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令和を震撼させた呪われし5年A組は、昭和からやり直す!  作者: おれごん未来


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10/19

第10話 10.01御乱心

 修学旅行はたいへんだった。

 はっと顔色が明るくなったコンコンは、持ち直すと見事に歌い上げた。やはりあの場で求められていたのは慣れ親しんだ地元のことば。

 歌のあと、本人と少しだけしゃべることができて。彼女に見送られながらトラックで会場を離れて。

 どうにか京都の宿にはたどり着けて。それがバスよりも早かったとわかってひと安心して。

 到着したバスのトランクに、物陰からだれよりも早くとりついて。


「あれ!? あなたたち!?」


 という佃煮警部の問いただす声に心胆を寒からしめるも、


「ほかはみんな寝てんのに、元気よねぇ〜」


 この人がこの人でよかったと、別働隊一同は胸をなでおろした。

 京都はふつうに楽しんで。名所巡りは言わずもがな。

 奈良もそうだったが、京都もファンシーグッズがてんこ盛り。ローマ字による英文のような表記。昭和テイストよなあ。あれだって令和ではコレクターがいるんだからあなどれない。

 男子はファンシーぬいぐるみの剣でチャンバラごっこ。これが後頭部に直撃しても少しも腹が立たない。わたしだけでなく、他の女子も。

 なんならいっしょになって楽しんでいた。わたしなんか、新撰組のだんだらまで羽織っちゃって、参戦。

 いい旅だった。

 それはそれとして。


「入賞!?」


 まさかコンコンが入賞するとは思わなかった。もしやここでも少しだけ、歴史が変わった?

 たかが地方の、しかも小さなこどものど自慢大会。しかし可能性という名の翼がここに生まれた予感がした。いいや、これは予言を授かったようなもの。

 あるぞある、美空ひばりとさくらまやの間を埋める逸材の誕生。女優の方はまた、2足のわらじでもなんでもいいんだ。

 しかしいいのか?

 やっちまったもんはしょうがない。あとは野となれ大和撫子。

 そして戻ってきた日常。

 至極たいくつだ。

 修学旅行で起こる事件は存在しなかったのか。いや、そんな毎度毎度事件があっては工藤新一の実在を疑わねばならなくなる。こっちは小5であっちは小1。ここはみちのく北小学校、あちらは帝丹小学校だ。ここに彼が転校してこないことを祈るばかり。

 ただでさえ連続強盗殺人犯が転生しているんだ、それ以上は。それに彼なら前世の罪であっても暴きかねん。

 んま、もう裁かれているのでご勘弁を。それに、昭和ではまだサンデーに載ってないしな。


(ぬ?)


 またやっている。

 馬跳びか。当時めちゃくちゃ流行ったよなあ。

 消しゴム落としとか将棋とか、道具を使う遊びとは異なる、肉弾遊び。運動場でない狭い場所で遊べる運動。野球のように攻守を入れ替えてあらそう団体戦。なんなら5分でも十分に遊べちゃうのも魅力のひとつ。

 防御チームは、壁を背にして立つリーダーを起点に馬が組まれる。

 1番目の馬は腰を90度に折ってからリーダーの股間に頭をつっこみ、2番目の馬も腰を90度に折ってから、今度は1番目の馬の尻に頭をつっこみ。3番目、4番目、5番目と続く。

 これで長〜い胴をした連結馬が完成。しかもリーダーの頭は内側、逆ケンタウロスだ。実在したらさぞ珍妙な見た目になる。

 攻撃チームは思い思いに馬の背に乗ってゆく。連結部分がウイークポイント。狙い目だ。

 ひとつの馬へ上手に4人も乗れば、恵体の小学生でも崩れるときがある。

 高くジャンプするのがふつうの乗り方だとして、手前の馬を跳び箱のように越えて奥まで攻めこむ乗り方。

 横からどしんとぶつかる乗り方。

 馬の腹の横に米俵をつけるようにして、なかばぶら下がるような乗り方。

 最後尾のお尻にぶら下がる乗り方。

 守る側だって単調じゃない。飛びのる瞬間に馬が跳ね上げるのが高等テクだった。

 まあ男子はよろしくやってくれ。ケガぁすんなよ。

 女子はといえば。とうぜん参加なんかしない。

 教室のすみ、掃除用具入れと壁のあいだ。ここは秘密の話をするにはうってつけのかくれ家だ。


(好きな男子のこと、聞いてくれる?)


 ハナゲ!? おまえがか!?

 ふつうの平日であっても恋バナ! 女子はこんなにも進んでいやがるッ!

 だが?

 なにか?

 なんだか引っかかるこのシチュエーション。

 ゆっくりではあるものの、これは動悸。ハナゲごときの恋バナにときめいているからじゃなく。なにか危機的状況に置かれた気分。

 このときに『事件』とか。なかった? どのとき?


「うわッ!?」

「おい!!」


 む!?

 ガチャンと向こうで音がして。それは確実にガラスが割れたときの音。

 馬跳びかッ!?


「わあッ!?」

「キャアッ!!」

「落ちたァ! シーチが落ちた!」


 ガラスが割れて!? 悲鳴!? 落ちた!?

 ここは2階だぞ!? しかも伸一だと!? オレが落ちた!?

 オレが死んで? みんなにトラウマを植えつけて?

 覚えていないぞ? それにおっさんになるまで生きのびていたのは確実なんだ。そこまで並行世界とはズレている——


「痛ててて……」

「!? なんだ、生きてんじゃねえか」

「生きてた。シーチ生きてた」


 心底びびった。


「あせらせんなよ」


 そうだよ、中高とちがい、小学校の校舎にはベランダがあるんだった。


「はぅあ!!!!」

「は? 急にどしたんマリちゃん」


 思い出したぞ!!!!

 あれだ、この後こそ厄介なんだ!

 佃煮警部がやたらめったら、めちゃくちゃに怒る!

 クラス全員が廊下に一列で正座、しかも壁を向いて。下校する他のクラスの子からは晒し者、まさに公開処刑。

 事情は洗いざらい聴取され、なお怒られた。馬跳びが禁止になるだけじゃなく、さまざまな行動に制限が設けられて。関係のないところにまで及んだ。

 家に帰れたのは日が暮れてから。そんなことをした方が悪いと、家でもう一度怒られる地獄の1日。

 後年にふりかえり先生自身も反省したという、いわくつきの。佃恵子小5担任唯一の汚点、10.01御乱心。それはわたしたちの身を案じてのものであったろうが、行きすぎた体罰でもあった。

 そもそもそう仕向けた我々が悪かったのだ。しかも馬跳びでの保健室利用はひんぱん、警部からはたびたび注意されており。

 今回はケガ人までは出なかったものの、大事故一歩手前にまで発展してしまった。いつかは大ケガをする、そう言われ続けて、ほとんどそうなるところだった。悪いのはわたしたち、あとは同じルートをたどるしか。

 だけど。

 どうにかならないか。事後だけど、逃げ道は。ここからの巻き返しはない?


「……隠そう」


 ポロリと本音がでた。


「かくす? いつもみたいに正直に言っちゃった方がいいんじゃね?」

「だってガラス割れてんじゃん」

「佃煮警部だってそんな怒らんよ」


 みんなの言い分もわかる。でもこれは直感に従ったほうが吉。


「いいや、それはない。今回に限ってはめちゃ怒るんだ。なぜか超怒る。たのむ、みんなの力が必要なんだ。協力してくれ」

「うむむ……」

「超怒るったって、なあ?」

「そんなことができんのか? むりじゃね?」

「とにかくどうにかしないと。ここのガラスが割れたのは、どうみても最近はやりの馬跳びのせい。あれだけ口酸っぱく注意されておいて、伸一が大けがするところだったのは誰の目にも明らか。本気で怒った警視庁捜査一課佃煮警部(26)は……」

「ゴクリ……」

「おれ、かくすのサンセー」

「じゃあぼくも」

「男子はそうしなよ、女子は関係ないしー」

「この件は女子も怒られるんだ、知ってて注意しなかったからと」

「おかしいじゃない、なんでそんなことがわかんの?」

「あの人の性格を考えたらわかるでしょ。失敗したやつよりも、助けなかったやつのほうを怒るような人だもん」

「うむむ」

「そうなるかー」

「あの佃先生だもんね」

「しゃあない!」


 心はひとつになった。悪い子の方向で。


「大丈夫か伸一」

「ああうん、どこも。割れたガラスの上に落ちたときは死んだと思ったけど」


 いいや、こっちは2階から落ちたと勘違いしたんだ。こっちの方が死んだと思ったわ。


「待て。ヒジが破れてるな」

「まじでか。危なぁ! 長そでで助かった」

「だが家に帰ってバレたら親に怒られっだろ」

「それは……、助かってなかった」

「ブッチにお願いして縫ってもらえ。あいつなら家庭科の裁縫道具でも超絶技巧でバレないように仕上げられる」

「やっぱり助かりそう! そうしてもらうよ。お〜い、ブッチ〜! 一生のお願い!」


 おいおい伸一、変態か? 服を脱いで肌をあらわにしつつ走って迫るのは完全に事案だろ。気をつけろ。

 ガラスは一片たりとも残さず掃除する。教室も、ベランダも。ゴムパッキンもきれいに取り去って。


「よかった、いた!」

「用務員さん!」

「用務員さぁん!」

「なじょした大人数で」

「これ、ガラス割っちゃって」

「ああいいよ、そごさ置いどいで。あどでなげどぐがら」

「そうじゃないんです。いえ、捨てとくのもそうなんですが、それだけじゃあなくって」

「?」

「新しいガラスって、手に入りませんか?」

「それってあれが、担任には内緒でっつーごどが?」


 察しがよくて助かる。大人同士の会話はなめらかに限る。


「はい。すっごく怒るので。今回だけ! どうにか! なりませんか?」

「ふぅん、4年生? 5年生が。んんん、だがなあ、予算が。これはぶ厚いグラウンド側のガラスだべ? 高えんよ。おめたぢだげ特別におらがポケットがら出すつーのはちょっと」

「心配いりません。わたしたちが、自分たちで用意しますので」

「用意しますったってなあ。いや、おもしぇが」

「おもし? ろい?」

「隠すべづー行為は褒められだもんじゃあねえが、自分だぢだげで解決すっぺど試みるごど自体はいい取り組みだ。なんだが謎の結束だしな。じゃあごうしねえが。ガラスは手配すっし、換えの作業自体もコッソリやってくれる。だが、今日ガラス屋さ注文したあど1週間、担任さ見づがんねえごど。それまでにぎぢんとお金自分だぢだげで用意するごど。それでやってみるんだら手ぇ貸すが?」

「いいんですか!?」

「はい!」

「おねがいします!」

「ったぐ、いい子なんだがわりい子なんだが」


 もちろん、いい子のほうに決まっている。

 昭和の今なら。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 用務員さんの提示したガラス代は1万3200円、消費税はまだないからゼロ。これを月曜から日曜までの7日間でどうにか。

 今回のお金集めにおいて、おこづかいや貯金箱からの流用は認めないことにした。それさえ利用できたならあっという間に集まるのは疑いようがない。でもそうしないと決めたんだ。

 だってこれはわたしたちの過失。だから補填は自らに科した懲役で。

 家が農家や商店で労働が身近な子には、手伝いに対してこづかいを交渉してもらい。家に労働がない子には、外回りをしてもらう。どういうものかというと。


「おらおらおら! いけいけどんどん!」

「みちのく北小5のA、爆走自転車軍団のお通りだ!」

(ちょっちょ! そんな名乗っちゃだめだって! オンミツ行動中なんだから!)

「あそっか」

「オンミツ! オンミツ同心!」

「死してシカバネ、拾うものなし!」

「あ、またみっけ! これで7本め!」


 拾うものはあったな。

 ファンタの瓶、コーラの瓶、一升瓶、醤油の瓶。これらがどうして道端に落ちているのか、謎で仕方がないが。

 外側の泥をきちんと落とし、中を洗って、酒屋に持っていけば30円がもらえる。これを各地域で、クラスの半数がやるんだ。かんたんに千円は越えてくる。

 あとは自販機。とくに大人は落としたお金に執着しない。地面と機械のせまい隙間に手が入らないからだ。棒などの道具が手元になければ、放置して次の100円玉を入れる。

 だから落ちているものは所有権を自ら放棄したものと言っていい。これらはありがたく5のAが有効利用させてもらう。

 ほとんど犯罪スレスレだけど。防衛隊たるわたしが誘導しちゃっているけども。昭和だから、子どもだから今回だけセーフとしておこう。

 しかしたったの7日間で集まるだろうか。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 窓はずっと開けはなっている。常に重ねた状態であれば、その中の一枚が割れているなんて分かりようがない。

 温かい季節でよかった。

 危ないのは放課後。わたしたちが帰れば佃煮警部が戸締まりをし、最後にだれもいないことを確認した用務員さんが戸を施錠する。

 だからふつうなら当日にバレても仕方がないところを。


「じゃああとお願いね。ちゃんと戸締まりよろしく」

「はぁい」

「先生さいなら〜」

「はい、さようなら。コックリさんもいいけど、用務員さんに怒られるまえに帰りなさいよ?」

「はぁ〜い」


 逆なのだ。用務員さんには話が通っている。ようはわたしたちから彼へ直接バトンタッチすれば、ガラスについて詮索されない。

 ちなみに、用務員さんはちょうど令和のオレと同じくらい。同世代なのに戦後すぐの生まれ。変なの。


「……行ったか?」

「もう少し待とう。忘れものをとりにもどるかもしれん」


 なるほど。伸一め、いい勘をしている。


「んで? 今日はどこを攻める?」

「いい質問だノブ。今日は街まで行こうと思うんだ」

「!? 街まで!? 校区外じゃないか!」

(声が大きいよ! バレなきゃ大丈夫!)

「ぼくも反対したんだが。今日は水曜日、早帰りだからって」

「このあたりの自動販売機はほとんど探し尽くしたはず。こんな短期間でまた溜まるなんて起きない、だから。街でならここいらよりもさらにたくさんの100円玉を見つけることができると思うんだ。だって街で四つんばいになって落としたお金を探しているヒトなんて見たことない」

「でもよ、いまからおれたちがそうなるんだが?」

「わたしたちは小学生だからオッケ!」

「いいのかシーチ? 相棒は暴走してるぞ」

「ドクをクラわばサラまで? とかって言うらしい。ここまできたらやりきるしかないよ」

「そうと決まったら! 出発ぁ〜つ!」


 こうなりゃもう、やけくそだ! 毒を喰らわば皿まで喰う!




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 もう10月、秋だ。だから朝なんて寒い日もある。

 その寒さに窓の開けっぱなしはおかしい。だから閉める。閉めても風は入ってくる、割れたガラスのところから。

 割れた窓は運よく柱の近く、わずかに広げたカーテンの恩恵にあずかれる。しかしカーテンは風でなびくから、この対策にめちゃ重りを。

 砂場から砂を、ビニール袋にミチミチにつめたやつをぶら下げて。砂袋の存在は机で隠す。

 ビニール袋はいつかの調理実習で買い出しした際のもの。なんでも取っておけば役に立つ。

 それと、なんとわたしの席なんだ、そこは。


(なんで今日は寒いんだよ!)


 厚着をしてきた。髪の毛だって一本たりとも風になびかせない。そのためにびんつけ油? とかいう整髪料でガッチガチに固めてきた。

 教科書のページが音を出さないよう、きほん閉じておく。授業にならないが。念のため。


「今日は冷えこみましたね」

「そうすか?」

「ふつうだよ、ふつー」


 いい気なものだ、窓から遠い連中は。

 早く気温が上がらないと風邪ひくぞ。ここだけ室温じゃなくて外気温なんだ。

 そんなこんなで、どうにか放課後になって。

 日がじゃぶじゃぶとさす席だから、この時間にまでなるとあったかい。


(警部のやつ、今日にかぎってなかなか帰らんなぁ)

(おれたちも早くみんなと合流したいんだよぉ〜)

「ん? どうかした?」


 視線を感じたのか。勘のいいやつめ。


「なんでもねっす」

「お、三浦哲郎? やるね!」

「あはは。あは」

(ファミコンソフトを何本か売れば早いのに)

(おまえそれゲームボーイ用のを買うからって)

(いいんだ、これで早川さんが楽になるなら)


 ネム氏……。

 おまえそんなにいいやつだったのか。


(そんなお金は受けとれないよ。大丈夫、きっと集まるから。あと2910円。待とう、みんなからの朗報を)


 これまでの7日間でおよそ1万円。残りは3000円たらず、それを今日だけで挽回できるだろうか。

 やはり貯金箱を割る? ウムム、これまでの方針を曲げて?


(にしても。まじで帰んねえな警部)

(今日は最終日なんだろ? きのうまでとちがって、みんなもどってくるんじゃねえのか?)

(うん……)


 ほんとうの期日はきのうの月曜日。用務員さんにお願いしてもう1日だけ待ってもらっていた。もちろん、すでにちょうどの大きさにカットしてあるガラスを入れるだけのこと、日時の変更なんてかんたん。

 でも、ガラス屋の予定もあるし、そう頻繁には。だから1回だけ、1日だけの延長。今日の夕方まで。それが用務員さんとの約束。


「オッシャー! もどったぜ早川!」

「あれ!? 先生ェ!?」


 バカふたり参上……。


「いるよぉ? どうしたのみんな、下校したんじゃなかった?」

「あああえっと、忘れもんして。おっくが」

「そうなんす、つくえにパン入れっぱにしてました」


 机をあさるおっくとタカ。演技とはいえ言い訳をしたんだ、最後まで演じきれよ。


「おま!? これ!?」

「んえ?」

「カビてんじゃねえか! いつのやつだ! えあっと、今日のもとうぜん入ってるが!」


 苦しいっ!

 もうしゃべるな、ボロがでる!


「ふぅん?」


 リズミカルなテストへの丸つけは終わり、いまは何かの書きもの。

 先生って意外に仕事が多い。そうだよなあ、生徒は増える一方、クラス数も増える一方。当時は副担任なんて単語すらなかったから。


「ふえ〜い、ただぃま〜」

「あるぇ!? 警部もいんじゃん!?」

「いるよぉまだまだ。今日は不思議と、みんながもどってくるねぇ」

「そうなんすよ。いやぁ〜、ぐうぜんぐうぜん」

「あははー」


 もういい、好きにして。

 それから何人も何人も戻ってきて。教室内はワイワイガヤガヤ。


「疲れたぁ〜! っさて、ずいぶんな人数、ほとんど全員。そろそろかなぁ〜?」


 佃煮警部? なにがそろそろなんだ?

 帰ってくれるのか?


「早川サンが取りまとめよね? これで足りるかしら?」


 なん? だ!?

 佃煮警部から差し出されたのは聖徳太子!?

 5千円札だ。

 なにが?

 なんだか?


「え!?」

「これって……?」

「薄々、ね。なんとなく気づいてて。でも黙ってたの」


 まさか。


「先週にね、お家の電気店のお手伝いをしている作田サンを見かけて。青果市場を通ったら山口クンが。ほかにも。ふだん手伝わないのにがんばってくれるって、お家の方が喜んでいたの。だから」

「ごめんなさい! ぼくたち窓ガラスを割ったこと隠してました!」


 伸一!? おま!?

 バカ! なんでバラす!?


「ごめんなさい」

「ごめんなさいッ!」

「ごめーん!」

「ごめんなセイ!」

「ごめんなさいっ」


 いま、昭和にレイザーラモンHGいた?

 連鎖したか。こうなっては、もはやこれまで。

 立ち上がり、本件のリーダーとして。


「ごめんなさい……」

「こちらこそごめんね。そしてありがとう」


 ?

 なにがなんだかわからない。なぜお礼を言われたのか。


「じつはね、先生のお父さんが死んじゃって。それで落ちこんでいたのだけれど、みんなが問題を起こさないようにしてくれてるみたいで? これは私の勘違いなのかもって、でもなんだか嬉しくてね。それで最近の先生の行いについて謝罪と、あなたたちに感謝を」


 どこに謝罪すべき部分があったのだ。先生、あなたは立派に先生をしていた。肉親に不幸があったなんてまるで覚らせずに。前世なんか一度も明かさず。

 それに勘違いなのだ、わたしたちはわたしたち自身の保身のために。

 でも聖徳太子は本当に、


「ありがとう先生。1330円で足ります」

「あ、そう? ラッキー」


 でも。

 この間違った行いが、たとえ勘違いであったとしてもだれかの助けになったのなら。いいや、実際になったのだ、そう警部自身が認めた。だったらあの愚かな行いが報われる。みんなの献身がむだにならない。


「すごくうれしいのよ、大人って、子どもが手伝ってくれたら。もしよかったら今後も続けてほしい。おこづかいをもらってもいいし、もらわなくてもいい。続けてね、きっとよろこばれるから」


 なんて清々しい……!

 あのときの憤慨がこんな着地をするだなんて。

 考えもしなかった。とにかく怒られないようにって、それだけで。

 だけど。

 10.01がそのまま起こったとして、それで非行に走る者が現れただろうか。将来に道を踏みはずす者がいただろうか。

 むしろ怒られたことで考えを正せた者がいたかもしれない。おおいに反省した者も出たかもしれない。

 そもそも御乱心があったとして、それを契機にクラス全員がおかしくなるはずはない。言ってしまえば長時間正座を強いられただけ、怒鳴られただけだ。ヒトの道を踏みはずすにはあまりにも小さな理由すぎる。

 5のA防衛隊の活動だって無意味じゃないとは信じているんだが。元を断たねば意味がないんじゃないか?

 そもそも、個別の人生を歩むみんながみんな、軒並み犯罪者になるのがわからない。

 巨大な共通の体験があって、それを引き金にして、みんなの人生が変質する。これは確定したとみていい。

 まあ氷河期世代ってだけでも悲観していいんだが。それだと日本全国2千万人くらいが悲観して犯罪に走らなきゃならなくなる。

 そもそも隣のクラスが影響を受けていないんだ、原因は他にある。やっぱり佃煮学級にだけ起こったなにか、事件ってやつがあるんだ。

 こいつさえ思い出してしまえばいいのに。酒でいろんな回路が分断されているポンコツ脳は働きゃしない。

 だがそれもまた自業自得の範疇だろう。遠い過去的な未来で死刑に処されている。

 やはりどでかい事件があったのだ。御乱心がかすむほどの、災害レベルの。ただし隣のクラスに影響のない。

 いったいどんな?

 当時なにが起こった?

 いつか『なにかが起こる』ってことを覚悟する。こうして身構えているだけでも結末が変わると、そう信じたい。

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