第16話 聖バレンタインが天に召された日
オレはあまり顔を出さなくなった。ほとんどの時間をわたしとして過ごしている。今や眠って過ごす時間のほうが長く、目覚めれば数日経っていたなんてことも珍しくない。
タイムリープというよりは憑依に近かったのかもしれない。
ときが経ち、いよいよなのかもしれないな。ほとんど溶けた。そうして消えてゆく。もちろん受け入れる。元来小学生におっさんは同居していないのだから。
んで? 今日は何月何日だ?
2月?
14日?
ふぅん。
んで?
どうして伸一と正面で向かいあっていなきゃならんのだ。
「なんだ? どうした」
「また男っぽくなった? このタイミングで?」
彼が携えるはチョコ。おまえから、わたしに?
友チョコだな。しかしそんな風習が昭和にあったか?
それとも逆チョコか。アメリカでは男性から女性へ贈るのが一般的と聞く。それも平成後半で日本に入ってきたように思うが?
まあ伸一には好かれても仕方がない。それほど魅力的に映っているのだ、わたしは。
「ん」
手をだすが、なぜかくれない。
伸一はというと不服そうな顔をしている。
「なにそれ」
「いや、くれるというのならもらっておくぞ」
「いやいやいや、早川がくれたんでしょ、今」
はんぁあああああああ??????
そうきたか!
そもそもが徐々に割合を減らしてゆくように自我が変化してきたことから、変化後もてっきりオレの人格が反映されたものかと思っていた。ふんわり同一人格くらいに感じていたものが、そうではなかったということか。
オレが休止しているのなら、元の人格が活動しているに決まっている。そうかそうか、この身体の真の持ち主は伸一を選んだのだ。
あれだけいっしょに時間を過ごしてりゃあなあ。そうなるか。
問題は…………、とくにないな。
ないのなら、いいのか?
今なんておっさんが小学生同士の会話に割りこんできただけのこと。いたいけな若者の邪魔をしてしまったらしい。
ふぅ。
「おまえ。なんでわたしのこと好きになっちまったんだ? やっぱあれか? スーパー本山がきっかけで」
「え、逆でしょ。君がチョコをくれたんだろ」
「わたしのことはいいんだ。おまえのことを聞かせてくれ」
「知らないよ、気づいたら。ちがうか、転校初日に奇声を浴びせられたときからかな、やっぱり」
「違うんだ、あれはそういうんじゃなくって。ほかにいくらでもかわいい子がいるだろ。カナとか、はじめっちとか」
「ちがうもんか、あの一件のおかげで転校初日からバラ色になってしまった人間の責任をとってよ」
なんだこれ。
ぼくとわたしが、自分と自分が惚れたやめろと言い合いを。
「ぼくは何度でも好きになるよ。何度生まれ変わっても。何度人生をやり直してもだ」
「それは実際にタイムリープしていないからそう言えるんだ」
「タイム? りぃぷってなにさ。タイムスリップとはちがうのか?」
「タイムスリップはあれだ、事故だろ、まきこまれた。タイムトラベルは時間旅行だし、安全。タイムリープは、なんでこんなことでまじめに説明しなきゃならないんだか。とにかく、まあいいや、考えとく」
「今日断られたらどうしようかと。あれ? チョコをもらったのはぼくなのに?」
「そうだ、いいこと考えた。こうしよう、もし6年生の4月を無事に迎えられたら本気で考えてやるよ」
「本当か? でもどうして4月?」
「まあいいじゃないか、こっちだって最大限の譲歩をしてやってんだ。いいか、無事に、だぞ。5のA全員が無事に新学年を迎えられたら、だ」
「わかった、防衛隊がニンム完了したらだね。でも、あれ? 逆じゃ? あれ?」
「それまでわたしを、5のAを守ってくれ、わたしの騎士」
「まー、それでいいか。じゃあ、よろこんで!」
伸一が片ひざをつき、わたしの手をとる。
どこでそんな知識を得たんだか。まったく、芝居じみて。ふざけ半分で。
ウッカリときめいてしまうじゃないか。




