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令和を震撼させた呪われし5年A組は、昭和からやり直す!  作者: おれごん未来


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19/19

最終話 エピローグ土曜日

 また下界をみているのかね


 たかが1柱の神を生むために払った犠牲としては あまりにも大きすぎます……


 それは因果が逆であろう 神になるために犠牲があったのではない 事件で失われた命がその後の修練で神に至ったのだ


 だとしたら 神になんてなりたくなかった ふつうでいたかった


 だが神になったからできることもある であろう?


 でしたら 神ならなんでもできるんでしょう? あの日あのときに戻って やり直しを


 神となったあなたにはできぬよ


 ではできる人に託します


 それは無限通りの中のたったひとつを救うだけのこと だがやってお見せなさい それこそがあなたの 最初の仕事になりましょう




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 もうすぐ6年生になる。クラスは半分以上が入れ替えられる。やがて中学では学区の都合で真っぷたつに。高校はもっとバラバラ。大学なんて同郷を探すほうが難しい。

 だから。


「聞いてください、長期にわたる心のケアが必要なんです」


 中身は45、ここにいるほとんどの先生よりも歳は上だ。若き先生方を説得するのに策は労する。

 本来ならあんなことを利用なんてしたくはないのだが、あちらには児童を危険にさらしたという負い目もある。もし苦しくなれば泣き落としだって辞さない。

 とにかく説得するんだ、この措置は断固として必達であると。なにがなんでも押し通す。相応の試練は越えた。だから5のA全員にこの程度の報酬くらいはあっていい。


「しかしだね君」

「佃先生は賛同してくれています」

「どうかこの子の、早川委員長の話を聞いてやってください。私からもお願いします」

「今日はもう放課後だ。明日、いや、来週以降に」


 ニッゴリ。


「わたしは何時になってもかまいません。わたしがお世話になっている施設の院長先生には事前に許可をもらっています。今日は土曜日ですし、全員集合のない土曜になんてなんの魅力も。では明日にしましょうか、先生方がまた集まってくださるのなら」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 見知った存在が目の前に立っている。

 いいや、立ってはいない。

 ふわふわと、浮いている?


(早……川……?)

(ふふ、おつかれさま)

(そういうことか。おまえの仕業なんだろ、このタイムリープ)

(あ、わかった? でもどうして?)

(だっておまえだけがあの時代に居なかった。おまえは来れなかったんだ。来ることができなかった。それが今ごろ目の前に来た。宙に浮いて。だから)

(変なとこ鋭いよね)

(あんなのは本来できるやつがやればいい。おまえがやればよかったんだ。それをしなかったのは制限があったから。だからわたしが代行者として)

(うふふ。さすがね。すごかった伸一くん、まさかぜんぶ丸ごと救ってみせるだなんて)

(どうだか。やれる範囲でやれることをやっただけ。ぜんぶうまくいったのは偶然、運がよかっただけだ)

(その運は伸一くんが引きよせたんだよ。キョウフでフルえているだけだったはずの子をフルい立たせた。サクランして3階から転落するはずだった子を思いとどまらせた。それらはぜんぶ、この1年間でジュクセイさせたケッソクがなせるわざ。だから伸一くんはこのキセキをホコっていい。他のだれでもない、あなただから起こせたキセキ)

(そんな上等なものかよ。わたしは……。おまえは神だからなんでもお見通しなんだろ。オレは、人殺しだ)

(知ってる)

(委員長をやったり応援団長をやったりする資格なんてないんだ。本当は隅っこにいるべき人間なんだ)

(でもきちんとツグナった。ショバツは受けたじゃない)

(それで無罪放免とは虫がよすぎるだろ)

(だったら永遠のレンゴクで焼かれる未来を望むの?)

(そうすべきなら。そうする)

(あなたはこのやり直しできちんとミガかれたよ。タマシイはきれいになった。それで気がすまないのなら、気がすむようにしたらいい)

(じゃあ行くわ。煉獄)

(そうじゃなくって。新しい現世で、ツグナいの活動でもしたらいいんじゃない? 冬のエンセイでチカったんでしょう? それをしたらいいよ)

(なんでもお見通しなんだな)

(なんでもじゃないよ、知っていることだけ)




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「なんだか妙な夢をみたなぁ……」


 声が? 変だ?

 起きた……。

 …………!

 待て待て待て待て!!!!

 すぐにわかった、ここが自分の家だって。天井だけで分かった、早川麻里子の住まう施設じゃない、ここは藤沢伸一の部屋。そしてこの体は、勝手知ったる藤沢伸一の体!?


(元にィ!? 戻ったぁ!?)


 大きな声は出さない、この家でのそれはまずい。

 制服はないし、ランドセルがある。

 スマホはないし、ふとんは昭和のアミアミシーツ。破れた。

 隣のふとんでは、ナオちゃんが小さな寝息を立てている……。

 もちろん八王子ではないし、その後に転々としたいずれでもない。ここは最初の、忌わしき原点の部屋。

 令和じゃない、昭和だ。元の藤沢伸一の体には戻ったが、令和に戻ったのではないらしい。

 姉貴じゃなくてナオちゃん、さらにランドセルのキズの様子からすると小学生は後半、おそらく時系列はあの事件の直後のまま。

 早川麻里子への憑依が終わったのだ。それで同じ時間軸の藤沢伸一に?

 このまま小学生としてやっていけということなのだろうか。

 それにさっきみた夢。


「神さま……。クリアしたボーナスステージとしては長い上につらいんだが?」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 始業式の日。


「全部おまえの仕業か」

「……やっぱりバレるよね」


 オレがいっしょに学校へ向かうのは、早川麻里子。いつもと同じ時間に待ち合わせ場所へ行ったら、平気な顔をしてやってきやがった。だから自然な流れとしてそのまま登校を。


「おまえは神なのか」

「ううん、神から分離した、かつての早川麻里子だった部分。ショウシンショウメイの、小学生の麻里子。あのときの早川麻里子だよ」

「じゃあやっぱ神さまなんじゃねえか……! 元神!?」

「これぜったいナイショね!? だれかに言ったら伸一くんが消し飛んじゃう!」

「言うもんかよ、だれも信じない。おまえなあ、こんな回りくどいことやんなくて、じゃなくて。なんで入れ替え、じゃなくて。ぜんぶ自分でやればよかっただろ、あれぜんぶ!」

「あは! 伸一くん、質問がジュウタイしてる!」

「そりゃあそうだろ、あんなにもいろんなことがあったんだ。聞きたいことは山ほどある」

「そう、だよね、わかる。わたし自身は、神のわたしは自分では手を出せなくて。だってそうでしょ、昔話やおとぎ話で神さまが与えるのは道具や機会、トクシュ能力だけ。直接の手出しは」

「はァ? オレは!? オレはなんにももらってないぞ!? 特殊能力とか、便利アイテムゥ!」

「そのぶん時間を巻きもどしたでしょ。一度きりの超極大トクシュ能力」

「それはそうだが……」

「さっきも言ったように一度きり、すべてをつくしてこの時代にもどった。だからごめんなさい、令和にはもどしてあげられないの」

「いや、戻されても困るって。あれだけの大事件が起きなかったんだ、相当異なるルートになったはず、そこへ急に戻されても」

「あ、そっか」

「おまえ……。本当に神さまかぁ?」

「そうだよ? わたしは神さまだよ?」

「志村か。その言い回しはうさんくさすぎるだろ」


 それになんだか久方ぶりの再会の気がしない。あの体で同居していたのはこいつだ。最後のほうはこいつの中に住まわせてもらっている状態だった。

 すべてのときを共有した。

 すべての体験を共有した。

 まるでひとつの精神がふたつに分かたれたかのよう。

 そして今は、藤沢伸一の中で、令和のわたしと小学生のオレが同居している。同居というか、親和性が高くてもう同化してしまっている。

 だから早川麻里子に対する恋心も。今の昭和と、かつての昭和のふたつが合わさって。


「ッハー! なんだか肩の荷がおりた」

「ふふ、まるでおっさんのセリフ」

「おっさんだったんだって! そのはずが6年生とか、めちゃめちゃ異常だろ、こんなの」

「そうなんだよね、今日から6年生、ネンガンの。夢にまで……みた」

「ああ、泣くな泣くな。おまえこそぜんぜん小学生らしくない。たかが進級できて嬉し泣きする6年生なんかいない」

「だよね、知ってた。あ、そうそう、知ってる? まさか5年生と同じクラスわけになるなんて。2階の教室だったのが3階にうつるだけっていうのは変わり映え——。もしかして。伸一くんなにか、した?」

「さあて、な? でもラッキーじゃんか、佃煮警部も続投で」

「ゾクトオ? ゾクトオってなに?」

「神さまだったのにそんなことも知らんのか? 引きつづき同じことをするって意味だよ」

「だって。小学生神さまだったんだもん」

「ふふ、なんでも万能ってわけじゃないんだな。イカは、B組の安西美子といっしょがよかったのにー! だって。残念がってた」

「伊東くんも変わんないね。この1年間ずっと言ってたもんね。次は美子ちゃんと、次は美子ちゃんと」

「今からでもあの子だけハナゲと取っかえてもらおっか」

「だめだよ! 花田さんだって大事なんだよ? 大切な5のAの一員なんだから。アンガイああいうのが大人になったときに化けるのに」


 今日から6のA、な。


「化けるって、そういうのだけはよく知ってんのな。でもそれって、今はダメって遠まわしに言ったのと同じなんだが?」

「あれ? いまのなし、いまのなし!」

「あのハナゲが化ける、ねえ? ああ、妖怪にか。あいつなら妖怪になれそう」

「ふふっ! そういうことにしといてあげる」

「ったく、おまえが中途半端なことすっから、すっかり一人称がわたしだよ」

「伸一くんには昭和の伸一くんが入っていたから。昭和のわたしは空にすることができたし。この時代に定着するには? 時代にはじかれずに残るには、なじむまで空の器に入れとかなきゃならないとか? それにいいじゃない、そのままで。どうせ大人になったら社会人はわたしを使うんだよ。オレでいる期間なんて人生のなかでほんの10年とかそれくらい。わたしの方が長いんだから」

「だったら意地でもオレに戻さなきゃだな。そんなレア期間であればなおさらオレを使わにゃ」

「そんなもんなの? 男子ってよくわかんない」

「あーあ、小学校もこれで最後かあ。学ランなんてダセーし、また中学なんていきたくねー」

「ふふっ、まだ1年もあるよ?」


 学区の都合で半分になるし、な。

 ここからみんなの人生が分かれてゆく。その手前の大切な1年間。


「おはようさん」

「よす」

「おっす」


 校門のところでちょうど3バカ新聞部。朝から仲のよいこって。


「オレ、1年間ぜんぶ委員長やるよ」

「伸一くん?」

「はあ? あんなめんどいのを? わざわざ立候補してか?」

「いや待て、記事にはなる。こうだ、『副委員長、委員長に立候補』」

「めちゃふつう」

「もう佃煮警部には伝えてあるんだ。もう決まってる」

「へぇ、もの好きもいたもんだ。その調子でハナゲと結婚でもしてくれ」

「ハナゲも悪くないけど、もう決めた相手もあるんでね。結婚はそっちとするよ」

「!?!?」

「なにそれなにそれなにそれ! スクープだ!」

「おい、だれなんだよ!」

「A組か? もう付き合ってんのか?」


 鈍いなあこいつら。こんだけいっしょにいてわからんか。


「いやいや、これからさ」

「なんだよ、おまえが勝手に決めてるだけかよー」

「そんなことならおれにだってできるぞ」

「おまえはコンちゃんだよな。おまえもたいがいイチズよなあ」


 あ、そうだ。

 急にスコンとスイッチが入った感覚。フラグが立った。すべてを経験して、おそらくすべてが終わった。

 伸一の体に戻ったら始まったのが、意識の統合と、前世の記憶の忘却。今をのがせば永遠に機会を失うかもしれない。

 今なら言えそう。だから今いう。


「オレさ、実は連続強盗殺人犯だったんだ」

「殺人?」

「伸一くん、ここで……!」

「おまえなあ、早川さんが絶句してんじゃねえか。なにを真剣な顔して言い出すかと思えば。バカなのか?」

「そういう夢をみたって?」

「そうじゃなくってさ、前世の話なんだよ。オレはおっさんで、強盗殺人を」

「だったらそれ、おまえじゃねえじゃん」

「いやそうじゃなくて、オレ自身なんだよ」

「ハぁ。いいかシーチ、おれはな、おまえのことを親友だと思ってる。ここにいるやつはみんな同じ考えだ。だよな?」

「うん」

「そうそう」

「そのおれたちが、おまえをいいやつだと思ってる。だからおまえは殺人犯なんかじゃねえ。前世がなんだろうとおまえはおまえだ。藤沢伸一なんだよ」

「その藤沢伸一が将来殺人犯になるはずなんだ」

「おまえ……」


「ええっと、ごめんね、みんなの邪魔するつもりはなかったんだけど。殺人とかすごい言葉がとびかうから放っておけなくなっちゃって」

「先生!」

「佃煮警部!」

「だれが佃煮じゃい! オラ!」

「ごめんちゃい……」


 ゲンコツ。平成になってもここはまだ昭和だ。


「それで藤沢クン? 前世が殺人犯ってそれ、だれに聞いたの?」

「だれにも。そういう記憶があるんだからそうとしか。これは夢とか妄想とかじゃなくって、現実の話なんです」

「そんなバカな、って思っちゃうよね。でもじゃあ、それはそうなんだとして話を進めてみるね? 藤沢クンは、将来もまた殺人犯になるつもりはある? その前世の記憶? に影響されて、また殺人犯になる? なりたいと思う?」

「まさか。なりたいわけないじゃないですか」

「そうだよ、それがふつうなんだよ。たとえ前世がどうであれ、あなたの人生はあなたが歩まなきゃ。記憶なんてものに引っぱられちゃダメ。影響されてはダメ。あなたはあなたのまま、そのままで大きくなりなさい。今のままなら先生、藤沢クンの将来に花丸あげちゃう」

「でもさ先生。これから景気が悪くなっちゃうんだって。それで満足に生活できない人が増えるって言われてる。そのときにオレ、今のまま変わらないでいられるか。自身ない」

「そんなときのために友だちがいるんじゃない? その前世? の藤沢クンの周りに友だちはいた? みんなもいたのかな?」


 半数はあの事件で死んで、生き残りの半数は深刻なトラウマを抱えてバラバラに散った。佃煮警部は自殺して。

 それがぜんぶ起きないのか。5のAは、5のAのままに残すことができた。


「そうか! みんながいるんだ! これから氷河期がきてもみんながいる!」

「そうね。でも氷河期? そんなものが来るって? ニュースで言ってた?」


 ちがうんです先生。

 でもすごいや、さすがはわれらの佃煮警部。年下でも人生は1枚も2枚も上手、敵わない。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 

 夏がきた。

 下敷きをウワンウワン言わせて風をつくる、みんなのだらけきった顔を見ていたら思いついたことがある。


「なあ、同窓会しようぜ、この、6年A組で」

「なんだドウソウカイって」

「集まるんだよ、何年かごとに。葉書が届いて、そこに何月何日にどこで集まるって書いてある。そこに行けばみんなに会えるってやつ」

「そのハガキってのはどこからやってくるんだ?」

「オレが出すよ、みんなに。委員長だもんな。20歳のときと、30歳のとき、40歳、50歳、60歳、生きてる限りずっとだ。だんだん減るらしいから元気でいろよ?」

「なんで『らしい』んだよ、知らねえのかよ」

「実は1回も行ったことないんだ同窓会に。でも今度から必ずいく」

「おお、行け行け! おまえなんかいつだって歓迎だ!」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夏は去り、冬がきた。

 6年生もあと少し。


「これはオレが伸一じゃなくて早川麻里子だったときに伸一といっしょに考えたことなんだけど」

「うん?」

「オレと将来結婚するのを前提に、いっしょに暮らしつつその家にナオを引き取りたいってやつ。あれナシで」

「なんで? いいのに」

「いいのか? ダメだろ! そう簡単じゃあなくてだな。オレは伸一と決めたのであっておまえとじゃない。それに、そのときでやっとお互い19歳だし、ナオはその年でやっと高1だ。前世で行った大学には姉貴の援助がないから行けないし、高卒の給料は薄給だ。そのころには就職氷河期が始まっているからな」

「そこはまあ、事実婚ってやつで? ハッキューでもふたりで働けばなんとかなるんじゃない? ナオちゃんと3人で生活するくらいどうにかなるって」

「いやいやいや、そうじゃなくてだな。前世がダメダメだったのは知ってんだろ?」

「でも早川麻里子としての伸一くんはそうじゃなかった」

「いくら天上から見てたっつっても、オレと伸一とで勝手に決めた——」

「だからいいってば。わたしも同じ気持ちだから。天上よりかは隣で見てた。いつも同じ気持ちだった」


 いやに真っ直ぐな目で見てきやがる。さすがは元神さま、心が広くいらっしゃる。

 オレなんかとは違って。


「オレは連続強盗殺人犯なんだってば」

「前世できちんと清算したでしょ。きちんとショバツされた」

「だからって罪は消えねえんだ。前科は消えちゃあくれない」

「それも一切合切ツグナったじゃない」

「量刑の問題じゃないんだ、気持ちの問題で」

「だからこれからツグナったらいいんだよ。今世ではドロボウされた人や殺された人にはまだメイワクをかけていないんだから、別の人に。生活に困っている人や、満足にごはんが食べられない人のために。だからまずはナオちゃんの保護から始めたらいいんじゃない?」

「うん。まあ。それもそうなんだが。だとして、おまえがそんな道に付き合うことはないぞ」

「だって。藤沢伸一くんが好きなんだもん」

「いや、その、はああ??」

「そうじゃなきゃ自分の身体なんか貸さない」

「それって!? じゃあ? 前世から?」

「だからそうだってば!」

「まじでか! あんなダメダメな人生を送るうす汚いおっさんにか?」

「そんな藤沢伸一くんにだよっ! ぜんぶ見てた。みんなが苦しんでいる姿も。何もできなくって、自分自身に悔しくって。だから——」


 麻里子のくちびるを指でふさいだ。それ以上は言わなくていい。


「ごめんな。女の子にさ、ぜんぶ言わせんなよってやつだよな。オレは改めてこれからの行いで示そうって、いつか麻里子に認めてもらえたらって、そう考えていて。だから一旦、あの話はナシにして、でもいつかもう一度って。でもそっか、だったら」


 いつか伸一がわたしにしてくれたように。片ひざを地面について。


「その、あらためて、きちんと言うよ。急な話で悪いとは思ってて、迷惑だってのはわかりきってて、絶対に苦労をかけるって知ってるままで口にする。早川麻里子さん、オレと——、ほれ、手ぇ出して」

「?」

「ホワイトデーは過ぎちまったけどな」

「これ? いけないんだ伸一くん、学校にお菓子なんか持ってきて」

「指につけてるのは麻里子だろ。オレじゃない」


 ジュエルリングのプロポーズ。ほんものは、またいつか。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 20歳になった。

 やっと出せる。葉書を。

 大人になったらって約束した、同窓会の案内。

 届け。そして。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 置いてきたナオが心配だが。

 もう高2なんだ、自分でなんでも用意して食べるだろ。友だちとマックに行ってもいい。コンビニでもいい。

 ……なるべく早く帰ってやるか。


「卒業アルバム! だれが持ってきたん?」

「えへへ、あたし」

「うわあ! 懐ぅぅうう〜〜!!!!」

「応援団長すごかったぁ〜。結婚してぇ〜んって思ったもん」

「あのころ、麻里子はめちゃめちゃ男口調だったよね」

「そうそう! ほんの一時期、たしか5年生限定? なんだったのあれ」

「背伸びに決まってるじゃないの。マリちゃんも背伸びをしたいお・と・し・ご・ろ、だったの」

「あはは、そんなんじゃないってば。ただ」

「ただ?」

「ううん、なんでもない」

「なんでもあるってぇ〜!」

「聞かせろ、このぉ〜!」


 女子同士のからみはなんとも美しい。ずっと眺めていられる。


「こいつ! やっと来やがった! 幹事遅い!」

「ごめんごめん。もう始まってる?」

「んなわけねえだろ。6年生で1年間もずっと委員長をやるような、変わり者幹事ぬきで始められるわけねえだろ」

「説明乙。ダンマは? あいつの姿が見えんが?」

「あいつならさっき食い過ぎたってトイレにかけこんでったぞ」

「まだ乾杯もしてねえのにか? 呆れたっつうか、ある意味すげえなあいつ」


 よかった、寿命を突き破ってまだ生きていたか。だが油断はできない。ここからだぞここから。


「あら藤沢クン、久しぶり」

「なに言ってんすか警部、先月も会ったじゃないですか」

「だれが警部じゃいコラ」


 ゲンコツゥ〜!

 前世のはどうやらストレス太りだったようだ。相変わらずのスリム体型、スカートはすね丈の。あれから9年、まだまだ若い。


「KENNETH!! Good to see you again!」

「Oh~, I'm sorry, who are you? You've changed so much, I didn't recognize you」

「I'm SHIN-ICHI! Long ago you used to call me SINICH, right?」

「OH MY FRIEND SINICH!!!! デモ今はまあまあしゃべるマス」

「だと思った! 元気だったか!? てっきりダンマがおまえの尻にぎょう虫をつけたんだとばかり」

「ギョウ、チュウ? 何ソレ?」

「いやこっちの話だった、なんでもない。それより、ケネットに教わったプロポーズ方法が役に立ったんだってば! Thank you so much!!」

「No way! That's amazing! どういたまして〜」


 ああ、もう。

 胸がいっぱいだ。


 ダンマが生きている。

 佃煮警部が生きている。

 愛モンが釣り人スタイル。

 行方不明のすっさんもいる。

 ブッチがマダムになっている。

 麻里子がみんなに囲まれている。

 英国からケネットが来日している。

 ノブと生みその身長が超伸びている。

 前世じゃ塀の向こうだったやつもいる。

 死んだはずのみんなが大人になっている……。


(この場面を…………見たかったのか…………)


 加トちゃん、オレらさ、やったよ。

 風呂には入ったし、歯も磨いたし、顔も洗って、宿題もやって、風邪もしんどくならずにここまで来れたよ。


「お、ゲロ女じゃん」


 カッチーン!

 竹ジのやつ……!

 いい流れを見事に断ち切ってくれるじゃあないか。

 ここでオレが怒るのはおかしい。ゲロをしたのはオレだが、言われたのは麻里子だ。ここは言われた本人である麻里子に任せよう。案外オレよりも鋭いパンチが出るかもしらん。言った本人もきっとそれを待っている。


「この私が目立たないとか。失礼しちゃう」

「コンコン!」

「そんなあだ名で呼んでくれるのはあなたくらいなものね。みんな芸名のほうばかり」

「でもさ、目立ちたくて来たんじゃないだろう? チヤホヤされに来たんでもない」

「そうだけど」

「ここにいる間くらいコンコンに戻んなって。今日くらいゆっくりしていけるんだろ?」


「うえ〜い!」

「どーん!」

「コンちゃんとずるいぞ、まぜろ〜」

「新聞部!」

「新聞部ぅ?」

「その呼ばれかた! 懐!」

「おい聞いたか、この中でもう結婚したやつがいるらしい」

「まじでか! だれなんだ?」


 おい〜、新聞部魂は永遠か?

 ったく。


「相手もこの中か?」

「どうもそうらしい。でも女子が教えてくんねえんだよな〜。もうちっとふだんから連絡取りあっとくんだった」

「それなら今からでも遅くないって。いつだって遅くない。今日中に全員と連絡先を交換したらいいよ。もう少ししたらMNPってのが始まって、ケイタイの番号が変わらずキャリアを変えられるようになるらしい。そうしたらもう、途切れることもない」

「そんなの始まるのか、さんきゅ委員長! まずはコンちゃん! たのむから教えてくれ〜」

「どうしよっかなぁ〜♪」


 ネットワークの網の目は細かい方がいいからな。

 LINEなんかも始まればさらに距離は近づく。そのときが楽しみだ。


「藤沢くん、元気だった?」

「いや、だれ?」


 この美人?


「わ・た・し。花田よ」

「ハナゲ……!」

「今でもそのあだ名で呼ぶ!? 出てないから!! あの頃も! 今も!」

「いや、ふつうに出てただろ、あの頃は」


 そうでなきゃ、そんなあだ名になってない。


「なあみんな!」

「ん? 乾杯か?」

「おれのこともあだ名で呼んでくれよ」

「急にどうした藤沢?」

「おれのことも呼んでくれ。名前を呼んでほしい。あのころのままの、あだ名でたのむ」




 完

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