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令和を震撼させた呪われし5年A組は、昭和からやり直す!  作者: おれごん未来


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9/19

第9話 わたしを修学旅行に連れてって

 夏休みとかいうバカはあっという間に通り過ぎていった。早いって昭和。

 もう秋なんだって。涼しいよ昭和。


「よッ」


 施設の広間で朝のラジオ体操に参加し、


「行けっ!」


 甲子園を職員さんとみて、


「う〜ん」


 夏の友を中心とした宿題をし、


「んっと」


 工作で紙ねんどの貯金箱をつくり、


「こうっ!」


 適当にひまわりとかの絵を描いて、


「うりゃ!」


 みんなで集まってファミコンをし、


「あがががが」


 毎日の歯みがきの印をつけて、


「それー!」


 学校のプールに通い、真っくろに日焼けしていたら終わってしまった。

 身体にできた、いたるところの境界線たるや。なにも感じない。EDなど関係なく、もはや限りなく小学生の思考に近づいている。

 記憶のほうも思い出せることもあれば忘れることもあり。消え去るのではなく、上書きされているというか、新しい記憶で上塗りされている感覚。まだある程度は残っていて、しかしアクセスしづらい状態へと移行してゆく。

 これでいい。春になるころには、晴れて前科者のおっさんの意識が消えた立派な6年生になれる。さながら残留思念みたいなものか。いずれ消えてなくなる。

 それで今日はもう新学期。早いものだ。

 めっきり涼しくなっちまって。盆を過ぎたら涼しいってのは本当だったんだな。そりゃあ新学期も始まるように制定する。

 男子は自らの肌の黒さを競うのにいそがしい。

 わたしなどは甘かった。こんなの黒でも茶色でもない。まだまだペールオレンジの範囲。

 少しみない間に男子は身長を大きく伸ばした。大きい子も、ちっちゃい子も。頭のほうはよゆうで子どもだが。

 早ければ12才臼歯も生え、身長はこれからもっともっと高くなる。ヒゲも生えて。男子が遠くへ行っちゃうな。

 どうして寂しいと感じた? それどころか、朝の会の最中じゃないか。


「さー、宿題はみんな出した?」

「出したー」

「おれもー」

「いま言わなくてもあとでわかるからね〜? 椛田くんは大丈夫?」

「なんでおれだけ。まあ出してないけど」

「ほらみなさい。他にも出してない人、忘れた人は月曜までに持ってくること! いいですか?」

「はーい」

「はぁい」

「いま返事があった人は出してないってことね……。まあいいわ、とにかく来週出してね。さて、今日からはさっそく修学旅行の準備に入りま〜っす!」


 先生テンション高いなあ。大人でも楽しみなのか。

 修学旅行に行くのは小6が一般的と、知ったのは大人になってから。我が校はなぜか小5。たぶん6年生の一部が中学受験をするから、それに配慮してのことだと思う。

 旅行先は京都と奈良。前世で何度も訪れたからとくに目新しさはないものの、ざっと調べたところ文化財の残り方が同じなので安堵している。

 遮光器土偶が見つかってないからな、そりゃあ心配にもなる。だったらいったい何があったというんだ東北に?

 こりゃあ、旅行に行くなら東北だな。どこかでとんでもない再発見ができるかもしらん。

 土偶も実はただひとりのことかもしれないな、最初のひとり。その最初に作った人が、遮光器のような目に造形しなかった。だからあとに続いた作品群も存在しなくなった。

 たぶん、一般的な造形の土偶が増えたんだと思う。

 その最初のひとりにどんな心情の変化があったんだろうか。

 気まぐれ?

 心変わり?

 新たな閃き?

 爆発していた芸術が、凡庸にとどまったのかもしれない。芸術的な鋭敏さを失ったから? 夭折した? 逆に平穏すぎる日々を送った?

 いずれにしても歴史は変わってしまった。

 良かれと思っての変更も、一方で何かを悪化させるのかもしれないな。元寇の3回めが、江戸時代の藩主たちにまで影響したように。

 あれもだれかが改変した結果なのだろうか。オレ以外にもタイムリーパーがいる?

 歴史に干渉する大仕事に比べ、オレの活動の小さいこと小さいこと。

 わかっちゃいるんだ、オレなんかにできる改変なんて小っちゃいってことくらい。でもそれでいい。不幸になった大勢の友達を助けたい。そんなささやかな歴史干渉だってあっていい。

 いいや、そう悲観するほどでもないだろ。

 平成と令和の世を震撼させた5年A組の、時を遡った清算はそれほど小さかないぞ。未来の偉業や偉人の芽を摘んだ可能性だってゼロじゃない。それに、5のA全員プラス佃煮警部の未来だってそんなに安かないやい。


(やってやる、全部丸ごと救うって決めたんだ)


 このうす汚れてどうしようもない男が、穢れる前のみんなを明るいほうへと導く。どうにも矛盾しちゃいるが。

 やり遂げねば。せっかく2度めの昭和なんだ、ただ過ごすにはあまりにまぶしい。


「なに満足した顔してんだゲロ女。きもち悪」


 は。

 はは。

 なにかと文句を言われるから気があるのかと思いきや、どうもそうらしい。だがおまえは敵だ。

 いや、止めてくれるなおっかさん、じゃなかった伸一。授業中だろうがなんだろうが、男にゃあ殺らなきゃならねえときがある。

 見ててくれ、ここで竹ジを粉にしてやる。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 もう当日だ。修学旅行の。

 みんなと温めていた計画をついに実行するとき。

 夜ぬけだすとかマンガだとよくあるだろう?

 そんなもんじゃない、わたしたちは!

 白昼堂々とぬけだす!!

 びわこまつり会場で行われる、のど自慢大会。これにコンコンが出場するとの情報を文通からつかんだ。

 ふつうなら福島に住まう我々にどうこうできるものではない。たとえ高校生であっても。社会人でやっとの距離。

 でもわたしたちは運命のいたずらか、こののど自慢大会と修学旅行の日程が丸被りするという奇跡を起こした。これは行けという神託にちがいない。たとえそうでなくても、行かずば一生後悔する。だから行く。

 実際にどうするかといえば、この修学旅行中に一時抜けだして戻る。かんたんだ。

 わたしはサポートメンバーの要、だった。バス移動に居残り、不在のメンバーを佃煮警部に覚られないよう代返する役目。


『点呼? わたしがやりますよ、先生は座っていてください。数えるよー、2、4、6、8、10、12、14、16…………42、43、あれ?』

『おまえ自分入れるの忘れてんじゃん』

『あ、そうだった。44、全員いま〜っす』


 こういうシナリオだったのだけれど。

 そもそもコンコンの晴れ舞台が判明したのは文通から。この時代にはSNSやLINEはない。近況を知らせる方法なんて手紙くらいなもの。

 手紙には日時と場所が書いてあり、『やってくれっからね、みでで!』と意気込みが添えられていた。

 電子じゃないんだ、手紙。筆圧や文字の大きさ、勢いから、いろんな情報が読み取れる。

 たぶんこう。

 わたしたちがもし近所なら、来てほしいんだ応援に。さしもの陽キャも、転校先の友だちにはまだ言えないから。だから胸のうちをそっと手紙にだけ記した。

 来れなくてもいい、来なくていいけど心の中で応援していてもらいたい。そうコンコンが言っている気がした。


「わたしも行かせて!」


 この際バレたっていい。怒られればいいだけなんていつものこと。コンコンののど自慢への参加を見届けられるのは今しかないんだ。


「ん? いいんじゃない、あとひとりくらい増えても。いっしょっしょ」

「でも」

「代返は?」

「まかせとけ! おまえらがいないのを隠し通してみせる!」


 竹ジは信用ならない。露呈はもう、覚悟した。さほど期待していない。

 コンコンの小さな初舞台。不吉な物言いで申し訳ないが、最初で最後かもしれない。

 わたしたちが自分たちだけで長距離移動できるようになるまでずいぶんかかる。だからと言って授業中に抜けていい理由にはならないが。修学旅行中に集団から外れ、独立潜行するなどと。

 オレという引率はあるんだ、危険な目には遭わせない。

 今生の別れと涙しておいての再会。これほど恥ずかしいものがあろうか。だけどこちらが客席側から勝手に観覧するだけ、あっちからは視認もされないだろう。ゆえにセーフ。

 だから行こう。行って応援しよう。まだまだアウェーの関西での活動、わたしたちで盛り上げてみせる!

 バスは奈良から京都へと向かう。高速道路を使えば隙のないものを、予算の都合で下道のまま行くから小学生につけこまれる。中身はおっさんだが。

 なぜ学校側が時間に頓着しないかというと、今日の日程が終わったから。奈良はここまで、あとは宿に入って夕食をとるだけ。バスに揺られて寝こけていたら済むだけなのだ、だったら有意義に使わせてもらいたい。

 奈良公園の自由時間開始から出発する。少しでも早く着きたい。

 移動手段はヒッチハイクである。このスタートでもし時間がかかりすぎるようなら断念せざるをえない。頓挫だ。

 成否はいまから10分で目的の車がつかまるかどうかにかかっている。20分だと怪しくて、30分でギリギリ、40分だと滋賀での滞在時間がゼロになる。行くだけムダ。

 たどり着けたとして、滞在中にコンコンの出番がまわってくるかどうかは運次第。ダメ元なんだ、当たって砕けろびわこ祭り。


「つかまんねえなあ」

「笑顔だよ笑顔。スマ〜イル。怒っていたらとまる車もとまんないよ」


 大きく『びわ湖』と書いた紙を高くかかげて。ヒッチハイク開始2分、まだ停まってくれない。

 他力本願寺、だって出先の小学生に足はない。タクシーは長距離で高額、出せるわけない。たよりの電車は遠回りで、渋滞に巻き込まれるはずのバスよりも遅い。

 だから自動車のヒッチハイク。こんな大きな幹線道路なら、1台くらいは向かってくれていい。

 ヒッチハイクってほんと見かけなくなったよな。2000年ごろまでは何度か見たが。

 乗せてもらったら運賃を請求されたり、乗せてあげたら襲われたりがあったもんな。あれで一気に下火になった。そしてコロナで壊滅した。

 きちんと金を貯めてから旅に出る若者が増えたのかもしれん。令和の子はしっかりしていなさる。

 5分。京都や大阪は多くても滋賀方面は厳しいか?

 滋賀に向かうのは少ないとしても、滋賀へ帰るのと合わせれば2倍の台数があるんだ。きっとつかまる。

 奈良公園から、京都にあるペンション北白川はバスで2時間以上かかる。大渋滞したのだ、あの日は工事の片側交互通行があって。そこはまんま同じに推移するとの希望的観測。

 一方で滋賀なら1時間で着く。滋賀-京都間は40分くらいとすると、およそ20分は滞在できる計算。

 まあ、バスに同じ滋賀経由ルートを使われたらおじゃんなのだが。工事の情報なんて得てないだろ、前世と同様迂回せずまっすぐ向かってくれると信じたい。

 面子は、そろいもそろって給水塔の顔ぶれ。三羽烏と、伸一とわたし。


「またこのメンバーなんだよな。なんの因果か」

「はあ? おまえがコンちゃん好きなんだろ? だからおれが」

「はあ? いつおれが!? それにもうずっと前に転校してったんだ、関係ねえよ」

「まあまあ、そう言いなさんな。転校したからって嫌いになる必要までないっしょ」

「そうそう、ずっと応援するってあれ、ウソだったんか?」

「んなこたないけど……」


 7分、大型ダンプが、停まってくれた!?

 駆けよると。

 わざわざ降りてきてくれた。歩道は助手席側だし、たぶんパワーウインドウがついてないから。

 ガッチリした大男は気のいい笑顔で仁王立ち。


「どやしたボウズたち、学校は?」

「今日は日曜日です。それより、琵琶湖に行くんですか?」

「ああえぐじゃ。本当ぁ京都だんだども、琵琶湖周りで行ってけるじゃ」

「え、ちょ。なに言ってんのかわかんない」

「方言すご」


 おま、バカ!

 わかんなくてもわかったような顔してろ! まんま口に出すとか小学生か!

 小学生だったなおまえら!


(なんとなく、行ってくれるっぽい感じはしたよ。目的地は京都みたいだけど)

「早川わかんの? 通訳して」

(もう! バカなんだから黙ってろ!)


 知ってるぞ、おまえらだって学校じゃ気取ってて、家じゃ方言全開だろ! わたしも含め!

 たしかに訛り方はすごいものがあるが、言葉はだいたい地元に近いじゃないか。


「どやする?」

「え。そんな遠回りして大丈夫なんですか?」

「な〜んでおっちゃんが小学生さ心配されにゃあならんのよ。大丈夫ったら大丈夫。どうせ京都方面ぁ混むんだ、滋賀さ迂回しても着ぐ時間はいっしょ。変わらんのよ。それよりほれ、乗んな乗んな。急いでらんだべ?」

「ありがとう! おっちゃん大好き!」

「照れるじゃぁ。そったごどへらねんでけろ」


 オレより年下だが。

 走りだす。靴を脱いだわたしたちを助手席と真ん中の席にぎゅうぎゅうに乗せて。

 これってもう、令和だったら完璧に事案だよなぁ。誘拐とまでは言わんが、連れまわしとか、児童掠取とかって。

 トラックドライバーは孤独との闘い。ラジオが入ればラジオを、ラジオが入らなければカセットテープを聞く。それも飽きるんだ。だから助手席にだれかを乗せる機会があったなら、乗せてくれることがあったらしい。人情の昭和よなぁ。

 んん?

 人情要素あったか?

 まあ学生はごはんをご馳走になることがあったというし。


「今日は琵琶湖祭りでのど自慢大会ってのがあって。それに友だちが出るから応援に」

「ほう、友達がか。そりゃあ応援すてよな」


 修学旅行の途中とは、口が裂けても言えない。


「そんで帰りはどやするんだじゃ。まだトラック拾うのが?」

「帰りはどうするのかって」

「帰りは京都なんです。さいあく小づかいを出しあえばタクシーでなんとか」

「そりゃいげねよ、もったいね。おれが無線で連絡さして、だれが滋賀がら京都にはへる運転手探してけるすけ。何時さえぐんだ?」

「節約しろだって。時間教えたらトラックを呼んでくれるっぽい」

「まじで! ラッキーちゃちゃちゃ、ウーッ!」

「ありがとうございます!」

「4時です。それまでには出発しないと宿に到ちゃ——」

「サザエさん見れないもんな!」


 必死で被せたが。

 バカ伸一ィ!! バカオレ!!

 なにが『宿に到着』だ? バレるだろ!


「も、門限もあるし?」

「宿?」


 まずいまずいまずい、おっちゃんに隠し事はまずい。追求される!

 学校に連絡されたらまずいし、わけのわからんこんな中途半端で下ろされてもまずい。


「宿、ではなくてYAHOO。ですよ……」

「やァ? ふゥ?」

「ご存知ない? そう、YAHOO。彼はさっきヤフーでチャットをしようと言ったんです。ヤフーでチャット。4時までには出発しないとヤフーでチャットができない。だよな」

「そう? そうそう」

「はぇ」

「チャット友達がいるんです。時間を申し合わせておいて、同じ時間に始める。チャットというのは個人でやる電報みたいなもので、会話みたいにして文章を送りあって」

「個人で電報を!? 進んでらんだなあ、今のわげものは」


 ごめんねおっちゃん。

 YAHOOはたぶんもう存在していると思うけど、まだ日本に入ってきちゃいないんだ。もう少しかかるかな。それにYAHOOチャットもまだ。サービス開始はもう少し先なんだ。


(なんだヤフーって)

(なんだチャトって)

(なんだデンポーって)


 3バカ! いいから外野は黙ってろ! それと、電報くらい知っておけ!

 琵琶湖の湖畔、なぎさ公園に到着。なんとおっちゃんは会場にほぼ横づけしてくれた。


「んだばな子どもだぢ。友達さ会えるどいいな!」

「おっちゃんありがとう!」

「お気をつけて〜!」

「バイバーイ!」


 おかげで滞在可能期間は40分に拡大、理論上最長の時間を待つことができる。

 さらに40分後には、別のトラックが横づけしてくれる仕様。これで会えなきゃ一生会えない。

 ……今ごろ佃煮警部にバレていたらどうしよ……。


「ええい、すべては覚悟の上っ!」

「お、すごい気合」

「さぁ行こう! 走れ!」

「おお!」


 ただの広場にステージがある。さながら盆踊り会場特設ステージ。この予想はまちがっちゃいまい、おそらくその流用だ。もしかしたら1ヶ月間そのままで置いてあった可能性すらある。看板だけかけかえて。


「あのう、お尋ねします。小学生ってもう歌いました? 女子なんですけど」

「小学生の女の子? 出場者のほとんどは小学生だし、その半分は女子だしなあ。運営に行って聞いてみたら?」

「あ、早川? 言い忘れたかもだけど、こどものど自慢大会っていうらしい。ホラ、ステージにも書いてある」


 すっさん!? こいつ重要な情報を今ごろ!?


「おまえなあ——」

「言ってても始まんないよ。事務局に行って教えてもらおう」


 伸一め、そんなやつの肩を持つな。

 どこだ事務局は。ステージを見わたせる、左右のどちらかだと思うが。


「あそこ! あそこじゃない?」

「ぽいね。行ってみよう」


 出番がまだなら待つだけ。終わっていたらすごすご帰るだけ。かんたんだ。

 なのに心拍数が上がっている。高揚。

 これからすごいものが始まるようなこの期待感はなんだろう。いま歌っている子も、あれはあれで上手だけれど感動するまでは。これがコンコンに置きかわったところでさほど。差はなかろう、彼女の歌声はこれまでに何度も。

 なのに。たぶんこれは身内が舞台に上がるときの緊張感。無事に終わってほしいと心配する祈り。


「あのう、すみません」

「どうしたの?」

「今日の出場者で近藤紺奈って、紺色の紺に、奈良の奈の字の子なんですけど、もう歌いました? それともこれからですか?」

「そもそも出場していますか?」

「ちょっとまってねー、っと、出場していますよ、しかも次」

「次!?」


 ガバッとステージ上を見れば、下がっていく4年生ぽい子と入れちがいで出てくる子がコンコン。


(緊張している……)


 普段着ではないけれど、ステージ衣装ではない。おろしたてっぽいふつうの服。でも髪型は5年A組ではみたことのない、キュッと後ろでしばったこれから動く人のスタイル。

 うつむいたまま、顔を上げない。そのままで歌うつもりか?

 さっきまでよりも歌と歌の間隔が長い。生演奏の人たちも、タイミングをはかりかねて始められずにいるようだ。

 ここだ。

 ここで応援せねばわざわざここまでやってきた意味がない。

 必要なのは心からのことば。わたしたちだと認識なんかしてもらわなくていい。口先だけじゃない、体の芯から出る自然な気持ち。なんて言えば伝わるのか、それはダンプのおっちゃんに教えてもらった。


「負げんな! どんといげ! おらだぢがついでるよ〜!」


 伸一にすばやく目くばせをして。

 ここでわたしに続いてくれ! 頼む相棒! 続けばきっと流れができるから!


「いげるいげる!」

「レッヅゴー!」

「気合いだ、魂ごめろ!」

「フレー、フレー、コンちゃん!」


『おっと、個性的な声援がありましたね』

『地元のお友だちかな? 会場からは笑いと温かな拍手が』

『いいですね。さあ気を取り直してまいりましょう、小学5年生の近藤紺奈さん、歌は「また逢う日まで」。どうぞ』

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