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輪廻と土竜(メグルとモグラ) 芝蘭結契篇  作者: ひろみ透夏
第5話 正体

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【第5話】03

 

「おやぁ……? どうゆうことだね店長……人の気配がするぞ。邪魔者は消したんじゃなかったのかね?」


 薄闇のジムに、黒いスーツに身を固めた、がっしりとした大柄の男が入ってきた。


 続いて入ってきた男がメグルを見つけるなり怒鳴り声をあげた。


「ああ、クソガキ! てめえなんで生きてやがる! 俺は確かにダンベルで思いっきり……ほらこんなに大きな血溜まりが!」


 よく見ると、その男は二階の居酒屋『鳥家族』の店長だ。



 黒いスーツの男は、被ったシルクハットを受付カウンターに置きながら大きな溜息をついた。


「為すべき仕事もできないとは……。使えないやつは元の世界へ送り返すぞ」


「待ってください魔鬼紳士まきしんし様! もう一度チャンスを!」


 魔鬼紳士と呼ばれた黒いスーツの男が、面倒臭そうに近くにあったパイプ椅子を引き寄せ、ジムの入り口を背に腰を掛けた。


「四日後に儀式が控えているんだ。さっさと済ましてくれたまえよ」


 近づいてくる居酒屋の店長を見つめながら、メグルはひどく動揺していた。



(なんてことだ……林杏香の他にも魔鬼がいたとは……! あの黒いスーツの男を捕らえる罠は仕掛けていない。今からでも策を練らないと……)



「すいぶんとビビってるようだな。馬鹿なガキだぜ、おとなしく死んでいれば二度も殺されなくて済んだのに……」


 店長が口元を歪ませながら、気色の悪い笑みを浮かべた。


「あの程度じゃ、ぼくは死なない……」


 メグルはこたえながらも、次の策を懸命に考えていた。


「六階建ての校舎から落ちて、全身骨折、脳みそが耳から垂れるほど重体になったときも、数時間後に何事もなく蘇生した」



 その言葉を聞いて、魔鬼紳士の力強く太い眉がピクリと動いた。


「なるほど……」


 対して店長の顔は、みるみるうちに滅紫色に変わっていく。


「むかつくぜぇ! 見るからに貧弱そうなガキのくせに、俺よりも肉体的に優れてるってトコがよう……!」


 メグルは店長と距離を取りながら、鞄の中の魔捕瓶を握りしめた。


「もしかして、三ヶ月前の殺人事件もあなたの仕業ですか?」


「我慢ならねぇんだよ……俺より発達した大胸筋を見せられるのは! 暇人は時間があるから汚ねえょなぁ……。こっちが汗水流して働いてる時もトレーニングしやがって!」



「確か、犯人とされた男は逃亡中のはずでは……?」


「ジムで一番の筋肉量の多いやつを殺して、そいつと林美沙衣を取り合っている二番目に筋肉量の多いやつのせいにした。手にべっとり血を付けた男が、焦った様子で階段を駆け下り、何処かに走って行った……。そう警察に証言したのは、この俺だからな……」


 かたわらに置かれたダンベルラックに、滅紫に変色した腕を伸ばす。

 五十キロのダンベルを一個ずつ、両手で一気に持ち上げた。


「逃亡中とされている二番目のやつも俺がさらって殺したんだぜ。解体して居酒屋の冷蔵庫にぶち込んで、ときどき焼き鳥に混ぜて客に出してやったよ。ざまあねぇよなぁ……自慢の大腿四頭筋が、硬くて不味いって言われながらも喰われてたぜ!」



「まさか、不動産屋の門田熊雄を殺したのも……」


「以前からあの男にはムカついてたんだよ……。俺の唯一の楽しみはよぅ、夜中にこっそりジムに忍び込んで、毎晩肉体を鍛え上げることだ。ここは俺だけの楽園なんだ! だのにあの男がちょくちょく内見者を連れてきやがるから、今日は先回りしてビルから突き落としてやったぜ! 俺だけのジムが、また誰かのモノになっちまうからなぁ~っ!!」



「なんてことだ……。ぼくの読みが、すべて間違っていたなんて……」


 茫然自失のメグルに、上腕二頭筋をぱんぱんに隆起させた店長が、五十キロのダンベルを両手に持ってにじりよる。


「美沙衣ちゃんが直々に案内したのは誤算だったが、まあいいぜ……。今度こそ確実に殺して、お前も焼き鳥にして喰ってやらあ!!」


 いまは反省している場合じゃない……。

 メグルは懸命に頭の切り替えに努めた。



「……あなた、『餓鬼界』からの越界者ですよね?」


 そして肩掛け鞄から魔捕瓶を取り出す。


「貪るは餓鬼。常に欲し常に飢え、その欲は止まることを知らず。他を妬み他を欺き、我欲を満たす為なら、他の命を奪うことも厭わない……」



 メグルは手にした魔捕瓶を思い切り振って、小気味好い音を響かせながらコルク栓を抜き取ると、ごくごくと飲む真似をした。


「てめぇ……いったい何してやがる? こんなときに……!」


 信じられないという表情で足を止めた店長に、ぷはぁ~っと息を吐いたメグルが笑顔でこたえる。


「タンパク質含有量九十八%、最高級のWPHプロテインですよ。戦いのまえに、あなたも飲みませんか?」


「タンパク質九十八%……WPH……」


 光に引き寄せられる昆虫のように、ふらふらと近づいてきた店長にメグルが魔捕瓶を投げる。



 ひょいっと投げられた蓋の開いた瓶を、中身をこぼすまいと慌てて両手で受け取った店長は、当然のごとく五十キロのダンベルを足に落して悶絶する。



「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界の法を犯す者よ。管理人の名において、地獄界送りの刑に処す!」



 店長は自ら受け取った魔捕瓶の中に、ぎゅるぎゅると排水口に流れ込む下水のような音を響かせながら、頭から吸い込まれていった。



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