第14話 新学期は突然に
新聞は無事に発行された。
3バカは受けとった朗報に張りきって記事を作り、印刷し、ばらまいた。学年じゅうどころか学校じゅうに。
その間に功労者ふたりは警察に招かれ、表彰さる。当然訂正とともに新聞にも載って。こちらはなんと全国紙だ。
タイゾーが一部関与していた件については不問、いちおう初期消火を試みていたことからプラマイゼロ、タイチへの評価に影響しなかった。
かつての小学生放火の報から一転しての表彰に、変なうわさがわかないでもなかったが。下世話な話題から美談に変わったこともあり、受けとめかたは静かだった。
クソ世論め、これだから。しかし炎上に比べたら100倍いい。
世論はそれでいいとして、ご近所。
タイゾーとその友人についてはなんら話題になっていない。警察と伸一とわたしさえ漏らさなかったら表に出ないから。
タイチとモトしんについては、さんざこき下ろしていた人物からは謝罪があったようだ。菓子折りが連日でタワーになっていると聞く。
クラス内でも多少は揶揄する場面をみた。でもわたしたちはお菓子などを必要としない。素直に謝罪ですぐに仲直り。小学生ってのはすごい、これができる。
(みんながみんなああでいられたら。自分が将来も今のままでいられたなら)
時代はそれを許してはくれなかった。いや、ちがうな。
結局は個人なんだ。自分で自分自身を見放して、変質した。
だから今度こそ失敗しない。自分自身をあきらめない。自分でいることをやめない。
貧しさはこころを削る。この事実だけはいつまでもとどめておこう。
「ありがとう」
「助けられたよ」
「ほへ?」
さっきまでみんなに囲まれていた英雄たちが目の前にいた。
「おまえらが動いてくれたんだろ? 新聞部に聞いたんだ」
?
もしかしてあの3バカ、外にも新聞部を名乗ってんのか?
にしても。おしゃべりどもめ、口どめしておくべきだったか。
「いやあ、真実は真実のままにってね。やってもいない罪に問われるなんておかしいよ」
伸一?
まあ。そうだな。
終わりよければすべてよしかな。
「まさか兄貴たちもやってないとは思わなくって。かばい損になるとこだった」
「でも残念だったね。黒幕は捕まえられないままになっちゃって」
「それが、警察はだいたい犯人がわかっているみたいだったんだ。似顔絵とかクセとか、教えるとなにやらヒソヒソ話してて」
「へえ、じゃあそのうち捕まるかもなんだ」
「かもな」
「よかった。それで本当の一件落——」
「ほいー、おはよー! 委員長!」
佃煮警部め。ったく、あと数秒も待てんのか。
「起立ぃつ!」
「礼」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはようさん」
「はよざいます」
「あざまーっす」
「お早うございまする」
今だれか、お礼しているやついなかった?
「はい、おはよう。いよいよ新学期も今日から本格的に、だね。そしたらじゃあ、みんなお待ちかねの席替え」
「やった!」
「の前に、3学期の新委員長を決めたいと思います」
「んだよ、期待させて」
「早川さんでいいと思いまーす!」
「さんせー!」
「わたしも」
「おれもー」
「じゃあ決まりね」
なん……だと……?
これを民主主義というのなら断じて否と声高に宣言するよりない。即座に遺憾の意を呈す。
「ええっと、いくらなんでも乱暴じゃあ?」
「先生はふさわしいと思うけどなぁ〜。早川サンが5年生になってからみせた行動力、品行方正さ。学業にも力が入っているし、なにより問題を起こさない」
「いえいえ、問題は起こしているじゃないですか。自習中にぬけだしたり、ガラスをコソッと直そうとしたり、修学旅行中に——」
「早川ッ!」
だったな伸一、サンクス。
「——は、なにもありませんでした」
「なにそれ。修学旅行中にも何かやったの? だとしてもいいわ、それらはすべてクラスのみんなのために起こした行動でしょう? みんなも知ってる、先生も知ってる。もちろんあなた自身も。だから推薦する声がでて、先生も認めた。これは自慢していいのよ?」
ちがうんだ先生。
オレみたいなやつが委員長になっていいはずはないんだ。オレなんかが。みんながいい人生を送れるようにって、軌道修正しているだけなんだ。自分のことは棚にあげといて。
オレはどこまで逃げたとしても連続強盗殺人犯。その罪は消えない。消えてくれない。だからみんなに推挙されるような人物じゃないんだよ。
それを口にしたら————
「よぉし、決まったな! じゃあ席替えー!」
「副委員長は藤沢クン、お願いね」
「ゲェ!? なんで!?」
「あなた自覚ないの? あなたも早川サンと同じ理由よ」
「賛っせー!」
「決まったな! ほんじゃ今度こそ席替え席替え!」
「はいはい。今回の席替えはねえ——」
みんなはいったいどんな顔をするだろうか。




