子ども食堂、どうやら裏があるらしい」




