第11話 放火後のプレアデス
2学期が始まってずいぶんたち、運動会の練習も始まって。なんでもない1日のはじまり、そろそろ朝の会かと思いきや。先生が真っ青な顔をして教室に飛びこんできた。
「今日は朝から自習にします!」
珍しい、あいさつもなしに。
さっそく大問題が起きたようだ。告げるだけ告げ、あわてて出ていく。わたわたと、筆記具と帳面を携えて。
「いえ〜!」
「フゥーッ! ジシュー!」
「ねえねえ、きのうのさあ——」
「さっきのつづきやろうぜ!」
「新聞みた? えらいこと書かれてたな」
ほう、いまどき新聞を読む子がいるとは。
なるほど嶋キャンか、やつなら読んでいるだろう。
手嶋雄太郎。夢は宇宙飛行士をサポートする側のNASA勤務。田舎の小学生にもかかわらずすでに英語を勉強していて、CANの単語が大好きで、年じゅうやればできるの意味合いでアイCANアイCAN言いまくるので嶋CAN。
初期の『てしキャン』は言いにくかった。
「なにそれなにそれ、くわしく」
「わたしにも。最初っから」
「この近所で放火があったらしい。しかも小学生が火をつけたって」
「まじでか! どこの小学生?」
「まさかこの学校の?」
「その可能性があってね、なぜなら燃えた住所が北小の学区内。しかも11才って年齢も出てる、ほらここ。11才の男子児童」
新聞を切り取って持ってきていたのか。さすがは学年トップを争う秀才、先読みの嶋キャン。
「なになに? 農器具小屋が全焼!?」
「やっちまったなあ」
ことは小さいが、小学生が火をだした事実は大きい。
令和なら娯楽であふれていても、昭和ではなんにもない。だからマッチいっぽんがあるだけで娯楽になるのだ。
この時代はタバコを吸う人口がすさまじく、ゆえにマッチやライターがそこらに。至極かんたんに手に入る。なんなら道ばたとか、そこらに落ちている。手に入っちゃうから遊ぶ子どもも出てくる。いつだって子どもは大人のマネをしたいのだ。
起こせる火は小さく、すぐに消える。だからなにかに移して長持ちさせたい。大きな火を見たい。
そんなことが小火につながったのではないだろうか。
「だから今日、もし休みのやつがいたら……」
「いたら?」
「犯人の可能性があるってことォ!?」
「声がでかい!」
「あんたほどじゃないって」
「早川さんは察しがいいね、そういうこと」
すばやく見回す!
だれがいない? だれが登校していないんだ!?
みんなが立ち回っているから席は空のほうが多い。クソゥ。
しゃあない、人数で。
2、4、6、8、10、12、14…………。あああ、もう!
「ちょっとみんなァ、動かないで!」
「なんだぁ?」
「いまのもしかして早川さん? 怖」
もう一回、今度は逆から。2、4、6、8、10、12、14…………。
やっぱり42人だ、2人足りない……!
だれだ? いったいだれがいない?
「タイチとモトしん」
「なッ!?」
やるな嶋キャン。
たし……かに……いない。
だけどなぜ!? あいつらが放火なんて!?
「まじで!? たしかにあのふたりはいつもいっしょにいるけど」
「モトしんはともかく、タイチは風邪をひいても休んだことない。ということは——」
「もちろんほかのクラスの可能性もある。次の休み時間で調べないと結論は」
ところが遠い記憶に覚えがある。言われて気づいた、かつても冬に放火は起こったような気がする。しかもおそらく、犯人はこのクラスから出た……?
放課後なんてすみずみまで目が届きやしない。ちくしょう、事前に思い出せていたなら!
「どうする? 校長室行ってみる?」
伸一?
なんで校長室?
「どうした、どこからそんな発想がでた」
「早川さんなら行くかなと思って。だって保健室ので反省なんてしてないんでしょ?」
「まあね。でもなんで校長室になんのさ」
「たぶんシーチの考えはこうでしょ。警察での取り調べは日曜で終わってて、大事件にはいたらず、今日ふたりは登校してる。警察から連絡を受けた校長が、念のため本人たちから事情を聞きたいと呼びだした。とうぜん佃煮警部もいっしょに。だよね」
「ま、そゆこと」
すご。さすがは嶋キャン、大人のオレの出る幕ない。てか伸一もそこまで読んでて? あいつはオレだぞ、ウソくさい。
じゃあ今日はこの3人で偵察だ。
……最近こんなのばっかしてんな。
「じゃね。いってらっしゃー」
と思ったが、嶋キャンは推理したまで。結果については興味がないらしい。それよりも自習中に教室を出る発想がないと。
そうだよな、優等生だもんな。
(行くんだろ?)
(おれたちも)
(連れてけ)
それでまたついてくるのはゴシップ好きな三面拳の3人。
またこの5人か、保健室の正座メンバー再集結。もはやチームといっていい。
「がんばってね!」
「ロウホウヲマツ」
ただ待つ身はいい気なもんだ。
どうせ行って戻れば質問攻めだもんな。みんなも意外と新しい話題には敏感。
(しかし今回は楽観できないぞ……!)
コトがコトだ。
校長室は職員室のさらに先。いくらなんでも目が多すぎる。忍びの者でも見つからずにたどり着くのは不可能。
ここはもう、ひらき直り。授業中に移動しているのがさも、当たり前とでも言わんばかりに堂々と。
「わたたっ!」
「お、重」
隊列を組み、手に手に教科書やノートを限界まで重ねて持ち、あたかも先生に頼まれて運搬しているてい。
(帰りはどうする?)
(あとは野となれ大和撫子だよ)
(それって? 合ってる?)
伸一は知らないか。わたしだってこっちしか知らない。
(それを言うなら——)
(シィッ!!)
廊下まで会話が漏れている。
やはり校長室で当たっていた、中の会話はあきらかに放火と関係している。
佃煮警部はそれほど怒らない。どちらかと言えば穏便に済ませようとする勢力の側。怒っているのは校長のハゲチャビン。
そりゃあ全焼となればだれだって叱る。たとえそれが他人の、農器具小屋であろうと。それが導く者、教師というものだ。
燃えたものにトラクターやコンバインなどの高価な農機は含まれないらしい。不幸中の幸いか。
それでも再建してクワやカマを買いそろえるとなれば、30万から50万はする。そんな物置なぞ保険に入っていなさそうだし。再建費用はたぶん、モトしんとタイチの親が折半で。たいへんだ。
本人だって、高校生なら問答無用で退学だった。義務教育に救われた。
昨日なんて警察で叱られた上に親にも叱られて寝不足だろう。そのうえで校長にも。やったことは最悪だけど、同情はしたい。
にしても引っかかる。なぜあいつらが放火しなければならなかったのか。
あの内容ならどう考えても知らないおじさんの所有する小屋。だから怨恨ではない。それに恨みがあるんなら直接家を燃やす。なぜならあいつらは将来……、くそぅ。
未来がどうあれ、今はまだ小学生なんだ。
花火には遅すぎる。駄菓子屋ミマツではもう売っていない。室内でってのも昼間なのも変だしな。
おもしろ半分で火をつけるとしても、着火するものを持っていなければ。当時あいつらが、普段からそんなものを持ち歩いていた事実はなかった。
拾ったにしても、とにかく動機がなさすぎる。
(あいつら……?)
さっきからまるで声が聞こえてこない。ときおり返事や返答をするだけ。能動的に会話をしていない。怒られている側であればふつうかもしれないが。
つまり、言い訳をしない姿勢を崩さないということじゃないのか? 強い意志だ。もしそうならなお引っかかる。
どうして? と。
何かをかばってでも、いる?
だれを?
なにから?
もしかして。
(これはまったくの想像だけど)
(?)
(火はつけたんじゃあなくて、消そうとしていたんじゃないのかなあ)
(そりゃあまちがってつけたんなら消そうとするでしょ。ハゲチャビンもそれを怒ってる)
(そうじゃなくって、だれかがつけたのを消そうとしたんじゃないかって)
(だれかって)
(だれさ)
(わかんない)
(もうもどろうぜ、いまなら無事に帰れる)
確かに、これ以上ここにいても収穫はなさそう。タイチとモトしんのふたりは申し開きをするのではなく、ただただ甘んじて叱責を受けている、と思われる。ほぼ無言だから想像なんだけど。
教科書とノートをかかえ、きた道をもどる。
重さはさっき感じたほどではなくなった。しかし全員の足どりは重たい。妙なワクワク感も今はゼロどころかマイナス。
ゴシップ好きの連中にとってスクープには違いない。でも彼らだって悪意にもとづいて活動しているのではないのだ。だれも救われない速報。だれも喜ばない、暗くなるだけのニュース。
釈然としない。元々よい子ではなかったふたりでも、さすがに今回のことは解せない。
そりゃあ家庭環境は悪いさ、オレと同じくらいには。でもそういう一線は越えないって、なんとなくわかる。そこをわかってあげられるのは、もしかしたらオレだけなんじゃないのか?
そんな不確かなことで弁護はできない。証拠はないんだ。
なん!? だ!?
ひらめきが?
脳裏に!?
……いつだこれは?
どこだ!?
たしか自転車で給水塔まで大遠征したとき?
街中の自動販売機で、背後を気にしながらタバコを買う中学生?
タイチによく似たその中学生のうしろを、金魚のフンみたいに? 歩くあのふたりを? みた?
はて、ハンドルをにぎる自転車が男もの? いとこのお下がり、ゴテゴテカクカクのチャリ!
だったらこれはタイムリープ前の記憶!
手の力がぬける。
「やっぱり消そうとしたんだ! 着火したのではなく!」
(!? 早川!?)
タバコと火、なんて近い相互関係。そうに違いない、ぜったいにそうだ!
(おいバカ! 声がでかい!)
(大きな音たてやがって!)
(さっさとノート拾え! 急げ!)
(もう知らん。こいつはここに置いてくぞ)
「かばおうとしたんだ、タバコの火の不始末を。尊敬する、敬愛する兄を大人から守ろうと!」
「おいおまえたち、こんなところで何してる」
「げ」
「中下先生……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の授業が始まったのにわたしたちは正座である。
(なんでおれたちまで)
(あそこで早川が大きな音を立てなかったら無事にもどれたんだ)
(どうせ無理だったと思うよ? だって教室には教頭がきてたっていうし。あまりにうるさいって怒られてる最中だったって)
(そのほうがよかったに決まってる。ゲンコツだってもらったんだ、これぜったいタンコブになる)
(まあまあ)
(当人の早川はダンマリかよ。ったく)
「…………」
兄をどうしてくれよう。とっ捕まえて吐かせるか。うろ覚えの、タイチ似の兄。よもや弟や姉に変わっちゃいないだろうな?
いや、それほどまでの変化があったのなら、モトしんとタイチが咎められる事態に陥っていない。おそらくあのままに推移したんだ。あのままに推移したからこそこの現状がある。
しかし、なんでまたそんな古い記憶が。思い出せないことは他に山ほどあるってのに。記憶の泉にコインが落ちねば波紋が広がらないということか。
とにかく犯人はおそらくタイチ兄。この予想が外れている可能性もあるが知ったこっちゃない。もし間違ってたらゴメン。これでいく。
突撃してやる。中学生程度なら今でもなんとかなるはずだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やめようよこんなこと。帰ろうよ」
「なんで? ここでやめたら5のAは守れない。現にタイチとモトしんが罪に問われてる」
「でもなんで急に中学生が出てくんのさ」
「……おまえ、中学生が自販機でタバコ買ってたところ見たんだろ、こないだの自転車遠征で」
「え」
そう。当時はまだお金さえ投入すれば自販機でタバコが買えた。だれでも。なんなら対人でも、おつかいと言うだけで買うことができた。自販機に成人認証システムは搭載されていなかった。
「そのときにモトしんとタイチもそこにいた」
「なんで? 早川さんは後ろに目でもついているのか?」
「伸一は帰ってもいいよ。わたしはひとりでもタイチの兄貴をみつける」
あいつらは放火魔のレッテルを貼られて生きていく。そしてねじ曲がるんだ。
それが真実ならまだ。もしかしたら冤罪なんだよ。
「みつけて? 正直にしゃべってくれると思う? 自分たちが放火しましたって」
「ぶっ飛ばす。ぶっ飛ばして吐かせる」
「でも——」
「来たッ!」
短ランのふたり組は目立つ。片方はタイチの兄にちがいない。もうひとりも遠い記憶の人物だ。いつもつるんでいるメンバーということか。
校門で問答するのは目立ちすぎる。しばらくついて行って、民家が途切れたときが勝負。
(やっぱり大勢でこよう。それなら勝てる)
(そんなことしたら逃げられちゃうでしょ。走られたらかないっこない。伸一はいいからここで見てて。わたしになにかあったら大声で大人を呼んで)
ヒョロガリの中坊ごときに負けるつもりはさらさらないが。
「あのう、お兄さんたち?」
「は? なんか用?」
「んだこいつ」
「タイチが放火で捕まったの知っていますよね?」
「はあ? なにおまえ。あいつのなによ」
「お兄さんたちが放火して逃げたからタイチたちが捕まったんだ」
「おまッ!? なにを!?」
「このクソガキが!」
こんなかわいい子にいきなり殴りかかってくるとか。ふつうの神経じゃない。
当然そうくるよう挑発していた、だから心構えはできている。
「こいつ避けやがった」
「早川ッ!」
「おい、そっちのうるせえのを捕まえとけ」
「おお」
「うぐぅっ!」
「動くなよ、動いたらボコすからな」
どうせわたしが片づいたんならそっちもボコすつもりだろ、ふたりで寄ってたかって。
伸一が捕まったが。まあいい、ボコボコにされるよりはその方がまだ。どうせ頭数合わせ兼殴られ役だ。
中学生は手加減を知らないからな。いざ狩るとなったら全力でむちゃくちゃやりやがる。だからもし負けたなら、この身体はたぶん、かんたんに死ぬ。顔がえらいことになるか、内臓破裂か。
そうなったら伸一だって無事には帰れない。ナオちゃんがあの家でひとりになってしまう。それだけは、絶対にさせない。
だから。殺られるまえに殺る。
殺すつもりでやる。徹底的に。
殴ってきたら殺す。蹴ってきても殺す。つかんできても、投げできても殺す。逃げたら殺す。ナイフを出したらそれを使う。相打ち覚悟で殺す。
ぜったいに殺す。こちとら、どうやったら人体が壊れるかは知っている。
あとはこの短い手足で、少ない筋力で、速力に劣る状況でどう対処するか。端的にいえば、どうやって殺すか。
「っは。いっちょ前に構えやがった」
「この! ガキが!」
一発はもらう覚悟で。
わたしに腕力なんてない。握力だって。リーチも足りないから、同時にパンチをくり出したなら相手の方が先に当たる。
それじゃ勝てない。
だから。
ここはズルさせてもらう。大人の知力で、中学生をコテンパンにする。これは体力でも持久力でも劣る今のわたしの最大限。
つまり。
「!!」
一度殴らせておいて、腕をつかむ。
素早くひるがえり、一本背負いを地面にたたきつけるようにお見舞いしたなら。
「うぐ!?」
目が回っている隙に背後をとる。
「はぇ!?」
「おいバカ、なにやってんだ!」
ここからできることは。
力のかぎり締める!
「クッ!?!?」
本当に力がないな、もう両手がいうことを聞かない。
でも。
ひとりを倒すことには成功したようだ。わたしが離すとダラリと崩れる。
「早川……」
「なんだコイツ、タイゾーを殺しやがった……」
「死んでないよ、気絶させただけ」
だと思う。たぶん。
「とんでもねえ小学生だ」
そう思ってくれていい。
剣道はポンと小突いたんじゃだめなんだ、日本刀で頭から股まで両断するくらいのつもりでないと。
それだけの覚悟で対峙している。そっちもそのつもりで来なさいよ。
「その子を離して洗いざらいしゃべってくれたらあなたは見逃してあげる。どう?」
「ふっざけ……」
「わあっ!」
伸一をつき飛ばし、こちらに向かってくる。リーチの長い蹴りできたところを、もらい、その足を脇にかかえる。
「グゥッ!」
「っは! 効いたか!」
効いたよ、すっごく。
残った軸足を払って転がす。
「ッ!?」
さっきと同じに背後へ回り、学ランのえりをつかんで締めの態勢に。
「ハガッ!?」
「ねえ、もう一回お願いするけど、この前の放火について本当のところを教えてよ」
「クソが。殺すんならさっさと殺せ!」
それはごめんこうむる。
「伸一? このヒト抵抗しないそうだから、キンタマ蹴っちゃっていいよ」
「は?」
「サッカーボールだと思って。おもいきり」
「いや、ちょっと待で! おめらにヒトの心はねえんか!」
「あんたたちにだけには言われたくないよ。小学生を平気でボコそうとするようなやつには」
「ムゥ……!」
「で? 放火の真相は?」
「真相もなにも、あいつらがやったんだ、それ以外にねえ」
ちょっとだけ腕に力を入れる。
ウインクを送ると、伸一も素振りをはじめた。
「ヒィッ! いや、あいつらじゃねえんだ、それにオレたちでもねえ!」
「?」
オレたちでも? ない?
「オレたちは見張りをやっていただけ、なすりつけられたんだ!」
「だれに」
「先輩だ! 超怖え、殺人でも平気でやってそうな」
んなバカな。そりゃあんたの感想だろ。
いくらなんでも飛躍がすぎる。だったらなんであんたらが金魚のフンやってんの。
「誰」
「誰って?」
「その先輩はどこの誰?」
「知らねえよ、名前も知らねえんだ、いつも喫茶阿部角でたむろしているってことだけで」
「ハァ? 喫茶アボカド? 名前も知らない人とよくいっしょにいたよねえ」
「最初は優しかったんだ。タバコをくれたり、バイクの後ろに乗せてくれたり」
それが手口なんだ若者よ。最初にいろいろしてくれて、あとはこっちばかりがしてあげる、そうだったろう?
しかし名前すら教えないとは徹底している。最初から便利に使い潰すつもりで、うまくトカゲのしっぽ切りに利用した。
今後その喫茶アボカドに張りこんでいても現れんぞ一生。
そうかといって、タイチとモトしんが罪をかぶったままでは終わらせられない。彼らは本当になにもしちゃあいないんだ。
一方で、あなたたちは犯罪のにおいをかぎつつ見張りをしていた。ここには大きな隔りがある。だからわたしは、あなたたちを告発するよ。
小学生の身体は回復が早い。ちょうど両手に力が戻ったから。
「ヘグッ!?」
ふん縛るまで気を失っててもらうね。
あらかじめ用意してきた、ガムテープをリュックから出し。伸一と後ろ手でぐるぐる巻きに。足首で両足もぐるぐる巻きに。
「早川さん、なんだか手なれてる」
「そろそろ下の名前で呼んでくれていいよ?」
ここでふたりを起こす。とくに長いこと眠っていたほうは心配したが。
「あれ? なんか気持ち悪りぃ……」
「…………クソ」
よかった、命に別状はなかったか。
羽交い締めを外されちゃ困るし、粘られたら逆転する。だから一発で決めなきゃならなかった。一発で決めるための全力。本当に死ななくてよかった。
あとは伸一が呼びにいってくれた警察に引き渡して一件落着かな。
まだ中学生なんだ、なんら罪には問われないよ。さっきの証言が本当なら、現場を放置して逃げただけなんだし。
これでアボカド先輩とは縁が切れる。心がけ次第では十分に更生だってできる。
「あとは本人にお任せかな。タバコもやめるんだぞ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
真相はおそらくこう。
黒幕は大麻を吸っていた。昭和だから、今ほど禁止薬物にはたくさんの種類がなかった。流通も令和よりは限られる。それでも60年代のヒッピー文化の残り火は、日本にまで到来していた。こんな田舎にも触手をのばしていた。
黒幕のアボカド先輩が納屋で大麻を吸っていた。酩酊したためか、地面の藁のカスかなんかに燃えうつり。消そうとしたかは不明だが、炎上。
逃げる際、外を見張らせていた中学生ふたりに後始末をなすりつけた。中学生は消火を試みるも断念、彼らも逃げる。
ここの後半部分を小学5年生たちが偶然見かけ、さらに消火にいどんだ。
彼らはむしろ英雄なのかもしれない。モトしんとタイチは、隣接する林や田畑への延焼を防いだのだ。
それを遠目に見かけたヒトが消防へ通報、駆けつけた大人たちに対し、タイゾーの罪を隠すためにタイチがかばった。
彼らはひとしきり叱られたあと。彼らがそう望み、かわりに罰を受けた。
覆水盆に返らず、すべては過去。賠償金は納める人が一部変わりそうなだけ。
あとは。
今からでも遅くはない、彼らの心だけは救えるはず。将来の連続放火魔誕生だけはどうしても防ぎたい。
(タイチとモトしんの将来は、まだ確定していないはずだ!)
彼らのそれは汚点なんかじゃない、功績だ。その英雄的行動を大きく、広く伝えねば。
どうする。SNSはない。インターネットも。ない。
「は! ないなら? 作ればいい?」
世はアナログだ。電信は、電話とFAX、電報しか。町内放送で? 聞くヒトが耳を傾けねば。聞きまちがえると誤って伝わる。それに長文だ、むり。
手紙か?
はがき? 封書で?
「だったら新聞なんかどう?」
伸一?
どうしてわたしの胸のうちを?
「なに言ってんのさ、さっきからずっと独り言をつぶやいていたじゃないか」
独り言?
どこから?
「真相はこう」
「ハアアアアアアアアアっ!? 全部じゃああああああん!!」
「でもいいじゃない、すべてがうまくいった」
「まだだよ、まだ途上。その新聞であいつらを救わなきゃ。でも、どうやって?」
「あの3バカにたのもう」
「3バカって? あのゴシップ好きの?」
「もってこい。でしょ?」




