第12話 運動会戦線異常なし
今日は練習の成果を披露する日。秋季大運動会だ。
なんで秋季が頭につくのかというと、ほんの数年前まで春季と秋季で2回やっていたのだそう。さすがに2回はめんどうだ。
そこまで運動に力を入れずとも、昭和の子どもは元気いっぱい。運動場狭しと暴れまわり、放課後だって野球にサッカー、スイミングスクールと忙しい。
令和じゃ秋が暑すぎて危険、春先に運動会をやるのだとどこかで伝え聞いた。部分的に先祖返りをしておる。
「ぐおお、ふつうに寒い」
なんでまた11月なんだか。
稲刈りの関係かもな。春は田植えが終わってから、秋は稲刈りが終わってから。この田舎の大半を占める農家が繁忙期を超えてからの開催。オレたちの少し前の世代は、学校を休んで手伝っていたと言うしな。
んま、機械化さまさまってとこだろうか。
その労苦から解き放たれたオレたちはというと、さんざ行進練習をさせられ、さんざんラジオ体操を強いられ、さんざっぱら組体操を強要され。まったく昭和の教育ってやつは。
そんなでも運動会当日となればテンションが上がる。不思議と。たぶん児童だけならさほど、ならば家族がくるからだ。披露する機会。
ウチは。
もちろん院長先生をはじめ職員さんが総出でやってくる。小さい就学前の子たちを連れて。
藤沢家は。
だれもこないのを知っている。だから。
「おい伸一。ん」
「なんだよ。お弁当?」
「おまえのと、姉貴じゃなかったナオちゃんの」
「こんなのもらえないって! それに買ってあるんだ」
「つっても菓子パンだろ? それはおやつとしてみんなで分けよう。それと、いま渡すと温もっちゃうから一旦職員さんに預けとく。お昼にいっしょに食べようぜ」
「お、おう。なんだか悪いな、なにからなにまで」
「わたしと伸一の仲じゃないか。それに菓子パンはもらうんだ、おあいこさ」
「早川さん……」
「そろそろ下の名前で呼んでくれてもいいんだけどな?」
「そうだね。考えとく」
さあて、運動会か。めんどくさ。
「面倒だから、ちょっくら佃煮警部に優勝をプレゼントしますか!」
「ふふっ、いいなそれ!」
主役は5年生で、なんとわたしは応援団長。さいきんクラスで目立っていたからしょうがない。
各色の応援団長による選手宣誓には出るし、応援合戦でも中心人物としてやる。前世でも応援団員はやったんだ。だからさほど抵抗感はない。
5年生が団長なのには修学旅行と同じ、中学受験が影響している。いちおうこの県の有名中学常連校だからな、勉学に不足があってはならない。
嶋キャンをはじめ、今年が最後と意気ごむ5年生も多いときく。小学生でも殊勝なことで。世も末か。
いや? わたしの感覚のほうがおかしいのか?
伸一はといえば応援団員。史実のまま。
あのときの団長はユージだったが、こう変わってしまった。大人になってから再会したときでも『あれは嫌だった』とこぼしていたから、代わってあげたことで彼も喜んでいるはず。
仕方がない、最下位だったのを優勝まで押し上げるんだ。これくらいは気張らないと。
主な出場種目は徒競走、組体操、団体競技、騎馬戦、創作ダンス、綱引き、リレー。
学年がたくさんあるので休み時間は多いものの、ギッチギチのタイムスケジュール。前の種目の退場と同時に次の入場が行われる。
朝の8時から夕方4時だもんな、さすがは昭和、このボリューム。大運動会の名は伊達じゃない。
「サル、ゴリラチンパンジー♪」
後年に調べたらボギー大佐とかいう曲名らしいが。嫌だった入場行進にもふしぎと力が入る。
見やると、応援席の密度もギッチギチ。他人との距離が近い。
マスクはゼロ。40年後にソーシャルディスタンスなんてものが必要になるなんてだれがいま想像できよう。
「乾杯〜!」
「ほい〜」
昼間っから酒をあおる集団も!? わたしも混ぜれ! あと9年か、先は長い。
応援席と同じく、出場する児童のテントもギッチギチ。そりゃあ同じ運動場だもの、片方だけスカスカはありえない。
しかも、テントによる日除けの恩恵に預かれるのは各色150人ほど。残りの120人は後方にあぶれ、直射日光に当たっている。テント屋根格差社会がここに。
ただし、なにも考えずに真下に陣取るものだから、太陽の方角によっては誰ひとり恩恵にあずかれないという謎仕様。
昭和ってこういうところ適当だったよなぁ。小雨強行だから盛大にぬれた年もあったし。
とにかく、ここらの地域の老若男女がひとつの運動場に集結している。大丈夫か、釜の底が抜けやしないか?
音だけの花火がポポポンとあがって。
始まる!
(さあ! 済まないな他の色の人たち。今年はわたしたち青組が席巻するッ!)
と意気込んだものの、最初の応援合戦は黄色に持っていかれた。
伝統的な演舞におさまらず、ダンスを取り入れた独創的な振付けが注目を集めた。これには脱帽、敵ながらあっぱれ。
わたしたちは体力を温存したのが裏目にでたか。だけどまだあわてる時間じゃないと仙道さんも言っていた。
「いけー! 赤ぁー!」
「フレー! フレー! み・ど・り、あそれ」
各学年の徒競走ではあまり差が開かない。やはり大量得点がどっと入る団体競技が午前中の肝になりそう。
今年のわたしたち5年生の団体競技は、台風の目。あの、ぶっとい竹の棒を5人で横ならびで持って走るやつ。
ポイントは、ぐるりと1周回る中間のパイロンをどのように攻略するか。各色が無難にこなすなか、われわれ青組はひと味くわえた。
わたしが密かにささやいたのだ、クラスの重量級を内側にすることを。
身長順を基本としつつも、内側には体重の重い者、足の遅い者を配置した。そのうえで、パイロンを回る際にひと工夫。
ふつうに走って回るんじゃなく、内側の児童がパイロンを背にして棒を振りまわすような動作をとる。さながらハンマー投げのように。
「フレフレ青組、フレフレ青組〜!」
「いいぞダンマァ! もっと振りまわせェ!」
「フゥン!」
「うお、速い!」
「引っぱられる!」
『おっと青組!? これは速い! 回転が台風の目そのものだ!』
これにより、外側の児童は自身の脚力よりも速く旋回することができる。
これは後年に見られるテクニック。ククク、悪いが利用できるもんはなんでも利用してやる。
「でもおり返しは逆回りだろ? 意味あんのか?」
「フッフッフ、よく見るんだ伸一。途中のパイロンは1回転、ではおり返し地点では?」
「半分? 半回転か!」
「その通り。結局どっちかは捨てなきゃならないんだ。半回転と1回転ならどっちを取るかは言わずもがな。途中で棒の持ち位置をスイッチすることも考えたけど、それってさすがにルール逸脱になるかなって。だったらルール内で最大限あがいてみようって、そう思って」
走る速さは徒競走の結果で明らか、どの色も似たり寄ったり。であるならば、肝となる回転さえ速くなれば徐々に差は開くというもの。
『青組のアンカーが早くもゴーール! 他の色はこれからアンカーです! 台風の目1位は青組ぃー!!』
「やったあ!」
「5年生ハヤ!」
「よぉし、これで勝負できるところまで点差を縮められた! まだだ、まだ終わらんよ」
お昼は施設のみんなと、伸一兄妹と。
姉貴のこっちの世界での存在、妹のナオちゃん。
前世で姉貴はオレよりも先に家を出たから、オレの身の振り方は自由だった。
伸一はどうなるだろう。ナオちゃんは3つ下。先に高校卒業で伸一が家を出ちまうと、残されるナオちゃんはひとり。
(あの家にひとり、か……)
姉貴の性格なら友だちの家を転々でもへっちゃらで生きていけるんだろうが。ナオちゃんはどうだろうか。
この先で姉貴の雑草魂遺伝子が覚醒してくれればいいが。今のところただのいい子だもんなぁ。心配だなぁ。
もし覚醒が起きなきゃどこかでひと肌ぬいでやらねば。オレだって姉貴への恩義を忘れちゃいない。姉貴にしてもらったことはきっとナオちゃんに返す。
「そっか……、オレはもう姉貴に一生会えないのか」
「どうしたの麻里子さん? 急に」
「ううん、なんでも。おかしいね、なんでか涙がとまらない」
「あの、これ、よかったら使ってください。下ろしたてだから汚くないよ?」
「こ、このハンカチは……!」
小学生のオレがなけなしの金で買った誕生日プレゼント。どうして……?
姉ちゃん、ごめん! オレ、まっすぐに生ぎられねがったごめん! なんでオレ、あああああ! 姉ちゃん! 姉ちゃん! 姉ぢゃんんんッッッ!!
「どうしたのかなお兄ちゃん……。麻里子さんはどこか痛いのかな?」
「おい早川? 大丈夫か? 保健室連れてくぞ?」
「……ううん、大丈夫。急にごめんね、ナオちゃんがそのハンカチを見せてくれたからもう平気。生き別れた姉のことを思い出しちゃって。ただそれだけなんだ」
「おまえ……」
「わたしは、さ、あなたたち兄妹とおんなじような環境で育ったから。だから他のだれよりもあなたたちのことがわかる。いつでも頼って? ぜったいに力になるから。いつだって。どこにいたって」
「ありがとう麻里子さん。わたしたちは今はそんなでもないんだ。だから麻里子さんがつらいならわたしが助けるね!」
「あは! さっすがナオちゃん! やっぱりナオちゃんには一生勝てないなぁ。とと、はやくご飯たべよう? 午後の競技始まっちゃう!」
照れ隠しにおにぎりを限界までほおばる。くそぅ、とまれ涙。
決めた。
もし鬼門の今年を越えられたなら。無事に6年生を迎えられたなら。その先で。
今はいい。午後の競技に集中だ。
さいわいナオちゃんも今年はA組なので同色。これでわれわれ青組が優勝するのになんの憂いもない。
ところが午後の応援合戦は赤組に持っていかれた。チアの振付けがまぶしい演技だった。
「惜っしい……!」
「どんまい! 午後もはりきって行こう!」
いいんだ青組は、まだ焦らない。だよね仙道さん? 手遅れじゃないよね田岡監督?
応援合戦には作戦があって、最後のリレー前の最終演舞、得点がシークレットになる3回目に賭ける。ここでの得点は2倍、3回の評価の中でもっとも割り当てが大きいのだ。
5年生の午後1番は綱引きから。
応援団長は当然のように先頭。
「綱の位置高すぎぃ!」
「こんな頭よりも高い位置の綱なんて、引っぱっても力入んないぞ!」
わたしの周囲からは不満爆発。
事前に低く低くと言っても、実際に始まったら聞きゃあしない。案の定、低身長男子も力を入れにくい体勢での参加をよぎなくされている。
なんとか1回戦は突破したが。
次の決勝戦も高い!
「低くしろォ! 頼むから身長低い人たちのために綱を下げてくれェ!」
オーエス、オーエスじゃない! 返事ならイエス!
緑はしっかり低く引っぱっているじゃないか。全員が引っぱりに参画できている。だからジリジリと、前へ。
「この! クソ!」
どうしてくれようこの綱。これじゃ鉄棒じゃないか。なんて重々しい、まるで微動だにしない。
こんなの、わたしひとりくらい参加しなくても一緒じゃないのか?
低く、か。
「ヨッ」
「マリちゃん!? なにを!?」
低くしてくれないのなら強制的に低くしてやる。
縄にぶら下がることにした。腕だけではすぐに疲れる。足もバッテンにして。
いや、ちがう。これじゃあ相手だけじゃなくて味方にもお荷物になる。
お荷物だとして、なにか貢献できないか。
「そうか! わたしは応援団長!」
そのまま鉄棒のようにして、よじ登り。
「よっ!」
綱の上に立つ!
「引けェ!! もっと力ァこめろォ!!」
「早川? じゃなかった団長!?」
『なんと青の応援団長、綱の上に立ったかと思いきや、さらに地団駄をふむ! ストンピングだぁーっ!』
「低くだ! 体勢そのものを低くしろ! 後ろに倒れるつもりで! 引けェ! 倒れろォ!」
『そのまま綱の上で応援を!? 素晴らしいバランス感覚!』
緑は最初からその体勢だった。青も同じになれば、地力で勝る方へと天秤は大きく傾く。
いいぞと思った瞬間。
「あら?」
天地はひっくり返り、グシャリと変な体勢で綱から落ちた。
ただ転落したのかと思いきや、わたしはふき飛ばされたらしい。綱が真ん中で千切れていた。
足の裏が泡立ったような感触がしたんだ。もしかして、わたしのせい?
「ビックリしたァ!」
「ビチィって音したよな!」
「おい大丈夫か!? ケガしたやついるか!」
「いませーん」
変な落ち方をしたがどこも痛くない。
身体がやわらかいからだ。小学生女児はケガをしにくくて助かる。
運営本部では話し合いが始まった。この結末をどのようにするか。
応援団長は結集し、アリーナ最前列で見守る。
「ウチだ」
「いやいやウチだろ」
「おまえのとこは関係ねえだろ。最下位じゃねえか」
「どっちでもいいから次の競技にいってくれ」
「そんな投げやりにならなくても」
「ハァ!? 綱引きはゆずっただけだしィ? なんなら次の競技で楽勝だしィ?」
「ア? なんだ?」
「ヤンのか?」
「おまえら3位と4位で盛り上がんなっての」
「ハアァ!?」
「バ〜カ〜ア〜ホ〜マ〜ヌ〜ケ〜」
「ここでわたしらが言い争っても決まんないって」
そう、決めるのは先生がた。
「どうしましょう。勝敗は」
「本校にはあれ1本しかありませんからなあ。結んでみては?」
「ほどけるでしょう。危ないですよ」
「一重つぎ結びなら大丈夫ですよ」
「しかしだね、今度は別のところが切れるかもわからん。それに次こそケガ人が出るかもしれん」
「むう」
「ではこうしませんか。どちらが優勢だったでしょう? 切れた時点でどちらに傾いていましたか? それで決めましょう」
『綱引き競技の1位は、青組!』
「ヤッホォイ!!」
「いええええええ!」
「逆転んん、はしてないか」
歓喜の中、入場門へと急ぐ。次の競技をはさんで創作ダンスだ。
ダンスもやはり審査の対象、4色は同じ曲を別々の振り付けで踊り、その出来を競う。
本来わたしは女子なので創作ダンスのほうなのだが、団長なので騎馬戦にも出なければならない。つまりは両方の参加となる。
「なにあれ!?」
「なんだあの奇妙な足さばきは!?」
「すご!?」
刮目せよ。
振り付けにはムーンウォークを組みこんだ。それだけじゃない、チューチュートレインのぐるぐる回るやつも。もちろんオリジナルのZOO版だ。
応援団長であるわたしを先頭に、審査員に向けて猛烈アピール。たとえ横からみたとしてもウェーブになるので、全体的な見ごたえもあるはずだ。
「わあ! ふしぎ〜!」
「あれテレビで見たことある!」
それ以外にも取り入れたいムーブはあるが自重する。オリジナルが発表前では、いかな田舎の小学校の運動会とはいえ口コミや写真から物議をかもさないとも限らない。
リスペクトなんだ先駆者への。ヒトの道は外れない。外道にはもうならない。
「種目もかなり少なくなってきたぞ。点差は!? 見てくれ伸一。わたしは目が悪いんだ」
「ダンゴだね。その中で青だけちょっと低い」
「ハァ!? どうしてそうなんのさ? 綱引きとダンスは1位だったろ?」
「知らないよ、掲示にはタイムラグがあるんだ。あそこにダンスの点が入ってやっと、それでも負けてると思う」
団体競技が台風の目以外で1位をとれなかったのが効いている。1勝5敗。他の競技でもジリジリ。青は5年生以外がてんで。そりゃあ史実で最下位にもなる。
大きく離されていなくても追いつけない展開。次の騎馬戦で、どうにか。
「最後にもう1回だけ確認しとくぞ早川。本当にその馬でいいのか?」
「いいもなにも、このメンバーがベストだ」
「おまえがいいんならいいんだけど、それで負けんなよ?」
「負けるつもりはないよ。これは勝つための布陣だ。なあみんな!?」
「ああ! 大将首はおれたちで取る!」
「その意気だ、行こう! 男子の大一番だ!」
「おお!」
5年生と6年生の総勢11騎が4色分。これがグラウンド狭しと弧を描く。
『よぉい、始め!』
これだけピストルじゃなくて、かけ声なのもこだわりだ。
「待てコラ! 逃げんな!」
「最強の大将を引きつけんのだってこっちの作戦だっての」
『黄色の大将騎が青組の大将騎を追いかけます!』
「ここまでおいで、ベロベロバァ!」
「このッ!」
こっちは小兵でも足の速い子を集めた。腕力なんて似たり寄ったりだもんね。だったらスピード勝負。
「赤組がゼンメツしたみたい?」
「緑の最後が黄色と青に囲まれてる!」
「じゃあ2位は確定したね! あと少し、がんばって!」
『さあ! 混戦模様もおよそ片づき、残っているのは黄色と青!』
「ごめん団長、取られちゃった」
「まずい早川! 2対1で青が負けてる!」
「いつの間にか最後ってこと!?」
「時間もないぞ!」
『さあ青は大将騎1騎を残すのみとなりました! 黄色が優勢ですッ!』
「作戦変更! 迎えうつ!」
「ハッ! 放っといても勝てるのに、いまさら相手すると思うか!?」
「待てェ!」
『おおっと攻守交代か!? 時間間際になって負けているとわかった青組大将騎が、黄色の大将騎を追いかける! 大将騎は得点が2騎ぶんです、青組には逆転のチャンス!』
「このぉッ! 戦ええ!」
「おまえに言われたかねえな……と見せかけて」
『黄色の大将騎が回頭、青組と向かい合います! ついに大将騎同士の一騎打ち、ぶつかりますッ! しかももう一騎の黄色も近づく! はさみうちの展開!』
「戦って負けるわけねえだろ。倒して勝ってやるよ、来いヤァ!」
「うお……!」
「近くでみるとでかい!」
「後ろにも気をつけてッ!」
『この身長差! 身長の高いほうからでそろえた黄色に対し、青組は最軽量級、騎手が女子であることも相まって、騎馬の高さは50センチ以上の違いがあります!』
「スピード重視も戦いじゃあ役に立たねえなぁ、早く楽になれ」
「これで、終わりだッ!」
大振りだ。ぜったいに勝てるという優位と自信、それは隙になる。
「コチョコチョコチョコチョコチョコチョ!」
「うわあああああ!? やめろおおおおおお!」
「うおッ!? 危ッ!?」
『黄色の騎馬が崩れそう!? どうした黄色の大将騎!?』
将を射んと欲するならまず馬を射よ。馬は両手がふさがっているしね、無防備だ。
「なッ!? ヒキョウだぞ!」
「卑怯もなにもルール内だよ。なぐったり引っかいたりが禁止なんだ、くすぐりは禁止されちゃいない」
目の前にまるで差し出されたような赤白帽を手にとって、高々とかかげる。
「勝鬨だああ!」
『ここでタイムアップ! 大将騎同士の勝負は青組に軍配〜ッ! 体勢をくずした黄色の団長は落ちまいとしがみつくだけ、そこに青組の団長が赤白帽をうばいとった! トドメを刺したァ!』
「覚えてろよ。最後のリレーでとりもどす」
「ふふ。受けて立つよ」
いよいよ最後の応援合戦である。
「おお……!」
「あれは!」
家を知っているタイゾーにお願いして、学ランを借りてきた。中学の学ランを。もう一生会いたくなさそうだったが、そこはそれ、脅しをかけて。
「なんでおまえなんかに」
「いいでしょ休みの日なんだから。上着だけ、ちゃんと洗って返すし」
「嫌に決まってんだろ」
「まあまあそう言わず。それで? その後アボカド先輩とは?」
「連絡ねえよ。会うつもりもねえ」
「そう。よかった」
「おまえ……?」
タイゾーが友人にお願いして、応援団員全員分を集めてくれた。だからパッと見て壮観。
そのうえでタスキをかける。絶妙にダサい。でもこのダサさがいいのだ、一部には痛烈に刺さる。
「ほぅ」
「やりますなぁ今の子も」
「他の組が今風の応援というものをみせてくれる中で、いまいち華のなかった青組が。こういった演出を用意していたとは」
「敢えて伝統を貫いていたとも取れる。ふふ、おもしろいじゃないか」
戦後はまだ47年。ここにいるご年配はみんな戦争に行っていた。だからではないが、失われつつある伝統は、お偉いさん方の琴線をくすぐる!
どうせここでの得点は明らかにされないんだ、好きにやるさ。
仮に現状で1位がとれているとして、まだ計算では優勝に届かない。やはり最後の種目、リレーで勝たないことには。
『おっと、ここで耳よりな情報を。先ほどの応援合戦の結果を受け、4色の点差は最大でも8点となりました。これにより、優勝のゆくえはわからなくなりました! 最後の種目、各色対抗児童全員参加リレーで1位となった色の優勝です!』
まあ、予定調和というか、既定路線というか。
毎年そうなんだ。どの種目でも2位も3位もまあまあの得点が入る。応援合戦はこれまでの順位も鑑みて得点がつけられる。だから。
必ず毎年、最後の全員リレーで勝敗は決まる。演出なんだ、最後を盛り上げるための。何十年とやってるからその辺りはお手のもの。結局は先生がたの手のひらの上。
だとしても。
「佃煮警部に優勝をプレゼントするって誓ったんだ!」
おそらく暫定一位。これを維持するにはリレーも勝たねば!
ピストルが派手に鳴る。近隣に響いたってお構いなし。だって全員参加なんだ、地域全員参画。これが昭和の運動会ってもの。
足の速い子、遅い子。
『赤が早いです! 黄色も負けるな!』
まじめな子、不真面目な子。
『緑がすごい追い上げ! 青は追いつかれるッ!』
バトンを落とす子、転けちゃう子。
『緑が転けました!? 大事ないようです。黄色はその間に、バトンミス!』
手を骨折で吊っていても走る子。養護学級の子は短い距離を。
目まぐるしく順位は入れ替わり、全部ひっくるめてアンカーとなる。
『最後はアンカー対決だ! 緑以外の3色が三つ巴! いま副団長から団長へとバトンがわたる!』
「早川ッ! あとはたのむッ!」
「任せろ伸一!」
わたしは学ランを羽織って走る。
「ずおおおおりゃあああああああああ!」
この身体は足の速い方なんかじゃない。ふつうだ。でもこの日のために走りこみはした。いちおう努力はしたんだ。
それに。君たちの裸足はね、かっこいいけどその実、けっこう滑っているんだよ。
運動靴の進化をバカにしちゃあいけない。そりゃあみんながふだん使うズックなら裸足の方がいいかもしれない。でも運動靴なら。ドンドンドンドン性能は上がっているんだ、接地面積だって靴のほうが大きい。地面との摩擦でも優る。
だからわたしの足でも大きく離されはしない。この位置からでも、チャンスさえあれば。
「早川ァ!」
「行けえ団長!」
「刺せェ! 最終コーナー!」
「ブチかませェア!!」
わたしは3番手。後ろはしっかりと引き離してくれていたから問題にはならない。
しかし前のふたりを大外から抜き去るのはどう考えても不可能。なにか奇跡でも起きないことには。
「クッ、この……!」
このまま3位でも……よくない!
先を争った赤と黄の肩がぶつかって、もつれた。と同時に速度がわずかにゆるまる。
ぶつ……かる……!?
「麻里子ォ!」
伸一!?!?
「なにィ!?」
「なんだと!?!?」
声に弾かれて、自然と馬跳びを。
(わたしも!? いっしょに馬跳びをしたかった!?)
ゴールテープなんか切っちゃいない、素通り。その上を越えたッ!
そして無様に落着。
「あだだ痛だだだだだだだだ!」
赤も黄色も3人でグッチャグチャ。
そのまま見上げる。
「どーん!」
ここに4位でゴールした緑がおり重なって!? おまえはクラッシュと関係ないだろ!?
「バッカおまえ、ふざけんな!」
「おれも混ぜろよぉ〜」
「ちょっと! 変なとこ触んないで!」
結果は? 順位はどうなった!?
『リレーの1着は青組です! 青組の優勝ぉお!』
「うおおぉい! やったやったぁーい!」
「優勝だァ!」
「いやいやいや、ちったぁわたしの心配もしてよ」
ごめんよタイゾー。学ランの右そで捥げちゃったみたい……。




